さかな)” の例文
それでも帯取りの池といういやな伝説が残っているもんですから、誰もそこへ行ってさかなを捕る者も無し、泳ぐ者もなかったようでした。
半七捕物帳:08 帯取りの池 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まだちいさいから、こんななかでもひろ世界せかいおもうのか、満足まんぞくするように、べつにさかなどうしで、けんかをするようすもえませんでした。
川へふなをにがす (新字新仮名) / 小川未明(著)
主人の忠兵衞が指圖さしづすると、内儀のお縫がお勝手へ飛んで行つて、何が無くとも冷飯にあぶさかな、手輕な食事になつてしまひました。
「あはは、しびよ。そちはさかなだ。いかにいばっても、そちをきに来る海人あまにはかなうまい。そんなにこわいものがいては悲しかろう」
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
赤いほのおは、暗い夜の湖に、あかあかとうつっていました。そして、そのあかるい光が、さかなをよび集めたのにちがいありません。
「そのふたりが、思いがけなくめぐりあった心祝こころいわいに、てめえたちにも飲ませるから、いまのさかなを料理して、もっと酒をはこんでこい」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岡釣をしていて、変な処にしゃがみ込んで釣っていて、でかいさかなひっかけた途端に中気が出る、転げ込んでしまえばそれまででしょうネ。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
私はお徳の前に立って、肴屋さかなやの持って来た付木つけぎにいそがしく目を通した。それには河岸かしから買って来たさかなの名が並べしるしてある。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
みん仕方しかたなしに一しよたんだ』と海龜うみがめひました、『どんなかしこさかなでも、海豚いるかれなくては何處どこへもけやしないもの』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
船縁から覗いて見たら、金魚の様な縞のあるさかなが糸にくつついて、右左へ漾いながら、手に応じて浮き上がつてくる。面白い。
坊っちやん (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そういえばなるほど、ひらめというおさかなは、目が背中せなかについています。ですからいまでも、おやをにらめると、平目ひらめになるといっているのです。
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
それで、その當時とうじひと住居じゆうきよしたあと海岸かいがん附近ふきんのこつてゐて、かれつてすてた貝殼かひがらや、さかなけだものほねなどがたまつてゐるところがあります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
あれは子ープルスのいへの三がいからへるエリノしまにそのまんまですこと此方こなたのはあたま禿げた老爺おぢいさんがさかなつてかたちによくますねえ。
「えいくそッ、びっくりした。おかしらなどとぶんじゃねえ、さかなあたまのようにこえるじゃねえか。ただかしらといえ。」
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
……さかなも常ならお前に頼むんやが、今日のこツちやさかい、朝から榮吉が町へいて、鯛五枚にはも五本、蒲鉾いたと厚燒を十枚づゝ買うて來よつた。
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
けれども、そんな人たちはみんな、自分一人で勝手におかへ帰ろうとしたために、途中で悪いさかなに食べられてしまった——。
ルルとミミ (新字新仮名) / 夢野久作とだけん(著)
まだ暮果くれはてずあかるいのに、れつゝ、ちらちらとひともれた電燈でんとうは、つばめさかなのやうにながして、しづか谿川たにがはつた。ながれほそい。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼は今まで、家族を養っていたA工場にも、出るに出られないありさまだった。畳はビショビショにぬれていた。床の下はさかなでも住んでいそうだった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
大殿様はお召しあがりになって、『この小さなさかなはなんと申す?』とお尋ねになりました。『鰯でございます』と私は恐る恐るお答え申しあげました。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
猫は目に見えて痩せて行きながら、めのさかなの骨などをあさつてゐた。「つまり都会的になつたんだよ。」——彼はこんなことを言つて笑つたりした。
貝殻 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さかなさっぱり浮かばないな。」ぺ吉がまた向こうの木の下で言いました。するともう、みんなはがやがやと言い出して、みんな水に飛び込んでしまいました。
風の又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
米のめしよりむぎの飯、さかなよりも揚豆腐が好きで、主人を見真似たか梨や甜瓜まくわの喰い残りをがり/\かじったり
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「さあ、飯だ、飯だ、今日きょうは握り飯二つで終日いちんち歩きずめだったから、腹が減ったこったらおびただしい。……ははは。こらあ何ちゅうさかなだな、あゆでもなしと……」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
父つあんは、昨晩は、えんの下さ隠して置いで、今、さかなとりに行くどて、爺つあんと一緒に出はって行ってから、まだ馳せ戻って来て、菊枝さやってけれろって……
駈落 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
其処に僕はゐて、おさかなフライにレモンの汁をしたたか掛けて、これから食べようとしてゐたのです。
夜汽車の食堂 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
ふと見ますと、三びきのさかながわなにかかって、水をほしがって、さかんにぱくぱくやっていました。
闇の中で、息苦しさは刻一刻とつのって行った。最早もはや声も出なかった。引く息ばかりが妙な音を立てて、おかあがったさかなの様に続いた。口が大きく大きくいて行った。
お勢登場 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
山にのぼって硫黄いおうとやらを取り、商人船の来る度に食物と代えて貰っていたが、体が弱ってからは、網人あみびとや釣人に手をすり合せて、さかなを恵んで貰い、時には貝を拾い
リヽーはそれをすつかり呑み込んでゐるらしく、頬ぺたへ顔を擦りつけてお世辞を使ひながら、彼がさかなふくんだと見ると、自分の口を大胆に主人の口のはたへ持つて行く。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
春のおさかなさわら、ひらめ、などと、ノートさせられて「今日午後六時の汽車にて帰す」と浜子が書き添え、認印みとめを押してよこした年少のころ、浜子の母人ははびとはホクホクして
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
こめさかなのコロッケー 秋付録 米料理百種「西洋料理の部」の「第十五 米と魚のコロッケー」
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ともかく大昔おほむかし人間にんげんは、森林しんりんんで、くさや、や、野獸やじゆうや、かはさかななどをとつて、なまのまゝでべてゐたもので、ちょうど今日こんにち山猿やまざるのような生活せいかつをしてゐたのです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
ふなやたなごは迷惑めいわくな、るほどにるほどに、夕日ゆふひ西にしちてもかへるがしく、其子そのこのこくおさかなつて、よろこかほたいとでもおもふたので御座ござりましよ
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
四つんばいになると、さっきげだした、シグナル・ランプのこわれがジャリジャリと手のひらにさわる。なまぐさいさかなのにおいにまじって、こぼれた石油せきゆがプンとはなをうつ。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
「蒲焼になったのを見ると、生きてた時とは全く別なものという感じしかしないよ。さかなでも野菜でもそうだが、料理はそのものに対する感じを、本質的に変化させるようだね。」
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「さて、東西東西とざいとうざいさかなづくしはどうじゃいな。」「野菜づくしはどうじゃいな。」「鱈捕たらとり口説くどきはどうじゃいな。」「何とか何とかどうじゃいな。」「謎々何とかどうじゃいな。」
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
グレ へん、さかなでなうて幸福しあはせぢゃわい、おぬしさかななら、をんなたらしではうて總菜そうざい鹽大口魚しほだらてけつからう。……(一方を見て)けよ(劍を)、モンタギューの奴等やつらたわい。
そろから、さかなの骨でんなんでん、ペツペツて吐きやつ。そツだるけん、わしどま、御飯も食べる気はせんだつた。暑うし、臭うし、そん上、蠅んをつて、窮屈し、真暗うし……。
牛山ホテル(五場) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
硝子ガラスそとには秋風あきかぜいて、水底みなそこさかなのやうに、さむ/″\とひかつてゐた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
やがて先生ふくされ、予、近日の飲食いんしょく御起居ごききょ如何いかんと問えば、先生、左右さゆうの手をりょうそでのうちに入れ、御覧ごらんの通りきものはこの通り何んでもかまいませぬ、食物はさかなならび肉類にくるいは一切用いず
わしも、雷鳥も、角をやした鹿しかも、鵞鳥がちょうも、蜘蛛くもも、水にむ無言のさかなも、海に棲むヒトデも、人の眼に見えなかった微生物も、——つまりは一切の生き物、生きとし生けるものは
ここに足をとどめんときょうおもいさだめつ、爽旦あさまだきかねてききしいわなというさかなうりに来たるをう、五尾十五銭。鯉もふもとなる里よりてきぬというを、一尾買いてゆうげの時までいかしおきぬ。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ぬらぬらしたうなぎにもなって見たかったのよ、変ったおさかなを見るとすぐその真似まねがして見たくなる、一生ぴかぴかした金魚になり澄ましているのは、意気地がないし退屈で窮屈なんだもの。
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ダンスさんは、彼の言葉で言えば、「水を離れたさかなみたいに」そこに突っ立った。もうこうなっては出来ることはB——へ急いで人をやって税関の監視船に知らせてやることだけだった。
鳥の羽ばたきか何かで散り落ちて来る木の葉が游泳する小さかなになつたりした。
籔のほとり (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
むかし、「う」のおかあさんが子供こどもとき近所きんじよ火事くわじがあつたんで、たべかけてゐたさかなを「うのみ」にしてにげだしたさうです。ほんとだかどうだかりません。うそだとおもつたら先生せんせいいてごらん。
挨拶して、すぐ裏へまわり、井戸端で手を洗い、靴下脱いで、足を洗っていたら、さかなやさんが来て、お待ちどおさま、まいど、ありがとうと言って、大きなおさかなを一匹、井戸端へ置いていった。
女生徒 (新字新仮名) / 太宰治(著)
水汲みずくみが手桶ておけになり、にない桶になり、また水道になった結果、女の頭の上に物をのせる練習が足りなくなったことは、もう前に話をしてしまったが、これを専門にさかななどを売りあるいた女たちも
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「ねえマリユス、わしがもしお前だったら、もうさかなより肉の方を食べるがね。比目魚ひらめのフライも回復期のはじめには結構だが、病人が立って歩けるようになるには、上等の脇肉わきにくを食べるに限るよ。」
……こんどはさかなのほうだけど、うまく、何かいてくれるかしら……
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)