たて)” の例文
○急要ノ事件指起さしおこルトキ、其土地ノ奉行ニテ法ヲたてントスルモ、英国王これヲ禁ジテ、王ノ免許ヲ得ルニ非ザレバ之ヲ施行セシメズ。
枯つ葉一つがさつか無え桑畑の上に屏風びやうぶたててよ、その桑の枝をつかんだひはも、寒さに咽喉のどを痛めたのか、声も立て無えやうなかただ。
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
現在うけ合ひしは我れに覚えあれど何のそれをいとふ事かは、大方お前が聞ちがへとたてきりて、烟草たばこ輪にふき私は知らぬと済しけり。
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
くちもうしたらその時分じぶんわたくしは、えかかった青松葉あおまつばが、プスプスとしろけむりたてくすぶっているような塩梅あんばいだったのでございます。
小僧はあらたての顔をしてパデレウスキイの前に帰つて来た。音楽家は「よし/\」と言つて銀貨を小僧の濡れた掌面てのひらに載つけてやつた。
お婆さんの御新姐の手から冷酒を三杯たてつづけて、袴に両手をついて、じっとうつむいた。が、渋苦しぶにがい顔して、ほろほろと涙ぐんだ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
年齢としのころ三十あまりと見ゆる女白く青ざめたる㒵に黒髪くろかみをみだしかけ、今水よりいでたりとおもふばかりぬれたる袖をかきあはせてたてり。
それだから幾度いくたび百姓ひやくしやうたがやさうともつち乾燥かんさうしてらさぬ工夫くふうたてないかぎりは、おもはぬところにぽつり/\とくさあを
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
このごろ世間に、皇学・漢学・洋学などいい、おのおの自家じかの学流をたてて、たがいに相誹謗ひぼうするよし。もってのほかの事なり。
中津留別の書 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
是でも未だ分りませんか(荻)フム仲々感心だ、当る当らんは扨置いて初心の貴公が斯う詳しく意見をたてるは兎に角感心する
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
而して、寒気は次第に加わって、雪は大きく綿をちぎったように、ぽたり、ぽたりと沈黙の空気のうちに、音をたてて降って来た。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「文句の多いたておやまさね」次郎吉はちょっとウンザリしたが、「おおせられましょう、お姫様、とこう一つ行くとするか」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
孝「なによろしゅうございます、お金が出たからいが、しお手打にでもなるなら、殿様の前でお為になる事を並べたてて死のうと思って……」
矢田平のたて、長いのでは有名な方なるを、訥子とつしの勤むることなれば、見ぬ方大だすかりなり。宋蘇卿の最期にくる所も騒がしきだけなり。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
鳥居清信がいはゆる鳥居風なる放肆ほうしの画風をたてしは思ふに団十郎の荒事を描かんとする自然の結果にいでたるものならん
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
貸給かしたまへと云けれども三郎兵衞更に承知せず外の話にまぎらして取合ざれば四郎右衞門も大いにはらたてこれほど事をわけて頼むに恩を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
今迄そばにゐたものが一町許遠退とおのいた気がする。三四郎はりて置けばかつたと思つた。けれども、もう仕方がない。蝋燭たてを見てすましてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
拾玉しゅうぎょく集』に「すごきかな、加茂かも川原かわらの河風にみのげ乱れてさぎたてるめり」。為家ためいえの歌に「ゐる鷺のおのが蓑毛も片よりに、岸の柳を春風ぞふく」
蓑のこと (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「食事でもなんでもお上通かみどおりで、お鯉さんとひとつにたべるのですよ。あの方が身をたててあげればだが、お鯉さんもそれまでにはまた一苦労ですね」
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
かえって心配の種子たねにて我をも其等それらうきたる人々と同じようおぼいずらんかとあんそうろうてはに/\頼み薄く口惜くちおしゅう覚えて、あわれ歳月としつきの早くたてかし
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
弁当の握飯にぎりめしのことはいつも話に出るのですが、毎朝母がそれを作られるのを見ますと、たての御飯を手頃の器に取って、ざっと握って皿に置きます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
家斉わざれば何をもって自主の権をたてん。身脩らざれば何によりて品行の高尚なるを望まん。心正しからざれば、なんぞよく国の法律を遵守じゅんしゅすべけんや。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
すると、路の角に居酒屋らしいものがあつて、其処には洋燈らんぷが明るくいて居るが、うちには七八人の村の若者が酒を飲んで、しきりに大きい声をたてて居る。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
お菊ちゃんは、浜中屋の娘分で、芝居町の笛吹きのたてで、小杉長五郎という男をむこに入れたことがあるが、二年も添わないうちに死に別れて後家ごけになった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蝮蛇ふくだ手をせば壮士おのが腕を断つ」それを声をたてて云い、彼はふと自分の腕を見まわした。目をつぶると腕を斬るいたみが伝わって来るようであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
若い人には幾らかたててもらうし、広く各地方からも出京する俳人連の訪問を受けるから、それだけ私も位地が出来、自分ながら勢力を持ったような感じが出来た。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
おれは無学で働きがないから、おれの手では到底とても返せない。何とかしてお前の手で償却の道をたてて呉れ。之を償却せん時には、先祖の遺産を人手に渡さねばならぬ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
寺院などに見るような檜の丸柱を四方にがっちりとてて、古風な敷台、まいら戸、お客が入ってベルを押すと、美しい小間使が二人、紫矢絣むらさきやがすりたてやの字の扮装いでたち
二三日たって夜食の時、このことを父母に話しましたところ何時いつ遊戯あそびのことは余り気にしない父がかどたてしかり、母すら驚いた眼を張って僕の顔を見つめました。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
扨はいよいよ怪物の所為しわざだと、なおくよく四辺あたりを見ると、其の辺は一面の枯草に埋っていて、三間ばかり先は切ッたての崖になっているので、三人は思わず悸然ぎょっとして
諸侯方しよこうがたまで御出おいでになり、わづかのうちに新梅屋敷しんうめやしきの名、江都中えどぢうに知られ、それのみならず先生々々せんせい/\たてこがしに、七草考なゝくさかう都鳥考みやこどりかうのと人に作らせて、我名わがなにて出版せしゆゑ
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
此れを熟考する時は、予が如き愚なるも平生潔白正直を取るの応報として、冥々裡めいめいりに於て予を恵みたるかを覚えたり。実に予が愚なるもかかる断乎だんこたる説をたてたるを感謝す。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
腹の黒い悪魔の吐く息は、雲かかすみのやうに空をたてこめて、まだ生れてから若い、お天道様の美しい光りも覆ひ隠し、地上はまだ世界がひらけない前のやうに真暗まつくらになりました。
悪魔の尾 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
軍団長イワノウィッチは、大刀だいとうたて反身そりみになって、この際の威厳いげんたもとうと努力した。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
一葉女史いちえふぢよしはおのれとおな園生そのふにありてはぎつゆにおほしたてられし下葉したはなりはぎ中島なかじまつねにいにしへぶりのしなたかきををしへさとしたまへれど性來せいらいのすきこゝろによのみゝちかくぞく今樣いまやう情態じやうたい
うもれ木:01 序 (旧字旧仮名) / 田辺竜子(著)
湖面に美しい鳥肌をたてている有様、それらの寂しく、すがすがしい風物が、混濁こんだくし切った脳髄のうずいを洗い清め、一時は、あの様に私を苦しめた神経衰弱も、すっかり忘れてしまう程でありました。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
東大寺は常在不滅じやうざいふめつ実報寂光じつぱうじやくくわうの生身の御仏とおぼしめしなずらへて、聖武皇帝、てづかみづかみがたて給ひし金銅十六丈の廬舎那仏るしやなぶつ烏瑟うしつ高くあらはれて、半天の雲にかくれ、白毫びやくがう新にをがまれ給ひし満月の尊容も
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
『うん、あのはなしか。あれは幾度いくどいても面白おもしろいな。』と、ひかけた但馬守たじまのかみは、不圖ふと玄竹げんちくたてあたまに、剃刀創かみそりきずが二ヶしよばかりあるのを發見はつけんして、『玄竹げんちく、だいぶあたまをやられたな。どうした。』
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
程近き線路を、好摩四時半発の上り列車が凄じい音をたてて過ぎた頃、一行は小川家に着いた。はしやいだ富江の笑声が屋外までも洩れた。岩手山は薄紫にけて、其肩近く静なる夏の日が傾いてゐた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
これつい不便ふべんな事は、其昔そのむかし朝夕あさいふ往来わうらいして文章を見せ合つた仲間の大半は、はじめから文章をもつて身をたてこゝろざしの人でなかつたから、今日こんにちでは実業家じつげふかつてるのも有れば工学家こうがくかつてるのも有る
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
たて海へ野山に白旗たなびき天地震動せば万民天主をとうとぶ時至るべきや
島原の乱雑記 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
子細は、其主人、自然の役にたてぬべしために、其身相応の知行ちぎょうをあたへ置れしに、此恩は外にないし、自分の事に、身を捨るは、天理にそむく大悪人、いか程の手柄すればとて、是を高名とはいひ難し
西鶴と科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
もらいたては、儂がいつけおんぶで三軒茶屋まで二里てく/\らくに歩いたものだが、此の頃では身長三尺五寸、体量たいりょう四貫余。友達が無いがさびしいとも云わずそだって居る。子供は全く田舎で育てることだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
不断腹をおたてになるようなことをせずに
大不畏だいふいの天柱をそそりたてている。
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
むしたて饅頭日和まんじゅうびよりや山桜 理曲
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
きばみならし、ぼったてぼっ立
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
現在げんざいうけひしはれにおぼえあれどなにれをいとことかは、大方おほかたまへきゝちがへとたてきりて、烟草たばこにふきわたしらぬとすましけり。
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
卯平うへい屹度きつとガラスたて店臺みせだいから自分じぶん菓子くわしをとつてやる。それでも與吉よきち菓子くわしぢりながらそばへはらうともしなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
とづけ/\嫌味いやみを浴びせかけるので、気の弱い夫人達は、蝸牛まひ/\つぶりのやうにたての丸髷を襟のなかに引つ込めてしまひたくなる。