とな)” の例文
おおきなくにと、それよりはすこしちいさなくにとがとなっていました。当座とうざ、その二つのくにあいだには、なにごともこらず平和へいわでありました。
野ばら (新字新仮名) / 小川未明(著)
うと/\としてめると女は何時いつの間にか、となりの爺さんとはなしを始めてゐる。此ぢいさんはたしかに前の前の駅から乗つた田舎者いなかものである。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その建物は八畳ばかりの広さの部屋と、それにとなつた同じ広さの土間との二つの部分から成立つてゐた。出入口は土間の方についてゐた。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
次が小さな物置(これには廊下を掃除する箒木などがつめこんである)その次が便所でその奥に化粧室があつてそれにとなつて浴場がある。
殺人鬼 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
私達の近所、となりの長屋は、凱旋祝いのため賑わった。私のうちは三日あまり、水太鼓や、古い三味線で、ガンガン鳴り騒がれた。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
私はそのとなりのまだ空いている別荘の庭へ這入りこんで、しばらくそれに耳をかたむけていた。バッハのト短調の遁走曲フウグらしかった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
丁度ちやうど、おとなりで美濃みのくにはうから木曽路きそぢはひらうとする旅人たびびとのためには、一番いちばん最初さいしよ入口いりぐちのステエシヨンにあたつてたのが馬籠驛まごめえきです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
第二十八圖だいにじゆうはちず)そのとなりにあるは、現在げんざい南洋なんようにおいて實行じつこうしてゐる水上住居すいじようじゆうきよでありますが、いかにもよくてゐることがわかりませう。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
町の小学校でもいしまきの近くの海岸に十五日も生徒せいとれて行きましたし、となりの女学校でも臨海りんかい学校をはじめていました。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そこは土蔵にとなったへやで、次に四畳半位の仏壇を置いた室があって、そのさきが縁側えんがわになり、それが土蔵の口に続いていた。
藍微塵の衣服 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
獰惡だうあく野良猫のらねこ、おとなりのとり全滅ぜんめつさせたわるいヤツ、うちたひをさらつた盜癖とうへきのある畜生ちくせう、それがんだは、このやさしいうつくしいニヤンこうである。
ねこ (旧字旧仮名) / 北村兼子(著)
越後国南は上州にとな魚沼郡うをぬまごほりなり。東は奥州羽州へとな蒲原郡かんばらごほり岩船いはふね郡なり。国堺くにさかひはいづれも連山波濤れんざんはたうをなすゆゑ雪多し。
と、門から突当りの玄関がいて、女教師の日向ひなた智恵子はパツと明るい中へ出て来た。其拍子に、玄関にとなつた職員室の窓から賑やかな笑声が洩れた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そこへ、となりの井田邸から若い女中さんがやってきた。いま病院から電話があって今夜あたりらしいから来てくれという知らせがあったというのである。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
佐藤の畑はとにかく秋耕あきおこしをすましていたのに、それにとなった仁右衛門の畑は見渡す限りかまどがえしとみずひきとあかざととびつかとで茫々ぼうぼうとしていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
眞白まつしろ雪溪せつけいとなあはせて、このお花畠はなばたけるときのかんじは、なんともへず、たつとく、かわゆく、うつくしいものです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
何度も同じことをくりかえしているうち、もうたずねる人もなくなったころには、となりの村にさしかかっていた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
空處にとなれるそのへりと、たえず聳ゆる高き岸のもととの間は、人の身長みのたけたびはかるに等しかるべし 二二—二四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
じつは、もうずいぶん前のことですが、ある会合で小関君と偶然ぐうぜんとなりあわせにすわったことがあったんです。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
地震ぢしんおこつたのは當日とうじつ午前十一時十分頃ごぜんじゆういちじじつぷんごろであり、郵便局ゆうびんきよくとなりの潰家かいかから發火はつかしたのは正午しようごぐる三十分位さんじつぷんぐらゐだつたといふから、地震後ぢしんごおよ一時間半いちじかんはん經過けいかしてゐる。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
此處こヽとなりざかひの藪際やぶぎはにて、用心ようじんためにと茅葺かやぶきまうけにまはする庭男にはをとこさてさて此曲物このくせものとは。
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
国技館のとなりに回向院ゑかうゐんのあることは大抵たいてい誰でも知つてゐるであらう。所謂いはゆる本場所の相撲すまふまた国技館の出来ない前には回向院ゑかうゐん境内けいだい蓆張むしろばりの小屋をかけてゐたものである。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
わず半里はんりか一となりのむらくのにさえ、やれ従者ともだ、輿物のりものだ、御召換おめしがえだ……、半日はんにちもかかって大騒おおさわぎをせねばならぬような、あんな面倒臭めんどうくさ現世げんせ生活せいかつおくりながら
孔子はまた、子路の中で相当敏腕びんわんな実際家ととなり合って住んでいる大きな子供が、いつまでたっても一向老成しそうもないのを見て、可笑おかしくもあり、困りもするのである。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
内の小庭を東にとなって、次第に家の数が増して、商家はないが向い向い、小児こどもの泣くのも聞ゆれば、牛乳屋で牛がモウモウ。——いや、そこどころでない、喧嘩だ。喧嘩だ!
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その南にとなって琉璃色るりいろのように光る田代池たしろいけ焼岳やけだけも霞岳もよく見える、もうここに来ると偃松は小くなって、処々にその力なき枝椏しあを横たえ、黄花駒の爪はひとり笑顔をもたげている
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
「今帰ったお北の家はどこだ。富士見町の方か。」と、清岡は何のわけもないような風できいて見た。実は先刻さっきその女のはなしをしたとなりの待合の事が気になっていたからである。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
旅行用の枕を大負けに負けて売つてるもののとなりに、不思議にあた人相見にんさうみの洋服の男がゐて、その周囲を取巻いて、人が黒山のやうにたかつてる。をり/\摩違すれちがふ娘の顔は白かつた。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
其大仏餅屋そのだいぶつもちや一軒いつけんおいて隣家となりが、おもてこまかつが面取めんどりの出格子でがうしになつてりまして六尺いつけんとなりのはうあら格子かうし其又側そのまたわき九尺くしやくばかりチヨイと板塀いたべいになつてる、無職業家しもたやでございまする。
濠にとなった牧牛舎の柵の中には親牛と小牛が四、五頭、愉快そうにからだを横にゆすってはねている。自分もなんだか嬉しくなって口笛をピュッ/\と鳴らしながら飛ぶようにして帰った。
森の絵 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
すゝむるにやゝ三四升ほども飮しかば半四郎は機嫌なゝめならずうたひを謠ひ手拍子てびやうしうつて騷ぎ立るにとなり座敷のとまり客は兎角に騷がしくしてねむる事もならず甚だ迷惑めいわくなし能加減いゝかげんしづまれよとふすま一重ひとへ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そのうちに大蔵流京笛御指南という看板をかけたので、ははあ、女の笛師かと知ったようなわけで、とな交際づきあいもいたしませんから、間に、女主人のお雪様と、口をわしたこともございません。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そのおとなりに、すこしちがった原子がありますよ。これがそうです」
ふしぎ国探検 (新字新仮名) / 海野十三(著)
うちひとつが「愚物ばか」といていかわからないので、そのとなりのにいてたことまでもりました、『きれいによごれてしまふだらう、石盤せきばんが、審問しんもんむまでには!』とあいちやんはおもひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
となれる健胃固腸丸けんゐこちやうぐわんの広告ににがき光を残しつつ沈みゆく。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
となをとこをみなの語らふをあなねたましと言ひてはならず
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
「恐れ入った。うめとなりは堅山かたやま……堅之進かたのしんか」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
マッチは食堂にとなった喫煙室で手に入れた。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「フフン、お上品でいらっしゃるから、どうも似たり寄ったりだよ。ペンキ屋と看板出しておいたらいいだろう。——だが、こんなかたのはらない家と云うものは、そう探したってあるもンじゃないよ。庭は広いしとなりは遠いしねえ……」
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
近所きんじよ子供こどもなかで、あそんでけないのは、問屋とんやの三らうさんに、おとなりのおゆうさんでした。この人達ひとたちとうさんとおなどしでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
丁度お前達の方のご維新いしん前ね、日詰ひづめの近くに源五沼という沼があったんだ。そのすぐとなりの草はらで、僕等は五人でサイクルホールをやった。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
 ある日の晩大町おおまちと云う所を散歩していたら郵便局のとなりに蕎麦そばとかいて、下に東京と注を加えた看板があった。おれは蕎麦が大好きである。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ふたりのむずかしい、おじいさんが、となわせにんでいました。一人ひとりのおじいさんは、うさぎをっていました。
うさぎと二人のおじいさん (新字新仮名) / 小川未明(著)
越後国南は上州にとな魚沼郡うをぬまごほりなり。東は奥州羽州へとな蒲原郡かんばらごほり岩船いはふね郡なり。国堺くにさかひはいづれも連山波濤れんざんはたうをなすゆゑ雪多し。
さておとなりの支那しなでは、かん時代頃じだいころからのちはかなかつちつくつた人形にんぎよう動物どうぶつぞう、そのほかいろ/\の品物しなものかたち
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
聞えないどころか、利平の全神経は、たった一枚の塀をへだてて、となりの争議団本部で起る一切の物音に対して、測候所の風見の矢のように動いているのだ。
(新字新仮名) / 徳永直(著)
空林庵くうりんあんに行って、朝倉先生夫妻とゆっくり話しこむかするはずだったが、今日は、事務室のとなりの自分の部屋で、机によりかかったまま、ながいことひとりで考えこんでいた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
更にとなつて、Kingston Pearce 等の犯罪実話が並べられてあつた。
殺人鬼 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
雨戸のうちは、相州西鎌倉乱橋みだればし妙長寺みょうちょうじという、法華ほっけ宗の寺の、本堂にとなった八畳の、横に長い置床おきどこの附いた座敷で、向って左手ゆんでに、葛籠つづら革鞄かばんなどを置いたきわに、山科やましなという医学生が
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そしてそれがたいていは小学校からのなじみなので、行田の友だちの群れよりもいっそうしたしいところがある。小畑の家は停車場の敷地にとなっていて、そこからは有名な熊谷堤の花が見える。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)