かね)” の例文
かねると、生徒せいとらは、さきあらそって廊下ろうかからそとへとかけしました。そのとき、りょう一は、先生せんせい教員室きょういんしつへいかれるあとったのです。
僕が大きくなるまで (新字新仮名) / 小川未明(著)
庵主あんじゅさんは、よそゆきの茶色ちゃいろのけさをて、かねのまえにつと、にもっているちいさいかねをちーんとたたいて、おきょうみはじめた。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
ねやこゑもなく、すゞしいばかりぱち/\させて、かねきこえぬのを、いたづらゆびる、寂々しん/\とした板戸いたどそとに、ばさりと物音ものおと
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
メリンスの敷き物の上にかねがのせられてあって、そのそばに、頭のはげた賓頭顱尊者びんずるそんじゃがあった。原は鐘をカンカンと鳴らしてみた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
南蛮寺なんばんじおくのほうから、ジャン、ジャン、ジャン! 妖韻よういんのこもったかね——そして一種の凄味すごみをおびたかいがひびいてきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
思ひり又も泪にくれをり丑刻やつかね鐵棒かなぼうの音と諸共に松本理左衞門は下役したやく二人下男五六人召連自分じぶん獄屋ごくやに來り鍵番かぎばんに戸口を明けさせ九助を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
夕べをつげるかねが、まだ鳴っています。おやおや、それは、鐘ではありません。ぬまの中で、大きなカエルが鳴いているのでした。
大勢おおぜいの人が松明たいまつをふりかざし、かね太鼓たいこを打ち鳴らし、「おーい……おーい……」と呼びながら、川の土手どてから、こちらへやって来ます。
ひでり狐 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
この属名の Platycodon はギリシア語の広いかねの意で、それはその広く口をけた形の花冠かかんもとづいて名づけたものである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
越前永平寺えちぜんえいへいじ奕堂えきどうという名高い和尚おしょうがいたが、ある朝、しずかに眼をとじて、鐘楼しょうろうからきこえて来るかねに耳をすましていた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
夏秋の虫の音の外に、一番嬉しいのは寺のかね。真言宗の安穏寺あんのんじ。其れはずッと西南へ寄って、寺は見えぬが、鐘のは聞こえる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「お米さんが湯へ行くと間もなく、私の方も店を閉めてしまひました。目白のかね亥刻よつ(十時)を打つと、何時でもさうするのですが——」
富田とみただんとモンクスがしっかと握手あくしゅした。左右七メートルへだててぱッと飛びのいた。その瞬間しゅんかんに、勇ましい試合開始のかね
柔道と拳闘の転がり試合 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
ち得た所は物びてゐる。奈良の大仏だいぶつかねいて、其余波なごりひゞきが、東京にゐる自分の耳にかすかにとゞいたと同じ事である。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かねふちのあたりであった。冬空のさむに暮れかかる放水路のつつみを、ひとりとぼとぼ俯向うつむきがちに歩いていた時であった。
枯葉の記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
署長さんは落ち着いて、卓子テーブルの上のかねを一つカーンとたたいて、赤ひげのもじゃもじゃ生えた、第一等の探偵たんていを呼びました。
毒もみのすきな署長さん (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
町の人々は相談してああして置いてもなんの役にもたたないからというのでそれをとかして一つのかねを造ってお寺の二階に収める事にしました。
燕と王子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それから、若者はかねをついて、役僧のうちにかえりました。そして、なんにもいわずに、さっさと寝床ねどこにもぐりこんで、またねむってしまいました。
毎日の事ですから、魚の方ですっかり承知していて、寺の食事のかねが鳴るともう前のふちへ集って来て待っています。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
私たちは川風に吹かれながら橋の欄干らんかんにもたれて、かねふちの方からきた蒸気船が小松島の発着所に着いてまた言問ことといの方へ向かって動き出すまで見ていた。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
こほ手先てさき提燈ちやうちんあたゝめてホツと一息ひといきちからなく四邊あたり見廻みまはまた一息ひといき此處こゝくるまおろしてより三度目さんどめときかね
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
墓場のそばを帆走って行く時、すべてのかねは鳴りましたが、それはすこしも悲しげにはひびきませんでした。
そのころこの元興寺がんこうじ鐘撞堂かねつきどう毎晩まいばんおにが出て、かねつきの小僧こぞうをつかまえてべるというので、よるになると、だれもこわがってかねをつきに行くものがありません。
雷のさずけもの (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
十一時のかねが鳴ると同時に彼も教室を出て、下駄げたをはいて友人と笑いながら話をしているのを僕はみとめた。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
其のうち上野のの八ツのかねがボーンとしのぶおかの池に響き、むこうおかの清水の流れる音がそよ/\と聞え、山に当る秋風の音ばかりで、陰々寂寞いん/\せきばく世間がしんとすると
あをうみの 底にひそめる薔薇ばらの花、とげとげとしてやはらかく 香気にほひかねをうちならす薔薇の花。
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
まもなくかねが鳴った。第一時間は数学だった。橋本先生は出席点呼をおわったが、授業を始めずに、教室をにらみまわした。一番こわい先生だ。生徒たちはもう察した。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あたしの体で間に合うことならいいが、観音様の坊さんを頼んで、鐘搗堂かねつきどうかねをおろして借りたいなんぞは、いくら御祝儀をもらっても、滅多めったに承知は出来ないからねえ
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そこでかねおとたにからたにひゞけて、何處どこいへへもつたはつてきました。そのかねおとは、としとつた和尚をしやうさんのまへだいにもき、そのまたまへだいにもいてたのです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
旦那の家の裏門から一丁も離れないかねふちには、毎年必ず一人か二人の投身者があるのである。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
千住せんじゅ製絨所せいじゅうしょかねふち紡績会社かの汽笛がはるかに聞えて、上野の明け六時むつの鐘もち始めた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
久野は舵のところから「うん」と曖昧あいまいな返辞をしながら、かねふちから綾瀬あやせ川口一帯の広い川幅を恍惚こうこつと見守っていた。いろいろな船が眼前を横ぎる。白い短艇が向うをすべる。
競漕 (新字新仮名) / 久米正雄(著)
なるほど、この手紙はあちきが書きましたものに相違ござんせんけど、それは、もう、今から十年ほども前の話。あちきが若女形の巻頭にのぼり、『お染』や『無間のかね』を
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
かねふちから綾瀬あやせを越して千住まで通うのは、人力車でもかなり時間がかかる上に、雨や風の日には道も案じられるので、やがてお邸の諒解りょうかいを得て、引移ることになったのです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
さて、ある日、わたしは塀の上に坐って、はるかかなたにながめ入りながら、かねひびきに耳をすましていたが……その時不意に、何ものか、わたしの身をかすめて過ぎたものがあった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
秋草には束髪そくはつの美人を聯想すなど考えながらこゝを出でたり。腹痛ようやく止む。かねふち紡績ぼうせき煙突えんとつ草後にそびえ、右に白きは大学のボートハウスなるべし、端艇ボートを乗り出す者二、三。
半日ある記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
数言すげんきようきて、遠寺ゑんじかね一五六五更を告ぐる。夜すでけぬ。わかれを給ふべし。こよひの長談ながものがたりまことに君がねむりをさまたぐと、ちてゆくやうなりしが、かき消して見えずなりにけり。
カピ長 婚儀こんぎためにと準備よういした一さい役目やくめへて葬儀さうぎよういはひのがくかなしいかね、めでたい盛宴ちさう法事ほふじ饗應もてなしたのしい頌歌しょうかあはれな挽歌ばんか新床にひどこはなはふむ死骸なきがらようつ。
吾妻橋の袂から出て、かの女は、言問により、白髯橋により、水神により、かねふちにより、汐入によったあと、千住大橋に到着し、再びそこから同じ航路を吾妻橋へと引返すのである。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
何百年来、朝夕を知らせ、非常を告げたお寺のかねさえ鐘楼しょうろうからおろされて戦争にいった。大吉たちがやたら悲壮ひそうがり、いのちをしまなくなったこともやむをえなかったのかもしれぬ。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
幼児をさなご御主おんあるじよ、われをもたすたまへ。」このかた、かた、いふ木札きふだおとが、きよかねごとく、ねがはくは、あなたの御許おんもとまでもとゞくやうに。頑是無ぐわんぜなものたちの御主おんあるじよ、われをもたすたまへ。
余程よほど精巧に出来ていると見え、大地震に会っても、別に狂いも出来ず、現に今でも、人間の背丈せたけ程もある太い鋼鉄針が動いているし、時間時間には教会堂のかねの様な時鐘じしょうが鳴り響くのだ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
鏽銀しやうぎんかねる……かすかに、……かすかに……やるせなきたましひめもあへぬ郷愁ノスタルヂヤア
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
無間むげんかねのめりやすを、どこで聞きかじってか中音にうなり出す。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
かねさへかすむとふ、四ぐわつ初旬はじめある長閑のどかであつた。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
夢見ゆめみごこちの流盻ながしめや、かねひゞきあをびれに
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
かねをならして 町じゅうの祝い。
魔法の笛 (新字新仮名) / ロバート・ブラウニング(著)
朝づとめ妻帯寺さいたいでらかねの声 曾良そら
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
くれりやおてらかねがなぁる。
桜さく島:春のかはたれ (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
すゞらしかねをつき
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)