あわ)” の例文
平衡へいこうを保つために、すわやと前に飛び出した左足さそくが、仕損しそんじのあわせをすると共に、余の腰は具合よくほう三尺ほどな岩の上にりた。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
取残された兼太郎は呆気あっけに取られて、寒月の光に若い男女がたがいに手を取り肩を摺れあわして行くその後姿うしろすがたと地にくその影とを見送った。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
おとなしく手をとられて常人のごとく安らかに芝生しばふ等の上をあゆむもの、すべて老若ろうにゃく男女なんにょあわせて十人近い患者のむれが、今しも
病房にたわむ花 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
洋傘直しは引き出しからあわを出し一寸ちょっと水をかけ黒いなめらかな石でしずかにりはじめます。それからパチッと石をとります。
チュウリップの幻術 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「信濃町」事件(というほどのことではないかも知れないが)にける先生の不審な態度も思いあわすことをめるわけには行かなかった。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
若旦那わかだんなあわせて、たってのたのみだというからこそ、れててやったんじゃねえか、そいつを、自分じぶんからあわてちまってよ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
縁語を多く用うるは和歌の弊なり、縁語も場合によりては善けれど普通には縁語かけあわせなどあればそれがために歌の趣を損ずるものに候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
「清水を尋ねて、早く小手の掠り傷をお洗いなさるがよい。おお、ちょうど拙者があわしている傷薬、これをおわけ申そう」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふねのはげしき動揺どうようにつれて、幾度いくたびとなくさるるわたくしからだ——それでもわたくしはその都度つどあがりて、あわせて、熱心ねっしんいのりつづけました。
母「おゝ、清次か、おゝ/\まアどうもまア、思いがけない懐かしい事だなア、此様こんな零落おちぶれやしたよ、恥かしくってあわす顔はございやせんよ」
サアその事は私も色々に研究してまだよくわけが分りません。関東へんでは猪と生姜を食べあわせの禁忌いみものだと申して大層嫌います。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
その温みを慕って来たものか、あわせた縁板の隙間すきまからちろちろと這いあがって来るものがある。見れば小さな蜥蜴とかげである。背の色が美しい。
こりゃ仕方がない、鉄砲洲てっぽうずから九段阪下まで毎日字引じびきを引きに行くとうことはとてあわぬ話だ。ソレもようやく入門してたった一日いっぎりで断念。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
何故なぜだと。』と、イワン、デミトリチはおどすような気味きみで、院長いんちょうほう近寄ちかより、ふる病院服びょういんふくまえあわせながら。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ところが、そう考えてふと気がついたのは、若し奴等二人が同類だとすると、一寸つじつまのあわない点があることです。ええ、そうですよ。その点ですよ。
盗難 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その月日と時刻とを記しておいて、のちになって、それをたがいあわしてみると、そのうちの十中の六までは、その相互の感情が、ひったり一致をしていたそうだ。
テレパシー (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
不器用ぶきようをあきらめて、羽織はをりひもながきをはづし、ゆわひつけにくる/\ととむなきあわせをして、これならばと踏試ふみこゝろむるに、あるきにくきことふばかりなく
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「お嬢さんを存じ上げているだけに、私には当て好いんです。顔をあわせると直ぐですから遣り切れません」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「そうだよ! 相も変らぬめぐあわせの、相も変らぬシドニーさ。あの頃でさえ、おれはほかの子供たちに宿題をしてやって、自分のは滅多にやらなかったものだ。」
六枚のすり硝子ガラスあわせめをクリーム色のリボンでぴしりとしめあわせたもので、ひだ飾りがしてある。
小品四つ (新字新仮名) / 中勘助(著)
時に九月二日午前七時、伏木港ふしきこうを発する観音丸かんのんまるは、乗客の便べんはかりて、午後六時までに越後直江津えちごなおえつに達し、同所どうしょを発する直江津鉄道の最終列車に間にあわすべき予定なり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もとより彼を信ずればこそこの百年の生命をも任したるなれ、かくまで事を分けられて、なおしもそは偽りならん、一時のがれのあわせならんなど、疑うべき妾にはあらず
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
段々の御親切有りがとうは御座りまするがわたくし身の上話しは申し上ませぬ、いいや申さぬではござりませぬが申されぬつらさを察し下され、眼上めうえと折りあわねばらしめられたばかりの事
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
京水の墓誌に多病を以てを廃せらるというように書してあったというのと、符節はあわするようだからである。過去帖に従えば、庶子善直とてつ京水とは別人でなくてはならない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかし、それと同時に彼らの野心は、その沈黙の中で互に彼らを敵となしてにらあわせた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
当家こちらのお弟子さんが危篤ゆえしらせるといわれ、妻女はさてはそれゆえ姿をあらわしたかと一層いっそう不便ふびんに思い、その使つかいともに病院へ車をとばしたがう間にあわず、彼は死んで横倒よこたわっていたのである
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
名に負ふ金眸は年経し大虎、われ怎麼いかかりけたりとも、互角の勝負なりがたければ、虫を殺して無法なる、かれ挙動ふるまいを見過せしが。今御身が言葉を聞けば、わりふあわす互ひの胸中。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
わたしにはべつ話題わだいがなかつたけれど、なににかばつあわせることが出来できた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
金魚屋きんぎょや申立もうしたちゅうにあつた老人ろうじん財産ざいさんについてのはなしと、平松刑事ひらまつけいじ地金屋ぢがねやから聞込ききこみとをらしあわせてみて、だれむねにもピーンとひびくものがあつた。いこんだ金塊きんかい古小判ふるこばんである。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
父親は水棹みさおをだして流れている艪を引きよせてそれを艪べそにあわした。
参宮がえり (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「厭だ。」といって受けあわなかった。
黄色い晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
なるほどこの円柱は廻転するらしく、あわがあった。そして根元に近く、黄色い皮服と、変な形の左足の靴とがピョンとみだしていた。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
はじめて、彼が高時の命で上方へ出陣したときは、父貞氏のに会していた。よくよく、出陣祝いにはめぐまれないめぐあわせがつきまとっている。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おおきくうなずいた伝吉でんきちは、おりからとおあわせた辻駕籠つじかごめて、笠森稲荷かさもりいなり境内けいだいまでだと、酒手さかてをはずんでんだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
加奈子はすべりかけたショールを胸の辺で右手につかみ止め、あわえりになった花とつるの模様の間から手套しゅとう穿めていない丸い左の手を出して陽に当てて見た。
豆腐買い (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
朧夜おぼろよにそそのかされて、かね撞木しゅもくも、奉加帳ほうがちょうも打ちすてて、さそあわせるや否やこの山寺やまでらへ踊りに来たのだろう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして二人ふたりで、両手りょうてあわせて一しん祈願きがんをこめてりますと、やがてどっと逆落さかおとしにたき飛沫しぶきなかに、二けんくらいしろ女性じょせい竜神りゅうじんさしい姿すがたあらわれて
記録というのは、真赤なかわ表紙であわせた、二冊の部厚ぶあつな手紙の束であった。全体が同じ筆蹟ひっせき、同じ署名で、名宛人なあてにんも初めから終りまで例外なく同一人物であった。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
宇都宮の杉原町へ往ったら供を先へって置いて、そうして両人で相図あいずしめあわしたらかろうね
「私は島津の家内ですが」と宿の人に——「実は見付からないようにおなじ汽車で、あとをつけて来たんです。」辻棲つじつまはちっとあわないかも存じませんが、そう云いましたの。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おまえの髪としっかり結びあわ喼喼きゅうきゅう如律令にょりつりょうとなえて谷川に流しすてるがよいとの事、憎や老嫗としよりの癖に我をなぶらるゝとはしりながら、貴君あなた御足おんあし止度とめたさ故に良事よいことおしられしようおぼえ馬鹿気ばかげたるまじない
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
黒衣くろごの男が右手の隅に立てた書割の一部を引取るとかみしもを着た浄瑠璃語じょうるりかたり三人、三味線弾しゃみせんひき二人が、窮屈そうに狭い台の上に並んでいて、ぐに弾出ひきだす三味線からつづいて太夫たゆうが声をあわしてかたり出した。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼は疲れてしまった。彼は手を放したまま呆然ぼうぜんたるくらのように、虚無の中へ坐り込んだ。そうして、今は、二人は二人を引き裂く死の断面を見ようとしてただ互に暗い顔をのぞあわせているだけである。
花園の思想 (新字新仮名) / 横光利一(著)
ばつをあわせるような返事へんじをしたわけです。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
或朝、高野君が場で顔をあわせると直ぐに
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「はッ」曹長は、一礼してそれを受けとると、機上から上半身を乗りだして、遥かの下界を向いて双眼鏡のピントをあわせた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
関門屯所の柵門さくもんの前で、駕を降りた。すぐ、役宅へ入って、誰彼たれかれを招いて、夜半よなかの時間や、警衛のあわせだった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、よもやおのが垣根かきねそとに、二人ふたりおとこしめあわせて、をすえていようとは、夢想むそうもしなかったのであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
僕に云わせると、世間にありがちなそりあわない本当の親子よりもどのくらい肩身が広いか分りゃしない。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
コトレツ・ミラネーズとウィンナー・シュニッツレルのことなるところは前者は伊太利風のマカロニかスパゲチを付けあわせとしてり、後者が馬鈴薯じゃがいもを主な付け合せとしていることで
異国食餌抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)