たてまつ)” の例文
「さればにてさふらふ別段べつだんこれまをしてきみすゝたてまつるほどのものもさふらはねど不圖ふと思附おもひつきたるは飼鳥かひどりさふらふあれあそばして御覽候ごらんさふらへ」といふ。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
僧団上首の一人 ——うやまいたてまつる無上尊。うやまい奉る御教の数々。また道を共にする兄弟姉妹、かくてこの功徳無量無辺なるべし。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「これこれ何んだ、求林斎、他人行儀はやめてくれ、お互い林家の門に学び、いわば同門の仲というもの、いけないいけないたてまつっては」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
幼児をさなごたちはみな十字架クルス背負しよつて、しゆきみつかたてまつる。してみるとそのからだしゆ御体おんからだ、あたしにけてくださらなかつたその御体おんからだだ。
候わば幕府諸藩一人も服さざるはこれ有るまじくと存じたてまつり候。幕府諸藩心服つかまつらずては曠代こうだいの大業は恐れながら覚束おぼつかなく存じ奉り候。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
帝室ていしつをば政治社外の高処こうしょあおたてまつりて一様いちようにその恩徳おんとくよくしながら、下界げかいおっあいあらそう者あるときは敵味方の区別なきを得ず。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
時の御門を悩ましたてまつろうとするとき、公達きんだち藤原治世の征討を受け、かたきと恋に落ちて、非望をなげうつという筋の、通し狂言——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
アア、何という大胆不敵、彼は追手に囲まれながら、心から、貴賓を驚かせたてまつった今日の不埒ふらちを、御詫びしたつもりらしい。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
依つてその父オホヤマツミの神にお求めになると、非常に喜んで姉の石長姫いわながひめを副えて、澤山の獻上物を持たせてたてまつりました。
車はかんかららんに桓武天皇の亡魂をおどろかしたてまつって、しきりにける。前なる居士こじは黙って乗っている。うしろなる主人も言葉をかける気色けしきがない。
京に着ける夕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
家柄だの財産だのを、無上のものとあがたてまつる世間にたいして、自分の名誉やぱりぱりの名声でもって、仕返しをする気なのだろうと思っていた。
このうたは、持統天皇じとうてんのうのおともをして、いかづちをか——また、神岳かみをかともいふ——へ行幸ぎようこうなされたときに、人麿ひとまろたてまつつたものなのです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
かの源氏物語にも近き川のあゆ西山よりたてまつれるいしぶしやうのもの御前に調じてとかけるなむすぐれてめでたきぞとよ
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
住吉すみよし移奉うつしまつ佃島つくだじまも岸の姫松のすくなきに反橋そりばしのたゆみをかしからず宰府さいふあがたてまつる名のみにして染川そめかわの色に合羽かっぱほしわたし思河おもいかわのよるべにあくたうずむ。
それゆゑにこれ異變いへんがあるたびに、奉幣使ほうへいしつかはして祭祀さいしおこなひ、あるひ神田しんでん寄進きしんし、あるひ位階いかい勳等くんとうすゝめて神慮しんりよなだたてまつるのが、朝廷ちようてい慣例かんれいであつた。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
……とど仕損じがちもござりましょうが、ごひいきをもちまして、悪いところは袖たもとにおつつみあって、なにとぞ、お引立てを願いあげたてまつります。
顎十郎捕物帳:15 日高川 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
陛下に対したてまつる臣民の忠誠心が、すべての道徳に先んじ、すべての道徳を導き育てるのであって、友愛や隣人愛りんじんあいが忠誠心を生み出すのでは決してない。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
湯呑所ゆのみじょには例のむずかしい顔をした、かれらが「般若はんにゃ」という綽名あだなたてまつった小使がいた。舎監しゃかんのネイ将軍もいた。当直番に当たった数学の教師もいた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
このたび、御門入り願いたてまつそうろうところ、御許容なし下され、御門人の列に召し加えられ、本懐の至りに存じ奉り候。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
おそおおくもわたくしとして、天照大御神様あまてらすおおみかみさままた皇孫命様こうそんのみことさまとうと御神姿おすがたはいたてまつったのはじつにそのとき最初さいしょでございました。
あのやうな愚物樣ぐぶつさま良人をつとたてまつつて吉岡よしをかさんをそでにするやうなかんがへを、何故なぜしばらくでもつたのであらう、わたしいのちかぎり、とほしましよれますまい
うらむらさき (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
これは皇室をはじめたてまつり、下々しもじもとしても大事なことで、これをどうだってよいと思っている者はあり得ない。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「浜松のご城内へまで潜入せんにゅうして、君のおいのちをねらった不敵な伊那丸、生かしておきましては、ながく徳川とくがわもんをおびやかしたてまつるは必定ひつじょうとぞんじまして……」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「圧迫されるよ。あの目にはね。あれ以上出て来られちゃ溜まらないから一も二もなくあがたてまつっているのさ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ネパール国王から私がチベット法王にたてまつ上書じょうしょを差上ぐるような手続きにして貰いたいという考えがあった。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「馬鹿野郎、たてまつつて置きアいゝ氣になつて、手前てめえ三下さんしたの知つたこつちやねえ、默つて引込んで居やがれ」
「三宝のやつこと仕へたてまつれる天皇の命を大前に奏す」という言葉をもって始まるこの奏文は、我が古神道こしんとうを絶対とする心からは、とかく非難されてきたものである。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
されば疾翔大力とは、捨身大菩薩を、鳥より申しあげる別号じゃ、まあそう申しては失礼なれど、鳥よりあおたてまつる一つのあだ名じゃと、う考えてよろしかろう。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
きみこれきてこれけんとしていはく、「かうなるかな、ははめのゆゑ刖罪げつざいをかせり」と。きみ果園くわゑんあそぶ。彌子びしももくらうてあまし。((彌子))つくさずしてきみたてまつる。
陶器店とうきてん主人しゅじんは、いつかおちゃわんをつくってたてまつったことがあったので、おほめくださるのではないかと、内心ないしんよろこびながら参上さんじょういたしますと、殿とのさまは、言葉静ことばしずかに
殿さまの茶わん (新字新仮名) / 小川未明(著)
武士の一分いちぶん相立ち申さず、お上へ対し恐多おそれおおい事とは存じながら、かく狼藉ろうぜきいたし候段、重々恐入りたてまつります、此の上は無実の罪にふくしたる友之助をお助け下され
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
家の旦那さまだってそうでねえか、みんながああたてまつるちうのもな、ええか、あれは旦那さまが国家くにのお役をちゃんと勤めあげさっした奏任官そうにんかんさまだからだぞ……。
大殿おおとのより歌絵うたえとおぼしく書たる絵をこれ歌によみなしてたてまつれとおおせありければ、屋のつまにおみなをとこに逢ひたる前に梅花風に従ひて男の直衣のうしの上に散りかかりたるに
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
社会主義者だの無産者だのというむずかしい神〻の神慮をすずしめたてまつ御神楽おかぐらの一座にも相成る訳だ。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
三帝を流したてまつりし北条ほうじょうの徒を英雄となし得ようか、諸君! 諸君は西郷南洲さいごうなんしゅうを英雄なりと称す、はたしてかれは英雄であるか、かれは傑出したる人材に相違ないが
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
金持が幅をきかせたり、道具屋が巧者ぶったり、待合のかみさんが出入したり、女共が派手な着物を競ったり、若宗匠などとたてまつったりするような茶会をどうも好かぬ。
茶の改革 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
法華經云、諸法實相しよほふじつさう天台云てんだいにいはく聲爲佛事等云々せいゐぶつじとううんぬん。日蓮又かくの如く推したてまつる。たとへばいかづちおとみゝしい(つんぼ)の爲に聞くことなく、日月の光り目くらのためにことなし。
さすがは歴代検事のうちで、バケモノという異称をたてまつられ、人間ばなれのした智能を持ったあるじ畏敬いけいせられている彼だけあって、その透徹した考え方には愕くのほかない。
人造人間事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こゝにこの因果を観じて如是にょぜ本末の理趣ことわり究竟くきょうし、根元こんげんを断証して菩提心に転じ、一宇の伽藍がらんを起して仏智慧ぶつちえ荘儼しょうごんたてまつり、一念称名しょうみょう人天咸供敬にんてんげんくぎょうの浄道場となせる事あり。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さては去年の病鶴びやうかくおんむくはんため異国ゐこくよりくはえきたりしならん、何にもあれいとめづらしき稲なりとて領主りやうしゆたてまつりけるに、しばらくとゞめおかれしのちそのまゝあるじにたまはり
ただ一身をもって陛下へいかおんためにささたてまつることのみを心得、他には何らの心得なきものであれば、今この席においてもあるいは御作法ごさほうそむくごときことがあるかも存じませぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
今までき印だのきの字だのと呼んでいたものが、急に膝を正してお艶様さまとたてまつる始末。
海とかわとの神々にことごとくお供えをたてまつり、それから私たち三人の神の御魂みたまを船のうえにまつったうえ、まきのはいひさごに入れ、またはしぼんとをたくさんこしらえてそれらのものを
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
流すはつたなしこれはどうでも言文一途いっとの事だと思立ては矢もたてもなく文明の風改良の熱一度に寄せ来るどさくさ紛れお先真闇まっくら三宝荒神さんぽうこうじんさまと春のや先生を頼みたてまつ欠硯かけすずりおぼろの月のしずく
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
同じ頃神田立花亭主人大森君は、私に寄席の淫乱という尊称をあえてたてまつってくれた。世の中には、今日もかつての私のごとくこのような苦労苦患を重ねた寄席ファンがあるだろうか。
わが寄席青春録 (新字新仮名) / 正岡容(著)
それからそれへとご吹聴ふいちょう下され、にぎにぎしくおはやばや、ぞくぞくとご光来こうらい観覧かんらんえいをたまわらんことを、一座いちざ一同になりかわり、象の背中せなかに平にしておんねがいたてまつるしだぁい。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
この上は広い都に住むほどの者、商人あきうどでも職人でも百姓でも身分はかまわぬ。よき歌を作ってたてまつるものには莫大の御褒美を下さるると、御歌所おうたどころの大納言のもとから御沙汰があったそうな。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
蝶子はん蝶子はんとたてまつられるので良い気になって、朋輩へ二円、三円と小銭を貸したが、渡すなり後悔して、さすがにはっきり催促出来なかったから、何かとべんちゃら(お世辞)して
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
御贔屓ごひいきになる縁の初まりで、殿様が侯爵になってからも、邸内にM屋出張所を設け、毎日店員が伺候しこうして新柄珍品を御覧に入れ、お料理してたてまつる玉子しか御承知のない、家附女房のお姫様ひいさま
青バスの女 (新字新仮名) / 辰野九紫(著)
残暑かえって厳しき折柄いよいよ御清健のことと拝察よろこたてまつり候。