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釣下
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つりさが
船は小さし、
胴の
間へ
突立って、
釣下って、
互違に手を掛けて、川幅三十
間ばかりを
小半時、
幾度もはっと思っちゃ、
危さに
自然に目を
塞ぐ。
中にも目に着いたのは、一面の壁の隅に、
朦朧と灰色の
磔柱が
露われて、アノ胸を
突反らして、胴を橋に、両手を開いて
釣下ったのは、よくある
基督の
体だ。
あれ、
釣下つた
電燈の
上の
所に、
變な
物がつて、
身悶えをするんですもの。
氣味の
惡さツたら!
……
軒も
門も
傾いて、
破廂を
漏る
月影に
掛棄てた、
杉の
葉が、
現に
梟の
巣のやうに、がさ/\と
釣下つて、
其の
古びた
状は、
大津繪の
奴が
置忘れた
大鳥毛のやうにも
見える。
萌黄、
淡紅しどけない
夜の
調度も
部屋々々にあからさまで、
下屋の
端には、
紅い
切も
翻々する。
寢轉んだ
男、
柱に
凭つた
圓髷姿、
膳を
運ぶ
島田髷が
縁側を——
恁う
宙に
釣下つたやうに
通る。