あいだ)” の例文
二人の僧はもう一度青田のあいだを歩き出した。が、虎髯とらひげの生えた鬼上官だけはまだ何か不安そうに時々その童児をふり返っていた。……
金将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ねんじゅうがそうであり、百ねんあいだが、そうであったにちがいない。そしてこの山々やまやまは、むかしも、いまも、永久えいきゅうにだまっているのでした。
考えこじき (新字新仮名) / 小川未明(著)
こうなると、もうなんでもつよい人に加勢かせいたのむよりしかたがないとおもいまして、このあいだからはしの上にっていたのでございます。
田原藤太 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
もしそのあいだ身体からだの楽に出来る日曜が来たなら、ぐたりと疲れ切った四肢ししを畳の上に横たえて半日の安息をむさぼるに過ぎなかったろう。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そしてちちのつもりでは、私達わたくしたち夫婦ふうふあいだ男児だんしうまれたら、その一人ひとり大江家おおえけ相続者そうぞくしゃもらける下心したごころだったらしいのでございます。
御幣担ぎを冷かす同窓生のあいだには色々な事のあるもので、肥後から来て居た山田謙輔やまだけんすけと云う書生は極々ごくごく御幣担ごへいかつぎで、しの字を言わぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そのあいだに老人の目が、チラと何か意味あるようにうごきますと、久米之丞は辺りのザワめきにまぎれて、そッと席から姿を消して行く。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを前足のあいだにおいてすわり、さも病犬をさそい出そうとするように、口の先で肉をつッつき/\しては、じっとまっています。
やどなし犬 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
王子おうじはこういうあわれな有様ありさまで、数年すうねんあいだあてもなく彷徨さまよあるいたのち、とうとうラプンツェルがてられた沙漠さばくまでやってました。
その容疑ようぎのもとは、中内工学士なかうちこうがくし場合ばあいていて、金魚屋きんぎょや老人ろうじんとのあいだ貸借関係たいしゃくかんけいがあり、裁判沙汰さいばんざたまでおこしたという事実じじつからである。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
そんなことをしているあいだに、かねをのせた牛車ぎゅうしゃはもうしんたのむねをおりてしまっていた。五ねん以上いじょうものは、がせいてたまらなかった。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
こんな心持ちで年を取って行くあいだに葉子はもちろんなんどもつまずいてころんだ。そしてひとりでひざちりを払わなければならなかった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そのあいだうか牡蠣舟かきぶね苔取のりとり小舟こぶねも今は唯いて江戸の昔を追回ついかいしようとする人の眼にのみいささかの風趣を覚えさせるばかりである。
其後そのご彼等は警官にわれて山深く逃げこもったが、食物はもあれ、女性の缺乏けつぼうということが彼等のあいだに一種の不足を感じたらしい。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
どうにも仕方しかたがありませんでした。それでみな相談そうだんして、そのくせむまでしばらくのあいだ、王子を広いにわじこめることになりました。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
製産地直接取引ノ為メ日本ニ輸出卸値おろしねト同様多少ニかかわラズ勉強つかまつリ御便宜ノ為メ事務所トシテ日ノ出家ニ実物取揃申居とりそろえもうしおりあいだ御買上被下度くだされたく
墓原はかはらへ出たのは十二時すぎ、それから、ああして、ああして、と此処ここまであいだのことを心に繰返して、大分だいぶんの時間がったから。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのあいだ、頭のうちには、まあ、どんな物があったろう。夢のような何とも知れぬ苦痛の感じが、車の輪のまわるように、頭のなかに動いていた。
ルパンは礼拝堂の中で仕事をしているあいだにそれを見つけ出したのです。ルパンはもし死んでいるとすれば、その隠れ場所にいるでしょう。
現にこのあいだ、歌舞伎座で河合、喜多村の両優によって、はじめて女史の作が劇として上場されたあの「濁り江」は、この家に移ってから
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そこで彼は、そのあいだ外出しているのが一番安全だと考えたのですが、併し、朝飯もたべないで外出するのは、一層変ではないでしょうか。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
願くは神先づ余に一日のひまを与へて二十四時のあいだ自由に身を動かしたらふく食をむさぼらしめよ。而して後におもむろに永遠の幸福を考へ見んか。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
がたおそろしさはいなづまごとこころうちひらめわたって、二十有余年ゆうよねんあいだ、どうして自分じぶんはこれをらざりしか、らんとはせざりしか。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ぶるぶるとしてハッと気が付くと、隊の伍長のヤーコウレフが黒眼勝のやさしい眼で山査子さんざしあいだからじっ此方こちらを覗いている光景ようす
『お前だったか、私は、私は……』と胸をすって居ましたが、そのあいだも不思議そうに僕の顔を見て居たのです。僕は驚ろいて
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
突然、ガラリとあいだの襖が開いて、誰もいない筈の隣りの三畳から、ヌッと幸田節三が入って来た。いや幸田節三だけではない。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
まだ発車には余程あいだがあるのに、もう場内は一杯の人で、雑然ごたごたと騒がしいので、父が又狼狽あわて出す。親しい友の誰彼たれかれも見送りに来て呉れた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そして爪先つまさきでぐるっとまわって、ふりむくと、半開はんびらきのドアあいだから、こちらを見ている祖父そふの顔が見えた。祖父に笑われてるようながした。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
「死骸を見るとさも沢山喰ったらしくて体裁がくない、」などとい云い普通の人が一つ二つを喰うあいだに五つも六つもペロペロと平らげた。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
この子家鴨こあひるくるしいふゆあいだ出遭であった様々さまざま難儀なんぎをすっかりおはなししたには、それはずいぶんかなしい物語ものがたりになるでしょう。
主夫妻あるじふさいが東京に出ると屹度いて来る。甲州こうしゅう街道かいどうを新宿へ行くあいだには、大きな犬、強い犬、あらい犬、意地悪い犬が沢山居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ひどい苦痛の跡の弛緩ちかん、勝算の無い闘いの跡のあきらめが見える。こういう容態が昨今暫らくのあいだ見えずにいたという事に、女は急に気が付いた。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
そのあいだ私の家は段々古くなって建て直しをする必要も感じましたが、さらに新築をする自力もないことではあるけれども、それよりもなるべく
そして、寺に帰った和尚は、本堂の前を深く掘らせて、の鉄鉢を埋めさし、永劫えいごうあいだ世に出ることをいましめたのであった。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ただ一刹那のあいだではございましたけれど、あなたはただ手と手とが障ったばかりで、わたくしを裸体らたいにしておきあそばしたのでございますよ。
よし/\と云いながら紙へくるんで腹帯はらおびあいだはさんで、時節を待ち、真実なおいさと夫婦になろうと思うも道理、二十三の水の出花でばなであります。
このあいだに苦痛は次第に奥さんを敵として見させるようになった。時間が延びてくに連れて、この感じが段々長じて来た。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼が世に存せしあいだ余は彼の愛に慣れ、時には不興を以て彼の微笑に報い、彼の真意を解せずして彼の余に対する苦慮を増加し、時には彼を呵嘖かせき
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
三年のあいだ私は彼女のあると云う事を、あなたには秘密にしていましたけれど、彼女が無事に育っていると云う事は乳母うばから聞いて知っておりました。
黄色な顔 (新字新仮名) / アーサー・コナン・ドイル(著)
その初めの日は帰途かえり驟雨しゅううに会い、あとの一日は朝から雨が横さまに降った。かれは授業時間のあいだ々を宿直室に休息せねばならぬほど困憊こんぱいしていた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「朱泥は呈上可仕候つかまつるべくそうろう唐墨の方は進呈致兼候いたしかねそうろうあいだ存分ぞんぶん試用の後御返送を願上候ねがいあげそうろう」というのである。当然のことである。
南画を描く話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
じれったそうに、あいだにつめたむぎわらをほうりだし、中のガラスびんをひとつずつ、だいじそうにとりだした。どのびんにも液体えきたい粉末ふんまつがつまっている。
韓信かんしん市井しせいあいだまたをくぐったことは、非凡の人でなければ、張飛ちょうひ長板橋ちょうばんきょう上に一人で百万の敵を退けたに比し、その勇気あるを喜ぶものはなかろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
雜木林ざふきばやし其處そこ此處こゝらに散在さんざいして開墾地かいこんちむぎもすつとくびして、蠶豆そらまめはな可憐かれんくろひとみあつめてはづかしさうあいだからこつそりと四はうのぞく。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
てう六時に船は港口かうこうり、暹羅シヤムの戴冠式に列せられる伏見若宮わかみや殿下の一行を載せて伊吹、淀の二艦と広東カントンから来た警備艦宇治の碇泊して居るあいだを過ぎ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
かと思うと、一山いくらのところをあれこれと見まわってから、ごそごそとおびあいだから財布さいふがわりの封筒ふうとうをとりだす、みすぼらしいおばあさんもあります。
水菓子屋の要吉 (新字新仮名) / 木内高音(著)
まつろうしばしのあいだおしたけのこるような恰好かっこうをしていたが、やがてにぎこぶしなかに、五六まい小粒こつぶ器用きようにぎりしめて、ぱっと春重はるしげはなさきひろげてみせた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
例の珍らしいもの、変ったもの、何んでもに趣味を持つ僕の事ですから、このあいだ三越の小児博覧会へ行った。
その男は、帽子を腕の下に、嗅煙草入れを片手に持ちながら、鏡のあいだをゆっくりと通って出口の方へ行った。
「ちょっとちょっと。」とあいだを頭を下げて、手を戴くように、前の車へ切符拝見と出かけそうに、行きかける、それをタゴールさんが、矢庭やにわに引っ捉えると
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)