事柄ことがら)” の例文
友人、芹川進君を紹介します、先生の御指南を得たいよしにて云々うんぬんという大まかな文章である。具体的な事柄ことがらには一つも触れていない。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
『えゝ只今たゞいま足下そくか御關係ごくわんけい事柄ことがらで、申上まをしあげたいとおもふのですが。』と、市役所員しやくしよゐん居並ゐなら人々ひと/″\挨拶あいさつむとした。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
可愛相かあいさうにねえ貴方あなたその書面しよめんによると亞尼アンニーは、弦月丸げんげつまる沈沒ちんぼついて、私共わたくしどもまぬとあまになつたのですよ。その事柄ことがら一塲いちじやう悲劇トラジデーです。
呼出よびいだしに相成白洲しらすに於て越前守殿其人物を御覽あるに人のあくあげ意趣遺恨いしゆゐこんなどをふくみ又有りもせぬ事柄ことがらを申懸る樣成者に非ざる事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
國許くにもとにござります、はなしにつきまして、それ饒舌しやべりますのに、まことにこまりますことには、事柄ことがらつゞきなかに、うたひとつござります。
片しぐれ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
これ政府せいふ指導しだうまた消費節約せうひせつやく奬勵しやうれいわたつたとふよりも、むし國民自體こくみんじたい事柄ことがら必要ひつえうかんじてつたからだとおもふのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
で、自然しぜん私達わたくしたち対話はなしんでからのち事柄ことがらかぎられることになりました。わたくし真先まっさきにいたのは良人おっと死後しご自覚じかく模様もようでした。——
それに事柄ことがらが別段悪事というのではなく、彼自身の財産を、彼が勝手に使うのであってみれば、ほかにどう分別のつけようもないのでした。
鏡地獄 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「あなたの許諾を得ない以上は、たといどんなに書きたい事柄ことがらが出て来てもけっして書く気遣きづかいはありませんから御安心なさい」
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この事柄ことがらは敢て議論ではない、吾等の大教師にして仏の化身たる親鸞僧正がまのあたり肉食を行い爾来じらいわが本願寺は代々これを行っている。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
いや私が書生仲間しょせいなかまには随分ずいぶんかようなる事に常々つねづね注意ちゅういし、当時の秘密ひみつさぐり出し、互にかたり合いたることあり、なおれたる事柄ことがらも多かるべし
そんな序曲的な会話を少し続けてから葉子はおもむろに探り知っておかなければならないような事柄ことがらに話題を向けて行った。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
だが前にも一度ふれたように、仏体における写実の「実」とは、仏自身であって、人間像への近接の度合によって推測さるべき事柄ことがらではない。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
返事として、彼女は、私の一身上の事柄ことがらに就いては、もう久しい間干渉しないことにしてゐるから、私の好きなやうにしていゝと云つて來た。
これはまつたあいちやんには耳新みゝあたらしい事柄ことがらでした、あいちやんはしばらかんがへてゐましたが、『それで十一日目じふいちにちめには日曜にちえふだつたでせう』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
今も昂奮こうふん憂鬱ゆううつとが、かわるがわる彼を襲ってくるのだった。彼は、手術のことについて、博士に聞きただしたいたくさんの事柄ことがらをもっていた。
脳の中の麗人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは、誰もが一向にあやしもうとしない事柄ことがらだ。じゃが栄えて正がしいたげられるという・ありきたりの事実についてである。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
りにおれ地位ちゐつたとしてかんがへてても、事柄ことがら如何いかんかゝはらず、毎日まいにち葉書はがきなんのかのとつてられたにや、實際じつさいやりれまいとおもふよ。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
子供が事柄ことがらについて判断を下すを見るに、事の曲直きょくちょく、物の善悪をそのままに見ることはほとんどなく、たいがい頭から好ききらいという立場から判断する。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
かれは、くる昨日きのうあった事柄ことがらむら人々ひとびとかたって、自分じぶんがうまくおおかみをだましてやったとほこりました。
おおかみと人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
皆さん自分で想像してごらんなさい。けれど恐らく皆さんの想像も、その昼から夜へかけて王子が見ました事柄ことがらの、千分の一、万分の一にも及ばないでしょう。
夢の卵 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そうはいえ、事柄ことがらもむずかしかった。恋愛至上主義者も、この事件について、一家言いっかげんをたてるものも、家庭にあって、子女を前にしては、説が矛盾するといった。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
斯樣かやう事柄ことがらを一々まをせばかぎりのないことで、居家處世きよかしよせいうへ種々しゆ/″\間違まちがひおほく、さればとつて、これを一々前以ぜんもつ命令めいれいするといふは實際じつさいおこなはれがたことであるから
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
それで博物館はくぶつかんには、どうしてもひとつ/\の品物しなもの名前なまへ、そのほか必要ひつよう事柄ことがらしるした目録もくろく出版しゆつぱんせられなくてはならないのであつて、その目録もくろくなかには簡單かんたん品物しなもの説明せつめい
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
みぎほか體驗たいけんした地震動ぢしんどうおほいさを器械觀測きかいかんそく結果けつか比較ひかくするのもまた興味きようみある事柄ことがらである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
わが封建ほうけんの時代、百万石の大藩にとなりして一万石の大名あるも、大名はすなわち大名にしてごうゆずるところなかりしも、畢竟ひっきょう瘠我慢のしからしむるところにして、また事柄ことがらは異なれども
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
かく植物界のことに気をつけると、なかなかおもしろい事柄ことがらが見いだされるのである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
以上の事柄ことがらは書物によって多少の相違はあるのだが、南山巡狩録なんざんじゅんしゅろく、南方紀伝、桜雲記おううんき、十津川の記等にもみなっているし、ことに上月記や赤松記は当時の実戦者が老後に自ら書きのこしたものか
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
続けた——「もとはと言えば、無名の手紙からでございます。だれが書いたものやら、それはわかりませんが、それさえなければ、こんな事柄ことがら表沙汰おもてざたになるわけは、少しもありませんですよ」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
自分の考え方と明らかに矛盾しているような事柄ことがらには決して賛成することが出来ず、馬鹿を利口と言ったり、とりわけ他人の笛におどらされるなどということには、断じて承服できないらしい。
主人しゆじんからあたへられた穀物こくもつかれの一あたゝめた。かれ近來きんらいにないこころ餘裕よゆうかんじた。しかしさういふわづかかれさいはひした事柄ことがらでもいくらか他人たにん嫉妬しつとまねいた。百姓ひやくしやうにも悶躁もがいてものいくらもある。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
かかる事柄ことがらもとより行わるべきに非ず。
事柄ことがらによるわ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
『ええ只今ただいま足下そっか御関係ごかんけいのある事柄ことがらで、申上もうしあげたいとおもうのですが。』と、市役所員しやくしょいん居並いなら人々ひとびと挨拶あいさつむとこうした。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
イヤしかしそなたの質問とい大分だいぶんわし領分外りょうぶんがい事柄ことがらわたってた。産土うぶすなのことなら、わしよりもそなたの指導役しどうやくほうくわしいであろう。
國許くにもとにござりますはなしにつきまして、それ饒舌しやべりますのにじつにこまりますことには、事柄ことがらつゞきうちうたひとつござりますので。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かけなされて御たすけ下さる樣に願にまかり出しと云ければ可睡齋かすゐさいまゆひそめ夫は如何樣の儀なるやといはるゝに三五郎は九助が是までの事柄ことがら
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
過ぎしおもい出の地、道場の森、私は窓辺によりかかり、静かに人生の新しい一ページともうべき事柄ことがらを頭に描きつつ、寄せては返す波をながめている。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そうなんです。これがすこぶる重大な事柄ことがらなんですが、田鍋さん、博士はその男女の顔をよくおぼえているといって、人相を
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今日の我々から見ても孝かも知れないが、よし娘が拒絶したって、事柄ことがらが事柄だから不孝とは思いますまい。それだけ孝の評価が下落したのであります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
シャク自身にしても、自分の近頃ちかごろしている事柄ことがらの意味を知ってはいない。もちろん、普通のいわゆる憑きものと違うらしいことは、シャクも気がついている。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
もう一度二階へ戻るというのは、その際の彼に取って、殆ど不可能に近い事柄ことがらではあったけれど、彼は死にもの狂いの気力をふるって、更に家の中へ取って返した。
灰神楽 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それからのちのことです。学者がくしゃはなにかの記録きろくから、偶然ぐうぜんつぎのような事柄ことがらいだしたのであります。
三つのかぎ (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかしてこの人となりの表裏は、他の事柄ことがらと異って、一も二もなくいやしきもののように思われる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
その事柄ことがらを次にあげなされたじゃ。或は夜陰を以て、小禽の家に至ると。みなの衆、他人事ひとごとではないぞよ。よくよくみずからの胸にたずねて見なされ。夜陰とは夜のくらやみじゃ。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
その時間になつてもまだ、私と同じ部屋にゐる一人の教師が、つまらない話を、長たらしく、くど/\と話しかけて、再び考へてみたくて仕方のない事柄ことがらを考へさせては呉れなかつた。
つきものをあてにせずして、もとよつこよみたつるは、事柄ことがらおいたゞしきみちといふべし。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
まづ責任せきにん閑過かんくわする一れいまをしませう。それはおも外出ぐわいしゆつなどについおこ事柄ことがらで、塾生じゆくせい無論むろんわたくしおやから責任せきにんもつあづかつてゐるのですから出入ではいりつきては行先ゆくさき明瞭めいれうにしてきます。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
また有珠山うすさん明治四十三年めいじしじゆうさんねん噴火ふんか數日前すうじつぜんから地震ぢしん先發せんぱつせしめたので、とき室蘭警察署長むろらんけいさつしよちよう飯田警視いひだけいし爆發ばくはつ未然みぜんさつし、機宜きゞてきする保安上ほあんじよう手段しゆだんつたことは特筆とくひつすべき事柄ことがらである。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
人力車がその店に近づくに従って葉子はその女将おかみというのにふとした懸念を持ち始めた。未知の女同志が出あう前に感ずる一種の軽い敵愾心てきがいしんが葉子の心をしばらくは余の事柄ことがらから切り放した。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)