つり)” の例文
しかしその頃には差当さしあたり生活には困らない理由があったので、玉突たまつきつりなどに退屈な日を送るかたわら、小説をもかいて見た事があったが
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
殿様来月四日に中川へつりいらっしゃると承わりましたが、此のあいだお嬢様がお亡くなり遊ばしてもない事でございますから、うか釣を
それでつりに行くとか、文学書を読むとか、または新体詩や俳句を作るとか、何でも高尚こうしょうな精神的娯楽を求めなくってはいけない……
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
武は、モウ成人おとなになつて、此湖水などへは舟で幾度も遊びに来たことが有り升。しかし其後鼻でつりをしたといふうはさは、一度もきこえません。
鼻で鱒を釣つた話(実事) (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
つり道具だうぐげて、友伯父ともをぢさんたち一緒いつしよ胡桃くるみえる谷間たにあひ出掛でかけますと、何時いつでもとうさんはさかなられてしまふか
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
きょうも晴れつづいたので、浴客はみな元気がよく、桂川の下流へつりに行こうというのもあって、風呂場は頗る賑わっている。
秋の修善寺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかも福沢にとって西南倒幕派はいつまでも「彼らが取って代ったらおつりの出るような攘夷家」(『自伝』)として映じ
福沢諭吉 (新字新仮名) / 服部之総(著)
赤ん坊のころ、若い母親の不注意から、つりらんぷの下へ蚊帳かやを釣って寝させておいたら、どうした事か洋燈ランプがおちて蚊帳の天井が燃えあがった。
しからばすなわこれとって代ろうと云う上方かみがたの勤王家はドウだと云うに、彼等がかわったらかえっておつりの出るような攘夷家だ。コリャ又幕府よりか一層悪い。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
つまり「つりをしていると、水底みずぞこから、ずっと深く、おぼろに三尺ほどの大きさで、顔が見えて、馬のような顔でもあり、女のような顔でもあった。」
夜釣の怪 (新字新仮名) / 池田輝方(著)
其日そのひはそれでわかれ、其後そのごたがひさそつてつり出掛でかけたが、ボズさんのうちは一しかないふる茅屋わらや其處そこひとりでわびしげにんでたのである。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
この人も良い人であったけれども小普請いりになって、小普請になってみればひまなものですから、御用は殆どないので、つりを楽みにしておりました。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それは、まい日、まい日、野あそびに出る、かりに行く、つりをする、ダンスの会だの、夜会やかいだの、お茶の会だのと、目のまわるようなせわしさでした。
青ひげ (新字新仮名) / シャルル・ペロー(著)
つりをする、網を打つ、鳥をさす、みんな人の智慧で、何も知らない、分らないから、つられて、刺されて、たべられてしまうのだトこういうことだった。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一寸ちよつとればぐに完全くわんぜんものくらゐかんがへて見物連けんぶつれんは、一かうなにないので、つりるよりもだつまらぬなど、そろ/\惡口わるくち掘出ほりだすのである。
つり仲間の遊び友達——と言つちや失禮だが、何處へ行くんでも、お供はあつしでしたよ。若旦那が向島に居たものなら、三丁先から匂ひでもわかりますよ
明方あけがたにはまたぽつ/\降って居たが、朝食あさめしを食うと止んだ。小舟でつりに出かける。汽車の通うセバットの鉄橋のあたりに来ると、また一しきりざあと雨が来た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そしてすっかり自惚うぬぼれのあまり、ついに溝板みぞいたの割目から杖を差入れて、往来の中でつりをするまでになった。
崖の樹木は水をすう化鳥の形に押し合って青暗い淵のうえに頸をのばしている。ふと見れば汀からのりだしたほおの木の枝にひとりの女が腰をかけて一心につりをしている。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
清ちやんは「白瓜」とはれたことが、とてもつらかつたので、今年はどこへも行かずに、暇さへあれば舟を借りて、近所のおじいさんとつりに出たり、浮環うきわをもつて泳いだり
黒んぼ会 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
それを無理に紫繻子が引張るので、そのたびに、つかまっている柱がしなって、テント張りの小屋全体が、大風の様にゆれ、アセチリン瓦斯ガスつりランプが、鞦韆ぶらんこの様に動いた。
踊る一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ただそのつりをしている所へ偶然来かかった平四郎に釣道具を奪われようとしただけである。
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あぶのような羽虫はむしも飛んでいる。河上ではつりをしている人もいる。何が釣れるのか知らない。底まで澄んでみえるような水の青さだった。時々、客を乗せた屋形船やかたぶねが下りて来る。
田舎がえり (新字新仮名) / 林芙美子(著)
楽浪ささなみ比良山風ひらやまかぜうみけばつりする海人あまそでかへる見ゆ 〔巻九・一七一五〕 柿本人麿歌集
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
『陣中狼火のろしの法』のひとつで、凧糸のつりにむずかしい呼吸のあるもの、また、これをあげるにも相当のわざがあって、八歳や十歳の子供などにあつかえるようなしろものじゃない。
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
寺務じむいとまある日はうみに小船をうかべて、網引あびきつりする泉郎あまに銭をあたへ、たる魚をもとの江に放ちて、其の魚の遊躍あそぶを見ては画きけるほどに、年を細妙くはしきにいたりけり。
彼の聴水ちょうすいつりよせて、首尾よく彼奴きゃつを討取らば、いささ菩提ぼだいたねともなりなん、善は急げ
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
「一分ですって——遊べるどころじゃあねえ、飲んで食って遊んでおつりが来ますぜ」
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そのため竹細工のわざにも見るべきものがあります。海辺でありますからつりで用いるびくなどにも美しい出来のを見かけます。竹細工の一つで「たけ子笠こがさ」と呼ばれているものがあります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
その四銭の買物をするには三分の二の十六銭の銀貨を持って行って、向うから半分の銀貨即ち十二銭のつりを取るのです。ところがどうかするとその半分の銀貨が売手にないことがある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
團子屋だんごや頓馬とんまたゞおかぬとうしほのやうにわきかへるさわぎ、筆屋ふでやのき掛提燈かけぢようちんもなくたゝきおとされて、つりらんぷあぶなし店先みせさき喧嘩けんくわなりませぬと女房にようぼうわめきもきかばこそ、人數にんず大凡おほよそ十四五にん
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
つりして雑魚ざこをかついでかえっても、なりわいの足しにはならないからである。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
『鬼あらそい』の大名は、臆病者でありますし、『萩大名』の大名は、無学無風流でござりますし、『墨塗すみぬり』『伊文字いもじ』『つり女』などに、姿を現わす大名と来ては、好色でしかたがございません。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
店は息子むすこゆずって、自分は家作かさくを五軒ほど持って、老妻と二人で暮らしているというのんきな身分、つりと植木が大好きで、朝早く大きな麦稈帽子むぎわらぼうしをかぶって、笭箵びくを下げて、釣竿つりざおを持って
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
海中かいちう魚族ぎよぞくにも、優勝劣敗ゆうしやうれつぱいすうまぬかれぬとへ、いまちいさ沙魚ふかおよいでつたなみそこには、おどろ巨大きよだいの一りて、稻妻いなづまごとたいをどらして、たゞくちわたくしつりばりをんでしまつたのだ。
二人は百方手をくして、シャクが常に部落民としての義務を怠っていることに、みんなの注意を向けようとした。シャクはつりをしない。シャクは馬の世話をしない。シャクは森の木をらない。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
里人の往来、小車おぐるまのつづくの、田草を採る村の娘、ひえく男、つりをする老翁、犬を打つわらべ、左に流れる刀根川の水、前にそびえる筑波山つくばやま、北に盆石のごとく見える妙義山、隣に重なッて見える榛名はるな
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
異人答えて曰く、もと修するの法なし、かつて九郎判官ほうがんに随従して高館にいるとき、六月衣川ころもがわつりして達谷たっこくに入る。一老人あり招きて食をきょうす。肉ありその色はしゅのごとく味美なり、仁羮じんこうと名づく。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
受とり是で勘定をとつくれそれ二分渡すぞと云に女は受取ゆきすぐつり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いつかターマンがつりをしてゐたところです。
シロ・クロ物語 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
萌えいでにけるつりしのぶ。
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
つりの帰りらしい小舟がところどころのように浮いているばかり、見渡す隅田川すみだがわは再びひろびろとしたばかりかしずかさびしくなった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
赤シャツに勧められてつりに行った帰りから、山嵐やまあらしを疑ぐり出した。無い事を種に下宿を出ろと云われた時は、いよいよ不埒ふらちやつだと思った。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
寢覺ねざめには、浦島太郎うらしまたらう釣竿つりざをといふものがりました。それも伯父をぢさんのはなしてれたことですが、浦島太郎うらしまたらうつりをしたといふいはもありました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
それから、気味が悪いなと思いながら、依然やっぱりつりをしていると、それが、一度消えてなくなってしまって、今度は判然はっきりと水の上へ現われたそうです。
夜釣の怪 (新字新仮名) / 池田輝方(著)
さうネ、いつか来てもいいけど、何にもつれやしまひと思ひ升よ、それにつりをするには針だのだのなければなりませんもの、一寸ちよいとは来られないの。
鼻で鱒を釣つた話(実事) (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
それればですが、それにしたところで、近所きんじよ遊山宿ゆさんやどたのが、ぬまつりをしたのか、それとも、なんくになんさとなんいけつたのが
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大江の上には帆走ほばしっているやや大きい船もあれば、ささの葉形の漁舟ぎょしゅうもあって、漁人のつりしているらしい様子も分る。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
くて其の月も過ぎて八月の三日となり、いよ/\明日あすはお休みゆえ、殿様と隣邸となりの次男源次郎と中川へつりく約束の当日なれば、孝助は心配をいたし
その草叢くさむらの中には、所々に小さな池や溝川みぞがわのようなものもあって、つりなどをしている人も見えた。今日こんにちでは郡部へ行っても、こんな風情は容易に見られまい。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)