長屋ながや)” の例文
わたしは、おふくろがなくなったのち、どうすることもできず、おなじ長屋ながやにすんでいた、あんまさんのところで、せわになりました。
はたらく二少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
詰侍つめざむらい部屋へや長屋ながやにいる常備じょうび武士ぶしを、番士ばんしは声をからして起しまわる。たちまち、ものとってけあつまるてきはかずをすばかり。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
木挽町汐留こびきちょうしおどめ(いまの新橋しんばしのふきん)にある奥平おくだいらやしきにいきますと、鉄砲洲てっぽうず築地つきじ)にあるなかやしきの長屋ながやをかしてくれるということでした。
その時分じぶんちゝきてゐたし、うち都合つがふわるくはなかつたので、抱車夫かゝへしやふ邸内ていない長屋ながやまはして、らくくらしてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
語りしかば文右衞門は是をとくと聞しが夫は不埓ふらち千萬の申懸なりと大いに立腹りつぷくし是より又久兵衞と文右衞門の言爭いひあらそひになりければ長屋ながや中の者追々おひ/\騷動さうどう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
師匠の家にも三毛猫が一匹いるが、裏口うらぐち合せの長屋ながやの猫がたちが悪く、毎度こちらの台所を荒らすところから、疑いはその猫に掛かっている様子であります。
其頃そのころ武内たけのうち富士見町ふじみちやう薄闇うすぐら長屋ながやねづみ見たやうなうちくすぶつてながら太平楽たいへいらくならべる元気がぼんでなかつた
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
喜多きた食堂しよくだう飮酒のみく。……あのてつぼうにつかまつて、ぶるツとしながら繋目つなぎめいた踏越ふみこすのは、長屋ながや露地ろぢ溝板どぶいた地震ぢしんおもむきあり。あめ小留をやみにる。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
僕は早速さっそく彼と一しょに亀井戸かめいどに近い場末ばすえの町へ行った。彼の妹の縁づいた先は存外ぞんがい見つけるのにひまどらなかった。それは床屋とこやの裏になった棟割むねわ長屋ながやの一軒だった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
尾籠びろうな話をするようですが、ラサ府のお厠というのは大抵一軒の家に一つか二つある。または一つ長屋ながやの内に一つとかいうような具合ぐあいになかなか大きく建てられてある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
春泥は小説を書き始めた頃は郊外の池袋いけぶくろの小さな借家しゃっかに住んでいたが、それから文名が上り、収入が増すに従って、少しずつ手広な家へ(と云っても大抵は長屋ながやだったが)
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
左樣さやうならとてかしらさげげるに、あれいちやんの現金げんきんな、うおおくりはりませぬとかえ、そんならわたし京町きやうまち買物かいものしましよ、とちよこ/\ばしりに長屋ながや細道ほそみちむに
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
住居すまゐはつひ構内こうない長屋ながやの一つであるけれど、『せい/″\かしておやくつてみせます』とつてるやうなむすめこゝろをいぢらしくおもひながら、彼女かのぢよはぱちりと雨傘あまがさをひらく。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
路地ろじのおくの、またそのおくの、あぶなっかしい三げん長屋ながやの一けんが光吉こうきちの家だった。
美しき元旦 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
軒端のきば蚊柱かばしらのように、どこからともなくあつまって子供こどもむれは、土平どへい前後左右ぜんごさゆうをおッいて、うもわぬも一ようにわッわッとはやしたてるにぎやかさ、長屋ながや井戸端いどばた
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
やっぱり拙者は、お聞きのとおり、ただの、このトンガリ長屋ながやの作爺じゃ。そのほうが無事らしい。せっかくのお申しでながら、この儀は、かたくおことわりするほかはござるまい。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
松女まつじょはおじいのひざにのってかきってる。源四郎げんしろうもようやく掃除そうじをやめたらしい。くまでやほうきやくわなどを長屋ながやのすみへかたづけている。そとは雨のるのも見えぬほどれてきた。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ただその片隅の長屋ながやか何かの中で、生前悪事をした者の裁判などをしている。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
長屋ながや子供こども
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
もうもうと白い湯けむりをあげている板囲いの浴槽は、かみノ湯、なかノ湯と二棟に別れて長屋ながやなりにつづいている。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
思ひ出すには閑靜しづかなる所がよきものなり因て見張みはりつけるによりあき長屋ながやいたとくと考へ見よとて同心に遠見とほみ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
戸口とぐちあそんでいた、長屋ながや子供こどもたちは、屋根やねうえで、眼鏡めがねをかけて、仕事しごとをしているおじいさんを
僕はこれからだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
もとより以前いぜんから、友造ともざういへは、土地とちでも、場末ばすゑの、まちはづれの、もと足輕町あしがるまちやぶ長屋ながやに、家族かぞく大勢おほぜいで、かびた、しめつた、じと/\したまづしいくらしでたのであるから
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この長屋ながやは、そのときから八十八ねんまえの明和めいわ八(一七七一)ねんに、前野良沢まえのりょうたく杉田玄白すぎたげんぱくたちが、オランダのかいぼうがく生物せいぶつのからだをきりひらいて研究けんきゅうする学問がくもん)のほん
去歳こぞにくらべて長屋ながやもふゑたり、所得しよとくばいにと世間せけんくちより樣子やうすりて、をかしやをかしや、そのやうにばしてものにするぞ、火事くわじ燈明皿とうめうざらよりもものぞかし
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
けん長屋ながやのまんなか縁起えんぎがよくないという、ひとのいやがるそんまんなかへ、所帯道具しょたいどうぐといえば、土竈どがまと七りんと、はし茶碗ちゃわんなべが一つ、ぜん師匠ししょう春信はるのぶから、ふちけたごろの猫脚ねこあしをもらったのが
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
もつと段々だん/″\話合はなしあつて見ると、五六さい時分じぶんにはおな長屋ながや一軒いつけんいた隣同士となりどうしで、なんでも一緒いつしよに遊んだ事も有つたらしいので、那様そんな事から一層いつそう親密しんみつつて、帰路かへりみちも同じでありましたから連立つれだつても帰る
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
渡りこえ水戸みと樣前を左りになし壹岐殿坂いきどのざかを打上り本郷通りを横に見てゆけども先の目的めあてなき目盲めくら長屋ながや
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それはちょうど、たち北側きたがわにつづく馬廻うままわり役の長屋ながやの近くである。そこにっている屋根やねの高い馬糧小屋まぐさごやかられたせいろうのように白いけむりがスーとめぐっている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここは、まちちか郊外こうがいでした。ある長屋ながやの一けんでは、ちちかえりをっている少年しょうねんがありました。
波荒くとも (新字新仮名) / 小川未明(著)
げん七がいゑへはらぬがい、返禮へんれいどくなとて、心切しんせつかはらねど十けん長屋ながやの一けんものおとこ外出そとでがちなればいさゝかこゝろかゝるまじけれど女心をんなごゝろにはのなきほどせつなくかなしく
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いはさんが仕事場しごとばから——行願寺内ぎやうぐわんじないにあつた、——路地ろぢうらの長屋ながやかへつてると、なにかものにそゝられたやうに、しきり樣子やうすで、いつもの錢湯せんたうにもかず、さく/\と茶漬ちやづけまして
夜釣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ぐさ小屋ごやの中の高いびきは、さだめし心地ここちよい熟睡うまいにおちているだろう。お長屋ながやもみんなえて、卜斎ぼくさいの家のなかも、あるじのこえなく、きゃくわらいもたえて、シンとしてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長屋ながやじゅうのものが、総出そうでとなって、このどく老職人ろうしょくにん周囲しゅういあつまりました。
僕はこれからだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
さりとは陽氣ようきまちみたるひとまをしき、三島神社みしまじんじやかどをまがりてよりれぞとゆる大厦いゑもなく、かたぶく軒端のきばの十けん長屋ながや二十けん長屋ながやあきなひはかつふつかぬところとてなかばさしたる雨戸あまどそと
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
長屋ながやものがいひすと、すぐおうじて
迷子 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「旦那、お長屋ながやの方じゃありますまいね」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)