こと)” の例文
何ぞかん、俗に混じて、しかもみづから俗ならざるには。まがきに菊有り。ことげん無し。南山なんざんきたれば常に悠々。寿陵余子じゆりようよし文を陋屋ろうをくに売る。
「あのことの主さ。君が大いに見たがった娘さ。せっかく見せてやろうと思ったのに、下らない茶碗なんかいじくっているもんだから」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
琴台きんだいの上に乗せてあるのは、二げん焼桐やきぎり八雲琴やくもごと、心しずかにかなでている。そして、ふとことの手をやめ、蛾次郎がじろうのほうをふりかえった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さほどに懇意でない人は必ず私の母をば姉であろうといた位でした。江戸の生れで大の芝居好き、長唄ながうたが上手でこともよくきました。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
このとき、ふと、おひめさまはおうたいなさるこえめ、おらしなさることひかえて、ずっととおくのほうに、みみをおましなされました。
町のお姫さま (新字新仮名) / 小川未明(著)
鹿じかなく山里やまざとえいじけむ嵯峨さがのあたりのあきころ——みねあらし松風まつかぜか、たづぬるひとことか、覺束おぼつかなくおもひ、こまはやめてくほどに——
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さびしきまゝにこと取出とりいだひとこのみのきよくかなでるに、れと調てうあはれにりて、いかにするともくにえず、なみだふりこぼしておしやりぬ。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
めばことをもくなり。彼が手玩てすさみと見ゆる狗子柳いのこやなぎのはや根をゆるみ、しんの打傾きたるが、鮟鱇切あんこうぎりの水にほこりを浮べて小机のかたへに在り。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
うれしい消息しらせなら、それを其樣そんかほをしてきゃるのは、ゆかしいらせのこと調しらべを臺無だいなしにしてしまふといふもの。
あるとき宮中きゆうちゆう女官じよかんたちがこの匡衡まさひら嘲弄ちようろうしようとたくんで、和琴わごん日本につぽんこと支那しなことたいしていふ)をして
○「お習字、生花いけばな、おこと、おどり——こういうものにかえってモダニティを感じ、習い度いと思うことはあるけれど、さて、いざとなって見るとね。」
現代若き女性気質集 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いうまでもなく、はちかつぎのひくことが、だれよりもいちばん気高けだかこえました。みんなはあっといっておどろきました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そうことは絃がゆるむわけではないが、他の楽器と合わせる時に琴柱ことじの場所が動きやすいものなのだから、初めからその心得でいなければならないが
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
まなこ閉づれば速く近く、何処いづこなるらんことの音聴こゆ かしら揚ぐれば氷の上に 冷えたるからだ、一ツ坐せり 両手もろてふるつて歌うたへば 山彦こだまの末見ゆ、高きみそら
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「これはきっと、あなたさまがついに天下をお治めになるというめでたい先ぶれに相違そういございません」と、こういう意味の歌をおことをひいて歌いました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
「伊豆屋のほうもある。しかし、こと二郎のことは、お前に任せてあるのだ。よろしきように取りはからうがよい」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかしこと生花いけばな茶道さどうによって教育され、和歌や昔物語によって、物のあわれの風雅ふうがを知ってた彼の妻は、良人と共に、その楽しみを別ち味わうことができた。
その娼妓のおことという女が京都の日野中納言家ひのちゅうなごんけの息女だと云って、世間の評判になったことがあります。
半七捕物帳:26 女行者 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そしてジョバンニは青いことの星が、三つにも四つにもなって、ちらちらまたたき、脚が何べんも出たり引っんだりして、とうとうきのこのように長く延びるのを見ました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
家が廣いので、奧へは主人の平太夫、お勝手の側の居間にはおことが一人、ガラツ八は店を直して格子をはめた表の部屋に宵から曉方までもぐり込むことになつたのです。
「そう云えば本当にそうですね」女房のおことも眉をしかめ「いったいどうしたって云うんでしょう」
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
なにね、いくらつたつて無益だめでせうよ、こととか三味線さみせんとか私共わたくしどもこともない野蠻的やばんてき樂器がくきほかにしたこと日本人につぽんじんなどに、如何どうして西洋せいやう高尚かうしよううたうたはれませう。
ただいつ頃のことであったか、そこからおりおりことにつれてかすかに唄うこえがれた。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
太鼓たいこしょう篳篥ひちりきこと琵琶びわなんぞを擁したり、あるいは何ものをも持たぬ手をひざに組んだ白衣びゃくいの男女が、両辺に居流れて居る。其白衣の女の中には、おかずばあさんも見えた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
雨もよいの空は、暗く低く、何となく気の滅入めいりそうな空模様である。そこへ、千手の前が、琵琶びわことをたずさえてやってきた。重衡を慰めよ、という頼朝の計らいであった。
練習帆船ことまるに乗り組んでいたとき、私たちの教官であった、中川倉吉なかがわくらきち先生からきいた、先生の体験談で、私が、腹のそこからかんげきした、一生わすれられない話である。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
「ね、きこえるだろう。マンドリンみたいな音が。あれ、シナのことなんだって」
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
二月十七日に中橋の家に柏軒の第五女ことが生れた。佐藤氏春の出である。柏軒のぢよは洲、国、北、安、琴の順序に生れて、北に至るまでは正室狩谷氏俊の出、安より以下が春の出である。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
おのが手作りの弁天様によだれ流して余念なくれ込み、こと三味線しゃみせんのあじな小歌こうたききもせねど、夢のうちには緊那羅神きんならじんの声を耳にするまでの熱心、あわれ毘首竭摩びしゅかつま魂魄こんぱくも乗り移らでやあるべき。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
近頃手に入し無比の珍品、名畫も此娘これの爲には者數ものかずならぬ秘藏、生附うまれつきとはいへおとなしすぎるとは學校に通ひし頃も、今ことの稽古にても、近所の娘が小言の引合は何時も此家こちらの御孃樣との噂聞に附
うづみ火 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
ふみ江ちゃんがことやお花のお稽古で、すましているものですから、先でもかぶっていたに違いないんです。東京へ言ってやりさえすれば、金はいくらでも出るようなことも言っていたようです。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
二人のあねは色白くして玉をならべたる美人びじん也、菓子をくひながらかほ見あはして打ゑみたるおもざし、愛形あいきやうはこぼるゝやう也。かゝる一双いつさうの玉を秋山の田夫でんぶつまにせんは可憐あはれむべしことたきゞとしてすつほんるがごとし。
私の母、名はこと志津野しづの氏、父より二つの年下で、父に取っては後添えであった。父の初めの妻は小石氏で、私の長兄平太郎を残して死んだ。そのあとに私の母が来て、私の次兄乙槌おとつちと私とを生んだ。
私の母 (新字新仮名) / 堺利彦(著)
神のさだめ命のひびきつひの我世ことをのうつ音ききたまへ
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
あゝよしさらばこと
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ことひくにゆるびぬ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
素朴そぼくこと
貧しき信徒 (新字新仮名) / 八木重吉(著)
宗近君は椅子いす横平おうへいな腰を据えてさっきから隣りのことを聴いている。御室おむろ御所ごしょ春寒はるさむに、めいをたまわる琵琶びわの風流は知るはずがない。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それで、うそがさえずっていたので、秀公ひでこうが、ことだんじているといったんだそうだ。ぼく、なんのことかわからなかったのさ。
二少年の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「たとえば、こといとも、懸けたままにしておいては、音がゆるむ。弓は、射るときのほかは、つるはずしておくものぞ」
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
せばらく片折戸かたをりど香月かうづきそのと女名をんなヽまへの表札ひようさつかけて折々をり/\もるヽことのしのび軒端のきばうめうぐひすはづかしき美音びおんをばはる月夜つきよのおぼろげにくばかり
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
広い屋敷内はひっそりとして、ただ喬之助の弟こと二郎が、裏庭で、かき立樹たちきを相手に、しきりに、やッ! とウ——剣術の稽古をしている音が聞えるだけ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
鬼は熱帯的風景のうちこといたり踊りを踊ったり、古代の詩人の詩を歌ったり、すこぶ安穏あんのんに暮らしていた。
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
向後どこへか呼ばれた時は、おびえるなよ。気の持ちようでどうにもなる。ジャカジャカと引鳴らせ、糸瓜へちまの皮で掻廻すだ。こと胡弓こきゅうも用はない。銅鑼鐃鈸どらにょうはちを叩けさ。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そしてジョバンニは青いことの星が、三つにも四つにもなって、ちらちらまたたき、あしが何べんも出たり引っんだりして、とうとうきのこのように長くびるのを見ました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
竜子は十七になった今日でも母の乳を飲んでいたころと同じように土蔵につづいた八畳のに母と寝起ねおきを共にしている。こと三味線さみせん生花いけばな茶の湯の稽古けいこも長年母と一緒である。
寐顔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
後にみんなは、その船が古びこわれたのを燃やして塩を焼き、その焼け残った木でことを作りました。その琴をひきますと、音が遠く七つの村々までひびいたということです。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
いや、暗くてよくはわかりませんが、その蓮葉はすつぱな調子から、姉のおことに間違ひもありません。
さらにこの夜空のところどころにときどき大地の底から発せられるような奇矯ききょうな質を帯びた閃光せんこうがひらめいて、ことのかえ手のように幽毅ゆうきに、世の果ての審判しんぱんのように深刻に
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
然程さるほどに新吉原松葉屋にては彼のお高をかゝへ樣子をみるに書は廣澤くわうたくまなこと生田流いくたりう揷花いけばなは遠州流茶事より歌俳諧はいかいに至るまで是を知らずと云ふ事なくこと容貌ようばう美麗うるはしく眼に千金の色を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)