一向いつかう)” の例文
竹田は詩書画三絶を称せられしも、和歌などはたくみならず。画道にて悟入ごにふせし所も、三十一文字みそひともじの上には一向いつかうき目がないやうなり。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
あんたとあの人達の間に一向いつかう心が通ひ合ふことがないのは、丁度、あの人達が生きた人間でなく、たゞの人影でゞもあるやうぢや。
それから紫檀したん茶棚ちやだなひとふたかざつてあつたが、いづれもくるひさうななまなものばかりであつた。しか御米およねにはそんな區別くべつ一向いつかううつらなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
が、きやくたうがつまいが、一向いつかう頓着とんぢやくなく、此方こつち此方こつち、とすました工合ぐあひが、徳川家時代とくがはけじだいからあぢかはらぬたのもしさであらう。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
九助より度々申立ると雖役人衆一向いつかうあげも御座なく只白状はくじやう致せ/\とのみ日々拷問がうもん嚴敷きびしく何分苦痛くつうたへかね候に付餘儀なく身に覺もなき人ごろしの趣きを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
平家の一門同じ枕に討死うちじにツてつた様な幕サ、考へて見りや何の為めに生れて来たんだか、一向いつかう合点がてんが行かねエやうだ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
嬢様の聟君どころか、う既に社会に落第して居るのだが、いやがられやうが棄てられやうが一向いつかうかまはず平気の平左でつらの皮を厚くして居るのが恐ろしい。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
遠い下町したまちに行つて芸者になつてしまふのがすこしも悲しくないのかと長吉ちやうきちひたい事も胸一ぱいになつて口には出ない。おいと河水かはみづてらす玉のやうな月の光にも一向いつかう気のつかない様子やうす
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そのはまだおの/\が一つくははつた年齡ねんれいかずほど熬豆いりまめかじつておにをやらうたから、いくらもへだたらないので、鹽鰮しほいわしあたまとも戸口とぐちしたひゝらぎ一向いつかうかわいた容子やうすえないほどのことであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
すると金港堂きんかうどうけんの話が有つて、硯友社けんいうしやとの関係をちたいやうな口吻くちぶりそれよろしいけれど、文庫ぶんこ連載れんさいしてある小説の続稿ぞくかうだけは送つてもらひたいとたのんだ、承諾しようだくした、しかるに一向いつかう寄来よこさん
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
四五日しごにちつと此事このことたちま親父おやぢみゝはひつた。親父おやぢ眞赤まつかになつておこつた、店にあるだけのさくらの木の皮をむかせ(な脱カ)ければ承知しようちしないと力味りきんたが、さて一向いつかう效果きゝめがない。少年こどもは平氣で
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
いか按摩あんま、とばゝつて、備中守びつちうのかみゆびのしなへでウーンとつたが、一向いつかうかんじた様子やうすがない。さすがに紫色むらさきいろつた手首てくびを、按摩あんまさすらうとせず
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
支那人は竹が風に吹かるるさまを、竹笑ちくせうと名づける由、風の吹いた日も見てゐたが、一向いつかう竹笑らしい心もち起らず。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
あにはたゞ手前勝手てまへがつてをとこで、ひまがあればぶら/\して細君さいくんあそんでばかりゐて、一向いつかうたよりにもちからにもなつてれない、眞底しんそこ情合じやうあひうすひとぐらゐかんがへてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
書付て門前におし立玄關には取次の役人繼上下にて控へいかにも嚴重げんぢうの有樣なり是等は夜中にせし事なれば紅屋大和屋も一向いつかうに知ざる處ろ翌朝よくてうに至り市中の者共は是を見付て只きも
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
硯友社けんいうしや沿革えんかくいては、他日たじつすこぶくはしく心得こゝろえこゝにはわづか機関雑誌きくわんざつし変遷へんせん略叙りやくじよしたので、それも一向いつかう要領えうりやうませんが、お話をる用意が無かつたのですから、這麼こんなこと御免ごめんかふむります
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しかし、それは私の場合には一向いつかうに合はないことが分つてるからそれではいけませんよ。何故つて、私はその二つの有利なものを、あへて惡用したとは云はないが、無頓着むとんぢやくな使ひ方をしましたからね。
ざつわし住居すまひおもへばいの。ぢやが、もんしまつてつては、一向いつかう出入ではひりもるまいが。第一だいいちわしゆるさいではおぬし此處こゝへはとほれぬとつた理合りあひぢや。
画の裡 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
元來ぐわんらい今度こんどこともとたゞせばあに責任者せきにんしやであるのに、あのとほ一向いつかう平氣へいきなもので、ひとなにつてもつてれない。だから、たゞたよりにするのは君丈きみだけだ。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
(中略)時代時代に依つてどしどし変つて行つて、一向いつかう差支さしつかへないのである
解嘲 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
氣紛きまぐれに御厄介ごやくかいけますのです。しかし、觀光くわんくわうきやく一向いつかうすくないやうでございますな、これだけのところを。」
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
(が、僕の字は何年たつても、一向いつかう上達する容子ようすはない。)
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
……かれ金釦きんぼたん制服せいふくだし、此方こつちはかまなしの鳥打とりうちだから、女中ぢよちう一向いつかうかまはなかつたが、いや、なにしても、くつ羊皮ひつじがは上等品じやうとうひんでも自分じぶんはうささうである。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
背戸せどつて御覽ごらんなさい、と一向いつかう色氣いろけのなささうな、腕白わんぱくらしいことをつてかへんなすつた。——翌日よくじつだつけ、御免下ごめんくださアい、とけたこゑをして音訪おとづれたひとがある。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
辰巳たつみかたには、ばかなべ蛤鍋はまなべなどと逸物いちもつ一類いちるゐがあるとく。が、一向いつかう場所ばしよ方角はうがくわからない。
湯どうふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一向いつかう變則へんそく名所めいしよいて、知識ちしき經驗けいけんかつたかれは、次第しだいくらり、愈々いよ/\ふかくなり、ものすさまじくつて、ゆすぶれ/\轟然ぐわうぜんたる大音響だいおんきやうはつして、汽車きしや天窓あたまから、にぶきりへんじて
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
どこか近郊きんこうたら、とちかまはりでたづねても、湯屋ゆや床屋とこやも、つりはなしで、行々子ぎやう/\しなどは對手あひてにしない。ひばり、こまどり、うぐひすを町内ちやうない名代なだい小鳥ことりずきも、一向いつかう他人たにんあつかひで對手あひてにせぬ。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さてれうはあるか、とへば、れうるが、さかな一向いつかうれぬとふ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
またてく/\とぬま出向でむく、と一刷ひとはいたかすみうへへ、遠山とほやまみねよりたか引揚ひきあげた、四手よつでいてしづめたが、みちつてはかへられぬ獲物えものなれば、断念あきらめて、こひ黄金きんふなぎんでも、一向いつかうめず
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はつとおもつたが、一向いつかう平氣へいきで、甲府かふふ飯田町いひだまち乘越のりこすらしい。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「うむ。」とばかりで、一向いつかうおもしろくもなんともない。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一向いつかういちさかえぬ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)