わる)” の例文
旧字:
なんでも夜中よなかすぎになると、天子てんしさまのおやすみになる紫宸殿ししいでんのお屋根やねの上になんともれない気味きみわるこえくものがあります。
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
可也かなり皮肉な出来事であつたからで、気の小さい、きまわるがり屋の彼は、うかしてうまくそれを切りぬけようと、頭脳あたまを悩ましてゐた。
花が咲く (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
串戯じやうだんはよして、些細さゝいことではあるが、おなじことでも、こゝは大力だいりきい。強力がうりき、とふと、九段坂だんざかをエンヤラヤにこえてひゞきわるい。
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おとこは、さかんにわるいことをしました。しかし、世間せけんは、それをゆるすものではありませんから、じきにまたらえられてしまいました。
おけらになった話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
嘉吉はおみちの前でもう少してきぱき話をつづけたかったし、学生がすこしもこっちをわるけないのが気に入ってあわてて云った。
十六日 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
通常つうじょう人間にんげんは、いいことも、わるいこともみな身外しんがいからもとめます。すなわ馬車ばしゃだとか、書斎しょさいだとかと、しかし思想家しそうか自身じしんもとめるのです。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
左衛門 (怒る)吉也きちやわるめ。よし、そんな事をするならおれに考えがある。あすにも吉助きちすけの宅に行ってウンという目にあわせてやる。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
坊主ぼうずは、たてつけのわる雨戸あまどけて、ぺこりと一つあたまをさげた。そこには頭巾ずきんかおつつんだおせんが、かさかたにしてっていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そしてこんどはくずれた塀の前に足をめ足場を調べた上で、二人は一向にわるびれた様子もなく、煉瓦の山を踏みわけて、塀の内に入った。
千早館の迷路 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「おまえは、じぶんの仕事しごとのことばかりかんがえていて、わるこころになっただな。ひとぬのをちのぞんでいるのはわるいことだぞや。」
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
たまをどこへか忍ばして置いて、抱え主から懸け合いの来るのを待っているなどは、この頃のわる旗本や悪御家人ごけにんには珍らしくない。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ガンたちは、羊のほらあなの中に、じぶんたちがはいりこんだので、きっと羊たちがきげんをわるくしているのだろうと思いました。
思ひ違ひ、言ひ違ひ、曖昧な返答、下手へたな口籠り、云ひ方一つで善くもわるくも取れるやうなことは、余程注意しないとあぶないぞ。
クロニック・モノロゲ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
なぜときくのか。ほかでもない、大先生は謹厳のお方、さようなことはなさらないが、若い血気の門弟衆の中には、わるふざけを
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
代助は平岡の今苦しめられてゐるのも、其起りは、性質たちわるかねり始めたのが転々てん/\して祟つてゐるんだと云ふ事をいた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
わるいラランもすこしばかりさびしくなつてきた。今度こんどこそはらつてきた。すると突然とつぜん、ヱヴェレストの頂上てうじやうからおほきなこえ怒鳴どなるものがあつた。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
こんな心懸こころがけくない女子おなご臨終りんじゅう通報しらせが、どうしてひいさまのおもとにとどくはずがございましょう。なにみなわたくしわるかっためでございます。
「なあに、いくらわるだといったって、たかが島民の子供じゃないですか。問題じゃない」と警官がむきになって答えた。
貴様きさまどもはわるやつだ。甚兵衛じんべえさんの生人形いきにんぎょうぬすんだろう。あれをすぐここにだせ、だせばいのちたすけてやる。ださなければ八裂やつざきにしてしまうぞ」
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
現に拙者が貴所あなたの希望に就き先生を訪うた日などは、先生の梅子さんののし大声たいせいが門の外まで聞えた位で、拙者は機会おりわるしと見、ただちに引返えしたが
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
引きちがいに立てた格子戸こうしどまいは、新しいけれど、いかにも、できの安物やすものらしく立てつけがはなはだわるい。むかって右手みぎて門柱もんちゅう看板かんばんがかけてある。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
のみならず、こういう区域カルチェの人民とは思われないほどテニヲハがはっきりしていて、わる丁寧なほど慇懃懇切を極める。
犂氏の友情 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
おかしな玩具がんぐかなんかのように彼を面白がったり、わるふざけをしてからかったりした。それを小父おじ(小さい行商人)はおちつき払って我慢がまんしていた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
其帰りにあまり路がわるいので、矢張此洋服で甲州こうしゅう街道かいどうまで車の後押しをして行くと、小供が見つけてわい/\はやし立てた。よく笑わるゝ洋服である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
一つは其処そこへよく遊びに来ると聞いて居た画家のルンプさんに逢ひたかつたのであるが、折わるく一度も逢はなかつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
彼女かのじょべつわるかおもせず、ただそれをながしたままでいえもどってみると、ちゃ障子しょうじのわきにはおはつ針仕事はりしごとしながら金之助きんのすけさんをあそばせていた。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わたくしは星野ニャン子ともうします 地球のねこをんなの子であります 仕事はわるねずみべたり 追つたりいたします
兄貴と称する巽九八郎が名題のわるで、直ぐ尻をまくったり、居直ったりするので、何処の小屋でも鼻ッつまみで、近頃はズッと舞台を休んで居りました。
後楽園こうらくえんこいりにつてたなんてこと、まりがわるくてひとはなせやしない。だから、映画えいがていたなんていつちまつたのだが、ともかく、コリゴリだ。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
などと、頼山陽らいさんよううたい上げた。しかし、玉座ぎょくざを拝して、やがて花山院をさがって行った姿には、どこにもそんな悲壮感はなく、わるびれても見えなかった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうさ、このわるを今日まで、ともかくもこうして生かして置いて下さったのは、神仏のお恵みか、人間の徳か、考えてみりゃ勿体もってえねえわけのものだねえ。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わるいことはわないから、そこにったらかしときなさい。そいではやほか子達こたちおよぎでもおしえたほうがいいよ。
このときなみだはらはらといてた。地面ぢめんせ、気味きびわるくちびるではあるが、つちうへ接吻せつぷんして大声おほごゑさけんだ。
と少しけんを持たせていってやると、けさ来たのとは違う、横浜生まれらしい、わるずれのした中年の女中は
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
その実吉新のあるじの新造というのは、そんなわるでもなければ善人でもない平凡な商人で、わずかの間にそうして店をし出したのも、単に資本もとでが充分なという点と
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
俗には不帰谷とかわる谷とか又は親不知子不知といった風の名で呼ぶのが、日本人には普通のようである。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
三箇条といふのは、第一、お客のわるてんがうに腹を立てぬ事。第二、晴衣はれぎの汚れを気にしない事。
俺、これで大したわる働いてゐねえから、どつちみち、大した苦患くげんふこともあるめえ。
野の哄笑 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
長「だがね、何うも……だからよ、貰って置くからいじゃアねえか……誠にどうも旦那ア、極りがわるいけれど、わっちも貧乏世帯じょてえを張ってやすから此の金はおれえ申しやしょう」
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
杉山が、私に、町田さんと一緒になつてからまでも、私に附きまとふのは、それは、勿論、杉山が仕方の無いわるで、金を取るためなのは解りきつてゐるんだけど、しかしねえ——。
疵だらけのお秋 (新字旧仮名) / 三好十郎(著)
給料を下げてまでも、おもてへ一つ船でくらがえした、途轍とてつもない「わる」であった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
工学者が好まれる事もあり、実業家が望まれる事もあります。これには決して可否を申す事が出来ません。職業に高下こうげ貴賤きせんの別がないと同様に良人にしてわるいという区別もありません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
おこじょなんていうわる賢こい四ッ足小僧には、大切な愛の巣までつけねらわれて、うっかり子供の食べ物集めにも行けやしない……まったく油断もスキもなるものかネ、ここでもやっぱり
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
「まいどおおけに」「どうぞごひいきに」夫婦がかりで薄気味うすきみわるいほどサーヴィスをよくしたが、人気じんきが悪いのか新店のためか、その日は十五人客が来ただけで、それもほとんど替刃ばかり
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
ぢや、ほんとになくつてよかつたね。たら、わたしもやられたかもれない。やつぱりおてらばうさんのとほりだ。親孝行おやかうかうしてゐるとわる災難さいなんにかゝらないでうんくなるツて、まつたくだよ。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
四人がわるいことをしたということがちゃんとおわかりになるでしょう。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
「おお、譃だとも、譃の皮だわ。お前のお母さんと云ふ人はな、外でばつか働くせえに、人前は偉く好いけんどな、心はうんとわるな人だわ。おばあさんばつか追ひ廻してな、気ばつか無暗むやみと強くつてな、……」
一塊の土 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
らねえや、わるくなつちやつてまんねえから」
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「うちもさんざん心配さされて、人馬鹿にしてる思てんけど、『何とも外に工夫つけへんのんで、あんなうそついてしもたんやさかい、どうぞわる思わんといて』いうて、お梅どんも出て来てあやまるよって、……」
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と団さんはわるびれた様子もなく罪に服してしまった。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)