慈悲じひ)” の例文
そのいたみなやみの心の中に、いよいよ深く疾翔大力さまのお慈悲じひを刻みつけるじゃぞ、いいかや、まことにそれこそ菩提ぼだいのたねじゃ。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
格別に受居しこと成れば勿々なか/\以て意趣いしゆ意恨いこんなど有べき樣御座なく候により私しに於て更々さら/\うらみとは存じ申さず候ついては格別の御慈悲じひ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
大臣だいじんたちはみんなおどろいて、太子たいしも、このこじきも、みんなただの人ではない、慈悲じひ功徳くどくの中の人たちにあまねくらせるために
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
いまや、お慈悲じひ、お慈悲じひこゑれて、蒋生しやうせい手放てばなしに、わあと泣出なきだし、なみだあめごとくだるとけば、どくにもまたあはれにる。
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
人によく似た高等動物を殺すに忍びぬという慈悲じひ忍辱にんにくの心から来たので、その前にはこの類のものでも、遠慮なく殺して喰っておりました。
慈悲じひなさけもないのだ。それは文字通り、時計の針の正確さで、そこに介在かいざいする人間の首などを無視して、秒一秒下へ下へと下って来るのだ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
初めはわらべ母を慕いて泣きぬ、人人物与えて慰めたり。童は母を思わずなりぬ、人人の慈悲じひは童をして母を忘れしめたるのみ。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ロミオ なに、追放つゐはう! 慈悲じひぢゃ、死罪しざいうてくだされ。謫竄さすらへとなるはぬるよりもおそろしい。追放つゐはううてくださるな。
煩悩ぼんなう具足ぐそく衆生しゆじやうは、いづれにても生死をはなるる事かなはず、哀れみ給へ、哀れみ給へ。病悪の正因をぬぐひ去り給へ。大日向の慈悲じひを垂れ給へ」
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
「だが、これらは、昨日きのうわしの弟子でしになったばかりで、まだなにわるいことはしておりません。お慈悲じひで、どうぞ、これらだけはゆるしてやってください。」
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
良人のそういう眼には、言葉とは反対な慈悲じひに満ちた、遠い思慮が、底の見えない湖のように澄んでいるのだった。女には測り難いものを深く湛えて。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その平原へいげんらしたつきは、いつもつきよりはきよらかで、そのひかりのうちには、慈悲じひかがやきをふくんでいました。
負傷した線路と月 (新字新仮名) / 小川未明(著)
朝日あさひかげたまだれの小簾をすにははぢかヾやかしく、むすめともはれぬ愚物ばかなどにて、慈悲じひぶかきおや勿体もつたいをつけたるこしらごとかもれず、れにりてゆかしがるは
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
一方で家の爲といふのをたてにすれば、一方では個人主義しゆぎ振廻ふりまはす。軈がては親は子に對つて、不孝ふかうなるやくざ者とのゝしる、子は親に對つて、無慈悲じひかたりだとどく吐く。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
慈悲じひの意味であなたを呼んだんですよ。アデェルにね、贈物カドウのことを、私にしやべつちやいけないつて云つたのです。それにあの子は云ひたくつて胸一杯なんだ。
僕は、ひそかにほとけさまの慈悲じひに輝いたお顔を胸に思いうかべた。そして南無阿弥陀仏なむあみだぶつとなえ始めた。もちろん声は出ない、心の中でどなりたてたに過ぎないけれど……。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わしはひたすらあなたに助けをう。あゝ仏様があなたの心に慈悲じひもよおさしてくださるように!
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
武村兵曹たけむらへいそうこの將來しやうらい非常ひじやう有望いうぼう撰手せんしゆであるとかたつたがたゞ野球やきゆうばかりではなくかれ※去くわこねんあひだ櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさ嚴肅げんしゆくなる、慈悲じひふかしたしく薫陶くんとうされたこととて
なるほど、お寺なら慈悲じひがあるから頼めば貸してくれるだろう、と早速でかけてかけあってみると、よかろう、その代り利息は倍にして返すのだよ、と二斗の酒をかしてくれた。
土の中からの話 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
近ごろ世間に海軍とやら本願寺ほんがんじとやら何々党なになにとうとやらに関して、種々しゅじゅ面白おもしろからざる表裏ばなしを聞くが、つみにくむべきも、その関係者の人については、慈悲じひの心をもって当たりたい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
いざとなれば目覚めざましいはたらきをしてくれますので、そのてんたいそう結構けっこうでございますが、ただあいとか、慈悲じひとかったような、さしい女性式じょせいしき天狗てんぐは、あまりこのくににはあらわれず
が、お慈悲じひで通わせてくれている私には免状めんじょうなど与えられないとのことであった。それでは私は進級することもできないわけだ。母はまた校長のところに行って私のことを頼んでくれた。
新聞に出てたでしょう。あそこの主人は清水っておじいさんで、何とか議員をして上面うわべは立派な紳士なんだけれども、実は卑しい身分から成り上がった成金で、慈悲じひも人情もない高利貸しなのよ。
ニッケルの文鎮 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
これからはつまらない欲なんか起こさないで、山の奥に戻っていって、大天狗だいてんぐに恥じない立派な行いをします。どうぞお慈悲じひに許して下さい。許してさえ下されば、何でもお望み通りにします。
天狗の鼻 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
日黒ひぐろみのひろかたして、いざ『慈悲じひ』と
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
殺すくらゐのお慈悲じひがあるなら!
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
その影を、永劫とはに、智惠ちゑ慈悲じひ
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
もむ折柄をりからに近邊の人々も驚きて何故傳吉殿は召捕めしとられしと種々評議ひやうぎおよびやがてて女房おせんをつれ組頭百姓代共打揃うちそろひ高田の役所へ罷り出御慈悲じひ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それは人にわれてうしなったきつねが、ほかの慈悲じひぶか人間にんげんたすけをもとめているのだということはすぐかりました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
本来の好心すきごころ、いい加減な慈悲じひじゃとか、情じゃとかいう名につけて、いっそ山へ帰りたかんべい、はてかっしゃい。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「先生、このがあんばいがわるくて死にそうでございますが先生お慈悲じひになおしてやってくださいまし。」
セロ弾きのゴーシュ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ヂュリ 大空おほぞらくもなかにもこの悲痛かなしみそこ見透みとほ慈悲じひいか? おゝ、かゝさま、わたしを見棄みすてゝくださりますな! この婚禮こんれいのばしてくだされ、せめて一月ひとつき、一週間しうかん
きはめて押出おしだ門口かどぐち慈悲じひ一言ひとことれをとわびるもくもなん用捨ようしやあらくれしことばいかりをめてよめでなししうとでなし阿伽あか他人たにんいへでなしなんといふとももうはぬぞ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おくさま、わたしたちは、この子供こどもがあるばかりに、手足てあしまといになって、どんなにこまっていますか、どうかお慈悲じひをもって、この子供こどもそだててくださいませんか。」とたのみました。
星の子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
だから、お前はいわばわしらのお慈悲じひで学校へ行ってるんだということをわきまえておかにゃならないんだよ。だのにお前はその身分も忘れて、人並みに何がが要るとつけ上ってばかりくる。
警部は、瀕死の谷山に、慈悲じひの言葉をかけた。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
智慧ちゑとその深き慈悲じひとを
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
慈悲じひとこそしたたれ。
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
して居るゆゑ重四郎は是幸ひと聲を掛けモシ/\和尚樣をしやうさま私しは只今災難さいなんあうて追人の懸る者何卒御慈悲じひを以て御隱匿かくまひ下さるべしと頼みければ老僧は是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
本来ほんらい好心すきごゝろ可加減いゝかげん慈悲じひぢやとか、なさけぢやとかいふにつけて、一やまかへりたかんべい、はてかつしやい。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「お慈悲じひでございます。遺言ゆいごんのあいだ、ほんのしばらくお待ちなされて下されませ。」とねがいました。
蜘蛛となめくじと狸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「ありがたそうなおかおをしていらっしゃる。」とか、「慈悲じひぶかいおをしていらっしゃる。」とか、または、「なんとなく神々こうごうしい。」とか、みんなが仏像ぶつぞうまえっていいました。
天下一品 (新字新仮名) / 小川未明(著)
今夜こんやかへつてれとてつて引出ひきいだすやうなるもことあらだてじのおや慈悲じひ阿關おせきはこれまでの覺悟かくごしてお父樣とつさん、お母樣つかさん今夜こんやことはこれかぎり、かへりまするからはわたし原田はらだつまなり
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ロミオ 慈悲じひではなうて、そりゃ苛責かしゃくぢゃ。
依て証誠大権現しょうじょうだいごんげん飛竜大薩埵ひりゅうだいさった青蓮せいれん慈悲じひのまなじりを相並べ、さおしかの御身をふりたて、我らが無二の誠心を知見ちけんし、一つ一つの願事きき入れ給え。
御樣子ごやうすせらるゝ、蒋生しやうせいいのち瀬戸際せとぎはよわて、たまりかねて、「お慈悲じひ、お慈悲じひかへります、おかへください。」とたらに叩頭おじぎをするのであつた。
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その痛さより、身はくだくるかと思えども、なおも命はあらしゃった。されども慈悲じひもある人の、生きたと見てはとてもとうべはせまいとて、息を殺しをつぶっていられたじゃ。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
音信おとづれして、恩人おんじんれいをいたすのに仔細しさいはないはず雖然けれども下世話げせわにさへひます。慈悲じひすれば、なんとかする。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
仏教の精神によるならば慈悲じひである、如来の慈悲である完全なる智慧ちえそなえたる愛である
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ちからかたむつくさぬうち、あらかじ欠点けつてん指示さししめして一思ひとおもひに未練みれんてさせたは、むしすくなからぬ慈悲じひである……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)