依然いぜん)” の例文
よる戸毎こごと瓦斯がす電燈でんとう閑却かんきやくして、依然いぜんとしてくらおほきくえた。宗助そうすけこの世界せかい調和てうわするほど黒味くろみつた外套ぐわいたうつゝまれてあるいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
窃盜せつたう姦淫かんいん詐欺さぎうへてられてゐるのだ。であるから、病院びやうゐん依然いぜんとして、まち住民ぢゆうみん健康けんかうには有害いうがいで、不徳義ふとくぎなものである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
と叫ぶかん高い声を聞いて、左膳は、何はともあれ脱出するのが目下の急務だから、依然いぜん縁さきに佇立ちょりつする源十郎をしりめにかけて
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
毎日毎日彼は窓にぶら下った虱を見詰める。初め、もちろんそれは一匹の虱に過ぎない。二三日たっても、依然いぜんとして虱である。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
きたほううみは、依然いぜんとして銀色ぎんいろこおって、さむかぜいていました。そして、あざらしは、氷山ひょうざんうえに、うずくまっていました。
月とあざらし (新字新仮名) / 小川未明(著)
石太郎は、むちでこめかみをぐいとおされ、左へぐにゃりとよろけたが、依然いぜんてれたような表情で、沈黙しているばかりである。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
伝吉でんきち駕籠かごなかはなあたまッこすってのひとり啖呵たんかも、駕籠屋かごやにはすこしのもないらしく、駕籠かごあゆみは、依然いぜんとしてゆるやかだった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
しかうすひかりはたけうねかたちづくつてなが小山こやま頂點ちやうてんえていくらもちからおよぼさなかつた。どのうねでもそのかげ依然いぜんとしてしろかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
其後そのごをとこからなんつてやつても、をんなからは依然いぜんとして毎月まいげつじつに『御返事ごへんじつてります』の葉書はがきた。とう/\それが一年間ねんかんつゞいた。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
ついでながら、わたくしわたくし生前せいぜん良人おっととの関係かんけいいま依然いぜんとしてつづいてり、しかもそれはこのまま永遠えいえんのこるのではないかとおもわれます。
五月にいたりても人の手をつけざる日蔭ひかげの雪は依然いぜんとして山をなせり、いはん山林幽谷さんりんいうこくの雪は三伏の暑中にも消ざる所あり。
通常疱瘡神として住吉大明神すみよしだいみょうじんを祭ったものでしたが、いくら住吉大明神を祭っても、疱瘡は依然いぜんとしてその勢いをたくましゅうしたのであります。
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
依然いぜんとして、閑父のよき友であり、時としてはよきである。師であるとは、勿論子の方が父の師であるという意味だ。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
發掘はつくつ結果けつくわ依然いぜんとして多量たりやう彌生式土器破片やよひしきどきはへんおよどう徳利形とくりがた上半部じやうはんぶを(水谷氏みづたにし、二望蜀生ばうしよくせい、三掘出ほりだした。
しかしその材料ざいれう構造こうざう依然いぜんとして舊來きうらいのまゝで、耐震的工風たいしんてきくふうくはふるがごと事實じじつはなかつたので、たゞ漸次ぜんじ工作こうさく技術ぎじゆつ精巧せいこうすゝんだまでである。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
一行中の朴拳闘ぼくけんとう選手が、この男をみるなり、「金徳一だ!」とさけび、けよって手をにぎっていましたが、その男の表情は、依然いぜん白痴はくちに近いものでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
さて、その日の午後になりますと、事件はようやく現実味を帯びて来ました。長吉の行方は、中村家でも手を尽して探したらしいのですが、依然いぜんとして不明です。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それもそのはず、地中に細長い白色地下茎はくしょくちかけい縦横じゅうおうに通っていて、なえを抜く時にそれが切れ、依然いぜんとして地中に残り、その残りからまたなええるからである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
大島小學校おほしませうがくかういまむら經濟けいざい維持ゐぢしてますが、しかしむら經濟けいざい首腦しゆなう池上權藏いけがみごんざうですから、學校がくかう保護者ほごしや依然いぜんとしてむかし覺悟かくごまできめた百姓ひやくしやう權藏ごんざうであります。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
しかれども打者の打撃だげき球に触れざる時は打者は依然いぜんとして立ち、攫者キャッチャーは後(一)にありてその球を止めこれを投者ピッチャーに投げ返す。投者は幾度となく本基に向って投ずべし。
ベースボール (新字新仮名) / 正岡子規(著)
同氏は禅学熱心家で殊にそういう殺生せっしょうな商売をしなくても充分生活の出来る人であるに拘わらず、依然いぜんとして鶏商かしわやをやって居りますから東京からしばしば書面を送っていさ
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
その後、秀吉の軍は、一塁一塁を力攻して、いまはかつて官兵衛がいた頃の平井山の本陣をずっと前方へすすめ、依然いぜんとして、なお陥ちずにいる三木の城とむかい合っていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、お君は依然いぜんとしてお君であったが、しかし、お君の眼のまわりが目立ってくろずんでいた。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
二人の眼は、依然いぜんとして生徒の群にそそがれたまま、二間、三間と通り過ぎて行った。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
依然いぜんたる覆面のため、顔色はうかがうよしもないが、動作は明かに元気づいてみえた。そして大辻も加わって久し振りで三人が揃って食卓についた。しかし探偵談は一切ぬきであった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
とらへて引立ひきたつるにらばまゐるべしおはなしなされ大方おほかた人違ひとちがひとおもへどおにかゝりしうへならではおうたががたからん御案内ごあんないたのまをすと明瞭めいれうこたへながらこゝろうち依然いぜん濛々漠々まう/\ばく/\
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
が、私は依然いぜん警戒を怠らず、書記中に他の問題に自分の考を占領させるべく努め、難解の書物をひもといて、推理を試みつつあったが、それでも通信は、何の障害なしに、規則正しく現れた。
だからわたくしはらそこ依然いぜんとしてけはしい感情かんじやうたくはへながら、あの霜燒しもやけの硝子戸ガラスどもたげようとして惡戰苦鬪あくせんくとうする容子ようすを、まるでそれが永久えいきう成功せいこうしないことでもいのるやうな冷酷れいこくながめてゐた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
月は依然いぜんとして照っていた。が、その月も彼の眼には入らなかった。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
借入金かりいれきん依然いぜんとして益々ます/\える一ぱうである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
依然いぜんたる前後の暗黒あんこくであった。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
窃盗せっとう姦淫かんいん詐欺さぎうえてられているのだ。であるから、病院びょういん依然いぜんとして、まち住民じゅうみん健康けんこうには有害ゆうがいで、かつ不徳義ふとくぎなものである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「教頭は角屋へ泊ってるいという規則がありますか」と赤シャツは依然いぜんとして鄭寧ていねいな言葉を使ってる。顔の色は少々蒼い。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
五月にいたりても人の手をつけざる日蔭ひかげの雪は依然いぜんとして山をなせり、いはん山林幽谷さんりんいうこくの雪は三伏の暑中にも消ざる所あり。
北の方の海は、依然いぜんとして銀色ぎんいろこおって、寒い風が吹いていました。そして海豹は、氷山の上にうずくまっていました。
月と海豹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして依然いぜんとして『御返事ごへんじつてります』とある。をとこ少々せう/\氣味きみわるくなつた。とう/\また葉書はがきが十二まいたまつた。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
といつておしな獨斷どくだん決行けつかうするのにはあま大事だいじであつたのである。さうしてそれは決定けつていされる機會きくわいもなくて夫婦ふうふ依然いぜんとして農事のうじ忙殺ばうさつされてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
人の良い兄弟子の嬉しそうな笑顔えがおを見て、若い子貢も微笑を禁じ得ない。聡明そうめいな子貢はちゃんと知っている。子路のかなでる音が依然いぜんとして殺伐な北声に満ちていることを。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
娘は見る人のあるのを知ってか知らずにか、依然いぜんとして放心のさまで沼の表を見入っています。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
石太郎はだまって、依然いぜん、土手の声に聞き入っていたが、やがて、土手についていたもう一方の手が、ぐっと草をつかんだかと思うと、土管の中から、右手を徐々じょじょにぬきはじめた。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
いつの間にか、聖者せいじゃは博士の前に近く立っていた。ふしぎである。博士は、自分の現在の居場所を知るために、あたりに目を走らせた。依然いぜんとして、同じ城壁の上に居るのであった。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
錦を着て郷土に帰る者が幾人いくにんありましても、郷土は依然いぜんとしてぼろを着たままであり、時としては、そうした人々を育てるために、郷土はいっそうみじめなぼろを着なければならない
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
一つ会社に十何年間かこつこつと勤め、しかも地位があがらず、依然いぜんとして平社員のままでいる人にあり勝ちな疲労ひろうがしばしばだった。橋の上を通る男女や荷馬車を、かぬ顔して見ているのだ。
馬地獄 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
依然いぜんとして、そここことなく見廻して笑っているのだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と、依然いぜん沈思ちんしのすがたを守っていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宗助そうすけ何時いつものやう縁側えんがはからちやかずに、すぐ取付とつつきふすまけて、御米およねてゐる座敷ざしき這入はいつた。ると、御米およね依然いぜんとしててゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
勘次かんじとおしな相思さうし間柄あひだがらであつた。勘次かんじ東隣ひがしどなり主人しゆじんやとはれたのは十七のふゆで十九のくれにおしな婿むこつてからも依然いぜんとして主人しゆじんもとつとめてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
また患者くわんじやあし依然いぜんとしてもんにはえぬ。あさからひるまでる四十にん患者くわんじやに、奈何どうして確實かくじつ扶助たすけあたへることが出來できやう、故意こいならずとも虚僞きよぎしつゝあるのだ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
さてあしたに見ればくゝしたるなは依然いぜんとしてもとのごとく、菓子折は消失きえうせたるがごとし。
だがはっきりした証拠しょうこは、どこにもないのだ。なにしろ、山形警部は依然いぜんとして行方不明である。山形警部の肉体は今どこにどうしているのか、それが今も発見されないままなのだ。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)