悠然いうぜん)” の例文
其船頭そのせんどう悠然いうぜんとして、片手かたてあやつりはじめながら、片手かたてみづとき白鷺しらさぎ一羽いちはひながらりて、みよしまつたのである。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
伊庭はさう云つて、悠然いうぜんと、机の前に戻つた。老人は困つたやうな様子だつた。伊庭はすかさず、台帳を老人の前に差し出した。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
悠然いうぜんとして巻煙草まきたばこを吸ひ初める。長吉ちやうきちは「さうか」と感服したらしく返事をしながら、しか立上たちあがつたまゝに立見たちみ鉄格子てつがうしから舞台のはうながめた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ふれぬ此度は相摸守殿には玄關げんくわん式臺迄しきだいまで御見送おんみおくり町奉行は下座敷へ罷出まかりい表門おもてもんを一文字に推開おしひらけば天一坊は悠然いうぜんと乘物のまゝもん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
まど硝子越がらすごしに海上かいじやうながめると、電光艇でんくわうていほしひかりびて悠然いうぜん波上はじやううかんでる、あゝこのていもかく竣成しゆんせいした以上いじやうは、いまから一週間いつしゆうかんか、十以内いないには、萬端ばんたん凖備じゆんびをはつて
「オヽ、もう品川ぢや、浜子」と侯爵は少女の手をりて急がしつ「今夜は杉田の別荘に一泊するから失敬する」と言ひ棄てたるまゝ悠然いうぜん降り立ちて、やみうちへと影を没せり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
煙草たばこすつたり、自分じぶんり折りはなしかけてもだ『ハア』『そう』とこたへらるゝだけで、沈々ちん/\默々もく/\空々くう/\漠々ばく/\、三日でもうしてちますよといはぬばかり、悠然いうぜん泰然たいぜん茫然ばうぜん
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
悠然いうぜん車上しやじようかまんで四方しはう睥睨へいげいしつゝけさせる時は往来わうらいやつ邪魔じやまでならない右へけ左へけ、ひよろひよろもので往来わうらい叱咜しつたされつゝ歩く時は車上しやじようの奴やつ癇癪かんしやくでならない。
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
あだか四肢ししを以て匍匐ほうふくする所の四足獣にくわりたるのおもひなし、悠然いうぜん坦途たんとあゆむが如く、行々山水の絶佳ぜつくわしやうし、或は耶馬渓やまけいおよばざるの佳境かけうぎ、或は妙義山めうぎざんも三舎をくるの険所けんしよ
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
かまはない!』悠然いうぜんとして王樣わうさままをされました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
大𢌞おほまはりにはるけれど、呉服橋ごふくばししたちかところに、バラツクにんでひとだから、不斷ふだん落着家おちつきやさんだし、悠然いうぜんとして、やがてよう。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
爪繰つまぐりたり其の跡は藤井左京麻上下にて續いて山内伊賀亮は上下なり四人の者潛りより入りて玄關式臺の眞中を悠然いうぜんとしてあゆく門内には與力同心の數人スハと云へばからとらんと控へたり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
縁端えんはたには篠田が悠然いうぜんと腰打ち掛けて、朝日のひかり輝く峯の白雲ながめつゝあり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
しやく有餘いうよ猛狒ゴリラ苦鳴くめいをあげ、鮮血せんけついて地上ちじやうたをれた。わたくし少年せうねんとはゆめ夢見ゆめみ心地こゝち韋駄天いだてんごとそのかたはらはしつたとき水兵すいへい猛獸まうじうまたがつてとゞめの一刀いつたう海軍士官かいぐんしくわん悠然いうぜんとして此方こなたむかつた。
北八きたはち大丈夫だいぢやうぶだ、と立直たちなほつて悠然いうぜんとなる。此邊このあたりぢんまりとしたる商賣あきなひやのきならび、しもたやとるは、産婆さんば人相見にんさうみ、お手紙てがみしたゝめどころなり。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
少しあけけるにこはいかに徳太郎君には悠然いうぜんと上段にひかへ給ふ將監この形勢ありさま
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
他愛たわいなくかしらさがつたとふのは、中年ちうねん一個いつこ美髯びぜん紳士しんしまゆにおのづから品位ひんゐのあるのが、寶石はうせきちりばめたあゐ頭巾づきんで、悠然いうぜんあごひげしごいてた。
人参 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
蹴込けこみ片足かたあしけてつてたのでは、おほいに、いや、すくなくとも湯治客たうぢきやく體面たいめんそこなふから、其處そこで、停車場ていしやぢやう出口でぐちさくはうひらいて、悠然いうぜんつたのである。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
帝王ていわう世紀せいきにありといふ。あやしきをきこえたる羿げいかつ呉賀ごがきたあそべることあり。呉賀ごがすゞめして羿げいむかつてよといふ。羿げい悠然いうぜんとしてうていふ、生之乎これをいかさんか殺之乎これをころさんか
術三則 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ますよ、さあはやく/\。彌次やじ舷端ふなばたにしがみついてしやがむ。北八きたはち悠然いうぜんとパイレートをくゆらす。乘合のりあひ十四五人じふしごにん最後さいご腕車わんしやせる。ふねすこみぎかたむく、はツとおもふとすこあをくなる。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ひとひとつがおなじやうに、二三寸にさんずんづゝ、縱横じうわうあひだをおいて、悠然いうぜんとしてながれてとほる。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大自然だいしぜんの、悠然いうぜんとして、つちみづあたらしくきよ目覺めざむるにたいして、欠伸あくびをし、はならし、ひげき、よだれつて、うよ/\とたなかひこうごめづる有状ありさまは、わる見窄みすぼらしいものであるが
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ると、驛員えきゐん莞爾くわんじとして、機關車きくわんしやはうへ、悠然いうぜんとしてきりわたつた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
が、ときおぼえがあるから、あたりをはらつて悠然いうぜんとしてをしへた。——いまはもうだいかはつた——亭主ていしゆ感心かんしんもしないかはりに、病身びやうしんらしい、おかゆべたさうなかほをしてた。女房にようばう評判ひやうばん別嬪べつぴんで。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
呆氣あつけられたかれ一人ひとり室内しつないのこして、悠然いうぜんとびらたのである。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
少時しばらくすると、うしろへ悠然いうぜんとしてつた女性によしやうがあつた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
悠然いうぜんとして、くさんで左右さいう一歩ひとあし
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)