紙入かみいれ)” の例文
佐賀錦さがにしき紙入かみいれから、の、ざく/\と銅貨どうくわまじりをあつかつた、岡田夫人をかだふじん八千代やちよさんの紙包かみづつみの、こなしのきれいさをいまでもおぼえてる。
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一寸ちょっと紙入かみいれの中にもお丸薬がんやく散薬こぐすりでも這入はいっていますが、此の志丈の紙入の中には手品の種や百眼ひゃくまなこなどが入れてある位なものでございます。
紙入かみいれけたら、三千代につた旅行費の余りが、三折みつをり深底ふかぞこの方にまだ這入つてゐた。代助は乗車券を買つたあとで、札の数を調べて見た。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
紙入かみいれに金を入れて置く、ソレは二か三分か入れてある、入れてあるけれども何時いつまでたってもその金のなくなったことがない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
鏡子はふとトランクや鞄の鍵をどうしたかと云ふ疑ひをいて書斎へ行つた。そして赤地錦あかぢにしき紙入かみいれ違棚ちがひだなから出した中を調べて見たが見えない。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
市郎は衣兜かくし紙入かみいれから紙幣を探り出して、黙って男の手に渡すと、彼は鳥渡ちょっと頂いてすぐに我が洋袴ずぼん衣兜かくし捻込ねじこんでしまった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
狭山はぢきに枕の下なる袱紗包ふくさづつみ紙入かみいれを取上げて、内よりいだせる一包いつぽうの粉剤こそ、まさ両個ふたりが絶命のやいばふる者なりけれ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
用もないのに幾度いくたびとなく帯の間から鏡入れや紙入かみいれを抜き出して、白粉おしろいをつけ直したりびんのほつれをで上げたりする。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
紙入かみいれを出し鍵を出すと次にジルベールが捕縛される最後の瞬間にソッと自分の手に渡した品物のあったのに気が付いた。彼はそれを出してみて吃驚びっくりした。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
このあいだ紙入かみいれを落したとき十二文の見料けんりょうを出して訊くと、水に縁があり、木に縁があるところをさがせというから、一生懸命ドブを引っ掻き廻していると
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
謙作はこせこせとワイシャツを着、ズボンをけ、靴もあるので靴も穿き、それから上衣うわぎに手をしながら見ると、時計も紙入かみいれもちゃんと箱の中に入れてあった。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
受取て親父樣無事でと打分れ江戸の方へぞ急ぎける斯て九郎兵衞は二人のくびを切落し傍邊かたへに小高きをかの有しかば小松こまつの根をほりうづめ又死骸の傍邊へは彼盜し紙入かみいれ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
紙入かみいれ莨入たばこいれなどに細工を込め、そのほかの品にも右に准じ、金襴きんらんモールの類に至るまで異風を好み、その分限ぶんげんわきまえず、ゼイタク屋などと家号を唱え候者これ有るよう相聞え
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
椿岳は着物ばかりでなく、そこらで売ってる仕入物しいれものが何でも嫌いで皆手細工てざいくであった。紙入かみいれや銭入も決して袋物屋の出来合できあいを使わないで、手近てぢかにあり合せた袋で間に合わしていた。
紙入かみいれたゞ一つふところに入れて廊下にさふらふに、此処ここ出水でみずのさまに水きかひ、草履穿ざうりばきの足の踏み入れがたく覚えられさふらひしかば、食堂の上の円きてすり一人ひとりもたれしに、安達氏
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
いつたいだれでも運勢うんせいかたむいてくると、自然しぜんとじたばたしすのは人情にんじやうしからしむるところだが、五だん里見弴さとみとん紙入かみいれからお守札まもりふだならす、四だん古川緑波ふるかはりよくははシガアレツト・ライタアでをする。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
「たしかに持っていたはずの紙入かみいれが見えませぬ故」
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
紳士は泣きだしそうな顔で紙入かみいれをだした。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「それより余計なくたって、二十ルーブリで沢山だ。そうすれば、何もかも取り返して見せたんだがなあ。つまりさ、取り返した上に、正直なところ、今頃はきっと、三万ルーブリぐらいはこの紙入かみいれへねじこんでいたんだがなあ。」
紙入かみいれからさつだししづに渡した。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
代助は其九時頃平岡のいへした。するまへ、自分の紙入かみいれなかるものをして、三千代にわたした。其時は、はらなかで多少の工夫くふうついやした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
用もないのに幾度いくたびとなく帯のあひだから鏡入かゞみいれや紙入かみいれを抜き出して、白粉おしろいをつけ直したりびんのほつれをで上げたりする。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
はこせこかとおもふ、にしき紙入かみいれから、定期ていきだかなんだかちひさくたゝんだ愛知あいち銀行券ぎんかうけんきぬハンケチのやうにひら/\とふつて、きん一千圓いつせんゑんなり、といふ楷書かいしよのところをせて
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼女かれは慌てて又もや座敷へ引返ひっかえして、有合ありあ燐寸まっち我袂わがたもとに入れた。更に見廻すと、とこわきには客の紙入かみいれが遺してあって、人はまだ誰も帰って来なかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼等は燐寸まっちをすって賊の残した衣類を調べた。そこには書類も紙入かみいれもなく、ただ一ツ一枚の名刺があった。そこには怪賊アルセーヌ・ルパンの名が記されてあった。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
どういふわけ梅廼屋うめのや塔婆たふばげたか、不審ふしんに思ひながら、矢立やたて紙入かみいれ鼻紙はながみ取出とりだして、戒名かいみやう俗名ぞくみやうみなうつしましたが、年号月日ねんがうぐわつぴ判然はつきりわかりませぬから、てら玄関げんくわんかゝつて
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
紙入かみいれにするとか莨入たばこいれにするとか云うようなソンナ珍らしい品物を、八畳も十畳も恐ろしい広い処に敷詰めてあって、その上を靴で歩くとは、扨々さてさて途方もない事だと実に驚いた。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
奥さんからもらったと自慢そうに見せたいつぶしの紙入かみいれも書生にくれる品じゃない。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
見るに付聞に付口惜さ限りなく何事かあれかしと窺ひ居たりし中金谷村に大法會だいほふゑありて續合つゞきあひの事故九助惣助九郎兵衞お里等も其席へ到りしに此時九助は混雜こんざつまぎれに紙入かみいれを忘れて小便せうべんに立しを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
紙入かみいれを一つと布団ふとんの裏地を一ぴきさらしを二反買つて届けて貰ふ事にした。
六日間:(日記) (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
彼は懐中かいちゅう紙入かみいれを探って銭を出し、それを鼻紙はながみくるんだ。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
たらはらつて頂戴ちやうだい」とつてふところなかからよごれた男持をとこもち紙入かみいれと、銀貨入ぎんくわいれ蟇口がまぐちして、宗助そうすけわたした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
蘿月は紙入かみいれの中にはさんだ老眼鏡を懐中ふところから取り出して、ず洋装の教科書をば物珍しく一冊々々ひろげて見ていたが、するうちにばたりと畳の上に落ちたものがあるので
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
兩方りやうはうかた兩袖りやうそで一所いつしよ一寸ちよつとゆすつて、内懷うちぶところ紙入かみいれから十圓じふゑんなり、やつぱり一錢いつせんいたゞいた。
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
紙入かみいれも二重になって居て大丈夫なことで、紙入も落さんようにして
待受まちうけ切害せつがい致し首は切捨きりすて取隱とりかくし候へ共兩人とも衣類に覺え之ある而已のみならず悴共の事故手足てあし骸等からだとうにも覺え之あり相違なき儀に御座候加之そのうへみぎ死骸の傍邊に九助紙入かみいれおち有之これあり又紙入の中には島田宿藤八より九助へ送り候手紙も有之候事其節御檢使樣方御改め通りに御座候全く九助惣内夫婦を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
蘿月らげつ紙入かみいれの中にはさんだ老眼鏡らうがんきやう懐中ふところから取り出して、づ洋装の教科書をば物珍ものめづらしく一冊々々ひろげて見てゐたが、するうちにばたりとたゝみの上に落ちたものがあるので
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
伏目ふしめがふつくりとする……して、緋無地ひむぢ背負上しよひあげをとほして、めりんすの打合うちあはせのおびあひだに、これはまたよそゆきな、紫鹽瀬むらさきしほぜ紙入かみいれなかから、よこつて、して、おきなあたへた。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
のみならず、んなひと常態じやうたいとして、紙入かみいれそこ大抵たいてい場合ばあひには、輕擧けいきよいましめる程度内ていどないふくらんでゐるので、億劫おくくふ工夫くふうこらすよりも、懷手ふところでをして、ぶらりとうちかへはうが、ついらくになる。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
吾妻橋へ出るようになっても客のつくことには変りがなく、その月の末にはハンドバッグの中に入れた紙入かみいれには百円札や千円札がいくら押込もうとしても押込めない程であった。
吾妻橋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
洋杖ステツキ紙入かみいれと、蟇口がまぐち煙草入たばこいれを、外套ぐわいたうした一所いつしよ確乎しつかおさへながら、うや/\しく切符きつぷ急行劵きふかうけん二枚にまいつて、あまりの人混雜ひとごみ、あとじさりにつたるかたちは、われながら、はくのついたおのぼりさん。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「どうしてまた今日は五円入っていたんです。貴夫あなた紙入かみいれに」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
吾妻橋あづまばしるやうになつてもきやくのつくことにはかはりがなく、つきすゑにはハンドバツグのなかれた紙入かみいれには百円札ひやくゑんさつ千円札せんゑんさつがいくら押込おしこまうとしても押込おしこめないほどであつた。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
初めは何か子供の悪戯いたずらだろうくらいにして、別に気にもかけなかったが、段々だんだん悪戯いたずらこうじて、来客の下駄やからかさがなくなる、主人が役所へ出懸でかけに机の上へ紙入かみいれを置いて、後向うしろむきに洋服を着ている
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
赤いてがらの細君は帯の間から塩瀬しおぜちいさ紙入かみいれを出して、あざやかな発音で静かに
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
懐中かいちゅう紙入かみいれに手を懸けながら、茫乎ぼんやり見ていたと申します。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「うむ、玉水三郎……。」いいながらせわしなく懐中ふところから女持おんなもち紙入かみいれさぐり出して、小さな名刺を見せ、「ね、玉水三郎。昔の吉さんじゃないぜ。ちゃんともう番附ばんづけに出ているんだぜ。」
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
紙入かみいれはひつてます、ちひさいのが蝦蟇口がまぐち……」
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
頭を綺麗に小紋こもんの羽織に小紋の小袖こそですそ端折はしおり、紺地羽二重こんじはぶたえ股引ももひき白足袋しろたび雪駄せったをはき、えりの合せ目をゆるやかに、ふくらましたふところから大きな紙入かみいれの端を見せた着物の着こなし
草紅葉 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「うむ、玉水三郎たまみづさぶらう………。」ひながらせはしなく懐中ふところから女持をんなもち紙入かみいれさぐり出して、小さな名刺を見せ、「ね、玉水三郎たまみづさぶらう。昔のきちさんぢやないぜ。ちやんともう番附ばんづけに出てるんだぜ。」
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)