ほどこ)” の例文
彼の望むところは、お馴染の魔窟であり、悪習慣である。友は友を呼び、類は類をもって集まるのであるから、ほどこすべがないのである。
何とか手段のほどこしやうがあつたゞらうに、———いよ/\蘆屋を追ひ出される間際にだつて、もつと頑張つてみたらよかつたらうに
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
じんほどこすとか、仁政をくとか——口のさきでは余りいわないそうだが、老公の仁は、老公のする事なす事が自然それになっていた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貧乏人へのほどこしにする約束で掘ると、土竈へつゝひの下、床板を剥いで、一尺五寸ほどの深さの地中から、古い小さい梅干瓶うめぼしがめが一つ出ましたよ。
ひかりが十ぶんたり、それに、ほどこした肥料ひりょうがよくきいたとみえて、山吹やまぶきは、なつのはじめに、黄金色こがねいろはなを三つばかりつけました。
親木と若木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかるに南蛮宗は一切の施物せもつを受けず、かえつてこれほどこして下民げみん……いや人民の甘心を買ひ、わが一党の邪魔をすることもっとも奇怪なり。
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
隆吉からは同情的なほどこしを受けてはならないと思った。なぐるか、るか、どんなにひどい仕打ちをされてもかまわないと思うのである。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
一郎に狂人制御せいぎょ用袖無しシャツを着せ、足枷あしかせを加えて七号室に監禁する一方、被害者シノ以下四名の男女患者に応急の手当をほどこしたが
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
何一つ悪事を働かない代りに、どのくらい善行をほどこした時には、嬉しい心もちになるものか、——そんな事もろくには知らないのですから。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それが急に生れかわったような美人になったんだそうで、そこにはそれ瀬尾教授のほどこした美顔整形手術の匂いがぷうんとするじゃないか。
大脳手術 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おもふにコロボックルも石槍をば兩樣に用ゐ、時としては其働そのはたらきを食用動物しよくようどうぶつの上にほどこし、時としては之を人類の上に施せしならん。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
つとめたるも先例せんれいなければ此時忠相ぬしは町奉行をやめられてさらに寺社奉行に任ぜられしなど未だためしなき美目びもくほどこ士庶ししよ人をして其徳を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
世間が余の辞退を認むるか、または文部大臣の授与を認むるかは、世間の常識と、世間が学位令に向ってほどこす解釈に依ってまるのである。
博士問題の成行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし本來ほんらい耐震性たいしんせい木造建築もくざうけんちくに、特別とくべつ周到しうたう精巧せいかうなる工作こうさくほどこしたのであるから、自然しぜん耐震的能率たいしんてきのうりつすのは當然たうぜんである。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
うなわれた畑には化学肥料がほどこされた。それからその次ぎには種子たねかれた。先生が自分の畑でして見せるように生徒達はそれを真似まねた。
おのれをつるには、そのうたがいを処するなかれ。その疑いを処すればすなわちしゃもちうるのこころざし多くず。人にほどこすにはそのほうむるなかれ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
さりとて病状は一途に悪化を辿たどるばかりで、人力のほどこす術も見えないので、附添いの男は、暇あるたびに、坐禅三昧の和尚の膝をゆさぶって
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「全くです。小川君のいう通りです。僕も一緒にあちらの部屋に運んで取りあえず僕が人工呼吸をほどこしたけれど駄目でした」
殺人鬼 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
しかしこの間において不思議な事は、私が予期しなかった謀事はかりごとがずんずんその場合に臨んでほどこされるように、向うから仕向しむけてくれた一事である。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
しかし、夫人ふじんしづめて、ちかくにゐる同志どうし婦人達ふじんたちあつめた。近所きんじよから醫師いして、かく應急手當おふきふてあてほどこされた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
平八郎のあらはした大学刮目だいがくくわつもく訓点くんてんほどこした一にんで、大塩の門人中学力のすぐれた方である。此宇津木が一昨年九州に遊歴して、連れて来た孫弟子がある。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
玉村氏は警察署に頼み込んで、門前に見張りの刑事をつけて貰うやら、新しく男の召使を雇入れるやら、見えぬ敵に対して手落ちなく防備をほどこした。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
幼君えうくんこれを御覽ごらうじて、うれしげにえたまへば、かのすゝめたる何某なにがし面目めんぼくほどこして、くだんかご左瞻右瞻とみかうみ、「よくこそしたれ」と賞美しやうびして、御喜悦おんよろこび申上まをしあぐる。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ビリング医師が一瞥いちべつしてほどこすべき策のないことをブラドンに告げると、彼は医師に取りすがって、何度も繰り返した。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
心をとめてその力の及ぶだけをほどこさば、その児またその子を教育するのおのが職たるを知り、ついに一家、風を成し、一郷、俗を成すに至らんことを希望す。
教育談 (新字新仮名) / 箕作秋坪(著)
百姓ひやくしやういそがしい田植たうゑをはれば何處どこいへでもあき收穫しうくわく準備じゆんびまつたほどこされたので、各自かくじらうねぎらため相當さうたう饗應もてなしおこなはれるのである。それ早苗振さなぶりである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
新子は、小太郎の後姿うしろすがたを見送りながら、これは大変なことになったと思ったが、今更ほどこすべき策がなかった。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
わたくしなどは修行しゅぎょう未熟みじゅく、それに人情味にんじょうみったようなものが、まだまだたいへんに強過つよすぎて、おもってきびしいしつけほどこ勇気ゆうきのないのがなによりの欠点けってんなのです。
甲州屋としては、もうほかにほどこすべき手だてもないので、半七は今更なんの助言をあたえようもなかった。
半七捕物帳:35 半七先生 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ほどこして求むるところなきもので、その徳天地に等しという広大無辺なものになるものだが、英雄豪傑の徳というものは、一種の人心収攬術じんしんしゅうらんじゅつに過ぎんのだからな。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その人びとの間に交って一人の道人どうじんが薬を売り符水ふすいほどこしていた。道人は許宣の顔を見ると驚いて叫んだ。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
前川虎造氏の誘引ゆういんにより和歌わかうらを見物し、翌日は田辺たなべという所にて、またも演説会の催しあり、有志者の歓迎と厚き待遇とを受けて大いに面目をほどこしたりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
施与ほどこしということは妙なもので、ほどこされた人も幸福しあわせではあろうが、施した当人の方は尚更心嬉しい。自分は饑えた人をつかまえて、説法を聞かせたとも気付かなかった。
朝飯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
すなわち彼等の目的もくてき時機じきに投じて恩威おんいならほどこし、くまでも自国の利益りえきらんとしたるその中には、公使始めこれに附随ふずいする一類いちるいはいにも種々の人物じんぶつありて
かねて見当けんとうをつけておいた質屋しちやの蔵へ行って、その戸口で術をほどこしますと、不思議にも、戸と壁とのわずかな隙間すきまから、すーっと中にはいり込むことが出来ました。
泥坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
是を信心すれば海の音という如来さまが降って来るというのじゃ、この経は妙月長者みょうげつちょうじゃという人が、貧乏人に金をほどこして悪い病の流行はやる時に救ってやりたいと思ったが
吾が家常に草鞋わらんづをつくらせおきてかゝるものほどこすゆゑ、それをも銭をもあたへしに、此順礼のおきな立さらでとりみだしたる年賀の帖を心あるさまに見いれたるがいふやう
それ以外の場所には、守備工事はほどこされなかった。柿本は、折角、兵士としてやってきながら、この土塁や、拒馬にかこまれた区域からは、離れることが出来なかった。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
こえおうじて、いへのこつてつた一團いちだん水兵すいへい一同みな部室へやからんでた。いづれも鬼神きじんひしがんばかりなるたくましきをとこが、いへ前面ぜんめん一列いちれつならんで、うやうやしく敬禮けいれいほどこした。
あなた以外の者が、私にこんな恩をほどこして恩人の資格になつたら、私にとつてはこれより我慢のならないものはあるまいと思ふ位だ。だがあなたのは——それとは違ふ。
しかれども世運せいうんようやくくだるにおよんで人事日にしげく、天然の教いまだもって邪をただすに足らず。これをもって名教をほどこせり。しかしてまた、いまだ下愚かぐを移すに足らず。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
いつしか恭助けうすけぬしがみゝれば、やすからぬことむねさわがれぬ、いゑつきならずはほどこすべきみちもあれども、浮世うきよきこえ、これを別居べつきよ引離ひきはなつこと、如何いかにもしのびぬおもひあり
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
女の肌のように白い背中には、一という字の刺青いれずみほどこされているのだ。一——1——一代。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
人のわたくしをもて奪ふともべからぬことわりなるを、たとへ重仁王しげひとぎみ即位みくらゐは民の仰ぎ望む所なりとも、徳をくわほどこし給はで、道ならぬみわざをもてを乱し給ふとき
少数者への教育を、全般へほどこすなんて、ずいぶんむごいことだとも思われる。学校の修身と、世の中のおきてと、すごく違っているのが、だんだん大きくなるにつれてわかって来た。
女生徒 (新字新仮名) / 太宰治(著)
○予あえて言う、一国その国教の情状により他教を禁ずるをもってその国の本分となすは、さまたげなかるべしと。しかれどもこれがため惨酷ざんこくの所業をほどこすも可なりと云うにはあらず。
申子しんし(一二五)卑卑ひひ(一二六)これ名實めいじつほどこす。韓子かんし(一二七)繩墨じようぼくいて事情じじやうせつに、是非ぜひあきらかにす、きはめて(一二八)慘礉さんかくにしておんすくなし。みな道徳だうとくもとづく。
たとえば神は我々より無限に優秀なる者であるから、我々はこれに服従せねばならぬとか、他人が己にほどこして不正なる事は自分が他人に為しても不正であるというような訳である。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
ヴェーッサンタラ大王は檀波羅蜜だんばらみつぎょうと云ってほしいと云われるものは何でもやった。宝石ほうせきでも着物きものでもべ物でもそのほか家でもけらいでも何でもみんなわれるままにほどこされた。
しかも道行みちゆきの多い街道筋かいどうすじ、ことに大きな神社や霊場に参詣するみちでは、今も時々は旅客のたもとについてほどこしを求める風儀が残っているぐらいで、もちろん江戸近郊だけの特例ではなかった。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)