かほ)” の例文
「ぢや、ねいさんは何方どちらすきだとおつしやるの」と、妹は姉の手を引ツ張りながら、かほしかめてうながすを、姉は空の彼方あなた此方こなたながめやりつゝ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
この行甚だ楽しからず、蒼海約して未だ来らず、老侠客のかほ未だみえず、くはふるに魚なく肉なく、徒らに浴室内に老女の喧囂けんがうを聞くのみ。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
娘は煉瓦積む手をめて、男のかほぢろりと見た。もう眼には泪を一杯溜めて居たが、それでも男の跡にいて行つてしまつた。惚れてゐるのだ。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
かほは汚れて衣服きものは垢づき破れたる見るから厭気のぞつとたつ程な様子に、流石呆れて挨拶さへどぎまぎせしまゝ急には出ず。
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ロミオ このいやしいたふと御堂みだうけがしたをつみとあらば、かほあかうした二人ふたり巡禮じゅんれいこのくちびるめの接觸キッスもって、あらよごしたあとなめらかにきよめませう。
はおわかしう不了簡ふれうけん死ぬは何時いつでも易い事先々まづ/\此方こなたられよと云ふかほれば吉原の幇間たいこ五八なれば吉之助は尚々なほ/\面目なく又もや身をなげんとせしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
瑠璃子の土のやうに蒼いかほの筋肉が、かすかに、動いたやうに思つた。美奈子の声が漸く聞えたのである。美奈子は、三度目に力を籠めて叫んだ。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
人のかほをぢろ/\視て「支那人が通る」は無礼に相違ないが、まづ悪口の部には入れない。が中には図星日本人ととつて、ヤポーシカが通るといふ。
露都雑記 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
何時もにたにた笑ひかけるのを、知らんかほして通過とほりすぎるのであつたが、三田はその日思ひ切つて此方から聲をかけた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
我はうちまもりつゝ彼等のなかをゆき、一の黄なる嚢の上に獅子のかほ姿態みぶりとをあらはせる空色そらいろをみき 五八—六〇
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
かほにひやひやと物のこぼるるを、雨や漏りぬるかと見れば、屋根は風にまくられてあれば、一一三有明月のしらみて残りたるも見ゆ。家はもあるやなし。
私の直ぐ上は銀さんといふ兄貴で、この銀さんが洗手盥てうづだらひを使つた後では私はかほも洗へませんでした。
それは、其處そこに、はなしをする按摩あんま背後うしろて、をりからかほそむけたをんなが、衣服きものも、おびも、まさしく、歴然あり/\と、言葉通ことばどほりにうつつたためばかりではない。——
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
碎けよと握り詰めたるつかも氣も何時いつしかゆるみて、臥蠶ぐわさん太眉ふとまゆ閃々と動きて、覺えず『あゝ』と太息といきつけば、霞む刀に心も曇り、うつるはわがかほならで、烟の如き横笛が舞姿。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
日出雄ひでをや、おまへいまこの災難さいなんつても、ネープルスで袂別わかれとき父君おとつさんつしやつたお言葉ことばわすれはしますまいねえ。』とへば、日出雄少年ひでをせうねん此時このとき凛乎りんこたるかほ
らぬことゝて取乱とりみだせし姿すがたられしか、られしに相違さうゐなしと、かほにわかにあつくなりて、夢現ゆめうつゝうつむけば、ほそきよしきをとここゑに、これは其方そなたさまのにや返上へんじやうせんお受取うけとりなされよと
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しかも年わかく、月の光を受けてかほの色凄きまで蒼白くうるはしきが一歩二歩歩み出たり。
野路の菊 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
旅にして春塵しゆんぢんしげししばしばも熱きしぼりにかほをあてつつ (二首汽車の中にて)
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かういつて答へた黄筌のかほには、そんな小供だましのから騒ぎなどには頓着しない、真の藝術家にのみ見られる物静かな誇りがかがやいてゐたといふことだが、私は今水仙の純白な花びらに
水仙の幻想 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
覆面ふくめんを着けたる形と見ゆる土偶五六個有り。覆面はみなかほ全部ぜんぶを覆ふ假面形のものにして、粗布そふを以てつくられたるが如し。製作の精なる方よりはじめて是等土偶の出所及び所在しよざい列記れつきすれば次の如し。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
勝の知らない会社側と見える男が栄一のかほを穴のあく程見て居る。
若草わかくさいでかぜが、ならぬはるおくつてかほかすめる。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
上気せる美くしき梅子のあどけなきかほを銀子は女ながらにれと眺め「私が悪るかつたの、梅子さん、何卒どうぞ聴かして下ださいな」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
見て清三郎にたのみし事手筈てはずちがひたりと思ひ又々玄柳方げんりうかたへ行きて相談さうだんすべしと其翌日そのよくじつ三人玄柳方へぞいたりけるかくて又清三郎は四日市にて長助に十分したゝかうたかほきず
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ヂュリ ほんこと讒訴ざんそとははれぬ、ましてこれは後言かげごとではない、ぢかかほむかうてうてゐるのぢゃもの。
と数名の大学生が人浪を押分けつゝ余等の側を通りぬけんとして、無作法に余等のかほを眺めて、「異人馬鹿!」と叫んだ、其処らの者一同之に声を合せて動揺どよめく。
露都雑記 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
だん/\蝋色に、白んで行く、不幸な青年のかほをぢつと見詰めてゐると、信一郎の心も、青年の不慮の横死を悼む心で一杯になつて、ほた/\と、涙が流れて止まらなかつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
誰憚らぬ高調子だが、その實ひどいはにかみやで、羞しがる度に白晳はくせきかほが眞赤になる。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
すると出会ひがしらにばつたりとまた先刻さつきの紳士にかほを合はせた。紳士は
ときに、廊下口らうかぐちから、とびら透間すきまから、差覗さしのぞいて、わらふがごとく、しかむがごとく、ニタリ、ニガリとつて、彼方此方あちこちに、ぬれ/\とあをいのは紫陽花あぢさゐかほである。かほでない燐火おにびである。いや燈籠とうろうである。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
手をかほに涙もろなるこのをぢさ父なるならしとみに老いにけり (奥田老)
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
と男のかほをそつとながめて、ほろりとした。年の二十三か四でもあろう。頭髪かみ銀杏返いてふがえしとうに結つて、メレンスと繻子の昼夜帯の、だらり、しつかけに、見たところ、まだ初々しい世話女房であつた。
もつれ糸 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
随分不器量なだつたが、ミハイロは女に掛けては贅沢でないから、此娘このこが道具を持つてそばへ来た時から全然すつかり気に入つてしまつて、頭巾の蔭からぢろりかほを見られた時には、何だか恍然ぼつとなつた……はて
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
家貧しければ身には一五三麻衣あさごろも青衿あをえりつけて、髪だもけづらず、くつだも穿かずてあれど、かほ一五四もちの夜の月のごと、めば花の一五五にほふがごと綾錦あやにしき一五六つつめる一五七京女﨟みやこぢよらうにもまさりたれとて
はるゝにこたへんとすればあかつきかねまくらにひびきてむるほかなきおもゆめとりがねつらきはきぬ/″\のそらのみかはしかりし名残なごり心地こゝちつねならず今朝けさなんとせしぞ顔色かほいろわろしとたづぬるはゝはそのことさらにるべきならねどかほあからむも心苦こゝろぐるひるずさびの針仕事はりしごとにみだれそのみだるゝこゝろひとゞめていま何事なにごとおも
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
銀子は熟々つくづくと梅子のかほ打ちまもり居たりしが「梅子さん、貴嬢あなたはほんとに御憔悴おやつれなすツたのねエ、如何どうかなすつて——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
きかれ其方共顏を上よと有しに兩人は恐る/\少しかほあぐる時駕籠のりものの中より熟々つく/″\と見らるゝに(此時は所謂いはゆる誠心せいしん虚實きよじつ眞僞しんぎおもてあらはるゝを見分る緊要きんえうの場なりとぞ)
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ヂュリ さア、ふにせい、それはうてこそ價値ねうちもあれ、かほ見合みあせてはうより。
三田も知らんかほも出來ないので、机に向つてゐた體をねぢ向けた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
一昨年おととしの夏さ」といつて、女はかほをそむけて、啜り上げた。
もつれ糸 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
かほ笑ひ照る日に群るる兵見ればけたるがごとし耳ひにけり
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
夜はふけぬねむりまどけき土間のに何鶏のかほか白う浮き居る
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
春はもや静こころなし歇私的里ヒステリーの人妻のかほのさみしきがほど
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
曠野あらの行く四等車といふにかほ群れて生きたかりける冬もたのめし
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
雨はまだつぶだつ橋の片てすりつかまりてのぞく子のかほふたつ
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
春といへどまだ寒むからしばらの葉にかほ寄する馬のふとはなひ
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
吾がわらべ鐘にとどかず脚立きやたつよりのびあがりうつかほ仰向あふむけて
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
吾がわらべ鐘にとどかず脚立きやたつよりのびあがりうつかほ仰向あふむけて
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
が顫へしは恐ろしきあるもののかほ、「色のいの字の」
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
髑髏どくろ熟視みつむ、そべりて石鹸玉しやぼんだま吹くかほを。
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)