きた)” の例文
いったい、おまえは私に似て情熱家肌の純情屋さんなのに、よくも、そこをこらえて、現実に生きる歩調に性情をきたえ直そうとした。
巴里のむす子へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
フイリツプはプロレタリア的魂の外にもきたへこんだ手腕を具へてゐる。するとどう云ふ芸術家も完成を目ざして進まなければならぬ。
亭主の天童太郎は四十前後の立派な男で、背は低い方ですが、顏立ちも精悍で、筋骨のたくましさは、さすがに多年のきたへを思はせます。
早速、近郷の鍛冶工かじこうをよんできて、張飛は、一丈何尺という蛇矛じゃぼこってくれと注文し、関羽は重さ何十斤という偃月刀えんげつとうきたえさせた。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
些細ささいな事にはこだはつてはゐられない、荒波のしぶきにきたへられて、ゆき子は大胆ににじり寄つて行つて、富岡の膝小僧にあごをすゑた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
其處では勇氣が證される。精力が振はれる、そして不屈ふくつの精神がきたへられる。この煖爐だんろの側では、元氣な子供が彼にまさるのだ。
さすがに商魂できたえ上げたような矢部も、こいつはまだ出くわさなかった手だぞと思うらしく、ふと行き詰まって思案顔をする瞬間もあった。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
戦はうしおの河に上る如く次第に近付いて来る。鉄を打つ音、はがねきたえる響、つちの音、やすりの響は絶えず中庭の一隅に聞える。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
テープと見えたのは、それ丈けの長さにきたえさせた鋼鉄のつるぎであった。それに白い塗料を塗って、遠目に布のテープと見せかけてあったのだ。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かくの如き悲痛を経過して、魂は熱火にきたわれて、次第に神とその真理とに近づくのである。これ心霊実験上の事実である。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
だが金物をきたえる頑丈な体の持主ではなかった。それだけにまたその代りに神経がよく働くのかも知れない。どの品にもぼんやりした所がない。
思い出す職人 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ひんと心の惱みとにきたへぬかれた今(まだまつたくはぬけ切らぬけれども)やうやくある落着おちつきが私の心にを出しかけました。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
ところで、男というものは、一片の鉄をきたえるにしてからが、人と違った働きをしてみせなけりゃあ、生甲斐いきがいえのだ。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あゝ兄弟よ、わが汝にさししめす者は(前なる一の靈を指ざし)我よりもよくその國語くにことばきたへし者なり 一一五—一一七
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
岳武穆がくぶぼくや陸宣公にきたえられていた上に、ヘルチェンやビェリンスキーの自由思想に傾倒して意気欝勃うつぼつとしていたから
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
それは多分朝倉先生のご感化だと思いますが、しかし、今度の事件で、実際問題にぶっつかってきたえられたということが非常によかったと思います。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
わたしがります。」と、少年しょうねんはいいました。軽業かるわざをしていた、きたえられたからだは、やすやすとがけのぼって、かくしてあった、宝物たからものつつみをってきました。
サーカスの少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その答者こたえては即ち二十年間雪中通夜つやの問答の苦しみを積み重ねきたえ来ったところの、いわゆる問答的学問をその時に発表して大いに三大学の間に名声をとどろか
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
さすがは海軍軍人として、ながい間きたえてきただけのことはあって、誰よりも早くわれにかえったのである。
宇宙戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
更にまた出来ることなら外界を少しでも自分の手の下できたえ直して見たいというような気持になっている。
鏡心灯語 抄 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
おゝ、ヂュリエット、おまひ艶麗あてやかさがおれ柔弱にうじゃくにならせて、日頃ひごろきたうておいた勇氣ゆうききっさきにぶってしまうた。
つづいて神戸こうべの造船所ではたらいている正が、これはいかにも労働者らしくきたえられた面魂つらだましいながら、人のよい笑顔で頭をさげ、きまりわるげに耳のうしろをかいた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
鍛冶かじを業とする者は家毎に甲冑かっちゅう、刀槍をきたえ、武器商う店には古き武器をかさねてその価平時に倍せり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「昨日も、今日も、ただ水の上に、陽がれて行った」と日記に書く、気の弱いぼくが、それも一人だけの、新人フレッシュマンとして、たくましい先輩達にし、きたえられていたのですから
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
酒色に酖ると見えしも、木村氏の前をかくつくいしのみにて、夜な夜な撃剣のわざをきたいぬ。任所にては一瀬を打つべきひまなかりしかば、したがいて東京に出で、さて望をげぬ。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
新喜楽の老婆の体のこなし方の好さから、多年きたわれて来たその意気の強さまでが、さながらに、鴎外の魂が乗り移ってでもいるように、あの短い描写の中でまざまざと見える。
ここにさきつま一一九ふたつなきたからにめで給ふ一二〇おびあり。これ常にかせ給へとてあたふるを見れば、金銀きがねしろがねを飾りたる太刀たちの、一二一あやしきまできたうたる古代の物なりける。
しかし誰でも、これらの伝説を、自分の頭の中できたえ直してみようとすれば、それらが実に、すべての一時的な形式や事情から独立したものであるということに気がつくであろう。
刀剣については相当の鑑定眼を持っている彼も、兜についてはなんにも判らなかったが、それが可なりに古い物で、鉢のきたえも決して悪くないということだけは容易に判断された。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
はなあらしのおそろしきこゝろもらずおこらんにや、るさせたまへとてこひなればこそ忠義ちうぎきたへし、六しやく大男おほおとこをふるはせて打泣うちなきし、姿すがたおもへばさてつみふかし、六歳ろくさいのむかし
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
このままいてしまったら、折角せっかくきたえたおのがげいを、こそぎてなければならぬかなしさ。それゆえ、あきむしにもおとる、はかない月日つきひごしてたが、……おせんちゃん。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
温い家庭の内に育つて、それほど生活の方の苦痛くるしみも知らずにむ人もあれば、又、貴方のやうに、若い時から艱難かんなんして、其風波なみかぜまれて居るなかで、自然と性質をきたへる人もある。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
御存ごぞんじのかたは、武生たけふへば、あゝ、みづのきれいなところかとはれます——みづかねきたへるのにてきするさうで、かまなべ庖丁はうてう一切いつさい名産めいさん——むかしは、きこえた刀鍛冶かたなかぢみました。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
きたえがよろしいから、ジョキリと一鋏ひとはさみれるが、下手な人のこしらえた鋏で剪ると、バラ/\に先がちらばって幾度こいてもそろいませんから、また剪ると額の処へこまッかい毛がはら/\落ちて
そこに、何の焼刃やいばのみだれか、一ぽん女の毛が纏わりついたと見えるきたきず
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あるかれかぶ唐鍬たうぐはつよ打込うちこんでぐつとこじげようとしたとききたへのいゝ白橿しらかしとはつよかつたのでどうもなかつたが、てつくさびさきめた唐鍬たうぐはの四かくあなところにはかゆるんだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
心臓か、命か? もっとも、釣針は、良くきたえたはがねでできている。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
まへいかりを蒙古まうこあらしきたえ、鞍山あんざん溶鉱炉ようこうろかしめ!
鞭索べんさく苦行くぎやうに身をきたへたにれの木よ、わたしの悲しい心のよろこび
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
大勢にて追取卷くんほぐれつ戰ふ有樣善か惡かは分らね共若者のはたら凡人ぼんじんならず天晴の手練かなと感じながらに見て居たるに今大勢おほぜいの雲助にたゝふせられ已に一命も危く見ゆるゆゑかの武士は立上り何はともあれ惜き若者見殺しにするもなさけなしいざたすけて呉んときたえ上たるてつ禪杖ぜんぢやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
梅雪入道は、もうまゆにもしものみえる老年、しかし、千軍万馬を疾駆しっくして、きたえあげた骨ぶしだけは、たしかにどこかちがっている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを合圖に右から出て來たのは、一座の太夫玉川權之助、三十前後のこれは小作りではあるが、鐵できたへたやうな男でした。
内新好ないしんかうが『一目ひとめ土堤づゝみ』に穿ゑぐりしつう仕込じこみおん作者さくしや様方さまがた一連いちれんを云ふなれば、其職分しよくぶんさらおもくしてたふときは扇子せんす前額ひたひきたへる幇間だいこならんや。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
いつぞや大菩薩峠の上で生胴いきどうためしてその切味きれあじに覚えのある武蔵太郎安国のきたえた業物わざものを横たえて、門弟下男ら都合つごう三人を引きつれて、いざ出立しゅったつ間際まぎわ
ただ一つの機械きかいにはされなかったので、てつぎんとで、できた一筋ひとすじせんは、この音楽家おんがくかきたえられるよりは、ほかに、だれもつくることができなかったからです。
楽器の生命 (新字新仮名) / 小川未明(著)
だから僕が先刻さっきから云うんだ、実地を踏んできたえ上げない人間は、木偶でくぼうおんなじ事だって
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ぼく弱すぎるんだ。自信がなくなったんだ。だから、もっと自分をきたえてみたいんだ。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
蒔絵まきゑを造り、陶器を作り、又刀剣をもきたへた。私は此人が政治の上に発揮することの出来なかつた精力を、芸術の方面に傾注したのを面白く思ふ。面白いのはこゝにとゞまらない。
椙原品 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
公案で思想をきたえて、さて現成げんじょうさせる絶対境は要するに抽象世界である。
仁右衛門は息気いきを殺して出て来る人々をうかがった。場主が帳場と一緒に、後から笠井にかさをさしかけさせて出て行った。労働で若年の肉をきたえたらしい頑丈がんじょうな場主の姿は、何所どこか人をはばからした。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)