そな)” の例文
「さきに、信長に、つくもがみの茶入れをねだられて、茶入れは取られたが、久秀の首と、平蜘蛛の釜だけは、信長の眼にもそなえぬ」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鶴見はここで彼をたしなめるむちの音をはっきり聞いた。なるほどそうである。贖物をそなえずにいて、それなりに若返るすべはない。
同じようなおっとの墓を思いながら、あちこちと春草のえだした中からタンポポやスミレをつんでそなえると、二人はだまって墓地を出た。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
そのうち上座じやうざざう食事しよくじそなへていて、自分じぶんつて一しよにべてゐるのを見付みつけられましたさうでございます。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
「何に使うか」というと、黙っている。「何でもよいから」という。やると豆腐を買ってきまして、三日月様に豆腐をそなえる。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
わたくしさる者から、昨日古今無類の名酒を貰ひ受けましたから、上覧にそなへようと存じまして、唯今これへ持参いたしました。」
しかし、その心は既に神聖な祭壇に捧げられて、周圍には神火がそなへられてあるのです。最早間もなく犧牲としてかれる他はないのです。
徳兵衛は、鎮守様にそなえてある、御馳走を腹いっぱいに食べ、酒に酔っぱらって、社殿しゃでんゆかの下に眠っていましたが、ふと眼を覚ましました。
ひでり狐 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
いつ何時、心が魔道にちぬとも限らぬと、自誡のために、わざわざ白紙の一巻を、二柱の御神前にそなたてまつって置いたわけ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
母親はその金をさもとおとそうに押しいただくまねをして、立って神棚かみだなそなえた。神棚には躑躅つつじと山吹とが小さい花瓶に生けて上げられてあった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
こういう日の食物は、まず神々にそなえ、先祖せんぞれいにすすめ、それと同じ物をわれも人も、ともどもに食べるから、ことに楽しかったのである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
としはじめといふので有繋さすがかれいへでも相當さうたうもち饂飩うどん蕎麥そば/\のれいよつそなへられた。やはらかなもち卯平うへい齒齦はぐきには一ばん適當てきたうしてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そして、そのあおあかのささったした利助りすけのさかずきは、なみなみとこはくいろさけをたたえてそなえられていました。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ため辛苦しんくの程察し入る呉々もよろこばしきことにこそして其のくしは百五十兩のかたなれば佛前へそなへて御先祖其外父御てゝごにも悦ばせ給へと叔母女房ともくち
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
お習字やお針が上手じょうずになるようにお祈りする夜なので、あの竹のお飾りも、そのお願いのためのおそなえであるという事を聞かされて、変な気がした。
作家の手帖 (新字新仮名) / 太宰治(著)
武士はそのまま下駄げたを脱いで上へあがり、つかつかと仏像の前へ往ってふところ財布さいふから小粒のかねを出してそれにそなえた。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
一隊商が曠野こうや颶風ぐふうに遇った時、野神にそなうる人身御供ひとみごくうとして案内人を殺した。案内人を失った隊商等の運命は如何。
百喩経 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
格別のやくにはたゝんといふのだよ、着るものや、たべるものや、雨露をしのぐ家はみんな両親にそなへてらふのだから、外に大した入用いりようはないではないか?
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
昼寐ひるね夜具やぐきながら墓地ぼちはう見下みおろすと、いつも落葉おちばうづもれたまゝ打棄うちすてゝあるふるびたはか今日けふ奇麗きれい掃除さうぢされて、はな線香せんかうそなへられてゐる。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
養母の梅は今五十歳ですが、見たところ、四十位にしか見えず、小柄の女で美人の相をそなえ、なか/\立派な婦人です。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
もっともはか周圍しゆういなどには、むかしはおまゐりするときに、おそなものをしたり、おまつりをするために、いろ/\のものがいてあつたにちがひありませんが
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
こゝに、おみきじよふのに、三寶さんぱうそなへ、たるゑ、毛氈まうせん青竹あをだけらち高張提灯たかはりぢやうちん弓張ゆみはりをおしかさねて、積上つみあげたほど赤々あか/\と、あつくたつてかまはない。
祭のこと (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
次のちひさき光のなかには、己がふみをアウグスティーンのもちゐにそなへしかの信仰の保護者ほゝゑむ 一一八—一二〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
時頼を無常と觀じては、何恨むべき物ありとも覺えず、武士を去り、弓矢を捨て、君に離れ、親を辭し、一切衆縁を擧げつくして戀てふ惡魔の犧牲にそな
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
主人金右衞門の死骸は檢屍けんしが濟んだばかりで、二階の八疊に寢かしたまゝ、形ばかりの香華かうげそなへて、娘のお喜多が驅け付けた親類の者や近所の衆に應待し
そなえ祝った床の間ちかく、芸者幇間を侍らしてドデンとおさまっていた三十八、九のでっぷり立派やかな金太郎武蔵の主人はじめ、通人らしいその朋輩たちは
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
なほさいはひを神に祈るとて、三八巫子かんなぎ祝部はふりを召しあつめて、三九御湯みゆをたてまつる。そもそも当社に祈誓いのりする人は、四〇数の祓物はらへつものそなへて御湯みゆを奉り、吉祥よきさが凶祥あしきさがうらなふ。
こしごろもの觀音くわんおんさまぼとけにておはします御肩おんかたのあたりひざのあたり、はら/\と花散はなちりこぼれてまへそなへししきみえだにつもれるもをかしく、したゆく子守こもりが鉢卷はちまき
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その供養物くようものの前に沢山バタの燈明とうみょうそなえ、また道の中央で大なる篝火かがりび——バタの飾物かざりものになるべく熱気の及ばぬところに、それを焚いて誰にもよく見える様にしてある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
年々ねんねんあきのみのりどきになりますと、このかみさまのがりものに、きている人間にんげん一人ひとりずつそなえないと、お天気てんきわるくなって、あめってもらいたいときにはらないし
しっぺい太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
かえって高尚こうしょうらしくも聞こえるけれども、それは慈善じぜんをなすときか、友人を祝うときか、霊前れいぜんそなうるときのことで、事業のためには、金銭は単に無心無情の器械きかいである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「いいえ、やッぱり、かつぶしの方が」と答えて、主人の細君に餅菓子をそなえてもらった。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
五月雨の降り続くために仏前にそなえて置いた花も取りかえることが出来ず、日を経て枯れた上に腐るような心持もする、そこで或日雨中にその花を棄てに出るというのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
玄関まで皆々みな/\お出迎いをいたし、殿様は奥へ通りおしとねの上にお坐りなされたから、いつもならば出来立てのおそなえのようにお國が側から団扇うちわあおぎ立て、ちやほやいうのだが
「首をそなえたのはわしじゃよ。お手前は、神保先生じゃろう。一つ、釣り上げてくれよか」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ただ神仏は商人のように、金銭では冥護みょうごを御売りにならぬ。じゃから祭文さいもんを読む。香火をそなえる。このうしろの山なぞには、姿のい松が沢山あったが、皆康頼にられてしもうた。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いつも派手な色の、ま新しいよだれかけを、必ず二三枚は胸にあてていられる。村のはすっぱな娘たちが、前かけや、羽織裏などのともぎれで作っては、人知れずおそなえするからである。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
そして櫛八玉神くしやたまのかみという神を、おそなえものを料理する料理人にしてつけえました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
肉と酒とをそなえて祭ればよし、さもなければ命をうしなうことにもなるので、土地の人びとは大いにおそれ、争ってかの玄妙観へかけつけて、何とかそれを祓いしずめてくれるように嘆願すると
世界怪談名作集:18 牡丹灯記 (新字新仮名) / 瞿佑(著)
別に若干の金を白雲のためにそなえて立ちましたが、その後で封を切って見ると、五十両あったので、さすがの白雲も、この女の気前のよいことに、ちょっと度胆を抜かれた形であります。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「なんのそれよりは天子から霊山へご献納の吊燈籠つりどうろうだ。そのほか、貴重な香木こうぼくやら数々なおそなえ物など。ああ、どうしようもない」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御幣ごへいをこしらえるやら、色々な品物をそなえるやらして、いざ御祈祷ごきとうとなると、村中の人が男も女も子供も集まって来ました。
正覚坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
老人夫婦が毎日米を取り分けて置くのを、奉公人は神様にそなへるのだらうと云つてゐるが、それにしてもおさがりが少しも無いと云ふのである。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
村落むらのどのうちからか今日けふ念佛衆ねんぶつしうへというてそなへられた二升樽しようだる圍爐裏ゐろりそばきつけて、しりすゝけた土瓶どびんへごぼ/\といで自在鍵じざいかぎけた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
殿とのさまは、だまってうなずかれました。そして、そのから、殿とのさまの食膳しょくぜんには、そのちゃわんがそなえられたのであります。
殿さまの茶わん (新字新仮名) / 小川未明(著)
岩手県では一般にこれをシットギと謂い、風の神送りの日に作って藁苞わらづとに入れてそなえ、または山の神祭の際に、田のくろに立てる駒形こまがたの札に塗りつけた。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
主人金右衛門の死骸は検屍けんしが済んだばかりで、二階の八畳に寝かしたまま、形ばかりの香華こうげそなえて、娘のお喜多が駆け付けた親類の者や近所の衆に応対し
仏壇にはあかりがついていて、はすの葉の上にそなえた団子だの、茄子なすや白瓜でつくった牛馬だの、真鍮しんちゅうの花立てにさしたみそ萩などが額縁がくぶちに入れた絵のように見える。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
さび静まったの地上にぱっと目立つかんなやしおらしい夏草をそなえた新古の墓石や墓標が入り交って人々の生前と死後との境に、幾ばくかの主張を見せているようだ。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
さればいにしへの人々その古の迷ひより、いけにへそなへ誓願をかけて彼をあがめしのみならず 四—六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)