かつ)” の例文
勿論学んでつくしたりとは言はず。かつ又先生に学ぶ所はまだ沢山たくさんあるやうなれば、何ごとも僕にぬすめるだけは盗み置かん心がまへなり。
田端人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
谷から吹き上げる風は冷くかつ強いにもかかわらず、絶頂は不思議に風が当らない許りか、風呂場へ這入った時のように生温くさえ感じた。
降ると見ばの歌を聞いたとて毒を飼われてしまった後に何になろう。かつ其歌も講釈師が示しそうな歌で、利休が示しそうな歌ではない。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
かつは武士という身分の手前、自分だけは相変らず奥の便所へ通っていると、それから二日目の晩にまたもやその戸が開かなくなった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
りたてのかべ狹苦せまくるしい小屋こや内側うちがはしめつぽくかつくらくした。かべつち段々だん/\かわくのが待遠まちどほ卯平うへい毎日まいにちゆかうへむしろすわつてたいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
繊細、強靭、かつ疳がつよくて、音に対する態度は貴族的であり命令的である。嵩よりも線の感じのつよい指揮の態度なのであった。
近頃の話題 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
かつその結果として、代々同じような調子で世襲財産と家名とが親から子へと伝えられて来た為めに、二つの物は遂に全然同一になって
かつ面白おもしろ人物じんぶつであるから交際かうさいして見給みたまへとふのでありました、これからわたしまた山田やまだ石橋いしばしとを引合ひきあはせて、桃園とうゑんむすんだかたちです
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その女の蝋のように冷たくかつ白い皮膚に手を触れてメスをあてた時は、一種異様の戦慄が、指先の神経から全身の神経に伝播でんぱんした。
恋愛曲線 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
かつまた、それだけに特別の努力も払われたことはなく、大して新生面も附け加えられて来なかったように考えられてならぬのである。
FARCE に就て (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
雪吹にあひたる時は雪をほり身を其内にうづむれば雪暫時ざんじにつもり、雪中はかへつてあたゝかなる気味きみありてかつ気息いきもらし死をまぬがるゝ事あり。
彼少女は粗暴なる少年に車をかれて、かつおそれ且は喜びたりき。彼少女は面紗めんさきびしく引締めて、身をば車の片隅に寄せ居たり。
青差あおざし拾貫文じっかんもん御褒美下し置かるゝ有難く心得ませい、かつ半右衞門の跡目相続の上、手代萬助は其の方において永のいとま申付けて宜かろう
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
もっとも此十年ばかりは余程中風めきて危く見え、かつ耳も遠くなり居られ候故、長くは持つまじと思ひ/\是迄これまで無事なりしは不幸中の幸なりき。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
藤田東湖が『瓢兮』の詩の中に曰く、『夭壽えうじゆめいあり汝罪なんぢのつみにあらず姓名せいめいかつ驥尾きびにふしてつたう
酒に死せる押川春浪 (旧字旧仮名) / 大町桂月(著)
かつ、爆発現状の目撃者が重傷、惨死、又は人事不省に陥っている為め目下の処、事件の真相について、何等の手がかりを得ず——
ココナットの実 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
支那は文化古く世界の中国であるが日本は支那の文化を輸入して僅に最近文化的になったばかりの国でありかつ東海の叢爾たる島国である。
日本上古の硬外交 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かつゆびさきへでも、ひらうへへでも自由じいうしりすわる。それがしりあな楊枝やうじやうほそいものをむとしゆうつと一度いちど收縮しうしゆくして仕舞しまふ。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ガランとして人気ひとけもない中に、雪持寒牡丹の模様の着つけに、紫帽子の女形おやまが、たった一人、坐った姿は、異様でかつあやしかった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
生々せいせい又生々。営々えいえいかつ営々。何処どこを向いてもすさまじい自然の活気かっき威圧いあつされる。田圃たんぼには泥声だみごえあげてかわずが「めよえん」とわめく。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
きゝ與惣次は大いに喜び然ば御途中とちう待受まちうけて直に願はゞ萬一傳吉が助かることもあらんかかつはお專が氣をも取直とりなほさせんと其のことを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
見張りはじめてより幾程いくほども無く余は目科の振舞にと怪しくかつ恐ろしげなる事あるを見てうせろくな人にはあらずと思いたり、其事はほかならず
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
民子は年が多いしかつは意味あって僕の所へゆくであろうと思われたと気がついたか、非常にじ入った様子に、顔真赤にして俯向うつむいている。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
あなたの一般的批評はその観察の深くかつ大にして肯綮こうけいに当つて居る事を示して居り、あはせてあなたの天才を引立たせて居ります。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
そしてすでに三十五年も前に、メンデルが立派に同じ結果を出して居て、かつそれを詳しく説明していることまで、すっかりわかったのでした。
グレゴール・メンデル (新字新仮名) / 石原純(著)
辛くもその家を遁走したりけるが家に帰らんも勘当の身なり、かつは婦人に捜出さがしいだされんことをおもんぱかりて、遂に予を便たよりしなり。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
みちに一騎の驕将をらすといふ一段を五行或は四行の大字にものしぬるに字行じのかたちもシドロモドロにてかつ墨のかぬ処ありて読み難しと云へば
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
されば他国かのくにひじりの教も、ここの国土くにつちにふさはしからぬことすくなからず。かつ八三にもいはざるや。八四兄弟うちせめぐともよそあなどりふせげよと。
母様はますますあなたを可愛かあいがり、あなたもますます母様に尽したのでした。この日頃ひごろあなたは病気ではあったものの、なおかつ機嫌がよかった。
少年・春 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
私は事の意外さ、かつは恐しさに、最早もはや何の影もない鏡の表を見つめたまま、暫くはその場を動くことも出来ませんでした。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
当地伯林に於いては、私達はほとんど全く戦争のあることを感じません。劇場もカフェエも一杯客が詰まっており、食物は十分でかつ美味であります。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
依之増修ぞうしうせつに於て此事はかの書に見しとおぼえしも、其書を蔵せざれば急就きうしの用にべんぜず、韈癬べつせんするが多し。かつ浅学せんがくなれば引漏ひきもらしたるもいと多かるべし。
つまり神楽坂にも段々高級ないいカッフエが出来、それで益々土地が開けかつその繁栄を増すように思われたからだった。
早稲田神楽坂 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
かつまた、弱り切ったお君の姿を見ると、このうえ駕籠に揺られて、けわしい山越しをさせることは考えものであります。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
されど、主親につかふる者は食することなかれ、はからず不忠不孝の名を下すべし、かつその人品を損なふことあり
河豚 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
數歩にして既にその舊道のいかに嶮に、かついかに荒廢に歸したるかを知りぬ。昔の大路たいろには荊棘けいきよく深く茂りて、をり/\よこたはれる小溪には渡るべき橋すら無し。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
かつその学問上に研究する事柄もその方法も本人の思うがまゝに一任してかたわらよりくちばしれず、その成績の果してく人を利するか利せざるかを問わざるのみか
人生の楽事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
かつ性來せいらい記憶力きおくりよくとぼしきは、此等これら病症びやうしやうためます/\その※退げんたいするをかんじ、治療法ちれうはふ苦心くしんせるときたま/\冷水浴れいすゐよくしてかみ祷願たうぐわんせばかなら功驗こうけんあるしとぐるひとあり。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
かさねしが當代たうだい新田につたのあるじはいへにつきて血統ちすぢならず一人娘ひとりむすめ入夫にふふなりしかばあひおもふのこゝろふかからずかつにのみはし曲者くせものなればかねては松澤まつざは隆盛りうせい
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
而して其由来する所は、浄瑠璃じやうるりの朗誦法に帰すべく、かつは又た我邦言語の母韻に終る事情にも帰すべしと雖、しよくとして整合の、余りに厳格なるに因せずとせんや。
劇詩の前途如何 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
妙見は普賢より四十米低いに過ぎないが、この内側面に面した方は急峻きゅうしゅんで、普賢がその前にきたり、かつ密林におおわれているため、ただ西南の展望を有するに過ぎぬ。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
十八歳以上二十七八歳までの、真面目にしてかつ愛嬌あり、常識を有し、一生夫に忠実にして、血統正しく上品なる婦人ならば、貧富を問わず、妻として迎え優遇す。
自殺を買う話 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
この偉大ゐだい現象げんしやうおこさせるものは人間以上にんげんいじやうもの人間以上にんげんいじやうかたちをしたものだらう。この想像さうざう宗教しうけうもととなり、化物ばけもの創造さうざうするのである。かつまた人間にんげんには由來ゆらい好奇心かうきしんる。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
雨かとまがふばかり淙々として響く渓流の音を、灯火暗き半夜の床に聴く時は、寂しくかつ心細い。
山の宿海の宿 (新字旧仮名) / 河井酔茗(著)
お話中ですが、われわれは非常に多忙でありますし、かつまた非常に重大事件を数多抱えて居りますために、なるべくつまらんことでわれわれをわずらわさないように願いたい。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
初め旧幕に阿諛あゆし、恐多おそれおほくも廃帝之説を唱へ、万古一統の天日嗣あまつひつぎあやううせんとす。かつ憂国之正士を構陥讒戮こうかんざんりくし、此頃外夷ぐわいいに内通し、耶蘇やそ教を皇国に蔓布まんぷすることを約す。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
いな大いに世の文明を進め人の智識を加うるに稗益あり、かつそれこゝろみ言語げんぎょと文章の人の感情を動かすの軽重に就て爰に一例を挙んに、韓退之かんたいし蘇子瞻そしせんの上に駕する漢文の名人
松の操美人の生埋:01 序 (新字新仮名) / 宇田川文海(著)
治承四年六月頃の出来事であったのだが、にわかに都が他の場所に移った事があった。この事が非常に急に、不意打ちに行われたので都の住人は驚きかつは狼狽したのであった。
現代語訳 方丈記 (新字新仮名) / 鴨長明(著)
しかし、春枝夫人はるえふじん日出雄少年ひでをせうねんとはわたくしかたとも保證ほしやうしてひとかつ纎弱かよわ女性によせうと、無邪氣むじやきなる少年せうねんであれば、この二人ふたりをば避難ひなんせしめんとしきりこゝろいらだてたのである。
かつ既ニ不覊独立ノ国ト為リタルガ故ニ、或ハ師ヲ出シ或ハ和睦ヲ議シ、或ハ条約ヲ結ビ或ハ貿易ヲ為ス等、すべテ独立国ニ行フベキ事件ハ我国ニ於テモ之ヲ施行スルノ全権アリ。