かひな)” の例文
(こはその母これをキロネより奪ひ、己がかひなにねむれる間にシロに移せし時の事なり、その後かのギリシアびとこれにかしこを離れしむ)
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
王樣わうさまその女王樣ぢよわうさまかひなにかけされられ、おそる/\まをされました、『かんがへても御覽ごらんなさい、え、たか一人ひとり子供こどもではないか!』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
鳶尾草いちはつの花、清淨しやうじやう無垢むくかひなの上にいて見える脈管みやくくわんの薄い水色、肌身はだみ微笑ほゝゑみ、新しい大空おほぞらの清らかさ、朝空あさぞらのふとうつつた細流いさゝがは
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
しま羽織はおり筒袖つゝそでほそた、わきあけのくちへ、かひなげて、ちつさむいとつたていに、兩手りやうて突込つツこみ、ふりのいたところから、あか前垂まへだれひもえる。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
花嫁は自分の存在を証明するやうに、わざと邪慳に良人をつとかひなをとつた。発明家の花聟はひきずられるやうにいて往つた。
かの女の子の五つばかりなる、本院の西のたいに遊びありきけるを呼び寄せて、母に見せ奉れとてかひなに書きつけ侍りける。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「何だもないぢやありませんか? かひなでござんすよ、オーシップ・ニキーフォロヸッチ!」とソローハが答へた。
隙間すきまもなうくろとばり引渡ひきわたせ、こひたすくるよるやみそのやみまちものふさがれて、ロミオが、られもせず、うはさもされず、わしこのかひななか飛込とびこんでござらうやうに。
春枝夫人はるえふじん嬋娟せんけんたる姿すがたたとへば電雷でんらい風雨ふううそら櫻花わうくわ一瓣いちべんのひら/\とふがごとく、一兵いつぺいとききづゝたをれたるを介抱かいほうせんとて、やさしくいだげたる彼女かのぢよゆきかひなには
牝獅子の乳で育つたと云ふ野蛮人の猛将を、細いかひなで刺し殺した猶太ユダヤ少女をとめの美しい姿が、勇ましい面影が、蝕画エッチングのやうに、彼女の心にこびりついて離れなかつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
萬一事有ことあるの曉には絲竹いとたけに鍛へしかひな白金造しろがねづくり打物うちものは何程の用にか立つべき。射向いむけの袖を却て覆ひに捨鞭すてむちのみ烈しく打ちて、笑ひを敵に殘すはのあたり見るが如し。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
小尼公アベヂツサの優しきかひなの爐中の詩卷をつかまんとせし時、事の慌忙あわたゞしさに足踏みすべらしたるなるべし、この天使の如き少女はあと叫びて、横ざまに身を火燄の間にたふしつ。
つゞいてかれは柔かい女のかひなの自分にからみついて来るのを感じた。女の髪の匂ひがした……。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
そのおそろしさいはんかたなし。かの死骸しがいかしらかひな断離ちぎれたるは、なだれにうたれて磨断すりきられたる也。
一人ひとりは耳に囁きつ、またの一人ひとりかひなに自由を許しつゝきれもてすぢねを卷きしばる如きめをみて
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
しきイザとすゝむ箱枕はこまくらのみならぬ身の親父が横に成たる背後うしろへ廻り腰より足をさす行手ゆくてよわきかひなも今宵此仇このあだたふさんお光の精神是ぞ親子が一世の別れときはまる心は如何ならん想像おもひやるだにいたましけれ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
蒲田がかひなは電光の如くをどりて、猶言はんとせし貫一が胸先を諸掴もろつかみ無図むずりたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
このことばを聞きて、さては前日の児殺こころしよなと心付きたれば、更に気味あしく、いかにもして振離して逃げんとすれど、狂女の力常の女のかひなにあらず、しばしがほどは或はすかしつ或はなだめつ
鬼心非鬼心:(実聞) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
五體にみなぎる精力せいりきが、兩のかひなにおのづからあつまる時、わがたましひは流るゝ如く彼に通ひて、はじめて面も作られまする。但しその時は半月の後か、一月の後か、あるひは一年二年の後か。
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
天火てんびのふる祭の晩の神前に幾つとなくかかぐる牡丹に唐獅子の大提灯は、またわかい六騎の逞しい日に焼けたかひなに献げられ、霜月親鸞上人の御正忌となれば七日七夜の法要に寺々の鐘鳴りわたり
水郷柳河 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
よし山賤やまがつにせよ庭男にはをとこにせよ、れをひとくかるべきか、令孃ひめ情緒こヽろいかにもつれけん、じんすけ母君はヽぎみのもとにばれ、此返事このへんじなく、のこしげに出行いでゆきたるあとにて、たまかひな此文これいだ
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
まことにわれ汝等に告ぐ、哀願のかひなかくの如く延べたり。
(旧字旧仮名) / アダ・ネグリ(著)
糸桜ほそきかひながひしひしとわが真額まひたへをむちうちにけり
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
ゼウスの丈夫なそのくびに、白いかひなをイウロペは掛け
しかく陳じてアキリュウス双のかひなをのぶれども
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
その乘手等の黒きかひなに浪の乘りてかたむく
蝶を夢む (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
ああ、かの広き額と、鉄槌てっつゐのごときかひな
呼子と口笛 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
極祕の愁、夢のわな、——君がかひな
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
緑の草の中にしもかひなを君がげやれば
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わたしの左の白いかひなすほどに。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
今や、はや、肉枯れしかひなさし延べ
深夜の道士 (新字旧仮名) / 富永太郎(著)
ちからなき、嬰児みどりごごときかひなして
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
海 隔てつわれらかひな結びゆく
間島パルチザンの歌 (新字旧仮名) / 槙村浩(著)
はゝかひなのさみしさか。
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
あたたかき玉のかひな
玉盃の曲 (新字旧仮名) / 漢那浪笛(著)
かひなに佩べる珠鳴りて
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
弱細ひはぼそ二五 手弱たわやかひな
太いかひなの女
手枕たまくらかひなつき
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
こゝにはアレッツオびとにてギーン・ディ・タッコのたけかひなに死せるもの及び追ひて走りつゝ水に溺れし者ゐたり 一三—一五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
その関野氏に教へる、木乃伊のかひなは、学者の研究と同じで、今一息といふところで、物になるのだが、得てさうならないところが世間なのである。
なぎさけし芭蕉ばせをざしにかざあふぎらずや。ほゝかひなあせばみたる、そでへる古襷ふるだすきは、枯野かれのくさせたれども、うらわかえんとす。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『まア、なんといふうれしいことでせう、つたのねえ!』つて公爵夫人こうしやくふじん可愛かあいさのあまり、かひなかひなれるばかりに摺寄すりよつて、二人ふたりは一しよあるいてきました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
きのふは此酒店にて、樂しき事のみおもひつゝ、花を編み、母上のかひなを枕にして眠りしものを。
ひき交換とりかへたとは事實まことか? ならば何故なぜこゑまでも交換とりかへなんだぞ? あのこゑがあればこそ、いだきあうたかひなかひな引離ひきはなし、朝彦あさびこさま歌聲うたごゑで、可愛いとしいおまへ追立おひたてをる。
さう思ふと、亡き父が、あの強いかひなを差し伸べて、自分を招いてゐて呉れるやうに思はれた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
否、その柔かなかひなが、またその美しい心が、いかやうにこの身に向つて触れて来ようとしてゐたかを見得る。そこにはあらゆるものがあつたではないか。詩があつたではないか。
あさぢ沼 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
なほちからをつくしてほりけるに真白ましろなる雪のなかにそめたる雪にほりあて、すはやとてなほほり入れしに片腕かたうでちぎれてくびなき死骸しがいをほりいだし、やがてかひなはいでたれども首はいでず。
らじとべしかひなおよばず、いらつて起ちし貫一は唯一掴ひとつかみと躍りかかれば、生憎あやにく満枝が死骸しがいつまづき、一間ばかり投げられたる其処そこの敷居に膝頭ひざがしらを砕けんばかり強く打れて、のめりしままに起きも得ず
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
天火てんびのふる祭の晩の神前に幾つとなくかかぐる牡丹の唐獅子からししの大提燈は、またわかい六騎ロツキユの逞ましい日に燒けたかひなに献げられ、霜月親鸞上人の御正忌となれば七日七夜の法要は寺々の鐘鳴りわたり
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)