さを)” の例文
今にして思へば政海の波浪はおのづから高く自からひくく、虚名を貪り俗情にはるゝの人にはさをつかひ、かいを用ゆるのおもしろみあるべきも
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
舟人のさをを留めたるとき、われは何處に往くべきぞと問ひぬ。舟人は家と家との間を通ずる、橋の側なるせばこうぢを指ざし教へつ。
この邊りでは滅多に使はない、鐵の石突の着いたさをですが、その先のさびに交つて、明かに洗ひ殘した血の痕がみえるのでした。
「こつちなんぞぢや、あといくらでも出來できらあな」といひながらたどりをつた。たまごすこうごくとはかりさをがぐら/\と落付おちつかない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
一同出立には及びたり其行列ぎやうれつには第一番の油箪ゆたんかけし長持十三さを何れも宰領さいりやう二人づつ附添つきそひその跡より萠黄もえぎ純子どんすの油箪白くあふひの御もんを染出せしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
武助さんは、さををあやつりながら、流しめに良寛さんを見てゐた。良寛さんは、へさきに小さくかがまつて、川のかみしもの方をながめてゐた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
じりツとさををのばして、ねらつてるのに、頬白ほゝじろなんにもらないで、チ、チ、チツチツてツて、おもしろさうに、なにかいつてしやべつてました。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
茄子なすび大根の御用をもつとめける、薄元手を折かへすなれば、折からの安うてかさのある物より外はさをなき舟に乘合の胡瓜、つとに松茸の初物などは持たで
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
平三はともづなを解いて舟に乗るや否やを取つた。父はへさき錨綱いかりづなを放してさをを待つた。艪のさきで一突きつくと、舟がすつと軽く岸を離れた。平三は艪に早緒をかけた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
大小長短は作る家の意にまかせ、大なるを以て人にほこる。さをの末にひらき扇四ツをよせて扇には家の紋などいろどりゑがく、いろ紙にて作るものゆゑ甚だ美事みごとなり。
六二さしも伊吹の山風に、六三旦妻船あさづまぶねぎ出づれば、芦間あしまの夢をさまされ、六四矢橋やばせわたりする人のなれさををのがれては、六五瀬田の橋守にいくそたびか追はれぬ。
米国の都市には汽車を渡す大仕掛けの渡船わたしぶねがあるけれど、竹屋たけやわたしの如く、河水かはみづ洗出あらひだされた木目もくめの美しい木造きづくりの船、かし、竹のさをを以てする絵の如き渡船わたしぶねはない。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
一艘に一人づつともに腰かけて、花やかな帶の端を水の上へ垂らし、兩手りやうてには二本のさをを持つて、水中へさしんではくる/\廻して引き上げると、藻くがからまつてあがつて來る。
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
彼はかういふ瓢箪舟に乗り、彼自身さをを使ひながら、静かに湖の上を渡つて行つた。
仙人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ふすま開放あけはなしたちやから、其先そのさきの四畳半でうはん壁際かべぎは真新まあたらしい総桐さうぎり箪笥たんすが一さをえる。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
やがて水を撃つさをの音がした。舟底は砂の上を滑り始めた。今は二挺で漕ぎ離れたのである。丑松は隅の方に両足を投出して、独り寂しさうに巻煙草をふかながら、深い/\思に沈んで居た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
わが通ひ路さをに花ある沙羅しやらも折れじりの家は夕日するかな
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
さをとりの矢がすり見たる舟ゆゑに浪も立てかししら蓮の池
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
細ながき支那の竹箸たけばし長江ちやうかう画舫ぐわはうさをと思ひつつ採る
橋姫の心をみて高瀬さすさをしづくそでれぬる
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
しかし、船頭の持つたさをはそこに達しなかつた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
火こそみえけれ、其さを閻浮提金えんぶだごんかくれたる。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
うみれば扁舟へんしうさをさすにたり
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
さをやらな、いまゐれ
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
さをはちぎりのたがやさん
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
主人が岸へ這ひ上がらうとした時、かねて心得てゐる物置の中から、石突いしづきの附いた物凄いさをを取り出し、思ひきり上から突き落したに違ひない
おそしとまたれける頃は享保きやうほ十一丙午年ひのえうまどし四月十一日天一坊は供揃ともぞろひして御城代の屋敷やしきおもむく其行列そのぎやうれつには先に白木しらき長持ながもちさを萌黄純子もえぎどんす葵御紋付あふひごもんつき油箪ゆたん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「ぶく/\やりたけりやへえつたはうがえゝや」船頭せんどうはそつけなくいつておもむろにさをてる。船底ふなぞこさはつてつて身體からだがぐらりとうしろたふさうつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ちひさなのは、河骨かうほね點々ぽつ/\黄色きいろいたはななかを、小兒こどもいたづらねこせてたらひいでる。おほきなのはみぎはあしんだふねが、さをさしてなみけるのがある。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
舟は我熱をさますに宜しからんとおもへば乘りぬ。舟人はさを取りて岸邊を離れ、帆を揚げて風に任せたるに、さゝやかなる端艇はぶねこゝろよく、紅の波をしのぎ行く。
大小長短は作る家の意にまかせ、大なるを以て人にほこる。さをの末にひらき扇四ツをよせて扇には家の紋などいろどりゑがく、いろ紙にて作るものゆゑ甚だ美事みごとなり。
もう、出してもいい頃だ、と思つて、船頭は、さをを岸にあてました。そのとき
鳥右ヱ門諸国をめぐる (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
が、船頭は一向平気なもので、無愛想な老爺おやぢの、竹の子笠をかぶつたのが、器用に右左へさをを使ふ。おまけにその棹のしづくが、時々乗合の袖にかかるが、船頭はこれにも頓着する容子がない。
世之助の話 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
火こそみえけれ、其さを閻浮提金えんぶだごんぞ隠れたる。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
さをやらな、いまゐれ
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
しめれるさをを手にすれど
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
平次はさう言つて袖の中から七八寸の青竹、節のところに小さい穴をあけて綿を卷いたさをを突込んだ、一番原始的な水鐵砲を出して見せました。
勘次かんじおほはれたやうで心細こゝろぼそきりなかに、其麽そんなことでいちじるしく延長えんちやうされた水路すゐろ辿たどつてながら、悠然ゆつくりとしてにぶさをてやうをするのにこゝろ焦慮あせらせて
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
むかつてひだりはした、なかでも小柄こがらなのがおろしてる、さを滿月まんげつごとくにしなつた、とおもふと、うへしぼつたいと眞直まつすぐびて、するりとみづそらかゝつたこひが——
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
付其外帳面ちやうめん書留かきとめるに米千八百五俵むぎ五百三十俵並に箪笥たんす長持ながもちさを村役人立合たちあひにて改め相濟あひすみ其夜寅半刻なゝつはんどき事濟に相成山駕籠やまかごちやうを申付て是へ文藏夫婦に下男吉平を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
往手ゆくてのかたに稍〻大なる一窟あり。されど若し舟にさをさしてこれに入らんとせば、帆をおろし頭を屈するも、猶或は難からんか。かぢ取りの年わかき男のいふやう。これ魔窟なり。
さをさしめぐるみづうみ
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
お越は咄嗟とつさの間に石垣をけ降りて、其處につないだ小舟に飛乘り、さをを突つ立てて、浮きつ沈みつする子供に近づき、危ふいところで引上げました。
うちからさをなんぞ……はりいとしのばしてはなかつたが——それは女房にようばうしきり殺生せつしやうめるところから、つい面倒めんだうさに、近所きんじよ車屋くるまや床屋とこやなどにあづけていて、そこから内證ないしよう支度したくして
夜釣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
さをさし上る獨木船まるきぶね
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
船頭は何方にも取れるやうなことを言つて、あらかた客で一杯になつた、歸り船のさをを突つ張ります。
みづかげもさゝぬのに、四阿あづまやをさがりに、二三輪にさんりん眞紫まむらさき菖蒲あやめおほきくぱつといて、すがつたやうに、たふれかゝつたたけさをも、いけ小船こぶねさをさしたやうに面影おもかげつたのである。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「いや、たつた三人さ。その舟の中に三間以上のさをが三本もあるのは不思議だと思はないか」
しろが、ちら/\とうごいた、とおもふと、なまりいたいと三條みすぢ三處みところさをりた。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
溜池ためいけ眞中まんなかあたりを、頬冠ほゝかむりした、いろのあせた半被はつぴた、せいひく親仁おやぢが、こしげ、あし突張つツぱつて、ながさをあやつつて、ごといでる、いかだあたかひとせて、あぶらうへすべるやう。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)