木曾きそ)” の例文
新字:木曽
檜木ひのきさはら明檜あすひまき𣜌ねず——それを木曾きそはうでは五木ごぼくといひまして、さういふえたもりはやしがあのふか谷間たにあひしげつてるのです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
私は木曾きそに一晩宿とまつたとき、夜ふけて一度この鳥のこゑを聴いたことがあるので、その時にはもう仏法僧鳥とめてしまつてゐた。
仏法僧鳥 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
木曾きそ掛橋かけはし景色けしきおなことながら、はし風景ふうけいにはうたよむひともなきやらむ。木曾きそはしをば西行法師さいぎやうほふしはるはなさかりとほたまひて
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
本州ほんしゆう木曾きそ甲州こうしゆう信州等しんしゆうなど高山こうざんのぼつたかたはよくごぞんじでせうが、日光につこう白根山しらねさん男體山なんたいざんやまた富士山ふじさんなどでは偃松はひまつません。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
某時あるとき木曾きそ御岳おんたけの麓へ往って、山の中で一夜を明し、朝の帰りいのししを打つつもりで、待ち受けていると、前方の篠竹がざわざわ揺れだした。
女仙 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その一人は例のサンカので、相州の足柄あしがらで親にてられ、甲州から木曾きその山を通って、名古屋まできて警察の保護を受けることになった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
名に負ふ宇治の大河たいがには、雪解ゆきげの水が滔々とみなぎり落ちて來る。川の向ひには木曾きその人數およそ五百餘騎、楯をならべて待ち受けてゐたわ。
佐々木高綱 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
上州じやうしうの三山、浅間山あさまやま木曾きそ御嶽おんたけ、それからこまヶ嶽たけ——そのほか山と名づくべき山には、一度も登つた事のない私であつた。
槍ヶ岳紀行 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
木曾きそといえばその渓谷けいこくの都福島ふくしまで、漆器を作り出します。一つは材料に恵まれてここに発達を得たのでありましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そして、ここが、木曾きそ山脈にぞくする、あの高山こうざんの山つづきであること、東京からここへ来るのには、どういう道を通るかということなどを、たしかめました。
鉄塔の怪人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
友達は甲州線こうしゅうせん諏訪すわまで行って、それから引返して木曾きそを通ったあと、大阪へ出る計画であった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やさしい京の御方おかたの涙を木曾きそに落さおとさせよう者を惜しい事には前歯一本欠けたとこから風がれて此春以来御文章おふみさまよむも下手になったと、菩提所ぼだいしょ和尚おしょう様にわれた程なれば
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
また同じ「夕飯」がまだまだ根を引いて「木曾きそ酢茎すぐき」に再現しているかの疑いがある。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
たゞ見るさへあやふければ、芭蕉ばせうが蝶も居直ゐなほる笠の上といひし木曾きそかけはしにもをさ/\おとらず。
犬山城いぬやまじょうの白壁を目あてに、曠野の道を、ここまでは来たが、川原を歩いても、小舟はなし、木曾きそ奔流ほんりゅうは、瀬や岩々に、白いしぶきをげきし、いくら大胆なかの女でも、渡りも得ず
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
江戸で落合つて懇意こんいになり、木曾きそ御留山おとめやまり出して巨萬の暴富を積みました。
高倉たかくらみや宣旨せんじ木曾きそきたせきひがしに普ねく渡りて、源氏興復こうふくの氣運漸く迫れる頃、入道は上下萬民の望みにそむき、愈〻都を攝津の福原にうつし、天下の亂れ、國土の騷ぎをつゆ顧みざるは
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
「わしは聖教を見ない日とてはない。木曾きそ冠者かじゃが都へ乱入した時だけ只一日聖教を見なかった」それ程の法然も後には念仏の暇を惜んで称名しょうみょうの外には何事もしなかったということである。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「此れがねえ、木曾きそ義仲よしなかが討死した粟津が原です」
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
木曾きそ御嶽おんたけこまたけ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
行っても行っても遠くなるもの、木曾きそ園原そのはらの里というところのははき。これはわたしの郷里くにのほうに残っている古い言い伝えです。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
をののみわすれたものが、木曾きそ碓氷うすひ寐覚ねざめとこも、たびだかうちだか差別さべつで、なんやまたにを、神聖しんせい技芸ぎげいてん芸術げいじゆつおもはう。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
何処どこの山から来た木の葉か?——今日けふの夕刊に出てゐたのでは、木曾きそのおんたけの初雪も例年よりずつと早かつたらしい。
わが散文詩 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
蝋梅ろうばいについではやはなをひらくまんさくは日本につぽんだけの山中さんちゆうに、自然しぜんえるもので、木曾きそ日光地方につこうちほうおほく、また庭木にはきとなつてゑられてゐるのもあります。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
近年まで木曾きその福島に問屋があって、盛んに関西地方に送り出していたタフなるものも、たとえ今日ではいわゆる木曾の麻衣だけに限られているとしても
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そこは木曾きそ御嶽おんたけつづきの山の間で、小さな谷川の流れを中にして両方から迫って来た山塊さんかいは、こっちの方は幾らかゆるい傾斜をして山路やまみちなども通じているが
岩魚の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
芭蕉ばしょう翁は「木曾きそ殿と背中あはせの寒さかな」と云ったそうだが、わたしはかば殿と背中あわせの暑さにおどろいて、羽織をぬぎに宿に帰ると、あたかも午前十時。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
歴史好きな人なれば、川中島の古戦場でこの国をしのぶでしょう。近頃の若い人たちには飛騨ひだ山脈、木曾きそ山脈、赤石山脈、やつたけ山脈などの名で親しまれているかも知れません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
木曾きその福島の宿屋で、今晩は道庵先生が大声を発しております。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
吾妻あづままき大山だいせん木曾きそ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
木曾きそ檜木ひのき名所めいしよですから、あのうすいたけづりまして、かさんでかぶります。そのかさあたらしいのは、檜木ひのき香氣にほひがします。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
この、筆者の友、境賛吉さかいさんきちは、実はつたかずら木曾きそ桟橋かけはし寝覚ねざめとこなどを見物のつもりで、上松あげまつまでの切符を持っていた。霜月の半ばであった。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、荒あらしい木曾きその自然は常に彼を不安にした。又優しい瀬戸内の自然も常に彼を退屈にした。彼はそれ等の自然よりもはるかに見すぼらしい自然を愛した。
阪本天山翁、宝暦六年の『木曾きそこまたけ後一覧記のちのいちらんき』に、前岳まえだけの五六分目、はい松の中に一夜を明す。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この地衣こけのために、いははいろ/\うつくしい模樣もようもんあらはしてゐます。日本につぽんでは木曾きそ御嶽おんたけこまたけはこのたい位置いちがよくわかります。このたい上部じようぶはそれこそ地衣こけもないはだかのまゝの岩石がんせきです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
とうさんのうちではよく三郎さぶらううはさをします。三郎さぶらう木曾きそはうはなしもよくます。あの木曾きそやまなかとうさんのうまれたところなんですから。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
座頭ざとうまをすやう、吾等われら去年いぬるとしおとにきゝし信濃しなのなる木曾きそ掛橋かけはしとほまをすに、橋杭はしぐひまをさず、たによりたに掛渡かけわたしのてつくさりにてつな申候まをしさふらふ
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「種ちゃん——これが木曾きその伯母さんですよ。お前さんの姉さん達は、よくこの伯母さんが抱ッこをしたり、おんぶをしたりしたッけが……」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
全体ぜんたい箱根はこねでも、塩原しほばらでも、あるひ木曾きそ桟橋かけはしでも、実際じつさいにしろ、にせよ、瑠璃るりそゝぎ、水銀すゐぎんなが渓流けいりうを、駕籠かごくるまくのは、樵路せうろ桟道さんだうたかところ
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「なんでもその男の人が、私の処を聞いたぞなし。私は知らん顔していた。あんまりうるさいから、木曾きそだってそう言ってやった」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かれ木曾きそ棧橋かけはしを、旅店りよてんの、部屋々々へや/″\障子しやうじ歩板あゆみいたかべつてわたつてた……それ風情ふぜいである。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「それはそうと、姉さんは木曾きその方へ子供を一人連れて行きたがってるんだが——どうだネ、繁ちゃんをることにしては」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この能役者のうやくしやは、木曾きそ中津川なかつがは避暑中ひしよちうだつたが、猿樂町さるがくちやう住居すまひはもとより、寶生はうしやう舞臺ぶたいをはじめ、しば琴平町ことひらちやうに、意氣いき稽古所けいこじよ二階屋にかいやがあつたが、それもこれもみな灰燼くわいじんして
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わたしの生まれたところは信州木曾きそのような深い山の中ですから、東京へ出るにはどうしても峠を越さねばなりません。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
木曾きそ御嶽山おんたけさんなつでもさむ
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
香蔵は美濃みの中津川の問屋といやに、半蔵は木曾きそ馬籠まごめの本陣に、二人ふたりは同じ木曾街道筋にいて、京都の様子を案じ暮らした。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
らぬはなふむ木曾きそのかけはし
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
前にもお話ししたように、わたしの郷里くに木曾きそのような山里でしたから、冬になると山家らしいいもやきもちをつくって、それを毎朝の常食としました。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
元日に草履ぞうりばきで年始が勤まったなんて、木曾きそじゃ聞いたこともない。おまけに、寺道の向こうに椿つばきが咲き出す、若餅わかもちでもこうという時分によもぎが青々としてる。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
木曾きそ寄せの人足七百三十人、伊那いな助郷すけごう千七百七十人、この人数合わせて二千五百人を動かすほどの大通行が、三月四日に馬籠の宿を経て江戸表へ下ることになった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)