甲斐かひ)” の例文
聞て狂氣きやうきの如くかなしみしかども又詮方せんかたも非ざれば無念ながらも甲斐かひなき日をぞ送りける其長庵は心の内の悦び大方ならずなほ種々さま/″\と辯舌を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
にたゝへておたかくとはいひしぬ歳月としつきこゝろくばりし甲斐かひやうや此詞このことばにまづ安心あんしんとはおもふものゝ運平うんぺいなほも油斷ゆだんをなさず起居たちゐにつけて
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「それでは、わたくしを死なして下さいませ。あの子がゐなければ、わたくしは生きてゐても甲斐かひのない身でございますから。」
シャボン玉 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
わたくしはハツトおもつて一時いちじ遁出にげださうとしたが、今更いまさらげたとてなん甲斐かひがあらう、もう絶體絶命ぜつたいぜつめい覺悟かくごしたとき猛狒ゴリラはすでに目前もくぜん切迫せつぱくした。
これ甲斐かひくにから反物たんもの脊負しよつてわざ/\東京とうきやうまでをとこなんです」と坂井さかゐ主人しゆじん紹介せうかいすると、をとこ宗助そうすけはういて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かの僧の尊さをば我母のいたく敬ひ給ふことなどを思ひ合する程に、われも人と生れたる甲斐かひにかゝる人にならばやと折々おもふことありき。
このひとは、このやま甲斐かひくに乘鞍山のりくらやまいてゐるが、これはやはり只今たゞいま飛騨山脈ひださんみやく日本につぽんアルプス)のなかのあのやまでせう。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
たうとうその一心の甲斐かひあって、疾翔大力さまにめぐりあひ、つひにその尊い教を聴聞あって、天上へ行かしゃれた。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
人間以上に心を置けば、恩愛にかれて動転するのは弱くも浅くも甲斐かひ無くもあるが、人間としては恩愛の情のがたいのは無理も無いことである。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
善をしようと云ふ気にもならないと同時に、悪を行はうと云ふ気にもならずにしまふ。これでは、折角、海を渡つて、日本人を誘惑に来た甲斐かひがない。
煙草と悪魔 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし、水ではいくらつても甲斐かひがなかつた。蝗はとうとう流されていつたのであつた。きつとこの筍も、地の中をもぐるのが得意だつたのだらう。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
是れ昧者まいしや、初心者に向ひては談理の甲斐かひなからむとて、これを斥けむとする心をあらはしたるものにあらずや。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
何んの甲斐かひもない。子供は半睡の状態からだん/\と覚めて来て、彼を不愉快にしてゐるその同じ睡気ねむけにさいなまれながら、自分を忘れたやうにかんを高めた。
An Incident (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
手巾ハンカチを顔に当てても何の甲斐かひもなかつたことをいつてゐることをおもひだして、幾らか心を慰めたのである。
ヴエスヴイオ山 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
天皇、丸邇わに許碁登こごとの臣が女、都怒つのの郎女に娶ひて、生みませる御子、甲斐かひの郎女、次に都夫良つぶらの郎女二柱。
が、奈何どうしたのかこゑ咽喉のどからでず、あしまたごとうごかぬ、いきさへつまつてしまひさうにおぼゆる甲斐かひなさ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
最善を盡しさへすればいつでもその甲斐かひがあるとは云へないのは、悲しいことだが。ローウッドでは、ほんとに決心して、それを守つて喜ばせることに成功した。
まだ雪のある甲斐かひの山々がそんな雨の中から見えだしたときは、何んともいへずすがすがしかつた。
辛夷の花 (新字旧仮名) / 堀辰雄(著)
さうして甲斐かひ/″\しく夕飯ゆふめし支度したく調とゝのへてゐるむすめをみると、彼女かのぢよ祕密ひみつくゐにまづむねをつかれる。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
「有難うございます。さう御親切にして頂くと私も染井くんだりから來た甲斐かひがあります。實は親分さん、私の伜の文三の行方を突き留めて頂き度いのでございますが——」
其百万の一をも成すことあたはざる耻かしさを、月よ、なんじ如何いか甲斐かひなしと照らすらん、森々しん/\として死せるが如き無人の深夜、彼はヒシと胸を抱きて雪に倒れつ、熱涙混々こん/\
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
まあ、悉皆すつかり吾党で固めて了はうぢや有ませんか。左様さうして置きさへすれば、君の位置は長く動きませんし、僕もた折角心配した甲斐かひがあるといふもんです——はゝゝゝゝ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
くま本州ほんしゆうやまさんするものは、アジア大陸たいりくさんする黒熊くろぐま變種へんしゆです。秩父ちゝぶやま駿河するが甲斐かひ信濃しなの相模さがみ越中えつちゆう越後等えちごなど山中さんちゆうにをり、ややまぶどうをこのんでべてゐます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
最早もう絶滅をはりぢゃと宣告せんこくせい! あの二人ふたりにゃったなら、きてゐる甲斐かひはない!
舅の仇を報いんともせざるはまことに武門の耻辱にこそと思はれけれども、則重公近頃の容態にては中々に力およばず、云ふ甲斐かひなきをつとを持ちけるよと心憂く思召おぼしめされける折柄
苦しかるらん君よりもわれぞ益田ますだのいける甲斐かひなきという歌が思われます。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
春のなかばに病みして、花の盛りもしら雲の、消ゆるに近かきおいの身を、うからやからのあつまりて、日々にみとりし甲斐かひありて、やまひはいつかおこたりぬ、に子宝の尊きは、医薬の効にもまさるらん
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
『オヤ、わたしあたま何處どこかへつてしまつたわ』あいちやんは雀躍こおどりしてよろこんだ甲斐かひもなく、そのよろこびはたちまおどろきとへんじました、あいちやんは自分じぶんかた何處どこにもえなくなつたのにがついて、方々はう/″\さがまは
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
甲斐かひなしや強げにものを言ふ眼より涙落つるも女なればか
かろきねたみ (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
うまれつる甲斐かひはありけれ
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
甲斐かひなき明日あすの見通され
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
甲斐かひの山々降りつぶす
小さな鶯 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
朝露あさづゆしろき甲斐かひ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
甲斐かひ黒駒くろごま
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
「わいは将棋やめてしもたら、生きてる甲斐かひがない。将棋さすのんがそのくらゐ気に入らなんだら、出て行つたらええやろ。どうせ困るちふことは初めから判つてるこつちや。そやから、子供が一人の時、今のうちに出て行けと、あれほど言うたやないか。」
聴雨 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
そのこたうけたまはらずば歸邸きていいたしがたひらにおうかゞひありたしと押返おしかへせば、それほどおほせらるゝをつゝむも甲斐かひなし、まことのこと申あげ
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
立んとて此大雪に出で行きたれどもなん甲斐かひやあらん骨折損ほねをりぞん草臥くたびれ所得まうけ今に空手からてで歸りんアラ笑止せうしの事やとひとごと留守るすしてこそは居たりけり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
おなじような片歌かたうたはなしが、やまとたけるのみことにもあります。このみこと東國とうごく平定へいていとき甲斐かひくに酒折さかをりみや宿やどられて、もやしてゐたおきなに、いひかけられました。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
貴方あなた今夜こんやいてください」とつて、御米およね宗助そうすけかへりみた。をつとから、坂井さかゐてゐた甲斐かひをとこはなしいたときは、御米およね流石さすがおほきなこゑしてわらつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
わたくし屹度きつと此度こんど瑞典スウエーデン北極星ほくきよくせい勳章くんしやうもらはうとおもつてるです、其勳章そのくんしやうこそはほね甲斐かひのあるものです。しろい十字架じかに、くろリボンのいた、れは立派りつぱです。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
けれども、子供の病気はひどくなるばかりです。町で一ばんよい医者にもかけてみましたが、何の甲斐かひもありません。四五日の後に、たうとう死んでしまひました。
シャボン玉 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
翌日あくるひはわれアヌンチヤタが爲めに百千もゝちの計畫を成就じやうじゆし、百千の計畫を破壞して、終には身の甲斐かひなさを歎くのみなりき。嗚呼、われはとカムパニアの野の棄兒なり。
海濱かいひんながこともやと、甲斐かひ/″\しく巡視じゆんしかけたが、無論むろんあてになることではい。
それも、ある甲斐かひのないものを甲斐あらせようとしてゐるやうな、一所懸命な調子であつた。私は未だつて人工呼吸法といふものを見たことがなかつたけれど、今ふとそれが頭に浮んだ。
嘘をつく日 (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
余は幼きころより厳しき庭のをしへを受けし甲斐かひに、父をば早くうしなひつれど、学問のすさみ衰ふることなく、旧藩の学館にありし日も、東京に出でゝ予備黌よびくわうに通ひしときも、大学法学部に入りし後も
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
甲斐かひがねを汽車は走れり時のまにしらじらと川原かはらの見えしさびしさ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
君がふと見せし情に甲斐かひなくもまた一時ひとときはいそ/\としぬ
かろきねたみ (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
弟将武は甲斐かひの山中で殺された。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
甲斐かひなきことをなげくより
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
甲斐かひのない一生いつしやうおくるは眞實しんじつなさけないことかんがへられ、我身わがみこゝろをためなほさうとはしないでひとごとばかりうらめしくおもはれました。
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)