はゞか)” の例文
然れども我劇にて行はるゝ舞蹈は、断じて劇的のものにあらずと言ふをはゞからず。之を美術の他の部門に分つ上は一種の特技なるべし。
劇詩の前途如何 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
「お安い御用だ、親分、——その押入の中にある柳行李やなぎがうりと風呂敷があつしの世帶。はゞかり乍ら錦の小袖も、絹のふんどしもあるわけぢやねえ」
のおなじ火事くわじに、靈岸島れいがんじまは、かたりぐさにするのも痛々いた/\しくはゞかられるが、あはれ、今度こんど被服廠ひふくしやうあとで、男女だんぢよ死體したい伏重ふしかさなつた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そのかは小六ころくさん、はゞかさま座敷ざしきてて、洋燈ランプけて頂戴ちやうだいいまわたしきよはなせないところだから」と依頼たのんだ。小六ころく簡單かんたん
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
只今も申しまする通り夜分になれば伯父の目さえければはゞかるものはないんでげすから、お若さんも伊之助も好事いゝことにして引きいれる
あとではむしいるまでも羞恥はぢ恐怖おそれとそれから勘次かんじはゞかることからつてきた抑制よくせいねんとがあわてゝもきらせるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
夜叉王 あつぱれとの御賞美ははゞかりながらおめがね違ひ、それは夜叉王が一生の不出來。よう御覽ごらうじませ。面は死んでをりまする。
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
はゞかりながらあたし程のものを恋人に持とうと云うのには、もっと/\忍耐が必要ですよ、と、女はそう云っているのかも知れない。………
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
殺したなどとは無法むはふ云掛いひかけ然樣の覺えは更になし實に汝ぢは見下果みさげはてたる奴なり公儀おかみの前をもはゞからず有事無事ないこと饒舌しやべり立おのがことを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さうして薄倖の千登世と圭一郎とが互ひに身の上を打明けた時、二人は一刻も猶豫して居られず忽ち東京に世をはゞからねばならぬ仲となつた。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
わが逍遙子の意に違ふをもはゞからで、穿鑿の評を避け、文字の上にあらはれたる論の評を作すものは、かゝる危險をおそるゝこと甚しければなり。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
父は大きな溜息を吐いた後に、一寸思案にくれた様な面持で、わざと私から眼を避け、四辺をはゞかるやうに見𢌞しながら言つた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
ロレ ロミオよ、てござれ、てござれよ、こりゃ人目ひとめおそはゞかをとこ。あゝ、そなた憂苦勞うきくらう見込みこまれて、不幸ふしあはせ縁組えんぐみをおやったのぢゃわ。
(十六世紀の伊太利詩人タツソオと前七世紀の希臘ギリシア女詩人サツフオオとの傳は今煩をはゞかりて悉く註せず。)看客は皆泣けり。
家中の人は眼を見合はすのさへはゞかるやうになつた。お互ひの眼の中にうづいてゐる不安をお互ひに見たくなかつたのである。
父の死 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
世間をはゞかるやうにまだ日の暮れぬさきから雨戸あまどめた戸外おもてには、夜と共に突然とつぜん強い風が吹き出したと見えて、家中いへぢゆう雨戸あまどががた/\鳴り出した。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
こうむりましょう、はゞかりながら私しは其様な馬鹿でも無ければ嘘つきでもありません自分の言う事くらいは心得ておりますから
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
〔評〕南洲人にせつして、みだりまじへず、人之をはゞかる。然れども其の人を知るに及んでは、則ち心をかたむけて之をたすく。其人に非ざれば則ち終身しゆうしんはず。
然し確証の無いことを深刻に論ずるのは感心出来無いことだ、はゞかるべきことだ、田原藤太をひて、何方どちらけようかと考へた博奕ばくちうちにするには当らない。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
と耳を立てると、妹夫婦が何か言争つて居る。声をはゞかつては居るが、室が浅いから手に取るやうに聞える。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
恐れずはゞからずかつ悦ばしき聲をもて思ひを響かし願ひをひゞかせよ、わが答ははや定まりぬ。 六七—六九
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
今は誰をはゞかるでも無い身。乾燥はしやいだ空気を自由に呼吸して、自分のあやしい運命を悲しんだり、生涯の変転に驚いたりして、無限の感慨に沈みながら歩いて行つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
れにも入るべし、れにも加はるべし、推移するにはゞからざるが故に、さてなん人々今を聖代せいだいと称す。
青眼白頭 (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
「どうもはゞかりさまでございます。」と、おくみは蚊帳の中へ這入つて、まはりの裾をひろげて廻つた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
もしか今後これから下級吏員の女房を呼ぶのに「かみさん」と言ふ事にめれば、手内職もだれはゞからず出来ようといふもので、従つて市吏員の生活も屹度楽になるといふのだ。
明日が過ぎたら心からお前をわらつてやらうが、それまでははゞかりませう。私の獲物は不確ふたしかなのだから。
君! 手足や胴体をそなえた人間には兎角とかく偽りが多いが心臓は文字通り赤裸々だから、たれはゞからぬ搏ち方をするにちがいない、結婚を目の前に控えた君たちの心臓を思って
恋愛曲線 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
植村樣うゑむらさまはしてくださるか、むゝはしてる、んでもる、はやくなほつて御兩親ごりやうしん安心あんしんさせてれ、いかとへば、あゝ明日あしたなほりまするとはゞかりもなくひけり。
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
だれでも説明せつめい出來できたものに』とあいちやんがひました、(此所こゝ少時しばらくあひだ大變たいへんおほきくなつたので、はゞかところもなく大膽だいたんくちれて)、わたしは十せんげてよ。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
今更いまさらこれをあらためて苗字めうじさきにしのちにするにもおよばない。餘計よけいことであるといふひともあるが、わがはいはさうはおもはない。あやまちてあらたむるにはゞかるなかれとは先哲せんてつ名訓めいくんである。
誤まれる姓名の逆列 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
第十二章「利己心は優強者のはゞかるところなき特色」、第十三章「優強者政治の必要」、第十四章「優強威力者の幻影は現實なるべき表象主義」といふ樣な項目を擧げて見た。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
きこそもの上手じやうずとやらで、自分じぶん學課がくゝわうちでは同級生どうきふせいうち自分じぶんおよぶものがない。數學すうがくとなら、はゞかりながらたれでもいなんて、自分じぶんおほい得意とくいがつてたのである。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
西八條の御宴より歸りみちなるさむらひ一群二群ひとむれふたむれ、舞の評など樂げにたれはゞからず罵り合ひて、果は高笑ひして打ち興ずるを、件の侍は折々耳そばだて、時にひややかに打笑うちゑさま、仔細ありげなり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
また曩日いつかの樣に、今夜何處かに酒宴さかもりでもあるのかと考へて、お定はつつましやかに水潦みづたまりを避けながら、大工の家へ行つた。お八重は欣々いそ/\と迎へたが、何か四邊あたりはゞかる樣子で、そつと裏口へれて出た。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
そして、上流にある城下町の藩主が参勤の途上この河を利用して下る時、天領との間に何か紛争の糸口のつくのをはゞかつて、河原町の傍を通る間は舟に幕をはり、乗組の者は傍見をして下つたと云ふ。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
皆な此の財産しんだいの御蔭だあネ、かほつやよりも今は黄金おかねの光ですよ、はゞかりながら此の財産は何某様どなたさまの御力だと思ふんだ、——其の恩も思はんで、身分の程も知らなんで、少しばかりの容姿を鼻に掛けて
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
あのあまが引取つて行つたけれど、村では誰も構ひ手が無し、遠い親類筋のものは少しはあるが、皆な村をはゞかつて、世話をようと言ふものが無えので、あま非常に困つて居たといふ事です……。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
寝がへりを打つのさへはゞかられるやうな静かさになつた。
An Incident (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
彼處あすこ通拔とほりぬけねばならないとおもふと、今度こんど寒氣さむけがした。われながら、自分じぶんあやしむほどであるから、おそろしくいぬはゞかつたものである。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「下女のお粂は本郷一番の金棒曳かなぼうひきですよ。親分ぢや、はゞかり乍らあの女の口を開けられねえが、あつしなら、どんな事でも話します」
福沢翁には吾人、「純然たる時代の驕児けうじ」なる名称を呈するをはゞからず。彼は旧世界に生れながら、徹頭徹尾、旧世界をげたる人なり。
夜の中に通り流石さすが晝中は人目をはゞかひそかに彼の盜み取し二百兩の金にて宿場しゆくば飯盛めしもり女を揚げて日を暮し夜に入るを待て其處を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「ウーイ、余り御酒を過したので御前をもはゞからず、とろ/\とねむって大きに失礼いたした、おや、お燈火あかりが消えましたな、御近習お燈火を」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
宗助そうすけもとよりさうだとこたへなければならない或物あるものあたまなかつてゐた。けれども御米およねはゞかつて、それほど明白地あからさま自白じはくあへてしなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
したが、はゞかりながら、当時敵味方乱軍の最中さなかでござりまして、わたくしの外には誰一人もそれを知っている者はござりませぬ
「どうしてつちつたつて、らがにやわかんねえよ」おつぎはうらめしさうしかしながら周圍しうゐはゞかやうにして小聲こごゑでいつた。たもとかほおほうたまゝである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
我はする所あるに非ずして、ポルタ、ピアの傍に立ち、目を四井街クワトロ、フオンタネの方に注ぎつ。されど我は猶心にはゞかりて、尼寺の門に到ることを果さゞりき。
忠之は憎みつゝもはゞかつてをり、其周圍の人達は憚りつゝも敬つてをつた利章が、どうして主君を無實の罪に陷いれようとするか、たれにも判斷が附かぬのである。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
もう斯うなつたら誰にはゞかることもない。天下の旗本青山播磨を婿むこにきめましたと、母のまへで立派に云へ。
番町皿屋敷 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
あそんでツてよ。」と周囲しうゐ人込ひとごみはゞかり、道子みちこをとこうでをシヤツのそでと一しよに引張ひつぱり、欄干らんかんから車道しやだうやゝ薄暗うすぐらはうへとあゆみながら、すつかりあまえた調子てうしになり
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)