あや)” の例文
城下より来たりて源叔父の舟頼まんものは海に突出つきいでいわに腰を掛けしことしばしばなり、今は火薬の力もてあやうき崖も裂かれたれど。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
あるとし台風たいふうおそったとき、あやうくこぎになろうとしたのを、あくまで大地だいちにしがみついたため、片枝かたえだられてしまいました。
曠野 (新字新仮名) / 小川未明(著)
おゝ、あはれ、ささやかにつつましい寐姿は、藻脱もぬけの殻か、山に夢がさまよふなら、衝戻つきもどす鐘も聞えよ、と念じあやぶむ程こそありけれ。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それはこの二葉ふたばが成長するであろうか、花咲くであろうかとあやぶみおそれつつ育てた親や教師が多かったからではないだろうか。
最も楽しい事業 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
「おことばではございますが、あなたさまはどこのどなただか存じませんので」とおじいさんはあやぶんで怖る怖るこう申しました。命は
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
それがこういう自分の推定をあやぶむまでに、根こそげに消滅してしまった理由は如何いかん。その点をこそまず尋ねてみなければならなかった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
だが、息子のそれらの良質や、それに附随ふずいする欠点が、世間へ成算せいさん的に役立つかとあやぶまれるとき、また不憫ふびんさの愛がえる。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「何だか明日にもあやしくなりそうですな。どうも先生みた様に身体を気にしちゃ、——仕舞には本当の病気に取っ付かれるかも知れませんよ」
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この歌の結句は、「崩岸辺あずへから駒のあやはども人妻ひとづまろをまゆかせらふも」(巻十四・三五四一)(目ゆかせざらむや)のに似ている。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
近付ちかづけ主税之助は彌々いよ/\惡心増長ぞうちやうして藤五郎の命は此節に至りて實に風前の燈火ともしびよりもなほあやふけれども只腰元こしもとのお島一人ひそかに是をいたはり漸々と命を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
島津はどういう無理でも聞かなければならぬあやうい境界にいるのだから、あるものなら喜んで差しだそうが、生憎あいにくと、そんなものは持合せない。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
二三度彼方此方あちこちで小突かれて、蹌踉よろよろとして、あやうかったのをやッ踏耐ふんごたえるや、あとをも見ずに逸散いっさんに宙を飛でうちへ帰った。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
わたしにもうまれたいゑ御座ござんするとて威丈高いたけたかになるにをとここらえずはふき振廻ふりまわして、さあけととき拍子ひやうしあやふくなれば、流石さすが女氣おんなぎかなしきことむねせまりて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
するな。してくれるな。もし、世上の口端くちはにまでのぼるようになったら、それはかえって尊氏をあやううし、暗やみの兇刃以上な難儀を呼ぼう。わかったか
惜しい事をしたものだ、此花ざかりを移し植えて、無事につくであろうか、枯れはしまいか、と其時はあやぶんだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
一メートル五十五の日本人に、一メートル八十二の雲をつくようなアメリカ人、一げきでふっ飛ぶか? あやうし!
柔道と拳闘の転がり試合 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
地震ぢしんたいして其安全そのあんぜんさをあやぶんでゐる識者しきしやおほことであるが、これは其局そのきよくあたるものゝ平日へいじつ注意ちゆういすべきことであつて、小國民しようこくみん關與かんよすべきことでもあるまい。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
おつぎはあやぶむやうにしてひかこゑてゝいつた。おつぎはだまつてうごかしてる。與吉よきち返辭へんじがなくてもなつかしさうねえようと數次しば/\けた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そこで弁信が立ちどまっていると、走り来って、ほとんどぶっつかろうとして、あやうく残して避けたその人が
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一度——あとにも先にもただの一度きりだが! ——父がとてもやさしくわたしを可愛かわいがってくれて、そのためあやうくわたしが泣き出しそうになったことがある。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
そのいくさは九ねんもつづいて、そのあいだにはずいぶんはげしい大雪おおゆきなやんだり、兵糧ひょうろうがなくなってあやうくにをしかけたり、一てきいきおいがたいそうつよくって
八幡太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
光子は空井戸の側へ行って、そのあや井桁いげたに手をかけたまま、幾百尺とも知れぬ底を覗いて居ります。
古城の真昼 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
本当にあやうございますから一時も早くお帰りなさるがよろしい。決してこちらの事は御心配には及びません。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「消えん空なき」と尼君の歌った晩春の山の夕べに見た面影が思い出されて恋しいとともに、引き取って幻滅を感じるのではないかとあやぶむ心も源氏にはあった。
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
技師ぎし災難さいなんをともにはしなかったが、自分がほねってあやういところをすくい出した子どもということで、わたしに親しんだ。かれはわたしをそのうちへ招待しょうたいした。
第一學校に通はせるにしても月々多額の出費だし、將來存外成功したにしても、なかなかお金にはなるまいといふのが、親として最もあやぶむ理由に外ならなかつた。
四方太は原稿料が出ない、といってこぼして居るがあの男はいくら原稿料を出しても今の倍以上働くかどうかあやしいものだ。とにかくもっと活気をつけたいですね。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
思いかけず期におくるることなどあらんも計られずと、あやぶみおもいて、須坂に在りてたんといわれし丸山氏のもとへ人をやりて謝し、いそぎて豊野の方へいでたちぬ。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
近世きんせいでは、いぬ使命しめいといふこと左迄さまで珍奇ちんきことではないが、それとこれとは餘程よほど塲合ばあひちがつてるので、二名にめい水兵すいへいあやぶみ、武村兵曹たけむらへいそううでこまぬいたまゝじつ稻妻いなづまおもてながめた。
あるいは両親よりの依托を受けて途中ここに妾を待てるにはあらざると、一旦いったんは少なからずあやぶめるものから、もと妾のきょうを出づるは不束ふつつかながら日頃の志望をげんとてなり
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
『おまへは、何故なぜわたしがおまへかないかと、不思議ふしぎおもつてるにちがひない』良久やゝあつ公爵夫人こうしやくふじんは、『理由わけは、わたしがおまへ紅鶴べにづる性質せいしつあやぶんでるからなの。ひとためしてやうかしら?』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
しかしこの主義が極端に行くと、大いなる過ちに陥る。それで何処までも共同だ。しかしてこの共同の力が盛んになると国家は繁昌する。この力が欠けると利己主義に陥り国家をあやうくする。
始業式訓示 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
予がその折の脳細胞の偶然なる空華ならざりしかをもあやぶみて、虚心屡〻之れを心上に再現して、前より、後ろより、上下左右、らす所なく其の本躰を正視透視したり、而して其の事実の
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
それにてもなお憤りが納まらずば将軍家をしいし奉ればよいのじゃ。さるを故なき感情に激して、国家をあやうきに導くごとき妄動もうどうするとは何事かっ。閣老安藤対馬守、かように申したと天下に声明せい
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
私もそうだとあやぶんでいたのです。しかし何かお話しくださるようなことがあるならば、あなたが一人になるまで待っていてもよろしいのです。私は今夜あなたの部屋へおたずね申してもよろしい。
ち九四に同じといふ附會説こじつけせつありまだ午後の三時に及ばず今三里行けば木曾中第一の繁昌地福嶋ふくしまなり其所そこまで飛ばせよといふ議もいでしが拙者左りの足があやしければイヤサ繁花はんくわの所より此の山間の宿やどに雨を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
ねんねこをらしてきせて、あめかぜなか上野うへのがし、あとでした片手かたてさげの一荷いつかさへ、生命いのちあやふさにつちやつた。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「何だか明日あしたにもあやしくなりさうですな。どうも先生見た様に身体からだを気にしちや、——仕舞には本当の病気にかれるかも知れませんよ」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ねこは、ようやくにしてあやういいのちをおばあさんにたすけられました。おばあさんは、ねこのきそうなさかなをさらにいれて裏口うらぐちいてやりました。
おばあさんと黒ねこ (新字新仮名) / 小川未明(著)
父の行方ゆくえの心配、都に小娘一人住みのあやうさ、とうとう姫も決心して国元へ帰ろうとほとんど路銀も持たずただ一人、この街道をみ出して来たのでした。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「これは、話に聞いたことのある吹針というものではないか。あのおばばに、こんなかくわざがあろうとは夢にも思わなかったが。……ああ、あやういことだった」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さしもあやふくおもひしことりとはことなしにおはりしかと重荷おもにりたるやうにもおぼゆれば、産婦さんぷ樣子やうすいかにやとのぞいてるに、高枕たかまくらにかゝりて鉢卷はちまきにみだれがみ姿すがた
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
変わった境遇へこうして移って行ってそのあとはどうなるであろうとばかりあやぶまれる思いに比べてみれば、今までのことは煩悶はんもんの数のうちでもなかったように思われ
源氏物語:50 早蕨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
少女おとめ保名やすな姿すがたるとびっくりして、あやうくまえていたいわみはずしそうにしました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
今度はちがった角度からの批判をあやぶまないのみならず、次第に隣の学問の能力を理解し、折々はその長処ちょうしょを借りて、こちらの弱点を反省してみることができるようになった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
また兵馬も、お雪ちゃんを強盗のあやうきから救ってやったこともある浅からぬ因縁いんねんが、ここまでめぐり来たっているということを、おたがいにこの時は少しもさとりませんでした。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
三月ばかりの間に十何人あやめた曲者が、毎晩外神田をうろうろしているとは限らず、よしや犠牲者を漁り歩いたところで、うまい具合に平次とめぐり逢うことは保証が出来なかったのです。
男一ぴき見込みこんで御頼みと有ことなれば何のいなとは申まじ而々さて/\其敵そのかたきいふは何者なるやと申せば掃部はまだあやぶみイヤ其事なりさきの相手によつては御差合さしあひも御座らうとぞんずるゆゑ確乎しかとした御詞を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その時に当って外国からは、既に条約を結んで何故に批准を与えぬかといって迫って来る。しかるに内地は諸侯は勿論もちろん国民の議論は、外国と条約を結ぶことは国をあやうくする、そうしてこれに反抗する。
もうすこしで、とんぼはらえられるところをあやうくげてしまいました。その拍子ひょうしに、ねこは、なかちました。
春の真昼 (新字新仮名) / 小川未明(著)