草原くさはら)” の例文
露に濡れた草原くさはらを踏みわけて、お寺の方へ来ました。そうして鐘撞き堂まで来ると、空高く月の光りに輝いている鐘を見上げました。
ルルとミミ (新字新仮名) / 夢野久作とだけん(著)
人に追い掛けられるように、草原くさはらや道を横切って、庭の向うのはしまで行った。そこから振り返って見れば、病人の部屋の窓が見える。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
草原くさはらまできますと、あのオオカミが木のそばにねころんで、それこそ木のえだもふるわすくらいの、大いびきをかいてねていました。
このとき、つきは、ちいさな太鼓たいこが、草原くさはらうえしてあるのをて、これを、あわれなあざらしにっていってやろうとおもったのです。
月とあざらし (新字新仮名) / 小川未明(著)
まだその比の早稲田は、雑木林ぞうきばやしがあり、草原くさはらがあり、竹藪たけやぶがあり、水田があり、畑地はたちがあって、人煙じんえん蕭条しょうじょうとした郊外であった。
雑木林の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そして、それに深く疲れる時いつも頭を休めに行つたのは、家から寂しい草原くさはら小徑こみちを五六町辿たどる海岸の砂丘さきうの上へであつた。
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
人々はみんな町から出かけていっていたが、私はニュウ・フォレスト森林の中にある草原くさはらや、サウス・シーの海岸にある砂浜にあこがれていた。
入院患者 (新字新仮名) / アーサー・コナン・ドイル(著)
むをず、まつ東面とうめんはうあなひらかうとして、草原くさはらけてると、其所そこけの小坑せうかうがある。先度せんど幻翁げんおう試掘しくつして、中止ちうししたところなのだ。
くつも、靴下くつしたも、ふくらはぎ真黒まっくろです。緑の草原くさはらせいが、いいつけをまもらない四人の者に、こんなどろのゲートルをはかせたのです。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
一方やや高き丘、花菜の畑と、二三尺なる青麦畠あおむぎばたけ相連あいつらなる。丘のへりに山吹の花咲揃えり。下は一面、山懐やまふところに深く崩れ込みたる窪地くぼちにて、草原くさはら
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
牛馬の遊んでいる草原くさはらは一面にほのかな緑をなすって、そのすそを流れて行くあめ安河やすかわの水の光も、いつか何となく人懐ひとなつかしい暖みをたたえているようであった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
東京でこそ外へさえ出れば、向うから眼の中へ飛び込んでくる図だが、渺茫びょうぼうたる草原くさはらのいずくを物色したって、斯様かよう文采ぶんさいひとみに落ちるべきはずでない。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
またその堤防の草原くさはらに腰を下してひとみを放てば、上流からの水はわれに向って来り、下流の水はわれよりして出づるが如くに見えて、心持の好い眺めである。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そこは近くに安待合やすまちあいや、貧民窟がかたまってい、河一つ越せば浅草あさくさ公園というさかをひかえているにもかかわらず、思いもかけぬ所に、広い草原くさはらがあったり
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
どうもられません、夜半よなかそっと起きて便所ようばへまいり、三尺のひらきを開けて手を洗いながら庭を見ると、生垣いけがきになっている外は片方かた/\は畠で片方は一杯の草原くさはら
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それでもとおもってまたすこし行ってみると、草原くさはらなかに、大きな石のっているのがしろえました。
殺生石 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
白いもや草原くさはらをすれすれに這い、どうかすると、瓢々ひょうひょうたる幽霊の姿を隠している。にんじんは、両手を背中に組み、幽霊などちっともこわくないという証拠を見せる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
おきとほつてゐて、印南野いなびぬ草原くさはらを、はるかにてゐる。そのうちに、とほ加古川かこかは川口かはぐちえてた。あの川口かはぐちは、つてゐるんだ。なつかしい舟泊ふなどまりのあるところだ。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
山毛欅ぶなの密林をすぎると突然断ち切られたやうに明るい草原くさはらへ出る。さういふ好ましい大自然の下で私はこの愛けうのある人物に出会つたのである。私はお辞儀をした。
山の貴婦人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
ぎに草原くさはら濕地しつちは『腐植土ふしよくど』といつて、植物しよくぶつれて、えだくさつた肥料こやしになつてゐるようなつちみ、水分すいぶんおほいので、植物しよくぶつ生育せいいくには大變たいへん都合つごうがよいため
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
これを対岸から写すので、自分は堤をりて川原の草原くさはらに出ると、今まで川柳のかげで見えなかったが、一人の少年が草の中に坐ってしきりに水車を写生しているのを見つけた。
画の悲み (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
もぐらはそれぞれ、草原くさはらに穴をあけて、中へもぐりこんでいるではないか。中には、もう一メートルちかい穴を掘り、草原のうえに、土をもりあがらせているものさえいた。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もう草原くさはらに足がつきそうだと思うのに、そんなこともなく、際限もなく落ちて行きました。
僕の帽子のお話 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
先にけてか林のわき草原くさはらを濡れつゝきた母子おやこありをやは三十四五ならんが貧苦にやつれて四十餘にも見ゆるが脊に三歳みつばかりの子を負ひたりうしろに歩むは六歳むつばかりの女の子にて下駄を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
またあかかんざしのふさは、ゆら/\とゆれるたんびに草原くさはらへおちては狐扇きつねあふぎはなけた。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
垂れ布の内側うちがわで眼をとじて、早瀬は草原くさはらに坐ったまま、物思いにふけっている。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
詰所を出ると、前の草原くさはらに、ごろんと寝たままあえぐように、考え続けた。
鉄路 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
六日むいか目に同室の婦人は後方うしろ尼様あまさんの様な女の居る室に空席が出来たと云つて移つて行つた。汽車はたまの様な色をした白樺の林の間ばかりを走つて居る。稀には牛や馬の多く放たれた草原くさはらも少しはある。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
そのときたちまち、右手みぎてたかく、御秘蔵ごひぞう御神剣ごしんけんかざし、うるし黒髪くろかみかぜなびかせながら、部下ぶか軍兵つわものどもよりも十さきんじて、草原くさはら内部なかからってでられたみことたけ御姿おんすがた、あのときばかりは
まるうち三菱みつびしが原で、大きな煉瓦の建物を前に、草原くさはらに足投げ出して、悠々ゆうゆうと握飯食った時、彼は実際好い気もちであった。彼は好んで田舎を東京にひけらかした。何時いつも着のみ着のまゝで東京に出た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
つめたい肌黒はだぐろ胡桃くるみの木よ、海草かいさうの髮を垂れ、くすんだ緑玉りよくぎよくの飾をしたをんなそら草原くさはらの池にひたつて青くなつた念珠ロザリオ、ぼんやりとした愛の咽首のどくびめてやらうとするばかりの望、よくを結びそこな繖形花さんけいくわ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
この草原くさはらに、だれであろ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
小山こやまの上の草原くさはら
北村透谷詩集 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
草原くさはらなどを
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
この女の子も、まえの子とおなじように、いつのまにか美しい草原くさはらにきていました。そして、おなじ小道を歩いていきました。
二人は林の中をうて往った。やがて見覚えのある草原くさはらの中の池が見えて来たが、の家らしいものは見えなかった。憲一は首をかしげた。
藤の瓔珞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
昨夜ゆうべ草原くさはらにねていて、そらかがやいているほしをながめたが、そのほしのかけらのように、うつくしく、紫色むらさきひかっているいしでありました。
石をのせた車 (新字新仮名) / 小川未明(著)
草原くさはらは黄色く枯れてしまっている中に、水仙が一本青々と延びていて、青と赤と二いろの花が美しく咲き並んでおりました。
青水仙、赤水仙 (新字新仮名) / 夢野久作海若藍平(著)
一面の草原くさはらに取り囲まれるようにして、青苔あおごけの生えた煉瓦塀がつづき、その中の広い地所に、時代のために黒くくすんだ奇妙な赤煉瓦の西洋館が建っている。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
なるほどぶはずです、そのきものというのはかえるで、みちばたの草原くさはらまで行こうと思っているのです。その草原はかえるさんのお国です。蛙さんには大切たいせつなお国です。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
これを對岸たいがんからうつすので、自分じぶんつゝみりて川原かはら草原くさはらると、いままで川柳かはやぎかげえなかつたが、一人ひとり少年せうねんくさうちすわつてしきりに水車みづぐるま寫生しやせいしてるのをつけた。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
鳩尾みぞおちあたりをどんと突きまする。突かれて仰向あおむきに倒れる処を乗掛のッかゝってとゞめを刺しました処が、側に居りましたお梅は驚いて、ぺた/\と腰の抜けたように草原くさはらへ坐りまして
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この裾野すその景色けしきながめながら、だん/\のぼつて一合目いちごうめをもぎ、海拔かいばつ三千五百尺さんぜんごひやくしやくあたりのところへますと、いつしか草原くさはらも、ひと植林しよくりんしたはやしなどもなくなつて、ずっとおくゆかしい
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
僕は草原くさはらの中に立つた白張の提灯を想像し、何か気味の悪い美しさを感じた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
知たかぶり岩があつてたにがあつて蕎麥が名物是非一日遊ばうぞやと痛む足を引ずりて上松あげまつも過ぎしがやがて右手の草原くさはらの細道に寐覺ねざめとこ浦嶋の舊跡と記せしくひあるを見付けガサゴソと草の細道を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
後方百メートルのところの草原くさはらが、むくむくともちあがると見るまに、その下から盛んに土をとばしながら地下戦車の大きな背中が、ぬっとあらわれたのには、一同はおどろきつよろこんで
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
見渡す限り緑が一面に深く茂っているだけでも、神経が休まります。私はふとここいらに適当なうちはないだろうかと思いました。それで草原くさはらを横切って、細い通りを北の方へ進んで行きました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
浜の草原くさはら蹲踞しやがんで
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
まき草原くさはら
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
月を見ると道家は、すぐ老人のことばを思いだしてかさに注意したが、うっすらしたもやはあったが暈はなかった。道家はまたその草原くさはらの中を歩いた。
赤い土の壺 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)