きず)” の例文
なぜならつくえかどは、小刀こがたなかなにかで、不格好ぶかっこうけずとされてまるくされ、そして、かおには、縦横じゅうおうきずがついていたのであります。
春さきの古物店 (新字新仮名) / 小川未明(著)
顔をしかめて向こうずねきずをあらっている者や、水をくんでゆく者や、たわしであらい物をする者などで、井戸いどばたがこみ合っている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど、またまたこのガンも、きずひとつ受けずにげてしまいました。そして、ひとことも言わないで、みずうみのほうへ飛んでいきました。
さうなると私は心の中にきずついてしまひさうな堪らない氣持がする。あなたの方は——あなたは私のことなど忘れてしまふだらう。
俄盲目にはかめくらかんるいけれども、もらつた手拭てぬぐひきず二重ふたへばかりいて、ギユツとかためますと、くすり効能かうのう疼痛いたみがバツタリ止まりました。
……げんに、廣島師範ひろしましはん閣下穗科信良かくかほしなしんりやうは——こゝに校長かうちやうたる威嚴ゐげんきずつけずれいしつしない程度ていどで、祝意しゆくいすこ揶揄やゆふくめた一句いつくがある。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ガスコが死にものぐるいで刃物をふりまわしたので、両人は身体にたくさんのきずをうけていた。しかしさいわいに急所ははずれている。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
さきにドノバンがひょうにおそわれたとき、富士男は身をていしてドノバンを救うた、いまドノバンは、みずからきずついて富士男をすくうた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
店中の者の名を書いて、その晩外へ出た者のない事を平次に呑込ませたのは、すねきず持つ源助の餘計な細工だつたのでせう。
そしてなにかわたしにわからないことを言うと、夫はふふんとわらった。かの女の冷淡れいたんと、わたしの父親の嘲笑ちょうしょうとがふかくわたしの心をきずつけた。
起きあがつて見ると、ころぶときに地べたにいたらしく、右の掌にきずがついてゐた。その他は別だんせうもなかつた。
坂道 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
そんなおしゃべりをしていますと、突然とつぜん空中くうちゅうでポンポンとおとがして、二がんきずついて水草みずくさあいだちてに、あたりのみずあかそまりました。
非常な負傷けがをしたそうで私はお気の毒で婦人のきずを見に行くこともようしなかったですが、すぐに病院へ連れて行きました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
げようなんて、そんなことは考えてませんよ。あっ、そんなにかたをつっつかねえでくだせえ。おいら、いまにきずだらけになってしまいますぜ」
そのくる日保名やすなは目がめてみると、昨日きのううけたからだきず一晩ひとばんのうちにひどいねつをもって、はれがっていました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
あくる朝、若者わかものがかすりきずひとつうけずに、元気なすがたをあらわしたときには、だれもかれもびっくりしました。若者は城主じょうしゅにむかっていいました。
六発の弾丸が六ぴきの雁をきずつけまして、一ばんしまいの小さな一疋だけが、傷つかずにのこっていたのでございます。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「そうです。しかし筆子は割りに呑気のんきな女でしたから、そんなにビックリしてもいませんでしたよ。それに、怪我と云ってもほんのかすきずでしたから」
途上 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あるいは理想と現実との相剋そうこく——いつの世にもみらるる現実家の、狂熱的夢想をきずつける策謀を私は想像してもみた。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
いわゆる負けたからとて自分の人格の下がる訳でもなく、また真価をきずつけるものでもない。これがためにあるいは無知の人の笑いをまねくことはあろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「わかりました。ぼく、学校やクラスの名誉めいよきずつけないような、りっぱなあいさつをきっとしてみせます。」
美しき元旦 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
人畜じんちくを挙げて避難する場合に臨んでも、なお濡るるを恐れておった卑怯者も、一度溝にはまって全身水につかっては戦士がきずついて血を見たにも等しいものか
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
きずは薩州やしき口入くちいれで近衛家の御殿医ごてんゐが来てつた。在所の者は朗然和上の災難を小気味こきみよい事に言つて、奥方の難産と併せてぬまぬしや先住やの祟りだと噂した。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
今はたゞ、痛みの爲にふさがる五のきずの、とくかの二のごとく消ゆるにいたる途を求めよ。 七九—八一
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
なにしろ一刀ひとかたなとはまをすものの、むなもとのきずでございますから、死骸しがいのまはりのたけ落葉おちばは、蘇芳すはうみたやうでございます。いえ、はもうながれてはりません。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「ひどいことがあるもんか。これからゆっくりかみしめて、あじようというところで、おまえこしされたばっかりに、それごらん、までこんなにきずだらけだ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そのちっぽけな男がおかしくおもわれたし、行商人ぎょうしょうにんといういやしい身分に自尊心じそんしんきずつけられるのだった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
それも少時しばし何處どこでも草木さうもくこはばつたりきずついたりして一さいたゞがさ/\と混雜こんざつしてしまつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
もはや此処が戦場になるということが、時間の問題となっている現在にもかかわらず、味方同士で何をきずつけ合う必要があるのだろう。そのことが哀しく胸に響いて来た。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
さうすれば自然しぜんあのかたのお名前なまへにもきずのつくことでございますから、ふねにおりになるまで、我慢がまんしてゐたはうが、双方さうはう利益りえきだらうと、あにもさうまうしますものですから。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
わしはやさしいあなたの心をきずつけたのをいる。あなたはどんなにいい友だったろう。わしの寂寞せきばくはいつもあなたの平和な、あたたかい友情でなぐさめられているのだ。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
白鹿はくろくかみなりというつたえあれば、もしきずつけて殺すことあたわずば、必ずたたりあるべしと思案しあんせしが、名誉めいよ猟人かりうどなれば世間せけんあざけりをいとい、思い切りてこれをつに
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
……今、朝の光線で見ると、昨夜きずけた唇はひどく痛々しそうだった。やがて、母親が食膳しょくぜんを運んでくると妻は普段のようにはしをとった。だが、たちまち悲しげに顔をしかめた。
美しき死の岸に (新字新仮名) / 原民喜(著)
朝月は五ヵ所ばかりきずをうけていたが、ただ、清兵衛ばかり気づかいらしく、じっと見ていた。
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
漢法医にばかりかかって練薬ねりやくだの、振りだしだのを飲ませ、外きずには貝殻へ入れた膏薬こうやくをつけさせていたから——洋科の医者といえばハイカラなものと思っていたあたしは
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
今こそまことに冴え冴えと冴えやかに冴えまさったあの眉間きずに、凄婉せいえんな笑みをうかべつつ
だが、それらのあらゆる幻惑の中で、柾木愛造を最も引きつけるものは、不思議なことに、彼女のふくらはぎに、一寸ばかり、どす黒い血をにじませた、きずの痕であった。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
妾は驚きつつまた腹立たしさのなく、骨肉の兄と思えばこそかく大事を打ち明けしなるに、卑怯ひきょうにも警察に告訴して有志の士をきずつけんとは、何たる怖ろしき人非人にんぴにん
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
それであくる朝早く、天皇をおつれ申して海岸へ出て見ますと、みんな鼻の先にきずをうけた、それはそれはたいそうな海豚いるかが、浜じゅうへいっぱいうち上げられておりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
月日つきひともきず疼痛いたみうすらぎ、また傷痕きずあとえてく。しかしそれとともくゐまたるものゝやうにおもつたのは間違まちがひであつた。彼女かのぢよいまはじめてまことくゐあぢはつたやうながした。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
くきは直立して、九〇ないし一五〇センチメートルばかりに達し、きずつけると葉ととも白乳液はくにゅうえきが出る。葉は緑色で裏面帯白りめんたいはく葉形ようけい広卵形こうらんけいないし痩卵形そうらんけいとがり、葉縁ようえん細鋸歯さいきょしがある。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
一時の兵禍へいかまぬかれしめたると、万世ばんせいの士気をきずつけたると、その功罪相償あいつぐなうべきや。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いや、それはわしの手落ておちじゃった。おまえの耳ばかりへは、経文きょうもんを書くのをわすれたのじゃ。これはあいすまぬ。が、できたことはしかたがない。このうえは、早くきずをなおすことじゃ。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
どうせ、いざとなれば、銃丸じゅうがんぱつでしとめられるのだが、私はそのりっぱな皮をきずつけたくなかったので、他のなわを取って、まず木のえだをロボへ投げると、かれはそれを歯で受けとめた。
父のひたひきずあとあるをて狼なることをさとり、これをころすにはたして老狼おいたるおほかみなり。
泥棒が出て行く時、「このうちは大変しまりの好いうちだ」と云ってめたそうだが、その締りの好い家を泥棒に教えた小倉屋の半兵衛さんの頭には、あくる日からかすきずがいくつとなくできた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
指さきのあるかなきかの青ききずそれにも夏はみて光りぬ
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
おもひ出づな恨に死なむ鞭のきず秘めよと袖の少女をとめに長き
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
なにに打たれてきずしたか
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
手術のきず
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)