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釣下
船は小さし、
胴の
間へ
突立って、
釣下って、
互違に手を掛けて、川幅三十
間ばかりを
小半時、
幾度もはっと思っちゃ、
危さに
自然に目を
塞ぐ。
中にも目に着いたのは、一面の壁の隅に、
朦朧と灰色の
磔柱が
露われて、アノ胸を
突反らして、胴を橋に、両手を開いて
釣下ったのは、よくある
基督の
体だ。
かくても
未だ
怒は解けず、お村の
後手に
縛りたる縄の
端を
承塵に
潜らせ、天井より
釣下げて、一太刀
斬附くれば、お村ははツと我に返りて
盆前よりかけて
暑さの
時分をこれが
時よと
大汗になりての
勉強せはしなく、
揃へたる
籘を
天井から
釣下げて、しばしの
手數も
省かんとて
數のあがるを
樂しみに
脇目もふらぬ
樣あはれなり。