縁日えんにち)” の例文
大入おほいり評判ひやうばんだ四はんだ五ばん傑作けつさくぢや大作たいさくぢや豊年ほうねんぢや万作まんさくぢやと口上こうじやう咽喉のどらし木戸銭きどせん半減はんまけにしてせる縁日えんにち見世物みせもの同様どうやう
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
殊に縁日えんにちの「からくり」の見せる黄海こうかいの海戦の光景などは黄海と云うのにもかかわらず、毒々しいほど青いなみに白い浪がしらを躍らせていた。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし丹波酸漿たんばほおずきを畠で作り出したのは後のことで、店や縁日えんにちで売るようになったのは、都会でもそう古くからではないのである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
縁日えんにちの夜、摺違すれちがひに若き女のお尻をつねつたりなんぞしてからかふ者あり。これからかふにして何もその女を姦せんと欲するがために非ず。
猥褻独問答 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
夏ののことであった。その晩はそのあたりに縁日えんにちがあるので、夕飯ゆうはんがすむと二人の者は散歩に往こうと云いだしたが、一人は従わなかった。
女の姿 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
かみなりしたろう、あめるといけないからいかなかった。それで、ばん縁日えんにちへいって、きんめだかをってきたのさ。」
真昼のお化け (新字新仮名) / 小川未明(著)
これ縁日えんにちへ行って買って来てやるから構わない。少し腰を痛めたから、其後それからは何にもしなかった。第一日はず成功だろう。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それは、近頃はすつかり丈夫になつてお靜と一緒に庭や門の外まで遊びに出て居た新太郎が、水天宮樣の縁日えんにちへ行つて見たいと言ひ出したのです。
その夜、父は私を縁日えんにちにつれて行ってくれた。家の前の路地を出外ではずれると、「さあおんぶしてやろう」と父は往来おうらいにしゃがんで私をその背にのせた。
縁日えんにちでよくあかをしたかわいゝ、しろぶちのうさぎをつてゐるのを、みなさんも、たびたびごらんになつたでせう。しかしやまには褐色かつしよくのうさぎがゐます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
同町内どうちやうない瀧君たきくんに、ひとたはらおくらうかな、……水上みなかみさんはおほきをして、二七にしち縁日えんにち金魚藻きんぎよもさがしてく。……
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それから神楽坂かぐらざか毘沙門びしゃもん縁日えんにちで八寸ばかりのこいを針で引っかけて、しめたと思ったら、ぽちゃりと落としてしまったがこれは今考えてもしいとったら
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
縁日えんにちにでも行くらしい人通りが、暫く続いたり、それが途絶とだえると、支那蕎麦屋そばやの哀れげなチャルメラのが聞えたりして、いつの間にか夜が更けたのである。
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
露店というのは、もとは縁日えんにちだけのもので(この縁日目当ての露店を、テキヤの符牒ふちょうでホーヘーと言う)
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
つれ兩國りやうごく淺草等あさくさとう又は所々の縁日えんにち熱閙場さかりばへ日毎に出歩行であるき給ひければ自然しぜん下情かじやうに通ず萬端ばんたん如才じよさいなく成給へり程なく一ヶ年もすぎ將監も江戸えど在勤ざいきんの年限はてければ又も徳太郎君を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
縁日えんにちむけの花を仕立てるはたけの尽きたところまで行くと、そこに木戸がある。その木戸の外に、茶畠、野菜畠などが続いている。畠の間の小径こみちのところで正太は叔父の三吉と一緒に成った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
縁日えんにちのはずれの方に、小さく敷ものをして、紙がとばないように小石をおいて、お家流の美事な筆跡で、すらすら和歌や詩を書いては、一枚書くと丁寧にお辞儀をする品のよい老女がいた。
御霊神社の縁日えんにちで、夜店の飴屋のみせをしづやの背中にいて見て、あめが欲しいとせがんだら、「あれは毒です。」としづやから叱るように云われて、飴屋の親爺おやじの顔がそのとき鬼のように見え
生い立ちの記 (新字新仮名) / 小山清(著)
縁日えんにちの植木でもひやかすようにしきりに、負けろまけろと言っている。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
縁日えんにちの見世ものの、くさき瓦斯にもおもてうつし
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
隨分ずゐぶん故郷こきようそらなつかしくなつたこと度々たび/\あつた——むかし友人ともだちことや——品川灣しながはわん朝景色あさげしきや——上野淺草うへのあさくさへん繁華にぎやかまちことや——新橋しんばし停車塲ステーシヨンことや——回向院ゑこうゐん相撲すまふことや——神樂坂かぐらざか縁日えんにちことや——よろづ朝報てうほう佛蘭西フランス小説せうせつことや——錦輝舘きんきくわん政談せいだん演説えんぜつことや——芝居しばゐこと浪花節なにはぶしこと
鬼子おにことよべどとびんだるおたかとて今年ことし二八にはちのつぼみの花色はないろゆたかにしてにほひこまやかに天晴あつぱ當代たうだい小町こまち衣通そとほりひめと世間せけんさぬも道理だうりあらかぜあたりもせばあの柳腰やなぎごしなにとせんと仇口あだぐちにさへうはされて五十ごとう稻荷いなり縁日えんにち後姿うしろすがたのみもはいたるわかものは榮譽えいよ幸福かうふくうへやあらん卒業そつげふ試驗しけん優等證いうとうしようなんのものかは
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
往時編笠かぶりて心中の沙汰なぞうたひ歩みし読売よみうり今は縁日えんにちの夜の唱歌となるもまた物同じくしてその名のみ同じからざる一例となすべし。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
あるおとこが、縁日えんにちにいって、植木うえきをひやかしているうちに、とうとうなにかわなければならなくなりました。そして、無花果いちじく鉢植はちうえをいました。
ある男と無花果 (新字新仮名) / 小川未明(著)
私はそれを村の男が植木か何かを載せて縁日えんにちへでも出掛けるものと想像した。先生はその音を聞くと、急に瞑想めいそうから呼息いきを吹き返した人のように立ち上がった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「今夜はそれ、秋葉あきばさんの縁日えんにちだろう。で、別に用はなし、暑くもあるから、みんなで出かけたのよ」
お前は一体泣いてゐるのか、それともまた笑つてゐるのか。お前の顔は悲劇のめんのやうで、同時に又喜劇の面のやうだ。おれの記憶は縁日えんにちの猿芝居へおれを連れてく。
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
鉢肴はちざかなまたあらひとなへ、縁日えんにち金魚きんぎよどんぶりかせて——(こほりへてもいゝ)——のちにひきものにたせてかへす、ほとん籠城ろうじやううまあら傳説でんせつごとき、すご寸法すんぱふがあると仄聞そくぶんした。
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「大違ひ、——親分に植木屋を始めて貰つて、あつしはそれを江戸の縁日えんにちへ持出して賣る」
見ると、悲劇小説とでもいうか、一昔前縁日えんにちの本屋などが並べているのを見受けた、東京ではいまはまったく見られなくなったと云っていい、通俗の本であった。私は張り合いの抜けた気持だった。
その人 (新字新仮名) / 小山清(著)
縁日えんにちであろう両側に露店ろてんが並んで人の出さかっている街路とおりへ出た。
女の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
縁日えんにちですから、何うでも宜いんでございますよ」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
縁日えんにちでもありますか」
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
小屋掛の様子からどうしてもむかし縁日えんにちに出たロクロ首の見世物も同じらしく思われたので、わたくしは入らずにしまった。
裸体談義 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
宗助そうすけはそれからびて、晩食ばんめしまして、よる近所きんじよ縁日えんにち御米およね一所いつしよ出掛でかけた。さうして手頃てごろ花物はなもの二鉢ふたはちつて、夫婦ふうふしてひとづゝつてかへつてた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ところが外へ出て見ると、その晩はちょうど弥勒寺橋の近くに、薬師やくし縁日えんにちが立っている。だからふた往来おうらいは、いくら寒い時分でも、押し合わないばかりの人通りだ。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「大違い、——親分に植木屋を始めて貰って、あっしはそれを江戸の縁日えんにちへ持出して売る」
……電車通でんしやどほりへつて、こんなおはなしをしたんぢあ、あはれも、不氣味ぶきみとほして、お不動樣ふどうさま縁日えんにちにカンカンカンカンカン——と小屋掛こやがけかねをたゝくのも同然どうぜんですがね。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なつよるや、縁日えんにちばんなどには、よくこのまちにも露店ろてんましたけれど、こんなにさむくなってからは、出歩であるひとすくないので、ああして露店ろてんしても品物しなものうものがないだろうにと
幸福のはさみ (新字新仮名) / 小川未明(著)
人は樹木じゅもく多ければ山の手は夏のさかりにしくはなけんなど思ふべけれど、藪蚊やぶかの苦しみなき町中まちなか住居すまいこそ夏はかへつて物干台ものほしだい夜凉よすずみ縁日えんにちのそぞろ歩きなぞきょう多けれ。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
しかし、そのは、縁日えんにちで、いつもよりかいっそう露店ろてん人出ひとでおおかったのです。
ある夜の姉と弟 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いまだと早速さつそく千匹屋せんびきやへでもおろしさうなものを、川柳せんりうふ、(地女ぢをんなりもかへらぬ一盛ひとさかり)それ、意氣いきさかんなるや、縁日えんにち唐黍たうきびつてかじつても、うちつたすもゝなんかひはしない。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
保吉もまた二十年ぜんには娑婆苦しゃばくを知らぬ少女のように、あるいは罪のない問答の前に娑婆苦を忘却した宣教師のように小さい幸福を所有していた。大徳院だいとくいん縁日えんにち葡萄餅ぶどうもちを買ったのもその頃である。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いつか普及せられてコスモスの流行はやるころには、西河岸の地蔵尊、虎ノ門の金毘羅こんぴらなどの縁日えんにちにも、アセチリンの悪臭鼻を突く燈火の下に陳列されるようになっていた。
葛飾土産 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
☆ 香具師やし——縁日えんにちまつりなどで、ものなどを興業こうぎょうするひとや、品物しなものひと
白いくま (新字新仮名) / 小川未明(著)
縁日えんにちあるきの若人わかうどたち、つゝしまずばあるべからず、とから伯父御をぢごまをさるゝ。
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
二七不動にしちふどう縁日えんにち、三番町や九段下くだんした寄席よせにても折々顔を見合すうち或日突然むこうよりにつこりと、笑顔を向けられて、僕その時は真赤になりしが、翌日はもう我慢がならず
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
が、一夏ひとなつ縁日えんにちで、月見草つきみそうを買って来て、はぎそばへ植えた事がある。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぼくのうちのは、縁日えんにちってきた苗木なえぎだよ。」
芽は伸びる (新字新仮名) / 小川未明(著)
芝居へも縁日えんにちへも必ず連立つれだって行く。小説や雑誌も同じものを読む。学課の復習試験の下調したしらべも母がそばから手伝うので、年と共に竜子自身も母をば姉か友達のように思う事が多かった。
寐顔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)