ひび)” の例文
近所きんじょいえの二かいまどから、光子みつこさんのこえこえていた。そのませた、小娘こむすめらしいこえは、春先はるさきまち空気くうきたかひびけてこえていた。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
モーターの、うなるおとがきこえました。たくさんの職工しょっこうが、はたらいていました。てつてつおとが、周囲しゅういひびきかえっていました。
僕が大きくなるまで (新字新仮名) / 小川未明(著)
壮士連はことごとく子路の明快闊達に推服した。それにこの頃になると、既に子路の名は孔門随一ずいいちの快男児として天下にひびいていた。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
その、「学校はよくできる」という調子に全く平たい説明だけの意味しかひびくものがないのを聞いて復一は恥辱ちじょくで顔を充血じゅうけつさした。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
風がはげしくなり、足下あしもとくもがむくむくとき立って、はるか下の方にかみなりの音までひびきました。王子はそっと下の方をのぞいてみました。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ととつぜん、暴風にそなえるように、うろたえた手下どもは、とびらへ手をかけて、ドーンというひびきとともに、間道門かんどうもんめてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大方おおかた河岸かしから一筋ひとすじに来たのであろう。おもてには威勢のいい鰯売いわしうりが、江戸中へひびけとばかり、洗ったような声を振り立てていた。
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
と、おもいました。そしてまだじっとしていますと、りょうはなおもそのあたまうえではげしくつづいて、じゅうおと水草みずくさとおしてひびきわたるのでした。
君らの耳にあの音がどうひびいたかは知らない。しかし、私は、あの音から、この塾はじまって以来のゆたかな感じをうけたのだ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
うやうやしくあたまげているわたくしみみには、やがて神様かみさま御声おこえ凛々りんりんひびいてまいりました。それは大体だいたいのような意味いみのお訓示さとしでございました。
その声は、なにもない空中から、ひびいてきました。みんなは、部屋じゅうを、あちこちと、見回しましたが、どこにも人の姿はありません。
おれは二十面相だ (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
とことん、とことん、とんことんとん、と拍子でもとっているように仕事場でたるを叩く音が太鼓たいこのように地続きの荒神様こうじんさまの森へひびきわたる。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
といっていたとき、とつぜん天地はくずれんばかりに振動し、それにつづいて腹の底にこたえる気味のわるいごうごうのひびき。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
同時、ドサドサッと畳をる音。白い線が二、三度上下になびいて、バサッ! ガアッ!——ときしんだのは、骨を断ったひびきか。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
聞きおぼえのある足音が、後ろでひびいた。振返ってみると——こっちへ、例の速い軽快な足どりでやってくるのは、父だった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
程なく多くの足音聞ゆる中に、沓音くつおと高くひびきて、烏帽子ゑぼし七七直衣なほしめしたる貴人、堂に上り給へば、従者みとも武士もののべ四五人ばかり右左みぎひだりに座をまうく。
ことに童話詩人としてのかれの名前は、われわれにとってはなつかしいひびきを持っているのである。しかし彼は単に童話を書いたばかりではない。
絵のない絵本:02 解説 (新字新仮名) / 矢崎源九郎(著)
あのときのオリムピック応援歌おうえんかげよ日の丸、緑の風に、ひびけ君が代、黒潮越えて)その繰返しリフレインで、(光りだ、はえだ)と歌うべきところを、みんな
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
行く/\としけて武蔵野の冬深く、枯るゝものは枯れ、枯れたものは乾き、風なき日には光り、風ある日にはがさ/\と人が来るかの様にひびく。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
此處こゝたよ、そんなにばらなくつたつてえゝから、なんだかおとつゝあは」おつぎの勘次かんじしかこゑやはらかでさうして明瞭めいれう勘次かんじみゝひびいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
康頼 希望という言葉はほんとうにわしたちにとってありがたい、けれど身をきるようなひびきを持って聞こえますね。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
突然とつぜんくらいなかで、ゴットフリートがうたいだした。むねの中でひびくようなおぼろなよわこえだった。少しはなれてたら、きとれなかったかも知れない。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
その時シグナルとシグナレスとは、霧の中から倉庫の屋根の落ちついた親切らしい声のひびいて来るのを聞きました。
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
いそからは、満潮のさざめき寄せる波の音が刻々に高まりながら、浜藻はまもにおいをめた微風に送られてひびいて来た。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
こういって、外套室がいとうしつへかけ出した。このとき小使こづかいがベルのボタンをしたので、あじもそっけもない広い校舎こうしゃじゅうへ、けたたましいベルのおとひびき渡った。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
ぐずぐずしていたら、あべこべに取って食われると思った勘太郎は、そこで寺中にひびくような声をりあげて
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
世のき事、人生のつらいことが毎日われわれの眼にうつり耳にひびきながら、われわれの胸にはなんらの影をも落とさず、なんらの共鳴をも引き起こさない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
じめじめとしめっぽいようなかぜいて、しんとしずまりかえったそこから、かすかに谷川たにがわおとひびいてきました。
しっぺい太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ヒイイン! しっ、どうどうどうと背戸をまわ鰭爪ひづめの音がえんひびいて親仁おやじは一頭の馬を門前へ引き出した。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
翌日、だちょうの森では、とうとうとおののひびきがこだまし、松、杉の枝が、そうぞうしい音をたてて落ちた。年長組の一隊が、枝のきりだしに従事じゅうじしたのだ。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
あさ須原峠のけんのぼる、偶々たま/\行者三人のきたるにふ、身には幾日か風雨ふううさらされてけがれたる白衣をちやくし、かたにはなが珠数じゆづ懸垂けんすゐし、三個の鈴声れいせいに従ふてひびきた
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
水嵩みずかさの増した渓流けいりゅうのせせらぎ松籟しょうらいひび東風こちの訪れ野山のかすみ梅のかおり花の雲さまざまな景色へ人を誘い
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
四月の空はうるわしく晴れて、遠くに見ゆる伽藍がらんとうが絵のようにかすんで見えました。早くも観衆かんしゅうは場外にあふれ、勇ましい軍楽隊の合奏がっそうが天地にひびわたりました。
国際射的大競技 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
やがて百人の処女ののどから華々しい頌歌が起った。シオンの山の凱歌がいかを千年の後に反響さすような熱と喜びのこもった女声高音が内陣から堂内を震動さしてひびわたった。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
後にみんなは、その船が古びこわれたのを燃やして塩を焼き、その焼け残った木でことを作りました。その琴をひきますと、音が遠く七つの村々までひびいたということです。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
僕のそばから離れて行ったのか、彼女がやわらかい草をんで向うへ遠ざかるのが頭へひびいて来た。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
もうかれこれ四時ぎ五時にもなるか、しずかにおだやかな忌森忌森いもりいもりのおちこち、とおくの人声、ものの音、をへだてたるもののひびきにもにて、かすかにもやのそこに聞こえる。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そしてそれがわが健康にもひびいて、今年八十八歳のこの白髪はくはつのオヤジすこぶる元気で、夜も二時ごろまで勉強を続けてくことを知らない。時には夜明けまで仕事をしている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
私が家へはいると間もなくくるまの音が聞こえました。今のように護謨輪ゴムわのない時分でしたから、がらがらいういやひびきがかなりの距離でも耳に立つのです。車はやがて門前で留まりました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
陳はまっ暗な外の廊下ろうかに、乾いた唇を噛みながら、一層嫉妬しっと深い聞き耳を立てた。それはこの時戸の向うに、さっき彼が聞いたような、用心深い靴の音が、二三度ゆかひびいたからであった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
金魚屋きんぎょや申立もうしたちゅうにあつた老人ろうじん財産ざいさんについてのはなしと、平松刑事ひらまつけいじ地金屋ぢがねやから聞込ききこみとをらしあわせてみて、だれむねにもピーンとひびくものがあつた。いこんだ金塊きんかい古小判ふるこばんである。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
母親ははおやみみふさぎ、かくして、たり、いたり、しないようにしていたが、それでも、みみなかでは、おそろしい暴風あらしおとひびき、なかでは、まるで電光いなびかりのように、えたり、ひかったりしていました。
うつせみのいのちしみひびきて湯いづる山にわれは来にけり
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
痛い痛いと泣く声にも情痴のひびきはなかった。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
大声揚げて泣きながら、天もひびけとののしった。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
ひびかふはのろはしきしふよく、ゆめもふくらに
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
消燈喇叭せうとうらっぱ夜風よかぜいてひびわた
ひびく波の おとも高し
七里ヶ浜の哀歌 (新字新仮名) / 三角錫子(著)
なみおとのような、とりこえのような、またかぜくるひびきのような、さまざまなおとのするあいだに、いろいろなことが空想くうそうされるのでした。
汽船の中の父と子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
王子は石を一つひろって、それを力まかせにげてみました。石ははるか下の方のくもきこまれたまま、なんのひびきもかえしませんでした。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)