はさ)” の例文
新字:
たいていはいわしの頭、髪の毛などを小さな串のさきにはさんで、ごくざっとあぶったもので、これを見ると鬼が辟易へきえきして入って来ぬという。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
女どもは、あふれ出ようとする愚痴を、切なく抑えて胸が一ぱいになっていた。子供らは荷物の間にはさまって干菓子などを噛んでいた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
彼の電鈴でんれいを鳴して、火のそばに寄来るとひとしく、唯継はその手を取りて小脇こわきはさみつ。宮はよろこべる気色も無くて、彼の為すに任するのみ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
俗に「伊豆さま裏」と呼ばれるその一帯の土地は、松平伊豆守いずのかみの広い中屋敷と、寛永寺の塔頭たっちゅうはさまれて、ほぼ南北に長く延びていた。
赤ひげ診療譚:06 鶯ばか (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さもたり。ちかづくまゝに。にほは。そもかう款貨舖ぐやの。むすめかも。ゆびはさめる。香盆かうばこの。何爲なにことなりや。時々とき/\に。はなかさして。くめるは。
「西周哲学著作集」序 (旧字旧仮名) / 井上哲次郎(著)
彼女はすぐに箸を挙げて、皿の中の珍味をはさまうとしたが、ふと彼女の後にゐる外国人の事を思ひ出して、肩越しに彼を見返りながら
南京の基督 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
念の爲裏口の方を探しに行くと、裏木戸の内、建物と板塀の間にはさまつて、ボロ切れのやうに倒れて居たのはまぎれもない仁助爺やです。
まさかとは思うものの、何だか奥歯に物のはさまっているような心持がして、此度こんどはわたくしの方が空の方へでも顔を外向そむけたくなった。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「実は、自分もそれを手に入れようとしているのだが」と、万太郎がすばやくはさんだ一言には、どことなく挑戦的な語気が走りました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本當ほんたう御天氣おてんきだわね」となかひとごとやうひながら、障子しやうじけたまゝまた裁縫しごとはじめた。すると宗助そうすけひぢはさんだあたますこもたげて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
稽古ばかまをはいて、竹刀しないの先へ面小手めんこてはさんで、肩に担いで部屋を出たが,心で思ッた、この勇ましい姿、活溌かっぱつといおうか雄壮といおうか
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
町の高みには皇族や華族の邸に並んで、立派な門構えの家が、夜になると古風な瓦斯ガス燈のく静かな道をはさんで立ち並んでいた。
ある崖上の感情 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
それで三村が均平を警戒しはじめ、郁子も間へはさまって困っていた事情や径路が、古いおりが水面へ浮かんで来たように思い出されて来た。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私の心事について素振そぶりに対して一点の疑いをはさむこともなく、かえって閉口へいこう頓首とんしゅしてその日の中に送り出すようにしてくれたというのは
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
この谷をはさんだ二つの山はまだ暁暗ぎょうあんの中に森閑しんかんとはしているが、そこここの巌蔭いわかげに何かのひそんでいるらしい気配けはいがなんとなく感じられる。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「そいつはいゝ。ルーズベルトなら獅子狩しゝがりにゆくから、その夫人は兎の眠るのを見る位な事はするだらう。」作者が皮肉に口をさしはさんだ。
手品師 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
つまりおせい君はその間にはさまつて何う身動きも出来ないやうな状態なんぢやないかな。僕はおせいを悪い性質のをなごだとは考へてゐない。
椎の若葉 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
正式裁判にまでも訴えようとしていた兄のドミトリイ・フョードロヴィッチと父との間にはさまって、仲裁役といったような立場に立っていた。
とある横町の貧しげな家ばかり並んでいる中にはさまって九尺間口の二階屋、その二階が「ける西国立志編」君の巣である。
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そこへ、周三からの自白に依つておきみの在りかを知つたY署から、その捕縛方ほばくかたの依頼があつた。おきみは前後からはさみ打ちを喰つたのである。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
然し私が一番頼らねばならぬ私は、過去と未来とにはさまれたこの私だ。現在のこの瞬間の私だ。私は私の過去や未来をないがしろにするものではない。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それは巴里のサン・ミッシェルの並木街あたりを往来ゆききする人達の小脇こわきはさまれるような、書籍ほんや書類などをれるための実用向の手鞄であった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
フト夫人ふじん椅子いすつたが、まへはさんだ伊達卷だてまきはしをキウとめた。絨氈じうたんはこ上靴うはぐつは、ゆき南天なんてんあかきをく……
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「いゝえ、神経質で冷淡でそして何処どこか引込思案な気性がよく出てゐますわ。」が彼女が少しきつい調子で口をはさんだ。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
前掛けをしているとはいえ、足を男みたいに大胆に開いて、ザルを股の間にはさむようにして、それに枝豆を落している。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
鬼怒川きぬがは徃復わうふくする高瀬船たかせぶね船頭せんどうかぶ編笠あみがさいたゞいて、あらざらしの單衣ひとへすそひだり小褄こづまをとつておびはさんだだけで、あめはこれてかたからけてある。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
惡者共は七八人裏手うらてへ廻り立はさみ前後より追迫るにぞ半四郎は彌々いよ/\絶體絶命ぜつたいぜつめいはたふちなるはんの木をヤツと聲かけ根限ねこぎになしサア來れと身構へたり之を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
黄色味がかったプリプリするものをはさみあげると、ヒョイと口の中にほうりこんで、ムシャムシャと甘味うまそうに喰べた。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
毎日洋服を着て書類を入れた風呂敷づつみ小脇こわきはさんで、洋杖すてつきいて、京都府下の富豪や寺院をてくてくと歴訪れきはうする。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
マチルドは、お引摺ひきずりが足にまつわりつくと、自身でそれをまくり上げ、指の間にはさむ。にんじんは、片足を上げたまま、優しく、彼女を待っている。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「それはあなたの帶にはさんでお置き、ジエィン、そして以後も持つてゝ下さい。私はもうそれは要らないのだから。」
そのひとりは我等より少しく上方うへにとゞまり、ひとりは對面むかひの岸にくだり、かくして民をその間にはさめり 三一—
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「暫らく」その時まで黙っていた平淡路守が、にがにがしそうに口をはさんで、「お話の筋が違いは致しませぬかな」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
またいつのまにか以前せんのように、右岸には大きな工場が立ち並び、左岸には低いきたない小家がぎっしりと詰まって、相対しながら掘割をはさんでいるのだった。
花を持てる女 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
夜の混濁した空気のなかで、彼は風呂敷に包んだ骨壺と旅行カバンを両脇にかかえて、人の列にはさまれていた。
死のなかの風景 (新字新仮名) / 原民喜(著)
松陰の幼き、書をはさんで壠上ろうじょうに読み、義解せざるあれば、直ちに間の父もしくは叔父にいてただせりという。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
室内しつないにて前記ぜんきごと條件じようけん場所ばしよもなく、また廊下ろうか居合ゐあはせて、兩側りようがは張壁はりかべからの墜落物ついらくぶつはさちせられさうな場合ばあひおいては、しつ出入口でいりぐち枠構わくがまへが
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
釧路川と太平洋にはさまれた半島の岬端で、東面すれば太平洋、西面すれば釧路湾、釧路川、釧路町を眼下に見て、当面とうめんには海と平行して長くいたおかの上
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
もちろん話は近所のうわさで符徴まじりのものだった。「お安くないね」「御馳走ごちそうさま」というような言葉を小耳にはさんで帰って、乳母に叱られたこともあった。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
御溝をはさんで今を盛りたる櫻の色の見てしげなるに目もかけず、物思はしげに小手こまぬきて、少しくうなだれたる頭の重げに見ゆるは、太息といき吐く爲にやあらん。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
小学校の四年へ行っているひろしを中にはさみながら、親子三人で出かけることはないでもないが、それは近頃
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
別れるといふ断定が、二人の間にはさまつてゐるのを、引揚げたばかりのゆき子には見えないに違ひない。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
私と卓をはさんで坐ってから、天井を見上げたり、ふりかえって欄間を眺めたり、そわそわしながら、そんなことを呟いて、「おや、床の間が少し、ちがったかな?」
新樹の言葉 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼が席につくと、すぐ後ろにいた校正係りのT—老が朱筆をちょっと小耳にはさんで曽根の方へ向き
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
見返みかへると、くろ黄色きいろしまのある大柄おほがらはちで、一たかあがつたのがまたたけ根元ねもとりてた。と、地面ぢべたから一しやくほどのたかさのたけかはあひだ蜘蛛くも死骸しがいはさんである。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
無論むろん大佐たいさげん異議ゐぎはさむものゝあらうはづく、つひ此事このこと確定くわくていしたが、さて、輕氣球けいきゝゆうつて、この大使命だいしめいはたさんものはたれぞといふだんになつて、勇壯ゆうさうなる水兵等すいへいら
自慢じまんじる親切しんせつ螢火ほたるび大事だいじさうにはさげて、てしすみうへにのせ、四邊あたり新聞しんぶんみつ四つにりて、すみほうよりそよ/\とあほぐに、いつしかれよりれにうつりて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そして、最初箸の先にちょんびり肴をはさんで左手のてのひらにそれを置いて口にもってゆくとき、龍介をちょっとぬすみ見て、身体を少しくねらし、顔をわきにむけて、食べた。
雪の夜 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
未開人民に普通なるは、にぎこぶしつくり、人差し指第二關節の角の側面と拇指の腹面とのあひだの一端と弓弦とをはさ方法はう/\なり。コロボックルも恐くは此方をりしならん。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
... 睡魔すゐまです! 左樣さやう!』と、イワン、デミトリチは昂然かうぜんとして『貴方あなた苦痛くつう輕蔑けいべつなさるが、こゝろみ貴方あなたゆびぽんでもはさんで御覽ごらんなさい、うしたらこゑかぎさけぶでせう。』
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)