つく)” の例文
旧字:
さて一同の目の前には天下の浮世絵師が幾人よって幾度いくたび丹青たんせいこらしても到底描きつくされぬ両国橋りょうごくばしの夜の景色が現われいづるのであった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
可笑をかしき可憐あはれなる事可怖おそろしき事種々しゆ/″\さま/″\ふでつくしがたし。やう/\東雲しのゝめころいたりて、水もおちたりとて諸人しよにん安堵あんどのおもひをなしぬ。
すべて無邪気な遊戯のかぎりつくしてさかづきを挙げたが、二時間には大風おほかぜの過ぎた如く静まり返つて再び皆アトリエの中に絵筆を執つて居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
クリーサスの富をかたむつくしても相当の報酬を与えんとしたのであるが、いかに考えても到底とうてい釣り合うはずがないと云う事を観破かんぱして
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
蕪村とちがって、芭蕉の研究は一般に進歩しており、その本質の哲学や詩精神やも、既にほぼ遺憾いかんなく所論しつくされてる観がある。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
坂は急ならず長くもあらねど、一つつくればまたあらたにあらわる。起伏あたかも大波のごとく打続きて、いつたんならむとも見えざりき。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
子もあまたみたれど、すべておっとが食いつくして一人此のごとくあり。おのれはこの地に一生涯を送ることなるべし。人にも言うな。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
すべてがいかにもきよらかで、優雅ゆうがで、そして華美はでなかなんともいえぬ神々こうごうしいところがある。とてもわしくちつくせるものではない。
彼は哲学において、「ストイック」派にはあらざれども、その行状ぎょうじょうは確かに「ストイック」なりき。剛健簡質以て彼が生活をつくすべし。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
安「そんな詰らぬ遠慮にはおよばぬ、全く疑念が晴れて、己の女房になる気なら真実可愛いと思うから、手前に楽をさして真実つくすぞ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
若者は名は杜子春とししゆんといつて、元は金持の息子でしたが、今は財産をつかつくして、その日の暮しにも困る位、あはれな身分になつてゐるのです。
杜子春 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
二十五年間ねんかん教育きょういくつくしてしょく退しりぞいたのち創作そうさくこころをうちこんで、千九百二十七ねんになくなるまで、じつに二十かん著作ちょさくのこした。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
私の奉ずる神学はただ二言にしてつくす。ただ一なるまことの神はいましたまう、それから神の摂理せつりははかるべからずとうである。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
見渡す限り、人影もなくて、ただ刈りつくされた田や圃は、漠然として目に見えるもの、すべての自然はふさいだ顔付かおつきをしている。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それに火をつけて吸いはじめたが、それは筆紙ひっしつくされぬほど美味うまかった。凍りついていた元気がにわかにけて全身をまわりだした感じだ。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし彼等が漸々だんだんほろびて行くことは争われぬ道理で、昔に比べると其人数そのにんずも非常に減って来たに相違ない。やがては自然とほろつくすであろう。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
形骸に拘々こう/\せず、小智に区々せず、清濁のまに/\呑みつくし、始めて如来禅を覚了すれば万行体中にまどかなり。 (天知子)
こういう職務に立つときの彼女かのじょの姿態に針一きの間違いもなく手間の極致をつくしてり出した象牙ぞうげ細工のような非人情的な完成が見られた。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あはれなるかな吾友わがともよ、我のラサ府にありし時、その身につみのおよばんを、知らぬこころゆわがために、つくせし君をわれいかに、てゝや安くすごすべき
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
春星しゆんせいかげよりもかすかに空をつゞる。微茫月色びばうげつしよく、花にえいじて、みつなる枝は月をとざしてほのくらく、なる一枝いつしは月にさし出でゝほの白く、風情ふぜい言ひつくがたし。
花月の夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
たか大家たいかと云はれてたさに無暗むやみ原稿紙げんかうしきちらしては屑屋くづや忠義ちうぎつくすを手柄てがらとは心得こころえるお目出めでたき商売しやうばいなり。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
自分などはやっとこれからというとき、女は既に人生の複雑な径路をたどって、最期さいごの苦悩までつくして、しかも孤独のまま死んでゆくのである。
すべ是等これらこまかき事柄はほとんど一目にて余のまなこに映じつくせり、今思うに此時の余の眼はあたかも写真の目鏡めがねの如くなりし
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
安子さんが内藤夫人を見送って茶の間へ戻った頃、三角関係のページはぐつくした姪の八千代さんは不図ふと我に返って腕時計を見ると、きっかり五時だった。
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
彼としてこれまでの力をつくして助けた者から、こんな情けない言葉を聞こうとは、あまりに心外しんがいであるに違いない。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
政府から君が国家につくした功労を誉めるようにしなければならぬと云うから、私は自分の説を主張して、誉めるの誉められぬのと全体ソリャ何の事だ
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
つくされるだけの順序は踏まれたので、東京にゐる叔母夫婦も出来るだけの注意を払ふのに手ぬかりは無かつた。
復讐 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
ぜいつくすので高価であり、手間がかかって少量よりできませぬ。何がな立派なものを作ろうと意識を働かせ技巧を凝らしますから、華麗なものとなります。
美の国と民芸 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
しかしながら女子が一方にかくの如き至大の任務をつくすについて、男子にもこれに対する一の任務がある。それは言うまでもなくこの妻児を養うことである。
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
伸太郎 お前が家の為にどれだけつくしてくれているか俺には充分わかっているよ。だからそれでいいだろう。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
自家の畑物をみんな食べてしまっている哀れな夫婦に、手のつくしようのない貧乏が永い間くい込んでいた。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
わたしは起き上がって、窓のそばへ行き、朝までそこに立ちつくした。……稲妻はほんのつかもやまなかった。俗にいう雀の夜——つまり夏至頃げしごろの短か夜である。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
別暮しをしている孫嫁たちも入れかわり立ちかわり訪ねては、隠居に優しく、真心からつくそうとする。
万年青 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
生涯、女の暖い愛情も知らず、青春を荒廃させつくしたまま、異土に死んで行かねばならぬ自身に対し、此のような侮辱がもっともふさわしいはなむけではないのか。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
とかのぞたまふらんそはまた道理だうりなり君様きみさまつまばれんひと姿すがたあめしたつくして糸竹いとたけ文芸ぶんげいそなはりたるを
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
僕は石田に逢った上で、更に「今井一家の死滅」に就き、その後の詳しい径路をつくそうと思っている。
友人一家の死 (新字新仮名) / 松崎天民(著)
真実まことありたけ智慧ちえありたけつくして御恩を報ぜんとするにつけて慕わしさも一入ひとしおまさり、心という者一つあらたそうたるように、今迄いままでかまわざりし形容なりふり、いつか繕う気になって
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
隣の大豆畑にむらがったカナブンの大軍が、大豆の葉をば食いつくして、今度は自家うちの畑に侵入しんにゅうした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
日本の文学は源平以後地にちてまた振はず、殆んど消滅しつくせる際に当つて芭蕉が俳句において美を発揮し、消極的の半面を開きたるは彼が非凡の才識あるを証するに足る。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
然れども二つとはなき此の生命せいめいすてても真理しんりの為めにつくさんと欲するものはかくの如き演劇的えんげきてき同盟どうめいに加はることあたはざるなり、なんぢ一致いつちせんと欲する乎、づ汝の主義しゆぎ決行けつかうせよ
時事雑評二三 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
其のとき悔ゆるともかへらじと、ことばつくしていさむるは、まことに女の四八こころばへなるべし。
四面の峻岳しゆんがく皆頭をあらはし、昨来わたきたれる利根の水流は蜿蜒えん/\として幽谷間に白練をけり、白練の尽くる所は乃ち大利根岳となり突兀とつとつ天にてうす、其壮絶ほとんど言語につくすべからず
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
つくしたもっとも大食というのではない飯は軽く二杯たべおかずもと箸ずついろいろの皿へ手をつけるので品数が多くなり給仕に手数のかかることは大抵でなかったまるで佐助を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その目的のために、善美をつくしたドロテイン街の家がマタ・アリに提供されて、彼女も、初めてフォン・リンデン伯爵夫人と名乗り、引き続きそのやしきに住むようになったのだった。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
信祝殿は、当代の発明者にて御座りまするが、拙者の如く、つくすべき事を尽して後に処断するのでなく、ただ大局論として、奉行所の職分を無視して居られる如く心得られまする。
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
休むどころか愉快に駆られて毎日業務以外の仕事までをする。勿論これは人の道として当然の事だ。日に三度の食事をなすと同様に我が業務をつくさねばならんのが人たるの務めだ。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
まことなんじらにぐ、なんじらイスラエルの町々まちまちめぐつくさぬうちにひときたるべし。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
先生はごうも平日とことなることなく、予が飲食いんしょく起臥きがの末に至るまで、力をつくしこれをたすけ、また彼地かのち上陸じょうりくしたる後も、通弁つうべんその他、先生に依頼いらいして便宜べんぎを得たることすこぶる多ければなり。
わばかれむかしいままったうたつくされぬうたを、不順序ふじゅんじょに、不調和ふちょうわ組立くみたてるのである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
新一がその鞄の置場所を絶えず変えることに精根をつくしていたからである。金庫はもう頼りにならなかったので、彼は毎日のように違った隠し場所を選んで、重要書類の安全を計った。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)