箱根はこね)” の例文
秋雨あきさめいて箱根はこねの旧道をくだる。おいたいらの茶店に休むと、神崎与五郎かんざきよごろう博労ばくろう丑五郎うしごろうわび証文をかいた故蹟という立て札がみえる。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
江戸表より所持しよぢ仕つり歸國の節箱根はこね山向ふよりあやしき者兩三人後になり先になり付參りすで瀬戸川せとがはまで來かゝりし時は三人の者難題なんだい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
これより、「ぢゞ茶屋ぢやや」「箱根はこね」「原口はらぐちたき」「南瓜軒なんくわけん」「下櫻山しもさくらやま」をて、倒富士さかさふじ田越橋たごえばしたもとけば、すぐにボートを眞帆まほ片帆かたほのぞむ。
逗子だより (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
今度のは箱根はこねから伊豆いずへかけての一帯の地に限られている。いつでもこの程度ですむかというとそうは限らないようである。
時事雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
結局、私は何と云われても構わず、母にお金をねだって、とうとうその覗き絵を手に入れ、それを持って、箱根はこねから鎌倉かまくらの方へ旅をしました。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いざ惠林寺ゑりんじ櫻見さくらみにといふひとはあるまじ、故郷ふるさとなればこそ年々とし/″\夏休なつやすみにも、ひと箱根はこね伊香保いかほともよふしつるなか
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「国乱れて乱臣出ず、なかと言うてな」と老人は妙な古言を一つ引いてから、「箱根はこねから彼方むこうの化物が、大かたこっちへみかえたものじゃろうて」
助五郎余罪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
暫時しばらくすると箱根はこね峻嶺しゆんれいからあめおろしてた、きりのやうなあめなゝめぼくかすめてぶ。あたまうへ草山くさやま灰色はひいろくもれ/″\になつてはしる。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
人間一人の命を絶ったことにはんの変りもない、其方も武士なら、きたる八月の十五日箱根はこねの間道を登って、太閤道の辻堂の前に、日没と一緒に立つがよい。
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
今までお世話になった御恩返しをするのはこれからだと沢次は立派な口をきいていたが、一年二年とたつ中いつか公然と待合にも泊る。箱根はこねへ遠出にも行く。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
徳川家とくがわけからでる和田呂宋兵衛わだるそんべえがきのう箱根はこねをとおった。お小姓こしょうとんぼぐみ連中れんじゅうがうつくしい行列ぎょうれつりこんでいった。菊池半助きくちはんすけがいった。やれだれがとおった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
斎藤緑雨さいとうりよくう箱根はこねの山を越える機関車の「ナンダ、コンナ山、ナンダ、コンナ山」と叫ぶことをしるしてゐる。しかし碓氷峠うすひとうげくだる機関車は更に歓びに満ちてゐるのであらう。
機関車を見ながら (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
横須賀よこすか以下、東京湾の入口に近い千葉県の海岸、京浜間けいひんかん、相模の海岸、それから、伊豆いずの、相模なだに対面した海岸全たいから箱根はこね地方へかけて、少くて四寸以上のゆれ巾
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
日曜日で、客車の中には、新緑の箱根はこねや伊豆へ出掛けるらしい人びとが、大勢乗っている。
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
熱海あたみ修善寺しゅぜんじ箱根はこねなどは古い温泉場でございますが、近年は流行りゅうこういたして、また塩原しおばらの温泉が出来、あるい湯河原ゆがわらでございますの、又は上州に名高い草津くさつの温泉などがございます。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
くわしく云うと七日の午後になって、痣蟹の乗って逃げた気球が、箱根はこねの山林中に落ちているのが発見された。しかし変なことに、その気球は枯れ葉の下から発見されたのであった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これは疑問の出し方も良く、実験の方法もよい。その次には霜柱の成長速度と土中の水分との関係を調べてあるが、驚いたことにはその実験は箱根はこね仙石原せんごくばらで行ったという記載がある。
「霜柱の研究」について (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
のちまた数旬をて、先生予を箱根はこねともな霊泉れいせんよくしてやまいを養わしめんとの事にて、すなわち先生一家いっか子女しじょと共に老妻ろうさい諸共もろとも湯本ゆもと福住ふくずみぐうすることおよそ三旬、先生にばいして或は古墳こふん旧刹きゅうさつさぐ
飛地の伊豆いず田方郡たかたごおりの諸村を見廻りの初旅というわけで、江戸からは若党一人と中間ちゅうげん二人とを供に連れて来たのだが、箱根はこね風越かざこしの伊豆相模さがみ国境くにざかいまで来ると、早くも領分諸村の庄屋しょうや、村役などが
丹那山の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
そこで彼をここに待たして置いて、約束があるように云って上り込んで、部屋を探したのだ。所が腰羽目の寄木細工に一ヶ所手垢てあかのついている所がある。ふと思いついたのが箱根はこね細工の秘密箱さ。
真珠塔の秘密 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「おれの行く田舎には笹飴はなさそうだ」と云って聞かしたら「そんなら、どっちの見当です」と聞き返した。「西の方だよ」と云うと「箱根はこねのさきですか手前ですか」と問う。随分持てあました。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いつか箱根はこねの山の中で、君にそいつをのぞかせたら、君は「怖い」と云って大切なロイド眼鏡を地べたへほうり出してしまったことがある。あれだよ。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
箱根はこねのつり橋の墜落とは少しばかり桁数けたすうのちがった損害を国民国家全体が背負わされなければならないわけである。
災難雑考 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
箱根はこね伊豆いづ方面はうめん旅行りよかうするもの國府津こふづまでると最早もはや目的地もくてきちそばまでゐたがしてこゝろいさむのがつねであるが、自分等じぶんら二人ふたり全然まるでそんな樣子やうすもなかつた。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
全体ぜんたい箱根はこねでも、塩原しほばらでも、あるひ木曾きそ桟橋かけはしでも、実際じつさいにしろ、にせよ、瑠璃るりそゝぎ、水銀すゐぎんなが渓流けいりうを、駕籠かごくるまくのは、樵路せうろ桟道さんだうたかところ
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ここに夕陽せきようの美と共に合せて語るべきは、市中より見る富士山の遠景である。夕日に対する西向きの街からは大抵富士山のみならずその麓につらな箱根はこね大山おおやま秩父ちちぶの山脈までを望み得る。
えゝ一席いつせき申上まうしあげます、明治めいぢ地獄ぢごくも新作とまうほどの事でもなく、円朝ゑんてう先達せんだつ箱根はこね逗留中とうりうちう宗蓮寺そうれんじ地獄極楽ぢごく/\らくを見まして、それからあんきましたおみじかい落語おとしばなしでございますが
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
小田原町おだわらまち城内公園に連日の人気を集めていた宮城みやぎ巡回動物園のシベリヤ産大狼おおおおかみは二十五日(十月)午後二時ごろ、突然巌乗がんじょうおりを破り、木戸番きどばん二名を負傷させたのち箱根はこね方面へ逸走いっそうした。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
大磯おおいそ箱根はこねや湯河原を流れ渡って、唯今ただいまでは熱海のまつに巣を食って居ります。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それはもう、箱根はこねの山の上に富士が見えて、それは見事な眺めでした。亡くなつた主人の太左衞門はこの景色が好きで、一日に一度づつは、この塔に登つて四方あたりの景色、見渡す限りの自分の土地を
先生は時々奥さんをれて、音楽会だの芝居だのに行った。それから夫婦づれで一週間以内の旅行をした事も、私の記憶によると、二、三度以上あった。私は箱根はこねから貰った絵端書えはがきをまだ持っている。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
奪はんと付狙つけねらへども後藤に油斷ゆだんなきゆゑ終に其閑そのひまなく翌日あすとなりしかば又同道して次の夜は箱根はこねこし三島宿の長崎屋嘉右衞門といふ旅籠屋へつきけるに宿の女ども立出たちいで是は/\御客樣只今おすましの御湯を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
こういう皮相的科学教育が普及した結果として、あらゆる化け物どもは箱根はこねはもちろん日本の国境から追放された。
化け物の進化 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
箱根はこねからこっちは、本当に始めてなんです。大阪おおさかで教育を受けて、これまであちらで働いていたものですから」
モノグラム (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あとでくと、夜汽車よぎしやが、箱根はこね隧道トンネルくゞつて鐵橋てつけうわた刻限こくげんには、うち留守るすをした女中ぢよちうが、女主人をんなしゆじんのためにお題目だいもくとなへると約束やくそくだつたのださうである。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
両親は逗子ずしとか箱根はこねとかへ家中うちじゅうのものを連れて行くけれど、自分はその頃から文学とか音楽とかとにかく中学生の身としては監督者の眼を忍ばねばならぬ不正の娯楽にふけりたい必要から
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
箱根はこねの向うだから化物ばけものが寄り合ってるんだと云うかも知れない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たぶんみやげにでもするつもりでB教授が箱根はこねあたりの売店で買い込んであったものかと思われた。
B教授の死 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
……しかし無理むりもない。こんなことつたのはあたか箱根はこね山中さんちうで、ちやう丑三うしみつ時刻じこくであつた。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
暑中休暇には二人連れで三日ばかり箱根はこねへ出掛ける。郊外の家はその前に畳んで牛込うしごめ矢来町やらいちょうに移っていたので、毎晩手をひきつれて神楽阪かぐらざかの夜店を見歩く。二人の新婚生活は幸福であった。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
大垣おおがきの女学校の生徒が修学旅行で箱根はこねへ来て一泊した翌朝、出発の間ぎわに監督の先生が記念の写真をとるというので、おおぜいの生徒が渓流けいりゅうに架したつり橋の上に並んだ。
災難雑考 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
箱根はこね煙草たばこをのんだらうと、わらひですんだからいものの、すゝきつきすみながら、むね動悸どうきしづまらない。あいにくとまた停電ていでんで、蝋燭らふそくのあかりをりつゝ、ともしびともがふるふ。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
西は甲武信岳こぶしだけから富士ふじ箱根はこね伊豆いずの連山の上にかかった雲を一つ一つ指摘する事ができた。
春六題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかも眞夜中まよなか道中だうちうである。箱根はこね足柄あしがらときは、内證ないしよう道組神だうそじんをがんだのである。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
箱根はこね強羅ごうらを思い出させる。また信州しんしゅうに「ゴーロ」という山名があり、高井富士たかいふじの一部にも「ゴーロ」という地名がある。上田うえだ地方方言で「ゴーロ」は石地の意だそうである。
言葉の不思議 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
翌日よくじつあめ晴間はれまうみく、箱根はこねのあなたに、砂道すなみち横切よこぎりて、用水ようすゐのちよろ/\とかにわたところあり。あめ嵩増かさまながれたるを、平家へいけ落人おちうどすさまじきたきあやまりけるなり。りてづく、また夜雨よさめたき
逗子だより (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
日本へ来ても箱根はこねまでこの影のような男がつきまとって来たが、お前のおかげでここへ来てから、やっとその追跡からのがれたようである。しかしいつまでのがれられるかそれはわからない。
B教授の死 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
むかうのやまえて、れせまる谿河たにがはに、なきしきる河鹿かじかこゑ。——一匹いつぴきらしいが、やまつらぬき、をくいて、こだまひゞくばかりである。かつて、はなながとき箱根はこねおもふまゝ、こゑいた。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それから二三日たって、箱根はこねのホテルからのB教授の手紙が来て、どこか東京でごく閑静な宿を世話してくれないかとのことであった。たしか、不眠症で困るからという理由であったかと思う。
B教授の死 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
同じようなことは箱根はこねのつり橋についても言われる。
災難雑考 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)