垣根かきね)” の例文
「ふいに、兄様が帰るとか、人が訪ねてくるといけないから、外を見ていよといわれて、いつも、垣根かきねの所に、立っていただけです」
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
卯平うへい久振ひさしぶり故郷こきやうとしむかへた。彼等かれらいへ門松かどまつたゞみじかまつえだたけえだとをちひさなくひしばけて垣根かきね入口いりくちてたのみである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
せいちゃん、あのおにわいているあかはなはなんだかっている?」と、一人ひとりが、まって垣根かきねあいだからのぞこうとしたのでした。
子供どうし (新字新仮名) / 小川未明(著)
読めぬ人にはアッシリア文は飛白かすりの模様と同じであり、サンスクリット文は牧場の垣根かきねと別に変わったことはないのと一般である。
地図をながめて (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
垣根かきねなかンのめったばっかりに、ゆっくり見物けんぶつ出来できるはずのおせんのはだかがちらッとしきゃのぞけなかったんだ。——面白おもしろくもねえ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
喜六君はズックぐつをぬいで、畠の垣根かきねになっているまきの根方にかくし、いたちのようにすばやく、池の方へのぼってゆきました。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
時々私の家との間の垣根かきねから私はのぞいて見るのですが、いかにもあの家には若い女の人たちがいるらしい影がすだれから見えます。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それを尋ねて見ようというのではないけれども、私はいつとはなしに大鳥神社の側を折れて、高谷千代子の家の垣根かきねに沿うて足を運んだ。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
そっと垣根かきねから庭をのぞいて見ると、日あたりのいい縁側に定子がたった一人ひとり、葉子にはしごき帯を長く結んだ後ろ姿を見せて
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
境界の金網の垣根かきねの向う側では子供たちが電車遊びをしているのであろう、姿は見えないが、ペータアが車掌の口真似くちまねをして
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
今年ことしみたいに、紅白こうはくはながたんといたとしい。一面いちめんめるやうないろだ。どこへつても垣根かきねうへしゆ御血潮おんちしほ煌々ぴかぴかしてゐる。
垣根かきねの多い静かな町には、柳の芽がすいすい伸び出して、梅の咲いているところなどもあった。空も深々とあおみ渡っていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
くだん垣根かきね差覗さしのぞきて、をぢさんるか、とこゑける。黄菊きぎくけたるとこ見透みとほさるゝ書齋しよさいこゑあり、る/\と。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
少女おとめあり、友が宅にて梅の実をたべしにあまりにうまかりしかば、そのたねを持ち帰り、わが垣根かきねに埋めおきたり。
詩想 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「あの垣根かきねの竹が今朝けさはまだ出なかったの……それが今はあんなに出てしまって五ばかり下が透いたから、なんでも一寸五分くらいは引いたよ」
水籠 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
隣家となりける遲咲おそざききのはなみやこめづらしき垣根かきねゆきの、すゞしげなりしをおもいづるとともに、つき見合みあはせしはなまゆはぢてそむけしえりあしうつくしさ
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そこは夏のけしきで、垣根かきねには白いうの花が咲いて、お庭の木の青葉あおばのなかでは、せみやひぐらしがないていました。
浦島太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
垣根かきねとしてはただ服従を、鉄門としてはただ神の恐れを、頭被としてはただ謙遜けんそんを、彼女らは有するのみならん。
花やつぼみをつけた自然の蔓薔薇つるばら垣根かきねからなる部屋で、隣席が葉にさえぎられて見えず、どの客も中央の楽団から演奏されて来る音楽だけをたのしむ風になっていた。
罌粟の中 (新字新仮名) / 横光利一(著)
十坪ばかりの庭のはずれに、垣根かきねのようになった樹立こだちがあり、そこから先はずっと田圃たんぼつづきで、あいだにバスの通る道があるほかは、ほとんど家もなかった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
みんなポカンとして見てゐるうちに、甲虫は庭の空を横切つて、垣根かきねすみにある、大人の一抱ひとかかへもある、高い/\かきの木のてつぺんの枝にとまつてしまひました。
かぶと虫 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
姉と娘との間に立ッて、自分は外庭の方へ廻ッて往ッたが、見つけた、向うの垣根かきねの下に露を含んで、さも美しく、旭光あさひに映じて咲いていたの花を見つけた。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
という声が下のほうから聞えて、たちまち四五人の村の人たちが、垣根かきねをこわして、飛び込んでいらした。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
クリストフは一挙に飛び立ち、また垣根かきねを越えた。ザビーネは長衣の中に莢を拾い集めて、家へはいった。中庭から彼はふり向いた。彼女は戸口に立っていた。
「あん。」達二は、垣根かきねのそばから、やなぎえだを一本り、青いかわをくるくるいでむちこしらえ、しずかに牛を追いながら、上の原へのみちをだんだんのぼって行きました。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
公園道のなかばから左に折れて、裏町の間を少し行くと、やがていっぽう麦畑いっぽう垣根かきねになって、夏はくれないと白の木槿もくげが咲いたり、胡瓜きゅうり南瓜とうなすったりした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
今よりのちは大いにそれを取り出して、独り郷党きょうとう知己ちきの間のみならず、弘く世の中のために利用してもらう必要がある。すでに家と家との目の見えぬ垣根かきねは取れた。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
庭先の垣根かきねの合い間からすかして見ると、男の子も女の子も入り乱れて、帯をひきずりながら駆け廻っていた。つかまえたり、つかまえられたりする姿がよく見えた。
妹のお鶴も姉にいて来た。叔父が家の向側には、農家の垣根かきねのところに、高く枝を垂れた百日紅さるすべりの樹があった。熱い、あかい、寂しい花は往来の方へ向って咲いていた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ある日、わたしが庭へ出て、例の垣根かきねのそばを通りかかると、ジナイーダの姿が目にとまった。彼女は両手をわきについて、草の上に坐ったまま、身じろぎもせずにいる。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
たち表の方へ出れば垣根かきねきはに野尻宿のお專頭巾づきん眉深まぶかかぶり立ち居たり傳吉はひそかに宅へ伴ひしのばせて座中をうかゞはせたるに此中には其人なしと云ふ故傳吉は又々女房叔母を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
けれども座敷ざしきがつて、おなところすわらせられて、垣根かきね沿ふたちひさなうめると、此前このまへときことあきらかにおもされた。其日そのひ座敷ざしきほかは、しんとしてしづかであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
縁の下の草履に血が附いてゐたばかりでなく、庭石も垣根かきねも、犬小屋も羽目板も、まことに斑々たる血で、故意にブチきでもしなければ、こんなに血がこぼれる筈はありません。
その石をそばへ取りけると、彼は垣根かきねの生け垣の間から、くわのこぎりとを取り出した。
死屍を食う男 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
そっと金のかんざしを質に入れて、その金で親類の家をかたっぱしから探して、い花の種を買って植えたが、数月の中に、家の入口、踏石ふみいし垣根かきね、便所にかけて花でない所はなくなった。
嬰寧 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
その中にも百姓の強壮な肺の臓から発する哄然こうぜんたる笑声がおりおり高く起こるかと思うとおりおりまた、とある家の垣根かきねに固くつないである牝牛の長く呼ばわる声が別段に高く聞こえる。
糸くず (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
あゝ、薄命はくめいなあの恋人達はこんな気味きみのわるい湿地しつちまちに住んでゐたのか。見れば物語の挿絵さしゑに似た竹垣たけがきの家もある。垣根かきねの竹はれきつて根元ねもとは虫にはれて押せばたふれさうに思はれる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ふと見たられた垣根かきねの隙間から銃口つつぐちてる雀つかあなや
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
少年しょうねんは、マントのしたかたからかけた、新聞しんぶんたばから、一まいくと、もんけてぐちへまわらずに、たけ垣根かきねほうちかづきました。
生きぬく力 (新字新仮名) / 小川未明(著)
山の手ではからすうりの花が薄暮の垣根かきねに咲きそろっていつものの群れはいつものようにせわしくみつをせせっているのであった。
からすうりの花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
勘次かんじはおつたの姿すがたをちらりと垣根かきね入口いりぐちとき不快ふくわいしがめてらぬ容子ようすよそほひながら只管ひたすら蕎麥そばからちからそゝいだのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
んとの、じゃァござんせんぜ。あのおよんで、垣根かきねくび突込つっこむなんざ、なさけなすぎて、なみだるじゃァござんせんか」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
垣根かきねの外からのぞいて見ると、家の中には、まだがついてなくて、縁側のすのこの上で武士風の男が一心に笛を吹いてゐた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
「あの白い花を夕顔と申します。人間のような名でございまして、こうした卑しい家の垣根かきねに咲くものでございます」
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
金網の垣根かきねとは違う別の板塀いたべいで、全くのぞかれないように囲ってあるけれども、距離的には一番裏の家に近いので、もとシュトルツ一家がいた頃には
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
……さて、あたれば、北国ほくこく山中さんちゆうながら、人里ひとざと背戸せど垣根かきねに、かみかせたもゝさくらが、何処どこともそらうつらう。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
垣根かきね近邊ほとりたちはなれて、見返みかへりもせず二三すゝめば遣水やりみづがれおときよし、こゝろこゝにさだまつておもへば昨日きのふれ、彷彿はうふつとして何故なにゆゑにものおもひつる
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
源四郎げんしろうはなお屋敷やしきのすみずみの木立こだちのなか垣根かきねのもとから、やほこりのたぐいをはきだしては、物置ものおきのまえなるくりの木のもとでそれをやしている。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
彼女は窓のところへもどって行き、窓掛の後ろに隠れてながめた。彼は山荘の入り口に、畑地の垣根かきねを背にして立ち止まっていた。あえてはいり得ないでいた。
みぞをまたぎ、生籬いけがきを越え、垣根かきねを分け、荒れはてた菜園にはいり、大胆に数歩進んだ。すると突然、その荒地の奥の高く茂ったいばらの向こうに一つの住家が見えた。