へん)” の例文
旧字:
普通ふつう焚火たきびの焔ならだいだいいろをしている。けれども木によりまたその場処ばしょによってはへんに赤いこともあれば大へん黄いろなこともある。
婆さんが云うには、あの鳴き声はただの鳴き声ではない、何でもこの辺にへんがあるに相違ないから用心しなくてはいかんと云うのさ。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
へんはここだけでなく、下の仁王堂、二ノ丸やぐら、諸所の木戸や仮屋からも黒煙を噴いて、山じゅうがごうッと火唸ひうなりしていたのであった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その頃、僕のうちの隣りに、まあ狂女きちがいと云うのだろう、妙な女がひとり住んでいた。たび重なる不幸で頭がへんになってしまったんだね。
狂女 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
妻の容子がドウもへんになりました。私も気をつけて見て居ると、に落ちぬ事がいくらもあるのです。主人が馬車で帰って来ます。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それかと云って、厚着あつぎをして不形恰ぶかっこうに着ぶくれたどうの上に青い小さな顔がって居る此のへんな様子で人の集まる処へ出掛でかける気もしない。
秋風 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
検疫船けんえきせん検疫医けんえきいむ。一とう船客せんかくどう大食堂だいしよくだうあつめられて、事務長じむちやうへんところにアクセントをつけて船客せんかくげる。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
「はい。」と返事をして立ちあがると、光吉こうきちは手早くその新しい洋服ようふくを着た。着てしまうとへんにからだを動かしてはわるいような気がした。
美しき元旦 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
私はあらためて、このへんてこな荷物の持主を観察した。そして、持主その人が、荷物の異様さにもまして、一段と異様であったことに驚かされた。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「道中筋の諸大名や、甲府勤番支配達、余が腹心股肱ここうのものと、膝を交えて懇談し、一大へんがえいたす際、一気に断乎味方するよう! ……」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今もじいの申した通り、この狭い洛中でさえ、桑海そうかいへん度々たびたびあった。世間一切の法はその通り絶えず生滅遷流せいめつせんりゅうして、刹那もじゅうすと申す事はない。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
狂気きやうきした、へんだ、とふのは言葉ことば切目毎きれめごとみゝはいつた。が、これほどたしかことを、渠等かれらくもつかむやうにくのであらう。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そのあいだには随分ずいぶんくことも、またわらうこともありましたが、ただ有難ありがたいことに、以前いぜん良人おっとったときのような、あの現世げんせらしい、へん気持きもちだけは
いや、せっかくよいこころで、そうしてとどけにたのを、へんなことをもうしてすまなかった。いや、わしは役目やくめがら、ひとうたがうくせになっているのじゃ。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
かんさり玉ひしのち水旱風雷すゐかんふうらいの天へんしば/\ありて人の心安からず。是ぞ 菅公のたゝりなるらんなど風説しけるとかや。
女優は自分の耳を疑ふやうに、戸をけてずつと入つて来た。も一度言つて置くが、その時は恰度ちやうど六月であつた。小僧はへんもない顔をして言つた。
また同じ景色を詠じて 天地にもののへんなどありしごと梅連りて咲ける鎌倉 とも又 鎌倉の梅の中道腰輿えうよなど許されたらばをかしからまし ともある。
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
フヽヽ桟留縞さんとめじま布子ぬのこに、それでい、はかま白桟しろざん御本手縞ごほんてじまか、へんな姿だ、ハヽヽ、のう足袋たびだけ新しいのを持たしてやれ。弥「ぢやアつてまゐります。 ...
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
今日はついでにその人の処へ行って御機嫌をうかがっておこうと一方の病気見舞は一方の御機嫌伺いとへんじた。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
山の中があんまりさびしいので、へんになって、いぬくるしたのだと、りょうしはおもったのでしょう。
忠義な犬 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
疼痛とうつうとは疼痛とうつうきた思想しそうである、この思想しそうへんぜしむるがためには意旨いしちからふるい、しかしてこれをててもって、うったうることをめよ、しからば疼痛とうつう消滅しょうめつすべし。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
お母さんからこの間話して置いた通り、先方むこうのお母さんという人が評判のむずかし屋だそうだから、途中でへんげるかも知れない。しかし大切だいじは充分取ってある。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
怪物かいぶつでなくて、なんだろう? 科学かがく発達はったつした、いまの世の中に、東洋とうよう忍術使にんじゅつつかいじゃあるまいし、姿すがたがみえない人間にんげんがいるなんて、これは、たしかにへんだ。奇怪きかいだ!
最初さいしょ鉛筆えんぴつ左手ひだりてでしたが、かたちへんになってしまうので、これも右手みぎてくせをつけたのです。
左ぎっちょの正ちゃん (新字新仮名) / 小川未明(著)
よって更に出直して「大丈夫」ト熱気やっきとしたふりをして見て、歯を喰切くいしばッて見て、「一旦思い定めた事をへんがえるという事が有るものか……しらん、止めても止まらんぞ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
或は西南の騒動そうどうは、一個の臣民しんみんたる西郷が正統せいとうの政府に対して叛乱はんらんくわだてたるものに過ぎざれども、戊辰ぼしんへんは京都の政府と江戸の政府と対立たいりつしてあたかも両政府のあらそいなれば
シューラはすっかりよろこんでしまった。あたらしいシャツをるのは、とてもいい気持きもちだった——ごわごわして、ひやりとして、へんはだをくすぐるのが、おもしろくってたまらない。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
おやおや、へんなことをするわいと、なおも二人が一生懸命、天窓にしがみついてみていると、小男はその鉤棒かぎぼうで高いところにあるメイン・スイッチをひっかけて切ってしまった。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
まるで相手あいての返事をするのをおたがいに待たないのであった。ガスパールおじさんはかれらのへんな様子には気がつかないようであった。この人たちは気がちがったのではないかしら。
「ああみんなはぼくかおがあんまりへんなもんだから、それでぼくこわがったんだな。」
兵甲を以て国威を張るはへんなり。兵甲はむしろ国家を弱め、人心を危うするに足るも、以ておほいに国力を養ひ、列国にたらしむる者にあらず。国の本真ほんしんは気にあり。気若し備はらばげふ挙らむ。
想断々(2) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
冬の日の弱い日影ひかげを、くもり硝子ガラスと窓かけで更に弱めに病室の中で、これが今朝生れたといううす赤いやわらかい骨も何もないような肉体を手に受けとらせられると、本当にへんな気もちになる。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
特に封建制馭せいぎょの道いままったからず、各大名の野心あるもの、あるいは宗教を利用し、もしくは利用せられ、あるいは外邦と結托けったくし、あるいは結托せられ、不測ふそくへんしょうずるもいまだ知るべからず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
こうわたとき蛟龍かうりようふねを追ふ、舟中しうちゆうひとみなおそる、天を仰いで、嘆じていはく、われめいを天にく、力を尽して、万民を労す、生はなり、死はなりと、りようを見る事、蜿蜓えんていの如く、眼色がんしよくへんぜず
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
それをまた押返おしかへしてなに附加つけくわへるのもへんだつたのでれにはだまつてゐたが
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
あれ? わかつた! ピチクン あんたへんなボタンをみつけてゐるわ
冬にいたりて帰蟄きちつする者なればなり、つ一行二十七名の多勢なれば、如何なる動物どうぶつと雖も皆遁逃とんとうしてただちにかげしつし、あへがいくわふるものなかりき、折角せつかく携帯けいたいせる三尺の秋水しうすゐむなしく伐木刀とへん
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
一三一豊臣の威風四海をなみし、一三二五畿七道一三三ややしづかなるに似たれども、一三四亡国の義士彼此をちこちひそかくれ、或は大国のぬしに身をせて世のへんをうかがひ、かねて一三五こころざしげんとはかる。
いわんや今後敵国外患がいかんへんなきをすべからざるにおいてをや。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
行き逢へる張督軍のへんなども沙ぼこりすと見て過ぐるのみ
へんだね! だれにもそんなこと聞いたことがないよ。」
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
幼年の理想は今いかにへんじたか
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しかし、本能寺ほんのうじへんとどうじに、異国いこく宣教師せんきょうしたちは信長というただひとりの庇護者ひごしゃをうしなって、この南蛮寺も荒廃こうはいしてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
街道かいどうのはずれがへんに白くなる。あそこを人がやって来る。いややって来ない。あすこを犬がよこぎった。いやよこぎらない。畜生ちくしょう。)
ガドルフの百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
母の病気に違ないと思ひ込んで、驚ろいて飛んで帰ると、母の方では此方こつちへんがなくつて、まあ結構だつたと云はぬ許によろこんでゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かんさり玉ひしのち水旱風雷すゐかんふうらいの天へんしば/\ありて人の心安からず。是ぞ 菅公のたゝりなるらんなど風説しけるとかや。
電話で、新道のある茶屋へ、宮歳の消息を聞合せると、ぶらぶら病で寝ていたが、昨日急に、へんかわって世を去った。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
滄桑そうそうへんと云う事もある。この東京が森や林にでもなったら、御遇いになれぬ事もありますまい。——とまず、にはな、卦にはちゃんと出ています。」
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
じぶんがとおると、人々ひとびとはそらへんなやつがたといわんばかりに、まどをしめたり、すだれをおろしたりしました。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
同じ名前はへんだと思つたから、「おつかさん、こゝに同じ名前があるが、これういふわけだらう」と聞くと
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)