湯屋ゆや)” の例文
此のけむりほこりとで、新しい東京は年毎としごとすゝけて行く。そして人もにごる。つい眼前めのまへにも湯屋ゆや煤突えんとつがノロ/\と黄色い煙を噴出してゐた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
三馬さんば浮世風呂うきよぶろむうちに、だしぬけに目白めじろはうから、釣鐘つりがねつてたやうにがついた。湯屋ゆやいたのは(岡湯をかゆ)なのである。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ゆりちゃんはいつもみんながあそんでいる、おみやまえへいってみようと、お湯屋ゆやまえぎて、ひろみちあるいていきました。
金色のボタン (新字新仮名) / 小川未明(著)
だんだん取り調べをしてみると、午後十一時半頃、すなわち甚吉を使いに出してからすぐ、被害者泰助は、付近の湯屋ゆやへ行ったことが分かった。
現場の写真 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
いきほひ自然しぜんと言つては堅過かたすぎるが、成程なるほど江戸時代えどじだいからかんがへて見ても、湯屋ゆや与太郎よたらうとは横町よこちやうほう語呂ごろがいゝ。(十八日)
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
しかのみならず今日にいたりては、その御広間もすでに湯屋ゆやたきぎとなり、御記録も紙屑屋かみくずやの手に渡りたるその後において、なお何物に恋々れんれんすべきや。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「焼芋屋はあそこ一軒じゃないよ。裏通りのお湯屋ゆやの隣へ行けばまだ大丈夫起きている、はやく行っといで……」
湯屋ゆやより、もちっとのびのびした自由の天地だ。まず各自めいめいの家が——家並が後景はいけいになって天下の往来が会場だ。
「町内の湯屋ゆやで——一と月も前ですよ。晝湯につかつて、良い心持にうなつてゐると、どこの野郎か知らないが、あつしの三尺をめて行つちまひましたよ」
かべみみありよ。さっき、とおりがかりにんだ神田かんだ湯屋ゆやで、傘屋かさや金蔵きんぞうとかいうやつが、てめえのことのように、自慢じまんらしく、みんなにはなしてかせてたんだ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
手渡しにして今夜にも必ず御出の有やうに其言傳そのことづて斯々かう/\幾干いくら小遣こづかにぎらせれば事になれたる吉六ゆゑ委細承知と請込うけこみつゝ三河町へといそゆき湯屋ゆやの二階で容子ようす
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
湯屋ゆやの番台の様な恰好をした、無蓋むがいの札売り場で、大きな板の通り札を買うと、僕等はその中へはいって行った。(僕はとうとう禁令を犯したわけだ)中も外部に劣らず汚い。
百面相役者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼は湯屋ゆやの三助に金を溜めた者が多くある様に金を溜めて居た。しかし、四十三歳の独身者の彼は女に近づかなかった。いな、女の肉体を彼の感覚が忌避きひして居たのかも知れぬ。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
左側は湯屋ゆやで湯番が表を掃いています。新百瀬の息子が乞食の花田と友達交際をしていることは町中知らぬ人はないので湯番も別に不審がらず、啓司に朝の挨拶をしました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
をんな逆上のぼせをとこことなれば義理ぎりにせまつてつたので御座ござろといふもあり、なんのあの阿魔あま義理ぎりはりをらうぞ湯屋ゆやかへりにをとこふたれば、流石さすがふりはなしてにげこともならず
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
源空寺門前という一町内には、床屋が一軒、湯屋ゆやが一軒、そば屋が一軒というようにチャンと数が制限され、その町内の人がそのお華客とくいで、何もかも一町内で事が運んだようなものであります。
湯屋ゆや硝子戸がらすどを出ると
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「どこのはやしだろう、あんなはやしがあったかな。あのたか煙突えんとつは、たしかえきほうのお湯屋ゆやだから、そうすると、叔母おばさんのいえは、やはりあのあたりだ。」
火事 (新字新仮名) / 小川未明(著)
鉄馬創業てつばそうげふさい大通おほどほりの営業別えいげふべつ調しらべたるに、新橋浅草間しんばしあさくさかん湯屋ゆや一軒いつけんなりしと、ふるけれどこれも其老人そのらうじん話也はなしなり
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
むかがは湯屋ゆややなぎがある。此間このあひだを、をとこをんなも、一頃ひところそろつて、縮緬ちりめん七子なゝこ羽二重はぶたへの、くろ五紋いつゝもんした。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
流石さすがの乱暴書生もれには辟易へきえきしてとても居られない。夕方湯屋ゆやに行くと着物が臭くって犬が吠えると云うけ。仮令たと真裸体まっぱだかやっても身体からだが臭いといって人にいやがられる。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
したの又かれ無學文盲むがくもんまうの何も知らぬ山師醫者の元締もとじめなりなど湯屋ゆやの二かい髮結床かみゆひどこなどにて長庵の惡評あくひやうきく夏蠅うるさきばかりなれば果はいのちの入ぬのか又はしにたく思ふ人は長庵のくすり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
湯屋ゆやひろあつめたつめじゃァねえよ。のみなんざもとよりのこと、はらそこまでこおるようなゆきばんだって、おいらァじっとえんしたへもぐりんだまま辛抱しんぼうして苦心くしんたからだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
中年の女、角帽、湯屋ゆや帰りの紳士などが数人私たちの前を通り過ぎました。あたりは真っ暗ですけれど、それでも、遠くの軒灯けんとうの光で、私たちのいることは、通り過ぎる人にも分かります。
現場の写真 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
湯屋ゆやの煙突などよりもずっと高い煙突です。怪物はそれを機械でできたサルのように、すこしも休まず、非常な早さでのぼって行き、もう懐中電灯の光もとどかなくなってしまいました。
青銅の魔人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
湯屋ゆや曇硝子くもりがらすとに
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あちらにえるたか煙突えんとつは、まちのお湯屋ゆやか、それとも工場こうじょう煙突えんとつらしく、くろけむり早春そうしゅん乳色ちちいろそらへ、へびのようにうねりながらがっていました。
花の咲く前 (新字新仮名) / 小川未明(著)
大川おほかははうへそのぱなに、お湯屋ゆや煙突えんとつえませう、ういたして、あれが、きりもやのふかよるは、ひとをおびえさせたセメント會社ぐわいしや大煙突だいえんとつだからおどろきますな。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
殘らず話しまた此頃このごろ湯屋ゆやにて惡口あくこうされし事如何にも殘念に存て斯々はなせど盜みに入りしには非ずと申ければ是を聞て皆々みな/\三郎兵衞は人に非ずとにくみ四郎右衞門を憫然あはれに思ひて町内申あはせ無盡むじん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
やがて、畸形児の行手に一軒の湯屋ゆやの大きな屋根が立ちふさがった。うしろを見れば、追手はいつの間にか二人になっている。ぐずぐずしている内にはまだ人数がふえるかも知れないのだ。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
湯屋ゆやあさから寄合所よりあいしょのようににぎわいをせていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そのはなしのきれたころ、おじいさんは、おもいだしたように、さっき湯屋ゆやまえに、ものすごいひとたちがっていたはなしをなさると、みんなが、わらいだしました。
かたい大きな手 (新字新仮名) / 小川未明(著)
まざ/\と譫言たはことく……われらをんなつたりや、とひますと、それらいでなにをする……今日けふ晩方ばんがた相長屋あひながや女房にようぼはなした。谷町たにまち湯屋ゆやうたげな。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
小田おだが、小西こにしいえっているというので、ほかの二人ふたりは、ついていきました。さるすべりのいているいえ垣根かきねについてがると、お湯屋ゆやがありました。
眼鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
古本屋は、今日この平吉のうちに来る時通った、確か、あの湯屋ゆやから四、五軒手前にあったと思う。四辻よつつじく時分に、祖母としより破傘やぶれがさをすぼめると、あおく光って、ふたを払ったように月が出る。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いつもいく、むかしふうのくら湯屋ゆやでした。近所きんじょ旅籠屋はたごやがあるので、いろいろのひとがこのはいりにきました。
夕雲 (新字新仮名) / 小川未明(著)
どこか近郊きんこうたら、とちかまはりでたづねても、湯屋ゆや床屋とこやも、つりはなしで、行々子ぎやう/\しなどは對手あひてにしない。ひばり、こまどり、うぐひすを町内ちやうない名代なだい小鳥ことりずきも、一向いつかう他人たにんあつかひで對手あひてにせぬ。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
自転車屋じてんしゃやのおじさん、いいんだよ。」と、小西こにしは、むりにおとこさえました。そして、三にんるようにして、湯屋ゆやまえのすこしばかりのへきました。
眼鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
湯屋ゆやは郵便局の方へ背後うしろになった。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたしは、母親ははおやが、まちほうあるいていくうし姿すがたたので、みんなからわかれてんでいきました。母親ははおやのたもとにつかまって、はしわたり、坂道さかみちがって、お湯屋ゆやへまいりました。
夕雲 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そう言えば湯屋ゆやはまだある。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おじいさん、まだ、お湯屋ゆやは、あいていませんよ。」と、勇吉ゆうきちは、ちどまりました。
かたい大きな手 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ある、お湯屋ゆやで、三すけが、あおかおぼっちゃんだが、どこかわるくはないんですか、子供こどものうちは、勉強べんきょうなどよりもからだがいちばん大事だいじですぜといった、言葉ことばにたいそう感心かんしんなさって
金歯 (新字新仮名) / 小川未明(著)
湯屋ゆやから、ぬぐいをぶらさげて、てきた、おじいさんが、うえをあおいで
風七題 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あちらに、したしみのある、湯屋ゆやたか煙突えんとつえたころです。
さか立ち小僧さん (新字新仮名) / 小川未明(著)