さい)” の例文
さうして東隣ひがしどなりからりてござが五六まいかれた。それから土地とち習慣しふくわん勘次かんじきよめてやつたおしな死體したいは一さい近所きんじよまかせた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ニース全市は湧き返るような大混雑、大盛況。有銭無銭の大群集は、それぞれ費用と場所をわきまえて、ただもう一さい夢中に法楽する。
彼女かのぢよは、片山かたやま一人ひとりためには、過去くわこの一さいてた。肉親にくしんともたなければならなかつた。もつとも、母親はゝおや實母じつぼではなかつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
待って居たと云うと、己の意識はいかにもハッキリして居たようだが、その実一さい渾沌こんとんとして、霧のうちに包まれて居るのだった。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わたくしは一さいがくだらなくなつて、みかけた夕刊ゆふかんはふすと、また窓枠まどわくあたまもたせながら、んだやうにをつぶつて、うつらうつらしはじめた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
じつはここがそちの修行場しゅぎょうばなのじゃ。モーべつした岩屋いわやかえるにもおよばぬ。早速さっそく内部なかはいってるがよい。なにも一さいそろえてあるから……。
が、おせんのむねそこにひそんでいる、思慕しぼねんは、それらのうわさには一さいおかまいなしに日毎ひごとにつのってゆくばかりだった。それもそのはずであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
けれど何程なにほどのことがあらうと運命うんめいてんにゆだね、夢中むちうになつてけだしました。それからのことは一さいわかりません
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
雲飛うんぴといふ人は盆石ぼんせきを非常に愛翫あいぐわんした奇人きじんで、人々から石狂者いしきちがひと言はれて居たが、人が何と言はうと一さい頓着とんぢやくせず、めづらしい石の搜索さうさくにのみ日を送つて居た。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
いま一つ招魂社せうこんしやうしろ木立こだちのなかにも、なまめかしい此物語このものがたりあとつけられてあるが、其後そのゝち関係くわんけいは一さいわからぬ。いまこひなかはつゞいてゐるかいなか、それ判然はんぜんせぬ。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
顛倒の世界 次に、「顛倒夢想てんどうむそう遠離おんりして、究竟涅槃くきょうねはんす」ということですが、普通には、ここに「一切」という字があります。「一さい顛倒てんどう」といっています。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
せう五十ねんめくらにりてをわらばことなからんとれよりは一すぢ母樣はゝさま御機嫌ごきげんちゝるやう一さいこのいものにしてつとむればいゑうちなみかぜおこらずして
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「話が少しんがらかつたやうだ。一さい御破算ごはさんにして、——圓三郎はお銀をかばひ立てして、つまらねえ拵へごとを言つた——といふことだけはお前にもわかるだらう」
乙給仕 饗應もてなし式作法しきさはふさいを、一人ひとり二人ふたりの、あらひもせぬでしてのくるやうでは、むさいことぢゃ。
白い顏と、兩腕が暗闇くらやみ汚點しみのやうで、一さいが靜まり返つてゐる中で、恐怖の眼を光り動かして、私を凝視ぎようししてゐる、不思議な子供の姿が、本當の幽靈のやうに見えた。
昭和せうわ年度ねんど豫算よさん編成へんせいたつては八千五百萬圓まんゑん國債こくさいが一ぱん會計くわいけい豫定よていされてつたのを一さいめることにして、一ぱん會計くわいけいには國債こくさいは一もん計上けいじやうしない豫算よさんつくつたのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
それでも君は一さい眼をつぶつてゐられるか。
クロニック・モノロゲ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
limited to no place, country, or group of individuals bu common to all(如何いかなる場所ばしよくにまた個人こじん集團しふだんにも制限せいげんされず、の一さい共通きようつうなる)
幾年前いくねんまへには一さいんだおふくろ處理しよりしてくれたのであつたが、今度こんど勘次かんじないしでおしな生計くらし心配しんぱいもしなくてはられなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
日本にっぽん一の御子みこからまたなきものにいつくしまれる……。』そうおもときに、ひめこころからは一さい不満ふまん、一さい苦労くろうけむりのようにえてしまうのでした。
「それはもう一さいおまかせいたしますが、どういう修業の方法をいたしますか、念のためにおうかがいいたしますわ」
なんともひやうのない、——わたしはあのおもすと、いまでも身震みぶるひがずにはゐられません。くちさへ一言ひとことけないをつとは、その刹那せつななかに、一さいこころつたへたのです。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
此手紙以外このてがみいぐわいに、をんなにくには、如何どん秘密ひみつあとつけられてあるか、それは一さいわからぬ。こゝろおくに、如何どんこひふうめてあるか、それもとよりわからぬ。わたし想像さうぞう可恐おそろしくするどくなつてた。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
……左様さようでございましょうが、お見世みせ支配しはいは、大旦那様おおだんなさまから、一さいあずかりいたしてります幸兵衛こうべえ、あとで大旦那様おおだんなさまのおたずねがございましたときに、らぬぞんぜぬではとおりませぬ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
カピ長 婚儀こんぎためにと準備よういした一さい役目やくめへて葬儀さうぎよういはひのがくかなしいかね、めでたい盛宴ちさう法事ほふじ饗應もてなしたのしい頌歌しょうかあはれな挽歌ばんか新床にひどこはなはふむ死骸なきがらようつ。
學校がくかうかよひにからぬともでも出來できてはならず、一さいれにかせてまあてくれと親切しんせつおつしやつてお師匠しヽようさまから毎日まいにちのお出稽古でげいこ月謝げつしやしてとヾけして御馳走ごちそうしてくるまして
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
でもしめやかにかたうた兩性りやうせい邂逅であへば彼等かれらは一さいわすれて、それでも有繋さすが人目ひとめをのみはいとうて小徑こみちから一あひだける。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
で、わたくしは一しょう懸命けんめいふか統一とういつはいり、過去かこの一さい羈絆きずなることによりて、一そう自由自在じゆうじざい神通力じんつうりきめぐまれるよう、こころから神様かみさま祈願きがんしました。
阿古十郎の前では、顎という言葉はもちろん、およそ顎を連想させるしぐさは一さい禁物なのである。
顎十郎捕物帳:01 捨公方 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
わたくしおもはずいきんだ。さうして刹那せつなに一さい了解れうかいした。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
日ごろ小胆なるコン吉は、一たまりもなく逆上して、一さい夢中に松明たいまつを振り上げ、こいつを物の化めがけて投げつけると、松明はちょうどその足もとまでころがってゆき
コン吉は世界に名高きこのコルニッシュの勝景も眼に入らばこそ、広漠たる幸運の平野のまっただ中で、ただもう一さい夢中に逆上し、取り留めない空想の足踏みをするばかり。
コン吉は一さいを運命とあきらめ、包をあけて麺麭パンにバタをぬろうとしていたが、やがて
コン吉は目玉をすえ、口で息をしながら、はや一さい夢中でにじりあがる。タヌはと見れば、これも先ほどの威勢もどこへやら、これ一本が命の綱、と釣られたふなのようにあがって来る。
金を賭けて骨牌カルタもする、生臭なまぐさものは一さい嫌い。
さい無差別に教育いたします。