模様もよう)” の例文
旧字:模樣
また、あるいはそなたも知らぬであろうが、おそれ多いことながら、いまの御所ごしょのお模様もようは、その貧しい人々よりもまさるものがある。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、自然しぜん私達わたくしたち対話はなしんでからのち事柄ことがらかぎられることになりました。わたくし真先まっさきにいたのは良人おっと死後しご自覚じかく模様もようでした。——
そうして、緑色みどりいろのあいだから、金色きんいろひかりがもれて、したのしめったうえに、ふしぎな模様もようをかいていました。
夢のような昼と晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたしのさがす美しい船の模様もようを話して、そういう船を見なかったかとたずねた。でもかれらはけっしてそういう船の通るのを見たことがなかった。
「……今日十六日の天気予報を申上げます。今日は一日中晴天が続きましょうから、空襲警報に御注意下さい。明日はまた天気はくだ模様もようとなり——」
北海道から林檎りんごやらうたやら送って来た。病院長の生活は淋しいものらしかった。家庭の模様もようを聞いてやっても、其れだけは何時いつもお茶を濁して来た。余は
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そのあいだの一夜、おおかみの群れがすごいいたずらを演じて、カランポーの谷にすむ人たちを興奮こうふんさせた。一人ひとりのわかい羊飼ひつじかいがその模様もようわたしに物語った。
げん土器どき底面中ていめんちうには網代形あじろかたあと有るもの有り、土器形状模様もよう中には明かに籠の形をしたるもの有り、コロボックルが籠のるいを有せし事は推知すいちし得べきなり。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
それに見たこともない空の模様もようではありませんか、いったいあの十三れんなる青い星はどこにあったのでしょう、こんな星は見たことも聞いたこともありませんね
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
暗い玄関から急に明るい電灯のいたへやのぞいた彼の眼にそれが常よりも際立きわだって華麗はなやかに見えた時、彼はちょっと立ち留まって細君の顔と派出はでやかな模様もようとを等分に見較みくらべた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そしてこの紫根染しこんぞめも茜染あかねぞめもいろいろの模様もようを置くことができず、みなしぼめである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
室は板敷の上にむしろが敷いてある。正面の舞台には毒々しい更紗さらさ模様もようの幕が下りている。
土淵村にての日記 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
文身ほりものの様に雲竜うんりゅうなどの模様もようがつぶつぶで記された型絵の燗徳利かんどくりは女の左の手に、いずれ内部なか磁器せとものぐすりのかかっていようという薄鍋うすなべもろげな鉄線耳はりがねみみを右の手につままれて出で来る。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
近頃ちかごろはやりもののひとつになった黄縞格子きじまごうし薄物うすものに、菊菱きくびし模様もようのある緋呉羅ひごらおびめて、くびからむねへ、紅絹べにぎぬ守袋まもりぶくろひもをのぞかせたおせんは、あらがみいあげた島田髷しまだまげ清々すがすがしく
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
下の方は、足をのせるかねの台があって、それにはすかしぼりの模様もようがあります。このりっぱなこしかけに腰かけて、やってもらうのです。ふたりはまた、なんとなく顔を見あわせました。
いぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
屹度きっと、今度二丁目の市村座いちむらざかかるという、大坂下りの、中村菊之丞きくのじょう一座ところ若女形わかおやま雪之丞ゆきのじょうというのに相違ないでしょう——雪之丞という人は、きまって、どこにか、雪に縁のある模様もよう
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
石器土器の出るところ山口に二ヶ所あり。他の一は小字こあざをホウリョウという。ここの土器と蓮台野の土器とは様式全然ことなり。後者のは技巧いささかもなく、ホウリョウのは模様もようなどもたくみなり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
問題の初音の鼓は、皮はなくて、ただどうばかりがきりはこに収まっていた。これもよくは分らないが、うるしが比較的新しいようで、蒔絵まきえ模様もようなどもなく、見たところ何のもない黒無地の胴である。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その訊問じんもん模様もようは、大略たいりゃくつぎごときものであつた。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
わたくしやま修行場しゅぎょうじょうりながら、うやら竜宮界りゅうぐうかい模様もようすこしづつわかりかけたのも、まったくこの難有ありがた神社じんじゃ参拝さんぱいたまものでございました。
そのかわり、おちついて、いろや、姿すがたをよく観察かんさつする機会きかいあたえられたのをよろこび、ちょうのはねについている模様もようまで、つくづくとながめたのでした。
心の芽 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それからそれへ話は果てる模様もようもなかったのである。ところが、座役たちはそろそろ帰りの時刻を案じだしていた。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その向こうの角のくぼんだおし入れのような所にわたしの寝台があって、赤い模様もようのカーテンがかかっていた。
歩哨はスナイドルしき銃剣じゅうけんを、こうのむねななめにつきつけたまま、そのの光りようやあごのかたち、それから上着うわぎそで模様もようくつのぐあい、いちいちくわしく調しらべます。
ありときのこ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あかねがかった紫と白と、一本二本はさしてめでたい花でもないが、の日を受けて何万となく庭一面に咲く時は、緑のに紫と白の浮き模様もよう花毛氈はなもうせんを敷いた様に美しい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
雨脚あまあしはしだいに黒くなる。河の色はだんだん重くなる。渦のもんはげしく水上みなかみからめぐって来る。この時どす黒い波が鋭く眼の前を通り過そうとする中に、ちらりと色の変った模様もようが見えた。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わざわいを転じて福と化した二人のその後の生活の模様もようを最もよく知っている生存者は鴫沢しぎさわてる女あるのみである照女は本年七十一歳春琴の家に内弟子として住み込んだのは明治七年十二歳の時であった。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
良人おっととの再会さいかい模様もよう物語ものがたりましたついでに、おなころわたくしがこちらで面会めんかいげた二三の人達ひとたちのおはなしをつづけることにいたしましょう。
わたしに、ちょっとしてくんなさい。」といって、むすめたちは、うつくしい、うす紅色べにいろ水色みずいろ模様もようのついたがさをりて、よろこんで、それをさしてみました。
日がさとちょう (新字新仮名) / 小川未明(著)
あなたの葵紋あおいもんまくのうちに、花壇かだんのように、りあがっていたお小姓こしょうとんぼぐみの一たいが、とんぼ模様もようそろいの小袖こそでをひるがえし、サッと試合場の一方に走りくずれてきて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところがそれはいちめん黒い唐草からくさのような模様もようの中に、おかしな十ばかりの字を印刷いんさつしたもので、だまって見ているとなんだかその中へまれてしまうような気がするのでした。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
がゆれると、模様もようもいっしょにうごいて、ちょうど、みずたまりへちたはなが、いているようにもえました。
夢のような昼と晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
蝶貝ちょうがい模様もようのついた手筥てばこがあるだろう。あれを持って来ておくれでないか」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人ふたりは、海辺うみべにきてみたのです。するとなみたかくて、おきほう雲切くもぎれのしたそらいろあおく、それに黒雲くろくもがうずをいていて、ものすごい模様もよう景色けしきでした。
大きなかに (新字新仮名) / 小川未明(著)
姿すがたをかくして、ひとみだけをジッとそれへ向けていると、あまたの少年たちは、いずれも、前髪まえがみだちで、とんぼ模様もようのついたそろいの小袖こそで、おなじ色のはかまをうがち、なにか、大きな動物につなをつけて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ゆりちゃんは、しばらくって、そのきくはなのような、模様もようのついている、金色きんいろのボタンをながめていましたが、れば、るほどめずらしくなってきました。
金色のボタン (新字新仮名) / 小川未明(著)
そらは、時雨しぐれのきそうな模様もようでした。今朝けさがたから、まちなかをさまよっていたのです。たまたまこのいえまえにきて、おもわずあしめてしばらくきとれたのでした。
海からきた使い (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのうちに大工だいくはいって、みせ模様もようえたり、こわれたところをなおしたりしていましたが、それができあがると、いつのまにかこざっぱりとした、乾物屋かんぶつやになりました。
海が呼んだ話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そののことであります。きゅうそら模様もようわって、ちかごろにない大暴風雨おおあらしとなりました。
赤いろうそくと人魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
けれど、むかしからっているとうは、そのかぜのためにびくともいたしませんでした。あねひめは、このきゅうわった、ものすごいそら模様もようをながめて、どうなることだろうとあんじていました。
黒い塔 (新字新仮名) / 小川未明(著)
レールもはなも、こえをたてずに、ものすごくなったそら模様もようをながめていました。あめがとうとうってきたのであります。あめはなりそそぎました。また、レールのうえりかかりました。
負傷した線路と月 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ワンこうは、遠方えんぽうまでようたしにやられました。かえ途中とちゅうで、そら模様もようわって、かみなりり、ひどい夕立ゆうだちとなりました。かれは、ちいさな御堂おどうのひさしのしたにはいって、すくんでいたのであります。
酒屋のワン公 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのひろいすそのふちを、青黒あおぐろいろうみが、うねりをあげ、そして、もやのかかる松林まつばやしや、しろすな浜辺はまべは、りの模様もようのようにえるので、さすがに天女てんにょも、しばらくはわれをわすれて
羽衣物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
二人ふたりは、難船なんせんしたときの模様もようや、くらかったよるのものすごい光景こうけいや、すくわれてからみなといて、りくがって、それはそれはいいつくされないうつくしい、不思議ふしぎ世界せかいてきたようなことをはなしました。
幸福に暮らした二人 (新字新仮名) / 小川未明(著)