きり)” の例文
枕元まくらもとには薬瓶くすりびん、薬袋、吸呑すいのみ、その他。病床の手前にはきり火鉢ひばちが二つ。両方の火鉢にそれぞれ鉄瓶がかけられ、湯気が立っている。
冬の花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
入れていたもので、なかなか評判でありました。硝子器のびんは「ふらそこ」といって、きりの二重箱へなど入れて大切にした時代です
さても秋風あきかぜきりひとか、らねばこそあれ雪佛ゆきぼとけ堂塔だうとういかめしくつくらんとか立派りつぱにせんとか、あはれ草臥くたびれもうけにるがおう
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それについておもい出しますのは父は伽羅きゃらの香とお遊さんが自筆で書いた箱がきのあるきりのはこにお遊さんの冬の小袖こそでひとそろえを
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
取り残したいもの葉に雨は終日降頻ふりしきって、八百屋やおやの店には松茸まつたけが並べられた。垣の虫の声は露に衰えて、庭のきりの葉ももろくも落ちた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
彼らは夜になると、玄関にきりの机を並べて、明日あした下読したよみをする。下読と云ったところで、今の書生のやるのとはだいぶ違っていた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かきはまたなしきりとちがつて、にぎやかなで、とうさんがあそびにたびなにかしらあつめたいやうなものがしたちてました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
腐りかけた門のあたりは、二、三本しげったきりの枝葉が暗かったが、門内には鋪石しきいしなどかって、建物は往来からはかなり奥の方にあった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それからまた胴乱どうらんと云ってきりの木をり抜いて印籠いんろう形にした煙草入れを竹の煙管筒にぶら下げたのを腰に差すことが学生間に流行はやっていて
喫煙四十年 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
西教寺の門前を過ぎて右にきりの花の咲く寄宿舎の横手を見つつ行けば、三四軒の店が並んでいて、また一つ寺がある。これが願行寺である。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
例を植物に取ると致しましょう。柔かいきりや杉を始めとし、松や桜や、さては堅いけやき、栗、なら。黄色い桑や黒い黒柿、のあるかえで柾目まさめひのき
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ホールの庭にはきりの木がえ、落葉が地面に散らばつて居た。その板塀いたべいで囲まれた庭の彼方かなた、倉庫の並ぶ空地あきちの前を、黒い人影が通つて行く。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
義雄は、弟のかをるきりの火葬場へ行くつもりで、直ぐ支度をして來いと云ふ使ひを出してから、先づ知春の室に行つた。
五年たっても昔のままの構えで、まばらにさし代えた屋根板と、めっきり延びた垣添かきぞいのきりの木とが目立つばかりだった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
きりの青葉が蝙蝠こうもり色に重なり合って、その中の一枚か二枚かが時折り、あるかないかの夕風にヒラリヒラリと踊っている。
髪切虫 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
先刻さっき、目黒の不動の門前を通ったことだけは夢のように覚えているが、今気がついて見ると私はきりから碑文谷ひもんやに通う広い畑の中に佇んでいる。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
まもなく爺さんは、四角なきりの箱に入った武者人形の包みをさげて、港の方へかえって行きました。そして、さもまんぞくそうに、つぶやきました。
海からきた卵 (新字新仮名) / 塚原健二郎(著)
庭のきり葉崩はくずれから、カサコソと捲きおこる秋風が呉子さんの襟脚えりあしにナヨナヨと生え並ぶ生毛うぶげを吹き倒しても
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私は、やがて、さも貴重品でもあるかのやうに、小さなきりの箱へ入れられたりしたイボタの虫を、番頭から受け取つて、ムカムカしながら戸外へ出た。
イボタの虫 (新字旧仮名) / 中戸川吉二(著)
「蝋燭のくづが五、六本、あとはきりの薄板で拵へた、何んかの仕掛物と、——おや、おや? これはギヤマンの鏡の、水銀みづがねの剥げたのぢやありませんか」
桑名でああいう援護えんごをうけて、またまた、この御岳みたけでも、同じ五三のきりまくのかげに、武士ぶしなさけをうけようとは。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きりの花のく時分であった。私は東北のSという城下町の表通りから二側目ふたかわめ町並まちなみを歩いていた。案内する人は土地の有志三四名と宿屋の番頭であった。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
見ると、金庫の中のきり観音開かんのんびらきは、ゴリラが身を隠す為に破壊され、内部の棚は滅茶滅茶にこわされて、夥しい書類が、箱の底に押しつけられていた。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
……こゝの此の書棚の上には、花はちょうしてなかつた、——手附てつきの大形の花籠はなかごと並べて、白木しらききりの、軸ものの箱がツばかり。其の真中のふたの上に……
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
上冊には桟敷後さじきうしろの廊下より御殿女中大勢居並びたる桟敷を見せ市川八百蔵いちかわやおぞうきり門蔵もんぞう御挨拶ごあいさつ罷出まかりいでお盃を頂戴ちょうだいする処今の世にはなき習慣ならわしなれば興いと深し。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
僕は窓にぶらさがっているれタオルを彼女に取ってやって、一人ひとり窓の外の花のいたきりこずえを見上げた。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
出口に花をつけたきりの古木があった。羽の黒い大きな揚羽あげはちょうがひらひらと広栄の眼の前を流れて往った。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
樹木の多い場末の、軒の低い平家建の薄暗くじめ/\した小さな家であつた。彼の所有物と云つては、夜具と、机と、何にもはひつてないきり小箪笥こだんすだけである。
哀しき父 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
新造と金之助と一通り挨拶あいさつの終るのを待って、お光は例の風呂敷を解いて夫に見せた。きりの張附けの立派な箱に紅白の水引をかけて、表に「こしみぞれ」としてある。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
きらきらと輝くような日光がまぶしく、細い路地をへだてた隣りの家のきりの花が、紫いろの穂もせて散って、茶褐色ちゃかっしょくのただの棒のようになっているのが目に入った。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
また谷のあなたにて大木をり倒す音、歌の声などきこゆることあり。この山の大さははかるべからず。五月にかやを苅りに行くとき、遠く望めばきりの花の咲きちたる山あり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
浴槽ゆぶねの一たん後腦こうなうのせて一たん爪先つまさきかけて、ふわりとうかべてつぶる。とき薄目うすめあけ天井際てんじやうぎは光線窓あかりまどる。みどりきらめくきり半分はんぶんと、蒼々さう/\無際限むさいげん大空おほぞらえる。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
そこのたなの上にあるきりの小箱から発する異香のかおりでしたから、もう以下は説明の要がないくらいで、案の定それなる桐の外箱の中には、南蛮渡りの古金襴こきんらんに包まれて
はたけきりでもかしでもいまつてからぼろ/\葉々はつぱおつこつちやつて可怖おつかねえもんだよ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
品川しながは住居じうきよからとほくもあらぬきりむら其所そこ氷川神社ひがはじんじや境内けいだいに、たきぶも如何いかゞであるが、一にちしよけるにてきして靜地せいちに、清水しみづ人造瀧じんざうたきかゝつてるので
お兄様が洋行をなさる時、女学校入学前の私に置土産おきみやげとして下すった『湖月抄こげつしょう』は、近年あまり使わなかったので、きりの本箱一つに工合よく納めてあったのを、そのまま出しました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
暁方空の白むころおいと、夕方夕焼けが真赤に燃えるころおいには、それらのおびただしい雀の群れが鉄格子の窓とその窓にまでとどくきり葉蔭はかげに群れて一せいに鳴きはやすのである。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
だから、あいつが御用ごようになつて、茶屋の二階から引立ひつたてられる時にや、捕縄とりなはのかかつた手の上から、きり鳳凰ほうわうぬひのある目のさめるやうな綺麗きれい仕掛しかけ羽織はおつてゐたと云ふぢやないか。
南瓜 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それから彼は一つの手函てばこを持ち出した。それは方一尺あるかない小さなきりの白木で出来てゐて、厭に威嚇するやうな銀色の大きい錠が下りてゐる。彼はそれをぽん/\とたゝいて見せて
手品師 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
壁には三味線さみせん三棹みさほかゝツてゐる、其の下にはきり本箱ほんばこも二つと並べてある。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
と次の間へ声をかけながら、大岡越前おおおかえちぜんは、きょう南町奉行所から持ち帰った書類を、雑と書いたきりの木箱へ押しこんで、煙管きせるを通すつもりであろう。反古ほごを裂いて観世縒かんぜよりをよりはじめた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
露に湿しめりて心細き夢おぼつかなくも馴れし都の空をめぐるに無残や郭公ほととぎすまちもせぬ耳に眠りを切って罅隙すきまに、我はがおの明星光りきらめくうら悲しさ、あるは柳散りきりおちて無常身にしみる野寺の鐘
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
お前は一生の間よく私に仕えてくれた……私のまくらもとの数珠じゅずを取ってくれ。(数珠を受け取り手に持ちて)このきりの念珠はわしの形見にお前にあげる。これはわしが法然ほうねん様からいただいたのだよ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
玉川砂礫ざりを敷きたるこみちありて、出外ではづるれば子爵家の構内かまへうちにて、三棟みむね並べる塗籠ぬりごめ背後うしろに、きりの木高く植列うゑつらねたる下道したみちの清く掃いたるを行窮ゆきつむれば、板塀繞いたべいめぐらせる下屋造げやつくりの煙突よりせはしげなるけふり立昇りて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
おぎの上風、きりは枝ばかりになりぬ。明日はが身の。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
そのそらきりはちる……あたらしきしぶき、かなしみ……
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
わたしのいへきりの木に。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
百年ももとせきり琴となり
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
偐紫にせむらさき」のきりはな
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
きりの木
貧しき信徒 (新字新仮名) / 八木重吉(著)