さいわ)” の例文
さいわい、わたしたちは、みんなよくかお人間にんげんているばかりでなく、どうからうえ人間にんげんそのままなのであるから——さかな獣物けもの世界せかいでさえ
赤いろうそくと人魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
こいつは高飛車たかびしゃに出て、一遍で夫人を追い払うのがいいと思った。さいわい、今夜の海龍倶楽部の会議迄には一時間ほどの余裕があった。
人造人間殺害事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それがまたさいわいと、即座に話がまとまって、表向きの仲人なこうどこしらえるが早いか、その秋の中に婚礼もとどこおりなくすんでしまったのです。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
よるはちょうど月のいいのをさいわいに、またどこまでもこいで行きますと、がたになって、やっとしまらしいもののかたちえました。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
銅山やまを出れば、世間が相手にしてくれない返報に、たまたま普通の人間が銅山の中へ迷い込んで来たのを、これさいわいと嘲弄ちょうろうするのである。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「さきにも申しあげましたように、彼には時運がさいわいしており、その人の和、地の利、天運のよさは、恐れずにおられませぬ」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八日はさいわい御精日なれば、その日一同にいただき申し候〔赤子の心を見るが如し、松陰の天真爛漫たる処、ここにり〕。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
さいわいにもわたくし念力ねんりきとどき、おとこはやがて実家さとからして、ちょいちょい三崎みさきおんなもとちかづくようになりました。
大きな、お金もちの農家のうかは、ニワトリたちからも『さいわばたけ』とか、『卵山たまごやま』とか、『宝荘たからそう』といったように、すばらしい名まえをつけてもらっています。
ちょうどさいわい小山さん御夫婦がせがれの事を御心配下さるから小山さん御夫婦にお願い申したらよかろうとこういう発議ほつぎで外の人もそれまで打破る事が出来ず
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
さいわいにも多肉質の皮が存しているために、これが賞味しょうみすべき好果実として登場しているのであるが、しかしこの委曲いきょく知悉ちしつしていた人は世間せけんに少ないと思う。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
江州の返事が来ない内、千歳村の石山氏は無闇むやみ乗地のりじになって、さいわい三つばかり売地があると知らしてよこした。あまり進みもしなかったが、兎に角往って見た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
さいわいにも、生命いのちには、別状べつじょうもなかったが、ちた拍子ひょうしに、ばら引掛ひっかかって、つぶしてしまいました。
カラガケ いわしを塩に漬けてから上げて汁を切り、さらに塩をまぶして圧搾したもの。正月のさいわい木の飾りには欠くべからざるものとなっている(続壱岐島方言集)。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それでS、Hとこゝでつたのをさいわひにわたし手軽てがるにそのことはなしたのであつた。するとS、Hは「危険きけんだな——」といふやうな口吻こうふん卒然そつぜんらしたものであつた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
そののちさいわつきばかりは何の変事もおこらなかった、がさすがにその当座は夜分便所に行く事だけは出来なかった、そのうち時日じじつったし職務上種々しゅじゅな事があったので
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
近頃ちかごろ春信はるのぶで一そう評判ひょうばんった笠森かさもりおせんを仕組しくんで、一ばんてさせようと、松江しょうこう春信はるのぶ懇意こんいなのをさいわい、ぜんいそげと、早速さっそくきのうここへたずねさせての、きょうであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
年の暮れを一室ひとまこもって寝て送った。母親は心配して、いろいろ慰めてくれた。さいわいにして熱はれた。大晦日おおみそかにはちょうど昨日帰ったという加藤の家を音信おとずるることができた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
それをさいわひ、こちらもまだ遊び盛りの歳だものだから、家を外に、俳諧はいかい戯作げさく者仲間のつきあひにうつつを抜した。たまにうちへかへつてみると、お玉の野暮やぼさ加減が気に触つた。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
さいわいだから金ずくで貴方の男が立つなら金を千両出しましょう、えー出しやす
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
けれどもさいわいに子家鴨こあひるはうまくげおおせました。ひらいていたあいだからて、やっとくさむらなかまで辿たどいたのです。そしてあらたにつもったゆきうえまったつかれたよこたえたのでした。
翌一八六七年、フィンランド飢饉ききん救済の慈善音楽会に、初めて自作の「下女の舞踏」を指揮し、全く狼狽ろうばいして失態を演じたが、楽団が曲をよく知っていたので、さいわいにも大過なきを得た。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
「や! しばらくだったな丹下。ウム、ここで坤竜に出会ったのか。相手はひとり、助太刀もいるまいが傍観ぼうかんはできぬ。さいわい手がそろっているから、逃さぬように遠まきにいたしてくれる。存分にやれッ!」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「南坊北巷望如隣。我往君来数武塵。何幸門庭成接近。恰宜詩酒闘精神。柳橋命妓少年興。駒野参禅前世因。廿歳旧游游未了。又為台麓酔吟人。」〔南坊北巷望ムコト隣リノ如シ/我往キ君来ル数武ノ塵/何ゾさいわヒナルヤ門庭接近ヲ成シ/恰モ宜シ詩酒精神ヲ
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
船体のペンキは、もう見るかげもないほどきたなくはげているのであるが、さいわいに夜のこととて、やみの中にうまく目だたなかった。
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
さいわいにのかみついていた岩角いわかどくだけなかったから、よかったものの、もしこわれたら、おそらくそれが最後さいごだったでありましょう。
しんぱくの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
みると、それはさいわいにして狼ではなかったが、針金頭巾はりがねずきん小具足こぐそくで、甲虫かぶとむしみたいに身をかためたふたりの兵。手には短槍たんそうを引っさげている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしさいわい一本道だったから、どぎまぎしながらも、細い穴を這い出すと、ようやく初さんがいた。しかも、例のように無敵な文句は並べずに
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、あとでは毛利先生が、明るすぎて寒い電燈の光の下で、客がいないのをさいわいに、不相変あいかわらず金切声かなきりごえをふり立て、熱心な給仕たちにまだ英語を教えている。
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
さいわいこちらの世界せかいまいってから、そのてん気苦労きぐろうがすっかりなくなったのはうれしうございますが、しかしこちらのたびはあまり、あっけなくて、現世げんせでしたように
もし万一ミカンの実の中に毛がえなかったならば、ミカンはえぬ果実としてだれもそれを一顧いっこもしなかったであろうが、さいわいにも果中かちゅうに毛がえたばっかりに
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
それゆえこんどおかみからおふれが出て、はないになったのをさいわい、さしあたりねずみどもをはじめに、人間にんげんにあだをするけものかたっぱしから退治たいじするつもりでいるのです。
猫の草紙 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
その堺屋さかいやあき木挽町こびきちょうで、おまえのことを重助じゅうすけさんにきおろさせて、舞台いたせようというのだから、まずねがってもないもっけのさいわい。いやのおうのということはなかろうじゃないか
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
作間、弥二、徳民などのこと甚だ懸念なり。この三人は決して変ぜぬに相違はなくと存じ候。岡部これまたつべからず。この四人、兄さいわいにこれを愛せよ。福原は長進と察し候。如何にや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
其の心が虫よりも小せえからおら愍然かわいそうでなんねえから意見を云うだ、えゝか、そんなに急いで獄門になりたがらねえで、旦那様が二十両下さればさいわえだアから、頭でも剃落すっこかして出家になるか
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
停めることなんか、わけはないのだ。さいわいに、その器械をつんだ自動車が、あそこにああして、こわれずに、ちゃんとしているんだ
人造人間の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
だから、なにが、さいわいとなるかわかるものでない。中身なかみられて、みずなかてられたので、もう一わたしは、がついて、がさめたのだ。
河水の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
飯はどうなる事かと、またのそのそ台所へあがった。ところへさいわい婆さんが表から帰って来て膳立ぜんだてをしてくれた。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしとうぶん、人穴城ひとあなじょう日和見ひよりみでいるがいい、さいわいに、可児才蔵かにさいぞうどのも、これにあることだから、伊那丸がたがみじんになるまで、一こんむといたそう
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天子様てんしさまのおそばにつかえて、天文てんもんうらないでは日本にっぽん一の名人めいじんという評判ひょうばんだったのをさいわい、あるとき悪右衛門あくうえもん道満どうまんたのんで、てもらいますと、奥方おくがた病気びょうきはただのくすりではなおらない
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
それとって、おせんを途中とちゅうりかこんだ多勢おおぜいは、飴屋あめや土平どへいがあっられていることなんぞ、うのむかしわすれたように、さきにと、ゆうぐれどきのあたりのくらさをさいわいにして
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「が、まだその摩利信乃法師とやらは、さいわい、姫君の姿さえ垣間見かいまみた事もないであろう。まず、それまでは魔道の恋が、成就する気づかいはよもあるまい。さればもうそのように、怖がられずとも大丈夫じゃ。」
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
二人の甘い秘密は、さいわい今日まで親分にも知れず、数々の歓楽かんらくを忍ばせて来たが、ここにもやっぱり悪魔は笑っていたのだ。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは、やはり、人間にんげん姿すがたをしたものでなければ、この役目やくめは、たされないだろう。さいわい、あの乞食こじきを、にぎやかなまちへやることにしよう。
あらしの前の木と鳥の会話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「しばらくお待ちくださいまし。わたくしは、けっしてあやしい者ではありませぬ。穴山梅雪あなやまばいせつさまのご通行をさいわいに、おうったえもうしたいことがあるのです」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さいわいにして先生の予言は実現されずに済んだ。経験のない当時のわたくしは、この予言のうちに含まれている明白な意義さえ了解し得なかった。私は依然として先生に会いに行った。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのとき六部ろくぶは、「どうもかみさまといっているが、これはきっとなにかのわるものちがいない、ちょうどさいわ今夜こんやはここに一晩ひとばんまって、悪神わるがみ正体しょうたい見届みとどけてやろう。」という決心けっしんをしました。
しっぺい太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「だって、何でもないではありませんか。さいわい氷はどこまでも張っているから、氷の上の歩いてゆけば、きっと空魔艦の根拠地へつきますよ」
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「やさしいでもあるし、両親りょうしんがないというのだから、さいわい、うちにしてはどうだな?」と、かおをおばあさんのほうけて、ちいさなこえでいいました。
海からきた使い (新字新仮名) / 小川未明(著)
「それですよ、太師のお目ざめが遅いわけは。昨夜、その美人をさいわいして、春宵の短きを嘆じていらっしゃることでしょう。……何しても、きょうはよい日和ひよりですな」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)