空気くうき)” の例文
旧字:空氣
近所きんじょいえの二かいまどから、光子みつこさんのこえこえていた。そのませた、小娘こむすめらしいこえは、春先はるさきまち空気くうきたかひびけてこえていた。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こうした周囲しゅうい空気くうきは、ぼくをして、偶然ぐうぜんにもこころふかかんじたいっさいをける機会きかいをば、永久えいきゅうにうしなわしてしまったのでした。
だれにも話さなかったこと (新字新仮名) / 小川未明(著)
あれでございますか、文部省もんぶせうちましたの、空気くうきところでなければならんとおつしやいまして、森大臣もりだいじんさまがらツしやいまして。
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
さういふてん世界せかいにとゞくやうな、空気くうき稀薄うすいところでは、あれあれといふもなく、千ねんぐらゐ年月としつきながれてしまふさうだ。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
そのころ、中津藩なかつはん空気くうきだい西洋せいようぎらいでしたから、諭吉ゆきち気持きもちなどさっしてくれるものがないのも、むりはありません。
さむかんずるのはやまふかいからではない。ここはもうそろそろ天狗界てんぐかいちかいので、一たい空気くうきおのずとちがってたのじゃ。
「なんのいきって……。どういったらいいかなあ、空気くうきいき神様かみさまいき、いろんなもののいき……ただいきだよ」
風ばか (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「おれの姿すがたがおまえに見えないからって、おれはあやしい人間にんげんではないんだ。ただわけがあっておれの姿は空気くうきとおなじで、すきとおっていてだれにも見えないんだ」
午後になって、いやに蒸暑むしあつ空気くうきたたえた。ものうい自然の気を感じて、眼ざとい鶴子が昼寝ひるねした。掃き溜には、犬のデカがぐたりと寝て居る。芝生には、ねこのトラがねむって居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
けれど、五月雨さみだれころとて、淡青ほのあを空気くうきにへだてられたその横顔よこがほはほのかにおもひうかぶ。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
音楽はいえそとにあるものなんだ、外で神様のさわやかな空気くうきときなんかに……。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
「どうも、この家は空気くうきが悪い。古くさ空気くうきがたまるのだ。家をかはらう。家を。」
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
ところが、丁度ちょうどわたしもこのせつひまもらって、かわった空気くうきいに出掛でかけようとおもっている矢先やさき、どうでしょう、一しょ付合つきあってはくださらんか、そうして旧事ふるいことみんなわすれてしまいましょうじゃありませんか。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
はじめはみんなだまってきいていたが、すこしたいくつになったので、おきょうっている大人達おとなたちは、庵主あんじゅさんといっしょにとなした。なんだか空気くうきがしめっぽくなった。まるでおとむらいのようながした。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
終日ひもすがら、わづらはしき病室びやうしつ白葡萄酒はくぶどうしゆごと空気くうき呼吸こきふ
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
(これからこの部屋へや空気くうきをかきしてしまふ。)
空気くうきまでが私たちの愉快ゆかい常談じょうだんで笑い
笑いの歌 (新字新仮名) / ウィリアム・ブレイク(著)
先生せんせいが、あきになると、空気くうきむからちかえるのだといったよ。」と、いただきてんについていないと反対はんたいした子供こどもはいいました。
木に上った子供 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それから荒井城内あらいじょうないの十幾年いくねん武家生活ぶけせいかつ……随分ずいぶんたのしかったおも種子たねもないではございませぬが、なにもうしてもそのころ殺伐さつばつ空気くうきみなぎった戦国時代せんごくじだい
部屋へやには、ふゆだというのに、あたたかな空気くうきがほかほかとここちよくながれ、部屋へやにもろうかにも、ガスとうがいっぱいついていて、よるもまるでひるのようにあかるいのです。
からだじゅうを、オーバーとえりまきでしっかりつつんで、ぼうしのつばをぐっとまぶかにおろし、空気くうきにふれているところといったら、さむさで赤くなっているはなさきだけであった。
如何いかなれば規則きそくはあっても、ここに学問がくもんいのである。哲学てつがくすててしまって、医師等いしゃらのように規則きそくしたがってろうとするのには、だい一に清潔法せいけつほうと、空気くうき流通法りゅうつうほうとがくべからざるものである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
つち空気くうきや水のいぶき、またはやみの中にうごめいてる、んだりはったりおよいだりしているちいさな生物いきものの、歌やさけびや音、または晴天せいてんや雨の前兆ぜんちょう、またはよる交響曲シンフォニーかぞえきれないほどの楽器がっきなど
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
空気くうきは甘し……また赤し……に……はた、みどり……
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そういって、おとうとのほうは、ポケットから、三日月形みかづきがたりたたんだ、紙製かみせい風船球ふうせんだまして、空気くうきをいれるべく、きました。
おさくの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
たとえばふかふか穴蔵あなぐらおくったような具合ぐあいで、空気くうきがしっとりとはだつめたくかんじられ、そしてくらなかに、なにやらうようようごいているものがえるのです。
その怪物かいぶつ姿すがたは、まるっきりえないのである。すきとおっていて、ガラス、いや空気くうきのように透明とうめいなのだ。諸君しょくんは、そんなことがあるもんか——と、いうだろう。だが、待ちたまえ!
空気くうきすゆし……いま青し……に……なほ赤く……
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ふあんな空気くうきがただよっていました。
なんともいえない、なつかしいいいかおりがよる空気くうきにしみわたっているのにつけて、小太郎こたろうはほんとうのおかあさんをおもしました。
けしの圃 (新字新仮名) / 小川未明(著)
空気くうきは重し……また赤し……共に……はたみどり……
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
くりのこげるにおいが、つめたいへやの空気くうきへひろがりました。けれど兄弟きょうだいは、そとのあらしにをとられるので、おちつかなかったのです。
ペスときょうだい (新字新仮名) / 小川未明(著)
かすかな鉄分てつぶんをふくんだ空気くうき
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そして、それでがきえてしまうのだ。なぜって、両方りょうほうからので、空気くうきがあつくなって、まんなか空気くうきがなくなるからだ。
赤土へくる子供たち (新字新仮名) / 小川未明(著)
ほの青き銀色ぎんいろ空気くうき
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
健康けんこうひと世界せかいと、病人びょうにん世界せかいと、もし二つの世界せかいべつであるなら、それをつつ空気くうき気分きぶん色彩しきさいが、またことなっているでありましょう。
雲と子守歌 (新字新仮名) / 小川未明(著)
こうしてみみをすますと、大海原おおうなばら波音なみおとのように、あるいは、かすかな子守唄こもりうたのように、都会とかいのうめきが、おだやかな真昼まひる空気くうきつたってくるのです。
花の咲く前 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「ごしんせつに、ありがとうございます。をつけます。」といって、みつばちは、元気げんきよく、あさ空気くうきなかを、はねらしてんでゆきました。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それは、にも、やまにも、はたけにも、はなというはなはあったし、やんわりとした空気くうきには、あまかおりがただよっていた。
冬のちょう (新字新仮名) / 小川未明(著)
「おや、花火はなびかな。」と、眼鏡めがねをかけたおじさんは、みみをすましました。すると、ドーンドーンとつづいて、しずかな空気くうきをやぶるおとがしたのでした。
どこかで呼ぶような (新字新仮名) / 小川未明(著)
ちらちらとゆきってはえ、えてはまたるというようなことがかさなりました。そのあとさむさむい、たたけば、空気くうきりそうなふゆとなりました。
愛は不思議なもの (新字新仮名) / 小川未明(著)
ふとなわで、鉄槌てっついげて、とすたびに、トーン、トーンというめりむようなひびきが、あたりの空気くうき震動しんどうして、とおくへ木霊こだましていました。
白い雲 (新字新仮名) / 小川未明(著)
おじいさんも、このごろ、こんなようながつづきました。戸外こがいは、秋日和あきびよりで、空気くうきがすんでいて、はるかのふもとをとお汽車きしゃおとが、よくきこえてきます。
とうげの茶屋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「そんなことうそさ、あたたかい空気くうきつめたい空気くうき作用さよう台風たいふうができるんだと、学校がっこう先生せんせいがいっていたよ。」
台風の子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
くらとうなかは、つめたい、しめった空気くうきがみなぎっていました。また階段かいだんには、ひとほねだか、獣物けものほねだかわからぬようなものが、らばっていたりしました。
黒い塔 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「そうかなあ、空気くうきんでいるんだね。」と、まだらない北国ほっこくをふしぎなところのようにおもうのでした。
さか立ち小僧さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
さけあぶらのにおいが、周囲しゅういかべや、器物きぶつにしみついていて、よごれたガラスまどから光線こうせんにぶうえに、たばこのけむりで、いつも空気くうきがどんよりとしていました。
風はささやく (新字新仮名) / 小川未明(著)
おとこ姿すがたえなくなったときには、草花くさばなだけが、やはりもとのように、よる空気くうきなかにおっていました。
月夜と眼鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして、とうとう、そらがって、にわうえひとまわりしたかとみると、あちらのたかがけて、懸命けんめいに、きずついたはね空気くうききざみながらんでいきました。
自由 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのうち、シュッと、するどく空気くうきって、たまのおとがしました。いままでいていたとりこえはやんで、同時どうじに、なにか、ぱたりとしたちたのでありました。
すずめを打つ (新字新仮名) / 小川未明(著)