其身そのみ)” の例文
しやうめいくるのにはすなは其家そのいへわすれ、ぐんのぞんで約束やくそくすればすなは其親そのしんわすれ、(一六)枹鼓ふこることきふなればすなは其身そのみわする。
其後そののち旗野は此家このやすまひつ。先住のしつが自ら其身そのみを封じたる一室は、不開室ととなへて、開くことを許さず、はた覗くことをも禁じたりけり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
たとへば、吝嗇者りんしょくもののやうにたからおびたゞしうってをっても、たゞしうもちふることをらぬ、姿すがたをも、こひをも、分別ふんべつをも、其身そのみ盛飾かざりとなるやうには。
彼は左の手に蝋燭を持ち、右の手に岩を抱いて、辛くも其身そのみを支えているのであるから、到底とても燐寸まっちるべき余裕は無い。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
波浪を蹴つて進んで行く汽船の機関の一呼吸ひとこきふする響毎ひびきごとに、自分の心は其身そのみと共に遠い未知のさかひに運ばれて行く。
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
其身そのみが世の名利みやうりかゝはらねばなり、此日このひるものみなうれしく、人のわざ有難ありがたおもひしは、朝の心の快濶くわいくわつなりしうつりか、その飛々とび/\ひとり隅田すみだ春光しゆんくわう今日けふあたらし。
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
うしなひしかば是非なく今は麻布原町あざぶはらまち刻煙草きざみたばこの小店を出し其身そのみは日々糶賣せりうりをして女房に店はまか漸々やう/\其日を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
返事へんじはなくて吐息といき折々おり/\ふと身動みうごきもせず仰向あほのきふしたる心根こゝろねつらさ、其身そのみになつてもおりきことわすれられぬが、十ねんつれそふて子供こどもまでもうけしれにこゝろかぎりの辛苦くろうをさせて
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かれいますで其身そのみ死期しきせまつたのをつて、イワン、デミトリチや、ミハイル、アウエリヤヌヰチや、また多數おほくひと靈魂不死れいこんふししんじてゐるのをおもし、那樣事そんなことつたらばとかんがへたが
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
乱入らんにふおよびしでう其身そのみ懈怠おこたりるものなり
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
此度其身そのみの孝心を
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ところじつ厚利こうりさんとしてあらは名高めいかうものなるに、これくに名高めいかうもつてせば、すなはあらは其身そのみをさめてじつこれうとんぜん。
されば外見よそみには大分限だいぶげんごとくなれど、其實そのじつ清貧せいひんなることをそれがし觀察仕くわんさつつかまつりぬ。此人このひとこそ其身そのみをさまりてよくいへをさまれるにこそさふらはめ、かなら治績ちせきべくとぞんさふらふ
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
も廣げ手代てだい丁稚でつち大勢おほぜいかゝへ今は一かどの身代となり向ふの加賀屋おとろへるに引變ひきかへ彌々いよ/\繁昌なしけるが加賀屋四郎右衞門は茂兵衞方へ引とられし其身そのみ病勝やまひがちうへ老衰らうすゐして漸々近所を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
小利口こりこうなるはるき性根せうねをやしなうてめんかぶりの大變たいへんものになるもあり、しやんとせし氣性きせうありて人間にんげんたち正直せうぢきなるは、すねもの部類ぶるいにまぎれて其身そのみれば生涯せうがいそんおもふべし
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
汝等なんぢらにんよし爭論あらそひもととなって、同胞どうばう鬪諍とうぢょうすで三度みたびおよび、市内しない騷擾さうぜう一方ひとかたならぬによって、たうヹローナの故老共こらうども其身そのみにふさはしき老實らうじつかざり脱棄ぬぎすて、なんねんもちひざりしため
にんこゝろざしをたて国家こくかため其身そのみをいたせば、満都まんとひとな動かされて梅の花さへ余栄よえいたり、人は世にひゞわたるほどの善事よきことしたきものなり、人は世に効益かうえきあたふる大人君子たいじんくんしむかひては
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
いまかならずしも(六四)其身そのみこれもらさざるも、しかも((説者ノ))((適〻))かくところことおよばんに、かくごとものあやふし。
女子をなごはあたりを見廻みまはしてたかわらひぬ、其身そのみかげかへりみてたかわらひぬ、殿との我良人わがをつと我子わがこ、これや何者なにものとてたかわらひぬ、まへ散亂ちりみだれたるふみをあげて、やよ殿とのいまわかれまゐらするなりとて
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
蒙りて其身そのみ安泰あんたいなれ共何ぞ其罪のむくはざらんや後々のち/\を見て恐るべし/\
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
これくに厚利こうりもつてせば、すなはひそか其言そのげんもちひてあらは其身そのみてん。これらざるからざるなり。ことみつもつり、るるをもつやぶる。
目鼻めはなだちの何處どこやらが水子みづこにてせたる總領そうりやうによくたりとて、いまはなきひとなる地主ぢぬし内儀つま可愛かあいがられ、はじめはお大盡だいじん旦那だんなたつとびしひとを、父上ちゝうへぶやうにりしは其身そのみ幸福しやわせなれども
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
其身そのみもほろりとし、可愛かあゆこといふてかしたまふな、鎌倉かまくらきてかへらぬとはれがひしか、それこそはうそにて、一寸ちよつとあそびにき、そのうちにかへつてまするほどに、おとなしうちてたまはれ
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さはへどりがたきがなかなれば令孃ひめにもわろむしなどありて、其身そのみきたくおやりたけれど嫁入よめいりのせき落花らつくわ狼藉らうぜき萬一もしづかへば、むすめはぢはぢ流石さすが子爵ししやくどのくして
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
これのまでははしられず、一日おこたことのあれば終日ひねもす氣持きもちたゞならず、物足ものたらぬやうにるといふも、ひとみゝには洒落者しやれもの蕩樂だうらくられぬべきこと其身そのみりてはまことせんなきくせをつけて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
みたしとならば彼地かしこませ、きなことでも松風まつかぜはし、氣儘きまヽくらさせるがめてもと、父君ちヽぎみ此處こヽにおるしのでければ、あまりとても可愛想かあいさうのこと、よし其身そのみねがひとてやうとほくに
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)