親仁おやぢ)” の例文
親仁おやぢわめくと、婦人をんな一寸ちよいとつてしろつまさきをちよろちよろと真黒まツくろすゝけたふとはしらたてつて、うまとゞかぬほどに小隠こがくれた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
中津川備前屋の親仁おやぢ伊左衞門なぞは師走しはすの月にでもなると馬籠下町の紋九郎方に來て十日あまりも滯在し、町中へ小貸しなどして
桃の雫 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
案内はガラツ八、何となくそぐはない空氣の中にも、商賣柄の愛嬌あいけうで、茶店の親仁おやぢの善六と、看板娘のお常が機嫌よく迎へてくれます。
おのおの静に窓前の竹の清韻せいいんを聴きて相対あひたいせる座敷の一間ひとま奥に、あるじ乾魚ひものの如き親仁おやぢの黄なるひげを長くはやしたるが、兀然こつぜんとしてひとり盤をみがきゐる傍に通りて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その瞬間教授の頭にきのこのやうにむくりと持上つたものがある。理髪床かみゆひどこ親仁おやぢが好く地口ぢくちといふものだ。
然し間もなく月夜になると、あかりを消したアルルカンは友達のピエロオに懇願して、ちよいと戸をあけて、をつけさせてくれろといふ、さては親仁おやぢの金箱ぐるみ、娘をつれて驅落するのか。
胡弓 (旧字旧仮名) / ルイ・ベルトラン(著)
此處こゝ筒袖つゝそで片手かたてゆつたりとふところに、左手ゆんで山牛蒡やまごばうひつさげて、頬被ほゝかぶりしたる六十ばかりの親仁おやぢ、ぶらりと來懸きかゝるにみちふことよろしくあり。
城の石垣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
綺麗に勘定をした上、付け屆けが行き亙るので、親仁おやぢの善六も、娘のお常も、兄貴の菊治も、惡い顏をするどころではありませんでした。
左樣さうだ、今頃いまごろ彌六やろく親仁おやぢがいつものとほりいかだながしてて、あの、ふねそばいでとほりすがりに、父上ちやんこゑをかけてくれる時分じぶん
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あかりを背負つた五十年配の屈強な親仁おやぢ、左官の彦兵衞といへば、仕事のうまいよりは、頑固ぐわんこてつなので界隈に知られた顏です。
親仁おやぢやぶみのらして、しよぼりとしたていで、ひよこひよことうごいてて、よたりとまつみきよりかゝつて、と其処そこつてまる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
殺したのも見當が付かないのに、親仁おやぢの大野田仁左衞門だつて間違つて二階から落ちて、自分の刀を自分の首へ突立てゝ死んだとも思はれません
(やあ、御坊様ごばうさま、)といはれたから、ときときなり、こゝろこゝろ後暗うしろぐらいので喫驚びつくりしてると、閻王えんわう使つかひではない、これが親仁おやぢ
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
親仁おやぢは昔氣質で、腕一本は惜しくないが、家の中の取締りがつかないから、繩付を出しても仕方がない、吹矢を飛ばした女を突き出せ——と斯う申します。
すさまじくいなゝいて前足まへあし両方りやうはう中空なかぞらひるがへしたから、ちひさ親仁おやぢ仰向あふむけにひツくりかへつた、づどんどう、月夜つきよ砂煙すなけぶり𤏋ぱツつ。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
相手は四十五六の、型の如き親仁おやぢで、二布ふたの一枚に、肩にヒヨイと手拭を掛けた、女房のお虎は、平次の顏を横目でチラリと見たつきり、せつせと、くづを選つて居ります。
「へい、何方どちらで、」とふのが、あかがほひげもじやだが、莞爾につこりせた、ひとのよささうな親仁おやぢうれしく
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
慈悲善根で出す金や、筋の通つた寄附や義理には敵に後ろを見せねえが、几帳面で理窟固いから、遊びの金や贅澤費ひの金は、どんなに口説くどいたつて貸してくれる親仁おやぢぢやありません。
此方こつち意氣いきあらはれる時分じぶんには、親仁おやぢくるまのぞくやうに踞込しやがみこんで、ひげだらけのくちびるとんがらして、くだ一所いつしよに、くちでも、しゆツ/\いきくのだから面白おもしろい。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
石原の利助といふ、親仁おやぢの代理で來て見れば、默つてもゐられなかつたのでせう。
前垂まへだれがけの半纏着はんてんぎ跣足はだし駒下駄こまげた穿かむとして、階下かいかについ下足番げそくばん親仁おやぢのびをするに、一寸ちよつとにぎらせく。親仁おやぢ高々たか/″\押戴おしいたゞき、毎度まいどうも、といふ。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
たちま荷車にぐるまりてきはじめた——これがまた手取てつとばやことには、どこかそこらに空車あきぐるまつけて、賃貸ちんがしをしてくれませんかとくと、はらつた親仁おやぢ
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さて、若葉わかば青葉あをばくもいろ/\の山々やま/\ゆきかついだ吾妻嶽あづまだけ見渡みわたして、一路いちろながく、しか凸凹でこぼこ、ぐら/\とする温泉みちを、親仁おやぢくのだから、途中みちすがら面白おもしろい。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あさまだきは、旅館りよくわん中庭なかには其處そこ此處こゝを、「おほきな夏蜜柑なつみかんはんせい。」……親仁おやぢ呼聲よびごゑながらいた。はたらひと賣聲うりごゑを、打興うちきようずるは失禮しつれいだが、旅人たびびとみゝにはうたである。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
なんちふところや。」と二人ふたりばかり車夫わかいしゆつてる。たう親仁おやぢは、おほき前齒まへばで、たゞにや/\。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
溜池ためいけ眞中まんなかあたりを、頬冠ほゝかむりした、いろのあせた半被はつぴた、せいひく親仁おやぢが、こしげ、あし突張つツぱつて、ながさをあやつつて、ごといでる、いかだあたかひとせて、あぶらうへすべるやう。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
れい梶棒かぢぼうよこせてならんだなかから、むくじやらの親仁おやぢが、しよたれた半纏はんてんないで、威勢ゐせいよくひよいとて、手繰たぐるやうにバスケツトを引取ひきとつてくれたはいが、つゞいて乘掛のりかけると
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
與平よへいといふ親仁おやぢは、涅槃ねはんつたやうなかたちで、どうながら、佛造ほとけづくつたひたひげて、あせだらけだけれどもすゞしい、息子せがれ地藏眉ぢざうまゆの、あいくるしい、わかかほて、うれしさうにうなづいて
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ところへ! とも二人ふたりつれて、車夫體しやふてい壯佼わかものにでつぷりとえた親仁おやぢの、くちびるがべろ/\として無花果いちじゆくけたるごとき、めじりさがれる、ほゝにくつかむほどあるのをはして、六十ろくじふ有餘いうよおうなたけ拔群ばつくんにして
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
日月ひつきにはともあらん、夜分やぶんほしにものぞかすな、心得こゝろえたか、とのたまへば、あか頭巾づきん親仁おやぢくちばしゆかたゝき、うなじれてうけたまはり、殿とのひざにおはします、三歳さんさいきみをふうはりと、しろつばさいだ
妙齢 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ともつべき與曾平よそべいといふ親仁おやぢ身支度みじたくをするといふ始末しまつ
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
みちをしへてのちくだん親仁おやぢつく/″\と二人ふたり見送みおくる。
城の石垣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ひとおぶはしてれた親仁おやぢは、こしけたるをつとなるべし。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)