かよ)” の例文
仕事の都合で一年近く始終かよっていたK村では、昨年度戦災者を十数家族入植させたが、一家族残して全部逃げて帰ったそうである。
琵琶湖の水 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
孫七もひげの伸びたほおには、ほとんど血のかよっていない。おぎんも——おぎんは二人にくらべると、まだしもふだんと変らなかった。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かれは、東京とうきょうへきてから、ある素人家しろうとやの二かい間借まがりをしました。そして、昼間ひるま役所やくしょへつとめて、よるは、夜学やがくかよったのであります。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
一本は、両方のはしが、しっかりしばってある索道で、もう一本は、その索道にはめてある、索の輪を動かすための、かよづなである。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
ひんよしとよろこぶひとありけり十九といへど深窓しんそうそだちは室咲むろざきもおなじことかぜらねど松風まつ ぜひゞきはかよ瓜琴つまごとのしらべになが春日はるび
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
市ヶ谷の女学校に徒歩でかよっていたのですが、あのころは、私は小さい女王のようで、ぶんに過ぎるほどに仕合せでございました。
誰も知らぬ (新字新仮名) / 太宰治(著)
ざつみづけて、ぐいとしぼつて、醤油しやうゆ掻𢌞かきまはせばぐにべられる。……わたしたち小學校せうがくかうかよ時分じぶんに、辨當べんたうさいが、よくこれだつた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そして、身体をあちこちに廻しながら物をにじるような格好をして母を見い見い外へ出て行こうとした。「かよいは?」と母が訊いた。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
いでわたくしは保さんをおうと思っていると、たまたまむすめ杏奴あんぬが病気になった。日々にちにち官衙かんがにはかよったが、公退の時には家路を急いだ。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
おつぎはそれから村内そんない近所きんじよむすめともかよつた。おつぎは與吉よきちちひさな單衣ひとへもの仕上しあげたとき風呂敷包ふろしきづゝみかゝへていそ/\とかへつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
おふきは※苞わらづとにつつんだ山の芋にもあたたかい心を見せて、半蔵の乳母うばとしてかよって来た日と同じように、やがて炉ばたへ上がった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「さあさあ、て来なされ、遊廓は灯ともし頃の宵がよく、もそっとよいのは、黄昏たそがどきかよというげな。武蔵どのも、ておざれ」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
少なくとも新らしい血にかようこの頃の恋の脈が、調子を合せて、天下晴れての夫婦ぞと、二人の手頸てくびに暖たかく打つまでは話したくない。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
つまみして障子せうじめた、殘暑ざんしよといふものはわるあつい、空氣くうきかよはないかららである、くもつてゐるから頭痛づつうがする、たまらぬ。
ねこ (旧字旧仮名) / 北村兼子(著)
抽斗ひきだしすかして、そつ背負揚しよいあげ引張出ひつぱりだしてると、白粉おしろいやら香水かうすゐやら、をんな移香うつりがはなかよつて、わたしむねめうにワク/\してた。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
年足らずの十三を、十五だといつわって、姉は十六銭の日給を貰うために、朝五時から起きて、いそいそと一里も離れている専売局にかよった。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
竜宮女房の普通の形は、今日の嫁入婚よめいりこんに近く、妻の親里おやざとに行きかようということはないのだが、この花売竜宮入りだけは婿入むこいりに始まっている。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
黄金色わうごんいろ金盞花きんせんくわ、男の夢にかよつてこれとちぎ魑魅すだまのものすごあでやかさ、これはまた惑星わくせいにもみえる、或は悲しい「夢」の愁の髮に燃える火。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
前に言ったように四十四年に再び引きずられるように上京して、私の近所の下宿から学校へかよっていたが、翌年にそれでもどうにか卒業した。
亮の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
學校がくかうといふのは此大島小學校このおほしませうがくかうばかり、其以外そのいぐわいにはいろはのいのまな場所ばしよはなかつたので御座ございます。ぼくはじめ不精々々ふしやう/″\かよつてました。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
一体野麦峠ちゅうのは、信州と飛騨との往還になっておりまして、当時は一日に二人や三人の旅人はかよったもンだそうだす。
最初さいしよ此地このち探檢たんけんしたのは、三十五ねんの十二ぐわつ二十六にちであつた。それからほとん毎週まいしうは、表面採集ひやうめんさいしふかよつてた。
その頃の書生は今の青年がオペラやキネマへ入浸いりびたると同様に盛んに寄席よせかよったもので、寄席芸人の物真似ものまねは書生の課外レスンの一つであった。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
かよわせぶみをおこすだけが、せめてものてだてで、其さえ無事に、姫の手に届いて、見られていると言う、自信を持つ人は、一人としてなかった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
伴「そんな者じゃアないよ、話をしても手前てめえ怖がるな、毎晩来る女は萩原様にごく惚れてかよって来るお嬢様とおつきの女中だ」
倉地が岡を通して愛子と慇懃いんぎんかよわし合っていないとだれが断言できる。愛子は岡をたらし込むぐらいは平気でする娘だ。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
引きつづいて大学院の研究室の方いかよてましたのんですが、弁護士やる気イになりましたのんは別にこれちゅう理由あったのんではあれしません。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
なんといふやまひやらもらない、度々たび/″\病院びやうゐんかよつたけれども、いつも、おなじやうな漠然ばくぜんとしたことばかりはれてる。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
渠は芝の我善坊がぜんばうから、毎夜のやうに、電車もなかつた丸の内の寂しい道をてく/\歩いて、江戸川のほとりまでかよつた。
ただ、もう息のかよっていない、そろそろ虫のきかかりそうな、或は又、数日間水浸しになっていたとか言う様な屍体では、そう言う事も信じられる。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
隣りは空家、又その隣りは吉原へかよい勤めの独り者であるので、この二、三日来、虎七の家にどんなことが起っていたか近所でも知る者はなかった。
廿九日の牡丹餅 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かかる議論ぎろんにまるでこころあっしられたアンドレイ、エヒミチはついさじげて、病院びょういんにも毎日まいにちかよわなくなるにいたった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そのかようた壁の穴を求むると、隣りに饂飩うどんを商う家あり、その饂飩の粉の中に鼠棲んでこの家へ来る故白鼠と見えたと判り、皆々大笑いして帰った。
取っていただく弥助殿、ことに弥九郎の弥、弥助の弥、かよっているようですから、甥でないまでも、親戚かなにかであるには相違なかろうと思います
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
話に聞けば自分の父も、自分が生まれない先に役人をしていた頃は、馬に乗って役所にかよったそうだが、どうも百円の月給取ではなさそうに思われる。
大人の眼と子供の眼 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
そん五もとく七もありゃァしません。当時とうじ名代なだい孝行娘こうこうむすめ、たとい若旦那わかだんなが、百にちかよいなすっても、こればっかりは失礼しつれいながら、およばぬこい滝登たきのぼりで。……
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
墓場みたいなカフェである。その癖、暖房の装置はあるのか、ホンノリと暖か味がかよって不愉快な程寒くはない。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
障子を破いて料理のかよい口をこしらえるやら、見事な蒔絵まきえの化粧箱を、飯櫃めしびつに使うやら、到らざるなき乱暴狼藉。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
英国近代のバアン・ジヨオンスやロセツチの作と似かよふ所のあるのを珍らしいと思つて出口でその絵葉書を買つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
今では同じく京都のやうに悲しくすたれ果てゝはゐるものゝ、なほ絶えず海と船とによつて外国の空気がかよつてゐるが為めか京都ほど暗くはない。狭くはない。
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「いやだ……あんなところへ、誰か、子供を捨てたのよ。ここへかよっていた、パンパンかなにかの仕業ですね」
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
むかし、わたしはそれでやすり紙をつくるために車につんでそこの砂をはこびにかよったことがあったが、それ以来わたしは引きつづいてそこをおとずれた。
成程なるほど此處こゝから大佐等たいさらすまへる海岸かいがんいへまでは三十以上いじやうとりでもなければかよはれぬこの難山なんざんを、如何いかにして目下もつか急難きふなん報知ほうちするかといぶかるのであらう。
柳里恭柳澤淇園りうりけふやなぎさはきゑんかよつたとも、堂上家だうじやうけの浪人を男妾にしてゐたが、その男が義に違ふことをしたので放逐し、その後は男を近づけなかつたともいはれてゐる。
凡愚姐御考 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
すこしの油断ゆだんがあれば、姿すがたはいかに殊勝しゅしょうらしく神様かみさままえすわっていても、こころはいつしか悪魔あくまむねかよっている。
ついては、お前の幼名が光蔵みつぞうというから、その光に、わたしの東雲とううんの雲の字を下に附けて光雲としたがよろしかろう。やっぱり幸吉のコウにもかよっているから……
全体ぜんたいだれに頼まれた訳でもなく、たれめてくれる訳でもなく、何を苦しんで斯様こんな事をするのか、と内々ない/\愚痴ぐちをこぼしつゝ、必要に迫られては渋面じふめんつくつて朝々あさ/\かよふ。
水汲み (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
ルピック氏が、兄貴のフェリックスと弟のにんじんとを入れたサン・マルク寮というのは、そこから、中学校へかよって、課業だけを受けに行くことになっている。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
珍しく小学校へもかよつたりいたしまして、幾分、読み書きも覚えたんでございますが……なにしろ、時節が時節、周囲が周囲でございますから、異人さんと云へば
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
聞居しが此頃人のうはさには伊勢五の養子千太郎は再度ふたゝび小夜衣のもとかよひ初めしと聞えしかば以てのほかおどろけども是は全く人の惡口わるくちならん千太郎樣にはよもや我が異見いけん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)