谷底たにそこ)” の例文
余等はまた土皿投かわらけなげを試みた。手をはなれた土皿は、ヒラ/\/\と宙返ちゅうがえりして手もとに舞い込む様に此方こなたの崖に落ち、中々谷底たにそこへはとどかぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
というと鉄砲組てっぽうぐみの中から五、六人、足軽あしがる十四、五人、山掘夫やまほり四、五人——小頭こがしら雁六がんろくも一しょについて、まだ朝露あさつゆのふかい谷底たにそこりていった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひと馬鹿ばかにしてるではありませんか。あたりのやまでは処々ところ/″\茅蜩殿ひぐらしどのどろ大沼おほぬまにならうといふもりひかへていてる、なゝめ谷底たにそこはもうくらい。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「ほら、もう、ここからだって、見えるのだ。あの谷底たにそこを見たまえ。わしのからだの形がのこっているじゃないか」
氷河期の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
げんに、数年前すうねんぜんのこと、ちょうど春先はるさきであったが、轟然ごうぜんとして、なだれがしたときに、みき半分はんぶんはさかれて、ゆきといっしょに谷底たにそこちてしまったのでした。
しんぱくの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ひとは急に谷底たにそこへ落ち込む様に思はれる。其落ち込むものが、がるものと入り乱れて、みち一杯にふさがつてゐるから、谷の底にあたる所ははゞをつくして異様に動く。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「これこれ、うしいてどこへ行くのだ。谷底たにそこの人のいないところで、ころしてべるつもりだろう。」
赤い玉 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
よきぞと竊に目配めくばせすれば赤川大膳藤井左京つゝと寄て次助佐助が後に立寄たちより突落つきおとせばあはれや兩人はすうぢやう谷底たにそこ眞逆樣まつさかさまに落入て微塵みぢんに碎けて死失たりまた常樂院は五人の者を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
博勞等ばくらうらぞろ/\つながつてんだから、みねはうでも谷底たにそこはうでも一大變たいへんだあ、さうすつとこま子奴等こめらひゝんなんてあばさけてぱか/\ぱか/\とはこびがちがつてらな
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
しかし、昨夜さくや海嘯つなみは、吾等われら一同いちどう希望きぼう天上てんじやうより、絶望ぜつぼう谷底たにそこ蹴落けおとしたとおもはれます。』
まつかしはは奥ふかくしげりあひて、二一青雲あをぐも軽靡たなびく日すら小雨こさめそぼふるがごとし。二二ちごだけといふけはしきみねうしろそばだちて、千じん谷底たにそこより雲霧くもきりおひのぼれば、咫尺まのあたりをも鬱俋おぼつかなきここちせらる。
とうさんがしたからたづねますと、たこたかそらからえる谷底たにそこはなしをしました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
こゝな四谷よツや谷底たにそこに、むごこと帶紐おびひもつて、あかはだかたふされてでもりますのが、えるやうにおもはれました。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
わたしは、はっきりとくも言葉ことばみみにきくことができました。けれど、わたしは、それにしたがわなかったのです。いしからあしはずすと、谷底たにそこ墜落ついらくして、ひだりりました。
らんの花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
さいわいに、警官隊はみな車をとびおりて、穴の中や谷底たにそこにかくれていたので、人間の負傷はなかったが、もうこうなっては一行も進退きわまってしまったのである。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
まつみきめたやうあかいのが、かへして幾本いくほんとなくなら風情ふぜいたのしんだ。あるとき大悲閣だいひかくのぼつて、即非そくひがくした仰向あふむきながら、谷底たにそこながれくだおといた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
差遣さしつかはすべし山中に地獄谷ぢごくだにと云處あり此所ここにて兩人を谷底たにそこ突落つきおとして殺し給へ必ず仕損しそんずる事あるまじ其留守るすには老僧らうそう天一を片付申すべし年はよつたれどもまだ一人や二人の者を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
落ちていった小さな黒点こくてんは、目にもとまらず直線ちょくせん谷底たにそこへ、——そしてくるった大鷲おおわしは、せつな! つつをそろえて釣瓶つるべうちにってはなした鉄砲組てっぽうぐみたまけむりにくるまれて、一しゅん
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
民子たみこをのせて雪車そりは、みちすべつて、十三といふ難所なんしよを、大切たいせつきやくばかりを千尋ちひろ谷底たにそこおとした、ゆきゆゑ怪我けがはなかつたが、落込おちこんだのは炭燒すみやき小屋こやなか
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
このとき、ちいさなすずめは、そのむかし、あの日輪にちりんつなをつけて、からすや、こまどりや、いろいろのとりらがいて、ふかくら谷底たにそこから、日輪にちりんげたことをおもしました。
紅すずめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
あの太陽たいようは、また、くらふか谷底たにそこちてゆくようだ。どうして、それをだれもむかしのようにげずとも、ひとりでに、あさになるとのぼるのだろう。それが不思議ふしぎでならない。
紅すずめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
斷崖だんがいうへ欄干らんかんもたれていこつたをりから、夕颪ゆふおろしさつとして、千仭せんじん谷底たにそこから、たき空状そらざまに、もみぢ吹上ふきあげたのが周圍しうゐはやしさそつて、滿山まんざんくれなゐの、大紅玉だいこうぎよく夕陽ゆふひえいじて
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
つかへて、かた食入くひいつて、かすかにもうごかぬので、はツとおもふと、谷々たに/″\峰々みね/\一陣いちぢんぐわう!とわたかぜおと吃驚びつくりして、數千仞すうせんじん谷底たにそこへ、眞倒まつさかさまちたとおもつて、小屋こやなかからころがりした。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
よるとなく、ひるとなく、ふか谷底たにそこからわきこるきりころがるように、たか山脈さんみゃく谷間たにまからはなれて、ふもとの高原こうげんを、あるときは、ゆるゆると、あるときは、あしで、なめつくしてゆくのでした。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
座頭ざとうむくと起直おきなほつて、はらて、道端みちばたにあつて往来わうらいさまたげなりと、二三十にんばかりにてもうごかしがたき大石だいせきかどをかけ、えいやつといふて引起ひきおこし、よりたかくさしげ、谷底たにそこ投落なげおとす。
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いよいよ自分じぶんが、日輪にちりんがけてそらうえんでゆくがきたとき、自分じぶんは、くらくなったら、太陽たいようがああして谷底たにそこしずんでしまって、よるになって、ほしひかりが、うすあお奥深おくふかそらかがやきはじめたとき
紅すずめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
『お城趾しろあとはうつてはんねえだ。』とつてをとこ引取ひきとめました……わたくし家内かない姿すがたたかやま見失みうしなつたが、うも、むかふがそらあがつたのではなく、自分じぶん谷底たにそこちてたらしい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
するとたまは、ころころと谷底たにそこころがりちました。
白すみれとしいの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)