せい)” の例文
「たいへんにせいるな。」と、つきはいいました。馬追うまおいはびっくりして、二ほんながいまゆうごかして、こえのしたそらあおぎながら
酒屋のワン公 (新字新仮名) / 小川未明(著)
このうちつぶせ!』とうさぎこゑあいちやんはせい一ぱいおほきなこゑで、『其麽そんなことをすればたまちやんを使嗾けしかけるからいわ!』とさけびました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
しかし何せよ、慓悍無比ひょうかんむひな命しらずである。ただでさえせいのおとろえている伊那丸は、無念むねんや、ジリジリ追われ勝ちになってきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
葉子はせいこんも尽き果てようとしているのを感じた。身を切るような痛みさえが時々は遠い事のように感じられ出したのを知った。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
小指を掛けてもすぐかえりそうな餌壺は釣鐘つりがねのように静かである。さすがに文鳥は軽いものだ。何だか淡雪あわゆきせいのような気がした。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これにてつみ成立せいりつし、だいくわい以後いごはそのつみによりていかなる「ばつ精神的せいしんてきばつ心中しんちうおに穿うがでゝます/\せいます/\めうなり。多言たげんするをこのまず。
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
足を引きずって、この新しい主人にくっついて歩くのがせいいっぱいであった。けれども休ませてくれとは言いだしなかった。
蚊相撲かずもう』という狂言に近江おうみの国から出て来た男をかかえると、それが蚊のせいであったというのがあるが、大方近江に蚊は名物なのであろう。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
まつうめせいくらべるとたけせいはずっとやせぎすで、なにやらすこ貧相ひんそうらしくえましたが、しかし性質せいしつはこれが一ばん穏和おとなしいようでございました。
「失礼でございますがあなたはどなたでしょうか」とかれはききかえした。「わたしはこの水の底に住んでいる水のせいじゃ」
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
くつも、靴下くつしたも、ふくらはぎ真黒まっくろです。緑の草原くさはらせいが、いいつけをまもらない四人の者に、こんなどろのゲートルをはかせたのです。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
元の廊下に戻ると、お君はせいこんも尽き果てて、板戸を掻きむしりながら、ヒイ、ヒイと悲鳴をあげておりました。
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
すこしやそつとの紛雜いざがあろうとも縁切ゑんきれになつてたまものか、おまへかた一つでうでもなるに、ちつとはせいして取止とりとめるやうにこゝろがけたらかろ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
鳥が飛び過ぎると忽ちにちるというので、その樹にはせいがあると伝えられていたが、寿がそれにも法を施すと、盛夏まなつにその葉はことごとく枯れ落ちて
うまくはないかもしれないが躯にせいをつけるものだから、と云ったということづけを、しどろもどろに述べた。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
わたし自身の心のうちの観念がせいぜいよく考えて見ても、すでに曖昧糢糊あいまいもこたるものであるから、そんなことを書こうなどというのは烏滸おこがましきわざだと思う。
ちょいと凄味すごみを見せようというつもりらしい。勝手にあががまちへ腰を下ろして、せいぜい苦味走って控えながら
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
つゆ草を花と思うはあやまりである。花では無い、あれは色に出た露のせいである。姿もろく命短く色美しい其面影は、人の地に見る刹那せつなの天の消息でなければならぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
在来とてもこんな場合に睡さうな眼をしたとは云へ、今日のはまるで行路病者こうろびょうしゃのそれのやうな、せいこんれ果てた、疲労しきつた色を浮かべてゐるではないか。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
金髮を風の脣に、白いはだへを野山のせいにみえぬ手に、無垢むくの身を狂風に乘る男に、おまへはまかせる。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
以て資本もとでとなし是より表へいでて小切類にても賣夫婦してせいを出し金をたくはへたる上一年も早く娘の身受を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ベッドがみしみしとふるえ、煙突の中では何かがちょうど家のせいのようにしゅうしゅう鳴っていた。
柚子の身体は、一瞬、水に隠れて見えなくなったが、ほどなく頭から水をたらし、なにかの絵にあったみずせいの出来損いのような、チグハグな表情であらわれてきた。
春雪 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そんなことでもいったら、そりゃ、あたしが間違いだ。この土地で、お前さんぐらいせいを出して働く女は一人だっていやしない。ただ、お前さんは、年を取ってきた。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「別役のせい様がこないだから連れて行てくれい云いよりましたがのうし。」「そうかそれでは呼んで来い」とて下女をやった。間もなく来たから連れ立って裏門を出た。
鴫つき (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
もだくるしみ、泣き叫びて、死なれぬごふなげきけるが、漸次しだいせいき、こん疲れて、気の遠くなり行くにぞ、かれが最も忌嫌いみきらへるへび蜿蜒のたるも知らざりしは、せめてもの僥倖げうかうなり
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
くせん。人の生、はじめて化するをはくという。すでに魂を生ず。陽をこんという。物を用いてせい多ければ、すなわち魂魄こんぱく強し。ここをもって、精爽せいそうにして神明に至るあり。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
久遠くをんのむかしに、天竺てんぢくの国にひとりの若い修行しゆぎやう僧が居り、野にいでて、感ずるところありてそのせいもらしつ、その精草の葉にかかれり。などといふやうなことが書いてあつた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
そして、仕事にせいを出し、一方で生活を切りつめれば、それぐらいのことは出来る。君の身分に応じた金額だ。第一回の百万円は一週間のうちに都合してもらいたい。わかったね
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
今はもうせいこんも盡き果てた、一歩を歩む力さへない。私は雨に濡れた戸口の階段の上に崩れるやうに坐つて了つた。私はうめいた——兩手を絞ぼつた。——私は激しい苦痛に泣いた。
その石のせいがどうしてまよって出てたのです。なにかわたしに御用ごようがあるのでしょうか。偶然ぐうぜんながら、こうして一晩ひとばんのお宿やどねがったおれいに、なにかしてげることがあればなんでもしましょう。
殺生石 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
〔評〕兵數はいづれかおほき、器械きかいは孰れかせいなる、糧食りやうしよくは孰れかめる、この數者を以て之をくらべば、薩長さつちやうの兵は固より幕府に及ばざるなり。然り而して伏見ふしみの一戰、東兵披靡ひびするものは何ぞや。
ぶすりとにべない容子ようすでも表面へうめんあらはれたよりもあたゝかで、をんなもろところさへあるのであつた。かれ盛年さかりころ他人たにんについたのは、自分自身じぶんじしん仕事しごとにはあませいさないやうにえることであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
はじめて花前はなまえに笑わせた下女げじょは、おせっかいにも花前にぜひ象牙ぞうげのはしの話をさせるといって、いろいろしんせつに世語せわをしたり、話をしかけたりしたけれど、しろりとわらわせるのがせい一ぱいで
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
が、やがて、気のせいだったかも知れない、と独りでめてしまった。
赤い手 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「あの分じゃ、今年中にはせいこんも吸い取られてしまうだろう」
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
二十八年徳の長子せいが三月二十二日に生れ、二十六日に夭した。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
(憤慨せる様にて書を飜し、地のせいの符を観る。)
白日まひるをわがせい香案つくゑ——君が
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
木立のせいは人を呼ぶ。
偏奇館吟草 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
少年しょうねんは、いつものように、せいいっぱいのこえしてうたったのです。やがて、うたいわると、それをっていたように、はたから
街の幸福 (新字新仮名) / 小川未明(著)
まへせい一ぱいつて御覽ごらん——だけど、わたし深切しんせつにしてやつてよ。でなければ、屹度きつとあしふことをかないわ!屹度きつとさうよ。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
いつか時節じせつたら、あなたにはきっとなん大事だいじのお仕事しごとさずけられますよ。うぞそのつもりで、今後こんごもしっかり修行しゅぎょうせいしてください。
宗助そうすけはそれをえないあいせいに、一種いつしゆ確證かくしようとなるべきかたちあたへた事實じじつと、ひとり解釋かいしやくしてすくなからずよろこんだ。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あとはせいさかんにして、百歳の若さを保つ爲めには、鳥兜とりかぶとの根から採る藥に限るさうだ。こいつはしかし恐ろしい毒藥だ、分量を間違へると立ちどころに死ぬ
あれでも燕作にしてみりゃ、せいいっぱいにやったつもりなんだが、なにしろ竹童のやつが必死ひっしってかかってきたので、すこし面食めんくらったというものさ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
在来とてもこんな場合に睡さうな眼をしたとは云へ、今日のはまるで行路病者こうろびょうしゃのそれのやうな、せいこんれ果てた、疲労しきつた色を浮かべてゐるではないか。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
太吉たきち小僧こぞうひとさしゆびさきいて、おふねこぐ眞似まねせいみせしなをばちよろまかされぬやうにしておれ、わたしかへりがおそいやうならかまはずとをばおろして
うらむらさき (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おまえもいっしょに来い……といって、駈け出したんじゃ間にあわねえし、町駕籠でもせいがねえ
顎十郎捕物帳:06 三人目 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
も云ず面を見詰みつめて居たりしが今日は仕方なし明日あすからはせいを出してかふやうに致されよ左右とかく其樣な事にては江戸えど住居すまひは出來難し先々御やすみなされと云捨いひすて我家わがやへこそはかへりけれ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)